マエガキ
結構急いで作りました。
構想もなく考えなしに作ったので、ボロボロなような気がします。
まぁいつもと変わりませんね。
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「おはようございます、我が君」
「おはよう、リィン」
綺麗な銀髪が朝日に照らされてキラキラと光る。
赤い瞳と少し表情が固いが、そんな彼女がエプロンをしているのは一緒にすんで六ヶ月程経つが相変わらず見慣れない。
「どうかしましたか?」
「なんでもないよ?さってと、今日も学校頑張るで!」
「そうですね、相変わらず調整は苦手そうですが」
「リィンってちょっとキツいよね」
「主の為に苦言を呈するのも私の務めなので」
「さいで…ありがとう」
相変わらず歩くのに使う魔力の調整が上手く出来ない私。たぶん夕君がしればゲラゲラ笑うだろう。
……なんかリアルに想像出来てしまった。
ともかく、最初にある程度調整されていればそこからは歩けるのでリィンには毎朝苦労をかけている訳だ。
一々切ってしまうより、流し続けた方が楽なのだから仕方ない。
最初の方は流し過ぎで倒れたこともあったが、どうやら慣れてきたらしい。
「……これで大丈夫です」
「よっしゃ。ありがとな」
「いえ。あぁそうそう、我が君」
「ん?」
「誕生日おめでとうございます」
「……ん、ありがとう。リィンフォース」
「はやて!おはよう!!」
「おはよー、早いなぁヴィータ」
「ヘヘヘ、はやて!誕生日おめでとう!!」
「ありがとう、ヴィータ」
赤橙の髪を撫でて、思わず頬を緩めてしまう。
「おはようございます、主はやて」
「おはよう、はやてちゃん」
「おはよう、主」
「おはよぉ、シグナム、シャマル、ザフィーラ」
ダメだ、緩めてしまった頬に拍車が掛かったように嬉しくなる。
二年より前には想像出来なかった日。
一年前には慌ててわからなかった日。
そして今年から変わることのないだろう日。
「我が君。涙が」
「え?あ……うん」
頬を拭い、笑顔が溢れる。
幸せだ。慌ただしい去年とは違って、心の底から気持ちが溢れ出てくる。
「えっと、はやてちゃん?」
「どないしたん?」
「嬉しがってるところ悪いんだけど」
シャマルが時計を指差す。
時間を確認して、思考が停止する。
長針が、いつも朝に確認する時間から六歩程進んでいる。
つまりだ。
「い、いってきまーす!!」
「気をつけてねー」
本当に、去年からは考えれない日常だ。
「ま、間に合った……」
「お疲れだな。いつも時間ギリギリというわけでは無いだろ」
「夕君、待たせてしまうやろ?」
「待ってる間は舞ってるから大丈夫さ」
「つまり踊ってるんか」
「おいおい、舞を馬鹿にするなよ?アレは無駄を極限まで省いてる動きだぞ?」
呆れたよう肩を竦める眼鏡の彼。
私が歩けるようになったのは彼の御蔭なのだが、歩けるようになった今でも早朝のランニングには参加している。
というか、参加していないと夕君が鬼のように怒るのだ。
一日だけ寝坊してしまったのだが、夕君が私の家に居て清々しい顔でお茶を飲んでいた。その日一日、八神家の面々は真っ青な顔で過ごす事になった。シグナムでさえ青くなっていた。
「どうかしたか?」
「なんでもありません!!サー!!」
「誰が騎士か。名誉を得る程度に働いた覚えもないぞ」
「アレだけ働いて何を言うか」
「残念ながら、名誉を渡してくれる相手がいなくてね」
どうやら軽口は終わりらしく、夕君は踵を返してゆっくりと走り出す。
それの隣に並ぶように私も足を動かす。
走ってる間、私は走る事だけに集中している。
これは冬場に夕君に言われた事で、自分がどう走っているかを理解する為になのだが……正直に言おう。無理である。
隣に好きな人が居るだとかでは無くて、夕君の求めるレベルが高すぎるのだ。走りながら筋肉の動きや骨の動作範囲を理解しろだの、鼓動を安定させろだの、齢10になるうら若き少女に求めることではない。
聞いた時は、少しキョトンとして噛み付くように否定した。否定した結果、『当然だ、バカかお前は』と言われた。
要はそこまで至れということらしい。尤も彼はそこまでいけると思ってないらしい。私もそう思う。
言うからには、彼はしているのだろうが。いや、これすらも邪念か。ともかく走る事に集中しよう。
「はい、到着」
「はぁ…はぁ…なんや、今日は微妙に疲れたわ」
「当然だろ。時計を確認してみろ」
「あ?」
ゴールである公園に立つ時計を確認すればいつもより十分程早い。
走っていたコースは一緒だった筈だ。
「少しスピードは速くしてみた」
「そういうのは、先に、言わんかい」
「言ったら途中からキツくなるだろ、ほらマッサージしてやるから座れ」
「はいよ」
近くのベンチに座り、夕君に足を向ける。
私の前で膝をついて、相変わらずの無表情でふくらはぎを触っている夕君。
別に不満とかそんなモノは一切ないが、もう少し表情があってもいいんじゃないだろうか。仮にもどころか、私は女の子である。
「なんか言うこと無いの?」
「筋肉が固い」
「ちゃうやろ」
「むぅ……前より筋肉が増えたな」
「もうええよ」
「ふむ…直に触りたい」
「チェストォォ!!」
「肩ァ!?」
思わず反射的にかかと落としをしてしまった。
目の前にいる彼は肩を抑えて蹲っている。なんかごめんなさい。
「酷くないか?酷くね?おそらく求められてたであろう言葉を吐いたらこの仕打ちは酷くね?」
「ええか、夕君。女の子には触れられたくない部分があるんや」
「あぁ、そうか女の子だったな」
「ソリャァ!!」
「コメカミッ!?」
思わず蹴ってしまった。我ながら中々綺麗な軌道で相手のコメカミを捕らえたと思う。ザフィーラに感謝。
「お父さん、お前をこんなヤンチャな娘に育てた覚えはありませんよ!?」
「ヤムチャな父を持った覚えもなければアンタに育てられた覚えもないわ!!」
「同い年の娘か。この場合、俺の妻はシグナムかシャマルなるのか」
「ザフィーラもおるよ」
「お母さん、お前をそんな子に育てた覚えはないわよ」
「乗り気やなぁ。ザフィーラに言うとくわ」
「ごめんなさい。ホントにごめんなさい。真面目にします」
分かればいいのだ。
というか、仮定の場合でも妻だとか、嫁だとか言わないでほしい。
まぁそんな事、目の前の朴念仁が知るわけがないのだけど。
「ん?」
「なんでもないよ」
「そうか。あぁ、迷惑でなけりゃ今日の放課後にお前の家に行ってもいいか?」
「別に構わんけど…」
「ふむ、ありがとう。シャマルに頼みたい事もあったしな」
シャマルに用事か。
まぁ、朴念仁やから忘れてるんか…それはそれで悲しいなぁ。
でも自分で言うのもなんか違うしなぁ。仕方ないか。
「はぁ…」
「どうしたんだよ、はやて?」
「いや、なんでもないよ」
「そうか、悪いな付き合ってもらって」
「ええよええよ」
隣で歩くのは笑顔なイケメンと栗色の髪の友達。
どうしても買い物に付き合ってほしい、ということで絶賛買い物に付き合っている。
夕君は夕君で
『そうか。まぁ先に行ってる』
と言って颯爽と帰りやがるし。ともあれ、私の溜め息は尽きない。
「ごめんね、はやてちゃん」
「ええって、別に予定あるわけでもなかったし」
「そっか、ありがとう」
「ところで、何買いにきたん?」
「あ、えーっと、」
「翠屋で新しくケーキを作るらしくて、その買出しなんだ!!」
「ふーん。で、なんでソレをなのはちゃんや無くて光君の口から出てくんの?」
「え、えーっと」
「ら、ライト君は家に出入りしてるからっ」
「……」
怪しい。怪しいを通り越してなんか微笑ましいほどチグハグな怪しさだ。
どうして二人が私を連れ出したかは分からないが、まぁ今は乗ってやることにしよう。
「で、なんで二人は私に着いてきてんの?」
「いやぁ、ほら、はやての家知らなかったなぁと思って」
「別に自慢できるような家ではないし、材料ぐらい置いてきたらええのに」
「え、あ、ほら、オレの鍛錬にもなるし」
「…まぁええけど」
ともあれ、買い物も終わり私はどこぞの勇者のように後ろに人を連れ家路に着いた。
本当に、疲れた。どうしようもなく、体力をガリガリ削られた。ピコピコと私に文字が出てるならオレンジ色にでもなってるだろう。
「ここがはやての家か」
「普通やろ?中に入っても普通やで?」
「ソウナンダー、ハヤクハイッテミタイナー」
「……なぁ二人とも何隠してるん?」
「カクシテナンカナイデ!?」
「ホンマに隠し事下手やなぁ」
思わず溜め息を吐いてしまう。ともあれ二人が何か隠していて。それが私の家にあるらしい。
少しだけ考えて自嘲する。私たちの中で私の誕生日を知っているのは夕君だけだし、その夕君は朝会った時点で言わなかったではないか。
第一、去年にサプライズは嫌いと言っていたではないか。
夕君の性格からして、絶対にない。
「まぁええわ」
考えるのは扉を開けてからにしよう。
開けて異常なら、そこから考えよう。
私は慣れた手つきでドアノブに手を掛けて扉を開く。
同時に破裂音。
それが連続して舞う煌めく紙吹雪。
『誕生日、おめでとう!!』
何重にも重なる声に唖然とする。
一度考えて捨てた事が目の前にあると結構驚くものだ。
「おめでとう、はやて!!」
「おめでとう、はやてちゃん!!」
後ろから声が掛けられ、流れるように家に押し入れられる。
部屋に入れば、飾り付けられたリビング。
色とりどりの料理。
そして、なぜかメイド服のヴィータとリィン。
え?
思わず一度思考停止してしまった。瞼を閉じて、もう一度開いても、うん。やっぱりヴィータとリィン、さらにはシグナムもメイド服、ザフィーラは執事服を着ている。
『お、おかえりなさいませ。ご主人様』
「お、おう…」
こんな言葉しか出てこないのは仕方ないと思う。朝を思い出してもこんな恥ずかしいことをするような仕草はなかった。
「よう、帰ったか。お帰り」
「た、ただいま」
「二人も時間稼ぎ及び材料調達ご苦労」
「おう!」
「いつバレるかハラハラドキドキだったよ」
「そいつはご苦労さん」
いや、ごめん。バレバレやったで?
でも言わないのが花なのだろう。心の内に閉じ込めておこう。
「あ、はやてちゃんお帰りなさい」
「シャマルまで…」
「えへへー、似合います?」
「うん、似合っとるよ」
「ありがとうございます。さすが夕君ですよね。はやてちゃんの趣味をわかってるというか」
「夕君が?」
「まぁ俺はここまで盛大にするつもりは無かったがね」
「ユウちゃん、それは企画者の言葉じゃないよー」
「発案はコイツだ。俺は料理担当です」
「にゃははー、恥ずかしがってる」
「あははー、次の課題覚えとけよー」
「すいませんでした、私が悪かったです」
思わずうわぁ、と言いたくなるような現場を見てしまった。
「ほら、はやて。早くこっちに来いって!」
「あ、うん。あれ、夕君は?」
「俺は最後の仕上げがあるからな。先に祝われてな」
ポンと背中を押してくれた夕君。
まぁキッチンからリビングは見えるので一緒に楽しむことはできるだろう。
「では、八神はやての誕生日を祝って、乾杯!!」
「乾杯!!」
「ふぅ…」
「よぅ主役」
「やぁ助役」
主役が少し席を離れた所で、彼が騒いで盛り上げてくれるので、場は大丈夫だ。
そんな休む私の隣に自然と座るのが彼である。
渡されたオレンジジュースを少し飲む。
「で、夕君が企画したん?」
「夜天たちと俺で祝いたかったんだがね」
「うれしい事に変わらんけど、前にサプライズは嫌いって言うてなかった?」
「まぁな。次を期待されても困るからな」
「それが理由なんか」
「表向きはな。裏は今回でさえも面倒だった。俺の主催ではもうしない」
「酷いなぁ」
「個人的には誕生日や祝い事はゆっくりと祝われたい身でね」
思わず苦笑する。
「事は三日前に遡り、俺がうっかり料理雑誌を見ていた事にあたる」
「珍しいなぁ、夕君がそんなん読むなんて」
「研鑽は常に積む方なんだ。で、それをフェイトに発見されて………まぁ紆余曲折あって今に至る」
「なんや今すごい大事なところが端折られたな」
「勘の鋭いお嬢様が居てね。金髪のお嬢様だ」
「うん、なんか今視線を感じた」
「まぁ比較的空気の読める人間だからな。でみんなで祝おうぜー、みたいな事を言い出したバカが居てだな」
「視線は一切感じへんなぁ」
「空気を読む以前の人間だからな。で今に至る」
「時間稼ぎとかは?」
「アイツがかってでた。ついでにケーキの材料も買ってきてもらった」
あぁ、なるほど。
テキトーに聞かれても言い逃れできる言い訳を用意したわけか。まぁ活かされなかったが。
「で、サプライズはプレゼントではなくてな。ほれ」
「へ?」
「メイド服を作るついでに作った」
「…今なんかとんでもない事を聞いたような気がする」
「なに、気のせいだ」
渡されたのは小さなストラップ。
茶色い長方体の真ん中に黄色い十字架。夜天の書か。
「器用やなぁ」
「基本的に暇な人間だからな。それが一番時間かかったわ」
黄色い十字架もしっかりと糸で刺繍されたもので、中に綿でも入ってるのだろうやわらかい本部分。手の込んだモノ………ん?
「一番って…メイド服とかは?」
「五日で仕上げた」
「なんか、目の前に化け物がおる」
「ハッハッハッ、今更何を言うんだねお嬢さん」
「おーい!はやて、そんなところで何してんだよ!!」
「さてさて、主役は舞台にお上がりを」
「はぁ…主役は辛いなぁ」
「脇役はケーキの準備でもしてるよ」
「美味しいケーキ待ってるよ」
「御意に」
夕君が立ち上がりキッチンに向かう。
ふと、立ち止まり振り替える。
「そういえば言うのを忘れてた」
「んー?」
「誕生日おめでとう。化け物からの賛辞で悪いがね」
クツクツ笑う彼がキッチンに消えたのを見送り、思う。
あれは、卑怯だ。
赤くなった顔を冷やすのにまだ外を見ている必要があるようだ。
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〜ヤムチャな父
無謀なことをして、いつの間にか倒れてしまうかませ犬的立ち位置を余儀なくされた不幸な男
〜後ろに連れてるとある勇者
3が名作。異論は認める
〜メイド四人と執事一人
ジェバンニが一晩で一着づつ仕上げてくれました
〜メイド四人の理由
趣味だ。異論は認めん
〜サプライズ
企画:ユウ・アリサ
発案:アリシア
雑務:ユウ
飾り付け:すずか・フェイト
料理:ユウ
時間稼ぎ:ライト・なのは
お金関係:アリサ・ユウ・ライト
プレゼント:各自用意した