小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「あ、はやて!」
「お、こっちやで、フェイトちゃん」

 暑い外と打って変わり涼しい図書館の中。
 珍しくはやてに呼ばれてこの図書館にきたのだけど、要件を一切聞いていない。
 それどころか、何かを言おうとしても言い淀んでる感じだった。

「ごめんなぁ、忙しいかったやろうけど」
「ううん。大丈夫。書類仕事は全部アリシアが持って行っちゃうから」
「……溺愛されてるんやなぁ」
「愛されてる、というより頼ってほしいんだと思うよ?色々あるから」
「そうか。まぁ深い所までは聞かんわ」

 何故か呆れられたように溜め息を吐かれて、はやての向かいの席に座る。
 はやては自身の両サイドにある本の塔を少し横にズラして真剣な顔つきになる。

「実は夕君の事やねんけどな」
「ユウの?」

 ユウの話?
 でも本人はここに居そうにもないし。

「正確には、夕君の夢の話」
「……あんまり詮索しない方がいいんじゃないの?」
「そうは思っててんけど……」
「……」

 はやての言いたい事もわかる。
 というか、この先に出てくるはやての言葉が分かってしまった。

「あれって、」
「はやて、そこから先は言っちゃダメだよ」
「なんでや!!あんな事した人間が!」
『八神ちゃーん、館内では静かにねー』
「館長さんごめん!!」
『んー、司書さん怒ちゃうっと怖いからー』
「その一言が無ければ幸せになれるんやろなぁ…」
「出ようか」
「…せやね」

 溜め息と一緒に椅子から立ち、ズラしていた塔を持ち上げる。
 結構な重さになる筈なのに。

「ちょっと待っててな。貸出届け出してくるから」
「あ、うん」

 アレを全部借りるのか。
 少しだけ顔が引きつった気がした。

「ん、お待たせ」
「全部借りたの?」
「いや、持っていった本と持っていく途中で見つけた本があってやな」
「いや、ごめん、聞かなかったことにする」
「これでも結構少ない方やねんけどなぁ」
「……誰と比較してるの?」
「夕君」
「比べちゃダメだよ…」
「いやぁ、友達が夕君しか居らんかったから」

 苦笑するはやてを見て、ようやく理解した。
 ユウの力になりたいのだけど、本当に真実を彼に告げていいか迷っているのだろう。
 事実、私もそうであるように。












「え?迷ってなんかないよ?」
「えぇー…」
「言える訳ないやん、あんな事」

 喫茶店の席に座り、お互いの飲み物がきた所で話が進む。
 私の思い違いだったようだ。
 はやては私よりもしっかりしていたのだった。

「アレと仕事が被った時にこれ見よがしに見せられたから……フェイトちゃんに確認しとこうと思ってなぁ」
「……じゃ、じゃぁ図書館で叫んだ理由は?」
「あんな事した人間が管理局で働いてる理由がわからんくて、頭の中がぐちゃぐちゃになって、咄嗟に声が出た」
「うわー」
「そう言わんといてさ。というかなんで止めたん?」
「一応言うけど、はやての警戒はまだ取れてないんだよ?そんな状態でラ、彼の事を悪く言うのは心証が悪くなる」
「……止めてくれてありがとう」
「どういたしまして」

 ストローで飲み物が吸い上げられ、白かったストローがオレンジ色に染まっていく。

「んで、や」
「うん」
「私なりにアレとの仕事が終わって色々考えた。管理局がどうしてアレを雇ってるか」
「……やっぱり、純粋な力じゃないかな」
「いや、ズバリ裏で色々動いててやな、悪の結社とかが」
「ないよ」
「いや、ほら、悪い魔女とかが」
「ないよ」
「むぅ……まぁ雇われた理由はそれやろね」

 背もたれに体重を預け、上を向くはやて。
 あ、ここの紅茶美味しい。

「問題は管理局がこの事件を知ってるか、やね」
「あの夢を見てから私なりに調べたけど、ユウの出身は一切わからなかったんだ」
「つまり、事件のことも不明か」
「第一、私が管理局に入る少し前にライトが管理局に入ったから記録がないのもわかるんだけど」
「……夕君の出身がわからんのはオカシイね」

 そうなのだ。
 ユウは管理局の事を知っていたということは管理世界にいた事は確かだ。
 そこで起こった事件、それも世界一つ消える事件を記録していない筈がない。

「まぁアレが管理局に勤めてる理由は、それほど重要でない…か?」
「うーん、あとでも考えれるからね」
「うん?でも管理局に入ったのが…えっと?」
「大体一年ぐらい前かな」
「それやったらおかしくない?」
「え?」
「夕君の管理局嫌い」
「……あ」

 そうだ。決定的にオカシイのだ。
 彼が事件の犯人だとしても、その時彼は幼くて、更にいえば管理局にも勤めていなかった。

「もしくは、彼と同じスキルの人がもう一人いるとか?」
「それはない…とは言い切られへんけど、おらんと思う」
「居て、それが恐ろしく極悪人とかだったら話は早いんだけどね」
「人を呪わば穴二つ、それでも夕君は救われへん」
「だね……大切な人が殺されて、犯人が目の前に居るんだから」
「私なら、というか私はその時点で世界の破壊を望んじゃった人やねんけどね」
「はやてのアレは…特殊すぎるよ」

 周りから色々言われている状態で、自分の責任だと言われて大切な人が殺されたのだ。
 絶望もするだろう。

「今のところ救いは夕君が彼の事に気付いてない事だけやなぁ」
「気付いたら」
「やめ。気付かせへん、絶対に」
「そう、だね…」
「ともかく、私達が出来る事を探そ」
「二人の戦いなんて、見たくないもんね」
「友人同士の争いを見て楽しめる程狂ってないからね」

 そうだ。私達の出来る事を探そう。
 まずはユウとライトを知るところからだろう。
 そして、事件の真相を知ること、あとは犯人の捕獲、ユウに謝らせること。

「とにかく、夕君の事やねんけど」
「あ、うん」
「アンヘルって何なの?」
「あー…えっと、詳しいことは私にもわからないんだけど、あ、そうだ」
「ん?先に言うけど夕君に直接聞いたあかんで?」
「わ、わかってるよ!!母さんなら何か知ってるかも知れない」
「フェイトちゃんのお母さん…エアメールの人か」
「不名誉な呼び方が定着してる!?頼むから目の前で絶対に言わないでね!?」
「お、おう、そんな真顔で迫らんといて」

 本当に怖いんだから。
 ともかく母さんの所に移動しよう。











「……フェイトちゃんってさ、あざといとか言われへん?言われてなかったら今言うわ、あざとい!!」
「なんで!?」
「私のセリフ盗られた!?」
「ソコ!?そこなの!?」
「なんで夕君のマンションにフェイトちゃんの家があるんや!!なんでや!!なんでなんや!!」
「は、はやて、ゆらさ、ゆら」
「あ、ごめん。つい。他意はない」
「悪意だけの行動ですか…」
「悪意はない。塩ビ一割や」
「ビニールは感情じゃないよ…九割の感情は何処に?」

 少しだけ気分が悪くなった。
 前後に何度も揺らされると流石にキツい。

「でも、フェイトちゃんの戦闘方法って高速で移動するのにあんなんで気持ち悪くなるもんなん?」
「集中してない時にやられると、流石に」
「そんなもんなんかぁ」 
「だから次からやるときは言ってね?」
「言えばいいんかい!!」
「あ、いや、あれ?」

 今オカシイ事を言ったのだろうか。
 ともかくエレベーターで上がり、ユウの部屋を過ぎて私の、今は家族の部屋に。

「ただいまー」
「おかえりなさいフェイト!あぁ心配したわ!!1時間置きに連絡しろとあれほど」
「お、お邪魔します」
「…心配するのだから、連絡しなさい。私は研究で忙しいから部屋にいるわね」
「プレシア、もう手遅れだと思うよー」
「黙りなさいバカ犬」
「いひゃいいひゃい、ほっへがちひれるちひれるから」
「千切れるまで引っ張ってあげるわ。今日のアナタの晩御飯になるのだから」
「あー、わかった。とにかく、take2すればええと思うんよ」
「そうしてくれると助かるわ」
「ええんかい…いや、私が言った事やし」
「えっと、アルフ大丈夫?」
「いひゃい…ぐすん」
「何、この子供かわええ」





「ただいまー」
「おかえりなさい、フェイト。そちらはお友達?」
「お邪魔します。八神はやてです」
「私はプレシア・テスタロッサ。八神……そう、あなたが夜天の主ね」
「知ってるんですか!?」
「私も一端の研究員なの。管理局務めのね」
「さっきとは打って変わって、随分知的な会話だねぇ」
「……」
「いひゃい!!ほっへはしょんなにのひない!!のひないよ!!」

 もう私はこの空気に慣れてしまったのでツッコマない。ツッコマない。

「…えっと、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「犬の捌き方?今なら実物があるから容易いわよ」
「ちょっと知りたいかも」
「止めてよ!!そこは止めてよフェイト!!」
「え?アルフは狼でしょ?」
「天然が疎ましい!!」
「可愛いじゃない、さすがフェイト」
「アリシアー!!早く帰ってきて!!ツッコミ不在でここは辛いよー!!」
「えっと、いいですか?」
「ええ。私に答えれる事なら、フェイトの好みからアリシアの弱点まで」
「『アンヘル』の事を知りたいんです」

 急に母さんの顔が真面目になる。
 さっきまでの柔らかく穏やかな空気はなくて、昔のように冷たくて鋭い空気を纏っている。

「ソレを知ってどうするつもり?」
「知って…わかりません。わかりませんけど、知らないと知れないんです」
「母さん、お願い」
「……はぁ、いつの間にか女の子ね」
「私は前から女の子だよ?」
「そうね、そうだったわ」

 クスリと母さんが踵を返してリビングに向かう。どうやら教えてくれるらしい。
 はやてと顔を合わせて、母さんを追って、リビングのソファに座る。

「『アンヘル』、出自はアナタの持つ夜天の書同じベルカで、ソレよりも古いと言われているわ」
「夜天の書よりも…」
「実際は知らないわよ?私は歴史家でも無ければ伝承に興味があるわけでもないから。

 能力は蒐集と貯蓄。そして暴走による破壊ね」
「それって」
「そうね、夜天の書と能力自体は変わらないわ。転生機能があるところなんてそっくり」
「つまり…所有者にも何かしらの影響があると?」
「……そうね。所有者を食い殺すわ」

 息を飲む。
 母さんから淡々と出てきたのは私達を驚かすのに十分な破壊力を持っていた。
 つまり、死ぬ?ユウが?あのユウが?

「夜天の書みたいにバグがあれば問題なんでしょうが、所有者がアレよ?」
「あ……」
「記録を確認したら60ぐらいまで生きた所有者もいるらしいし」

 安堵する。
 それならば、大丈夫だ。ユウは死なない。

「その60歳の人間は『アンヘル』をあまり使用しなかったんじゃないですか?」
「……記録には何も載ってないわ」
「そう、ですか」
「勘が良すぎる女は嫌われるわよ?」
「好かれる予定の相手は私よりも鋭い人間なんで」
「そう……あの子もいい友達を持ったわね」
「えっと、どういうこと?」
「フェイト可愛いよフェイト」
「隠す気どこいった?私のホッペの犠牲は!?」
「今日の夕食のお肉、私の分はアルフにあげようかしら」
「黙ってます!」

 すごくキリッとして言ったアルフは母さんに抱きついて「はにゃーん」となっている。狼なのに。
 そんなアルフを撫でてる母さん。顔が完全に悪人顔なのだけれど、気のせいだ。

「簡単にまとめた資料をあげるわ。ソレを見て、どうするかはアナタが決めなさい」
「……はい」
「私には?」
「私が居るでしょ?ついでにお勉強よ」
「え?え?」
「ほな、フェイトちゃん頑張ってな?」
「え?」
「フェイトだもんねー」
「わけがわからないよ…」

 はやてが帰宅してから鼻歌を奏でるアルフの隣で勉強の疲れで机に倒れるところをアリシアに発見されるまであと四時間程掛かってしまうことを私はまだ知らない。知りたくない。







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〜『ないよ』
 黒雪姫がこれで一刀両断してたので

〜塩ビ一割
 エンビィ

〜アンヘル
 基本的には以前紹介で書いた内容です
 新規で出た内容はベルカ生まれと夜天以前に出来た事ぐらいです。本編に支障はありません

〜プレシアが教えれること
 F&amp;Aの性的弱点から攻略方法、さらには本日の夕食のレシピまでなんでもござれ。教えれるのは以前彼女が言っていた基準以上を満たしてください

〜take2
 ボツにしようと思ったけど、なんか普通に進めれた。違和感がないような気がする

2012/11/08
誤字訂正。報告感謝

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