小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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―ふと思うのだよ
―なぜ私が生きているのか

 声の主はグラスを傾けて言う。
 ほんのりと赤い頬を見ると酔っていたのだろう。

―私は、人に誇れる程の悪人だ
―そして善人、いや偽善者だ

 再度グラスを傾けて、空になったグラスに新しい液体を注ぐ。

―我は人の為に在り、人は人の為に在る
―故に我在り、我が価値を見出す
―ふむ、なかなかにウマいな

 クツクツ笑った彼女の言葉が、飲んでいたアルコールなのか、それとも自分の言葉なのか。
 誰かは終ぞ知ることはなかった。











「やぁ、おはよう」
「おはようございます」

 あの日から付きまとわれて結局離すのも面倒になったので、同じルートを走っているのだけど。
‐前みたいな事は嫌だぞ
‐二の舞は勘弁
‐一と二の舞は似てる
 捻った名前の方はご遠慮下さい。

「相変わらず距離を置かれてるんだね」
「あなたは自分のした事をしっかりと理解するべきだ」
「理解はしているよ」
「なら尚更(たち)が悪い」
「僕としては馬鹿げた事をしようとしている子供を止めたい一心なんだけどね」
「息の根を止めたいのなら心は必要ないですよ」

 淡々といつもの速度で走る。
‐これでも結構速いとは思うんだけど
‐追いつくのかよ
‐あーヤダヤダ、若者の人間離れか
‐若者でもないがね

「……どうしてもやめないのかい?」
「ならば逆に問いましょうか。貴方の家族を殺します。俺を殺しますか?」
「……」
「俺なら迷わず殺します。ここ7年程は泳がせてますが、絶対に殺します。それこそ1秒でも早く、瞬きをする暇もなく、酸素を血液に溶け込ませる前に」

 少しの沈黙。
 地面を蹴る音と小鳥の鳴き声だけが鼓膜を揺らす。
‐あぁそうだ殺さないと
‐殺さなくてはいけない
‐早く、早く
 カット。まだ、まだ殺せない。

「……君は、目の前で人が死ぬ様を見たことはあるか?」
「ありますよ」
「君のやろうとしている事はそういう事だ」
「狂ってる、って言いたいんですか?」
「そうじゃない。どうにかしたいと思ってるんだ。殺すだけが恨みを晴らす方法ではない」
「もう、ダメですよ。俺は殺さないと」
「まだ先は長いんだ。焦って答えを出さなくてもいいんじゃないか?」
「……」
「君はまだ十歳程度だろう?」
「そうですが…」
「若いよ、充分」

 カット、カットカットカット。
‐カット
‐カット
‐カット
‐カット



「あぁ、そうだ。はい」
「……あぁ、眼鏡ですか」
「うん。なのは経由で渡しても良かったんだけど、僕が潰したとは言ってないんだろう?」
「まぁ、はい」
「ありがとう。桃子さんに聞かれたらどうなってたことやら…」

 一人で唸っている男を放置してケースを開ける。
 そこに会ったのは瓶底では無く、縁のない楕円のシンプルな眼鏡。

「前のデザインの方がよかったかい?」
「いえ、別に…」
「ならよかった」

 眼鏡を掛けて周りを確認する。
 ぼやけていた視界が鮮明になり、安堵する。
‐周辺解析遮断
‐視界に頼るのもなんだがね
 それが普通なのだから、仕方ない。

「ありがとうございます」
「礼を言われることじゃないよ。元々は僕が悪かったしね」
「そうでした。高町さん経由に礼を言う事にします」
「やめてくれ」

 かなり真顔で言われた。なにこれ怖い。
‐女性って怖いなぁ
‐結婚とはほとんど全ての人が歓迎する悪である
 目隠しが外されて、視界が鮮明になってしまうのだから。仕方ないさ。






「おかえり!副委員長!!」
「おかえり!」
「お前らは、目を見て言ってるのか?それとも眼鏡を見て言ってるのか?」
「眼鏡」
「殴られても文句はないな?」
「先に謝ったら許してくれる?」
「後で誤りだと気付くんだな」

 頭に軽く手刀をおろして自分の机に鞄を置く。

「おはよう、ゆぅ君」
「おはよう、すずか」

 ニコニコしているすずかに挨拶をして、少しだけ違和感を感じる。
‐ふむ
‐コレは、どうしたものか
‐ツンデレやスメラギ君がどうにかしてくれるだろ
‐この前は普通だったのに

「すずか」
「何?どうかしたの?」
「……いや、今度はどんな本を貸そうか迷っててな」
「どんな本でも大丈夫だよ」
「そうか。なら恋愛小説でも選んでくるか」
「ありがとう、ゆぅ君」
「……あぁ」

 恋愛小説なんて持ってないけどな。
‐恋してる訳でもなさそうだ
‐変に勘ぐりすぎじゃないか?
‐違和感は拭えない
‐いっそ官能小説をだな
 カット。そういう問題ではない。
 まぁ、バニングスさんあたりがどうにかしてくれるか。












「来たわ」
「……帰れと言いたい」
「残念ね。口に出てるわ」
「そうか、ならその通りしてくれ」
「上がるわよ」
「家主より先に上がるとはどういうことか」

 学校から早々と帰宅すれば扉の前に長い黒髪の女性がいた。
 久しくあったが、随分と血色が良くなってる。
‐健康に気を使うようになったか
‐娘が色々言うものな
‐娘を愛してやまない親、バカだもんな

「今、何か凄く不快だったわ」
「変な電波でも受信してるんじゃないか?精神病棟にでもぶち込まれてろ」
「アンタに杖をブチ込むわよ」
「やめろ、マジでやめろ」

 少しだけ後ろに下がって気を引き締める。
‐マジなの?マジなの?
‐マジならマジでうれ、げふん
‐変態な大変がいるよ!!
 カットカットカット。

「なにコレ、随分な内容ね」
「日本小学生の課題なんてそんなものだよ。破ろうとするな」
「こんなモノでアナタの時間が無くなるなんて、愚行ね」
「愚考した所で出てくる答えは一緒の苦行だからな。考えるまでもないさ」
「本当に、意味がないわね」
「意義もないさ。異議はあるけど」

 淡々とお茶を煎れて、プレシアの目の前に置く。
 少しだけ口に含んでから、もう一度カップを傾ける。どうやら味はお気に召したようで。

「で、なんで来たんだ?」
「アナタの観察」
「人をウーパールーパーみたいに…」
「あら、可愛いじゃない。ウーパールーパー」
「可愛いか?アレ」
「もちろん、フェイトとアリシアの方が京倍も可愛いわ」
「テラを軽く超えるのか」
「ヨタまで行きたいわね」

 与太話を軽く交えて、お茶を飲むプレシア。
‐与太なのだろうか
‐マジじゃね?
‐寺を超えると与太になるのもおかしいがね

「あの子供に聞いたのだけど」
「あの子供?」
「親バカの息子よ」
「……いや、お前に息子はいないだろ」
「私が親バカだと言いたいの?私は娘の事が大好きすぎるだけの親よ」
「世間ではソレを総称してソウ称するんだよ」
「一般の価値観に捕らわれるなんて、科学者としてどうなの?」
「残念、俺は理論方面だからな。常識を捕まえるのが理想なのさ」
「それは実験側の私に喧嘩を売ってるの?」
「売ってない」
「なら撃つわ」
「憂鬱だわ」
「……面白くないわよ」
「その一言で俺が滑ったみたいになってるんだけど?」
「それは残念ね。地面でも凍ってたんじゃないかしら」
「滑降させる気か」
「格好の的にする気よ」

 つまり、わざとなんですか。そうですか。
‐ざまぁ

「子供ってどんな子供だ?」
「黒髪で、背が小さくて、裸眼で、」
「具体的に言ってくれ。例えば管理局に勤めてるとか、アースラに居るとか」
「ムッツリそうだったわ」
「あぁ、クロノか」
「あぁそういえばそんな名前だったわね」
「で、そのムッツリがなんて言ってたんだ?内容によっては貞操の危機を感じざるをえない」
「アナタ、アンヘルの侵食が進みすぎてるらしいわね」
「……いや、そんな訳ないだろ?」
「言っておくけど、アナタに言われて折れるほど若くもないし、放っておけと言われて引き下がる程どうでも良くないのよ」
「……クロノに何か言われたのか?」
「様子を見て来い、あとはアナタの体のデータを少し、ね」

 カバンから取り出されたのは紙束。
‐おーおー、コレは酷い
‐寝てる間にチェックされてたか
‐『夜天の』の夜の時か

「おいおい、見る限り健康体だろ?データを見る限り傷も一切ないじゃないか」
「私がフェイト達の戦闘を見てないと思うの?」
「……あれ?なんだろう、普通に『テメェは二の次だよ』と言われた感じだ」
「テメェは三の次だ」
「更に増やされた!?」
「冗談は上の方に置いておくけれど」
「ジョウダンだけにな」
「黙りなさい。雷撃で焼き切るわよ」
「マジ勘弁」
「……アナタ、異常なのよ?わかってるの?」
「わかってるさ、わかってるとも」
「ちゃんと目を見て言いなさい」
「前は向いてるだろう?」
「ちょくちょく人の胸を見てる人間の言葉じゃないわね」

 なぜバレたし。
‐おいおい、冤罪だ
‐触れれば冤罪じゃなくなる
‐単なる罪だろ
‐冤が取れたな

「あの白い子、確か…………“なのか”ちゃん」
「なのかなのはなのだ」
「あの子の収束砲撃の余波でも酷い傷の筈よ」
「直撃受けた人間はカスリ傷だったぞ」
「あのガキの話はしないで」
「嫌われてるな」
「嫌いじゃないわよ。羽虫に感情は湧かないだけ。潰すか、無視するか。その二つよ」
「うわぁ」
「そんな話どうでもいいわ」

 酷い扱いである。
‐扱われてさえない
‐酷くない扱いだ
 カット、やめてやれ。

「で、例えば、俺がアンヘルに侵食されかけてるとして、どうするんだ?」
「治すわ」
「……やめとけ」
「なぜ?」
「……プレシアとは家族でも何でもないだろ」
「家族だから行動する訳じゃないわよ。恩人だから行動する訳でもない」
「ならなんでだよ」
「それは。…………知的探究心よ」
「今俺の中でお前の評価が下がったよ」
「あら、アレだけ嫌がらせをしてたのにまだ下がる評価があったのね」
「その言葉で地底までイったわ」
「随分天高く昇っちゃったわ」
「もういいよ…」
「そう。ならちょうどイイわね」

 何がだよ。まったく。

「私を含めたテスタロッサ家もこのマンションに住むわよ」
「…………」
「フェイトがいた部屋に入居するのだけど……あら、そこまで喜ばなくていいじゃない。照れるわ」
「照れるなよ!!え?どうして!?ミッドでの研究とかは!?」
「軌道に乗り始めて順風満帆。名無しの研究員の力が特に役にたったわ。私は変わらず管理局への助力はしてるし、アリシア達と住みたいし、フェイト達はいつの間にか学校に行ってるし……制服姿を生で見たいのよ!!アナタにわかる!?この気持ち!!」
「いや、なんかスイマセン」
「とにかく、これからも課題を出しに様子を見に来るから悪しからず」
「課題メイン!?何!?俺を過労で倒れさせたいの!?怖いんですけど!!」
「安心なさい。アナタの観察がメインで課題がサブよ」
「様子を見に来るのはサブですらないのかよ!!」
「落ち着きなさい、落ち着いて深呼吸よ。面白い」
「今本音がボロっと露見したな…」
「露を見る程寒くないでしょ」

 そういう事じゃないんだよ。

「とにかく、少しは自分の体に気を遣いなさい」
「自分に配れる程の気はないのさ」
「なら私に心配されときなさい。子供なんだから、少しは大人の言うことも聴くものよ」
「ご生憎。大人の言うことを信用するなと言い聞かされててね」
「そう、じゃぁ言い換えるわ。私の言うことを聴きなさい。アナタの事を大切に思う大人の言葉を聴きなさい」
「……ァー」
「次にアナタの口から出てくる言葉がYesかハイか楽しみね」
「ローとでも言いたい気分だ」
「雷で焼き切るわ」
「心配とか大切とかどこに消えた」
「霧散したわ」
「南無三」
「とにかく、わかったわね?分からなければ分からせるまでなのだけど」
「……ちなみにどうするんだ?」
「縛り上げてあなたを飼育するわ」
「フェイトの二の舞は勘弁だわ」

 どこからともなく取り出したロープが物凄く怖い。
‐むしろノーと言うべきだ
‐ノー!!ノー!!
‐おいおい、落ち着け、落ち着いてノーと言うんだ
‐ノート
‐アウト
 カットカットカットカット。






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〜ネタ集め
 ネタ集めをすると言ったな、アレは嘘だ

〜ウーパールーパー
 白くて、可愛いと気持ち悪いを足して、カワイイを引いた存在。でも見てて和む

〜プレシア様が見てる
 娘を助けた、どうこうでは無くて、個人的に御影夕が気に入ってるからこその行動

〜天然プレシア
 素です

〜なのかなのはなのだ
 なのかはなのはなのだ


〜アトガキ
 少しお休みをいただきました。感謝です。
 もう少し安定して更新できればいいのですが、もう少し頑張る事にします。
 ネタ集め中に文章が書きたくなって書いただけであって、別に読者様の為に書いたわけじゃないんですからね!!
 ごめんなさい。本気で反省しきます。

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