小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「よっす、ユーノ」
「あ、ライト。それにアリシアと……フェイトは大丈夫なの?」
「大丈夫よ」
「ぅのぉ……」

 アリシアに連れてこられたフェイトはどことなくボロボロになっていた。
 アリシアが引き摺ったからなんだろうけど、姉妹仲が良いようでなによりだ。

「まったく、僕が司書になって色々問題が」
「不運だねぇ。まぁユーノンだし」
「アリシア、ソレはどういうことなんだい?」
「そういうことよ」
「だよね……はぁ」
「生きてりゃァイイ事もあるさ」
「不運続きだけどね」
「もう、ボクの体力を減らそうとするのはやめて!!」

 フェイトを近くの椅子に座らせてアリシアが慌ただしく動く白衣の人たちの所に行く。

「無限書庫が封鎖ってそんなに大事なのか?」
「……あぁ、そっか。ライトだった」
「?」
「そうだね。わかりにくい事だと思うけど、一応この無限書庫のセキュリティは本局からの流用なんだ」
「……えっと、どういう事だ?」
「ココをハッキング出来るって事は本局を狙おうと思えば狙えるってコト。いい加減に少しは考えることを覚えなさいよ」

 ため息を吐いて空中にディスプレイをいくつも浮かしたアリシアが戻ってきた。
 てか、

「ソレってやべぇじゃねぇか!!」
「あぁ、なんだろう。なんでコイツいるんだろ」
「まぁまぁ。一応上司なんだから」
「直属じゃないけどね。直情だけど」

 またため息を吐いて、アリシアはディスプレイに目を向ける。
 よくアリシアやはやてやバグはよく分からない事を言う。理解するこっちの身にもなってほしい。

「ついでに言えば、もしも今夜天の書みたいな事件が起こっても記録に触れれないから対策が練れない」
「そうなのか」
「反応薄いなぁ」
「事の重要性を理解してないのよ」
「つまり、オレが解決すればいいんだろ?」
「……まぁソウネ。ソウダワー、ヤバイワー」
「アリシア、落ち着きなよ」

 そう、オレが全て解決してしまえばそれで一件落着なのだ。第一、オレに勝てるヤツなんている訳が無い。
 暴走した夜天のプログラムもオレが止めたようなモノだし。アリシアだってオレのクスリがなければ生きていなかった訳だし。

「うわぁ……なにコレ」
「どう?」
「ベルカの公式かしら?いや、違う…ここはミッドに近いし……複合?それにしては形が綺麗すぎる……」
「つまり?」
「一種の芸術ね。個人的には破壊したくないけど……というか、解読するのにやたらと時間がいるわ」
「どれくらいかかりそう?」
「今いるメンバー…いえ、私の知るうる本局務めの人間がここに居ても一日は確実に掛かるわね」
「……早いの?」
「遅すぎるわよ。普通ここまで大型の壁だと人海戦術でも使えば数時間でクリアできるわ。でもコレは普通じゃないのよ」
「普通じゃない?」
「どう説明すればいいんだろ……式の一つ一つがやたらと長くてソレ自体に解読が必要だし、ソレも人海戦術でどうにか出来る物じゃないし」
「つまり、オレが破壊すればいいんだな」
「待ちなさい、バカ。そんなコトしたら無限書庫のデータが全部吹っ飛ぶわよ」
「ライト、やめて」

 二人に止められてオレは書庫の扉を破壊するのをやめる。
 こういうのは扉を破壊すれば、どうとでもなるもんだ。そうに決まってる。

「ユウちゃんがいてくれたらなぁ」
「ハァ?アイツが何したか知ってんのかよ!!」
「ソレを含めても、いる方が万倍マシよ」
「またユウが何かしたの?」
「アイツはなのは達との関係を『ごっこ』って言ったんだ!!はやても泣かせて!!」
「……ホントに?」
「うん。私もその場に居たし」
「そっか…………そうか」

 ユーノは顎に手を当てて何かを考える。
 あんなヤツ、オレが帰ったら速攻でシメてやる。はやてやなのはを泣かせた罪はデカい。
 まぁ、アイツが最低な御蔭でオレがはやてを慰める役に収まる訳だ。さらに言ってしまえばソレを見たアリシアとかフェイトとかヴォルケンリッター達の評価も上がると。



 オレが見守るなか、数分の解読作業が続く。
 アリシアは解読班に、ユーノは解読班に連れ去られ、オレはフェイトの横に座って解読を待つ。

「ふざけるな!!」

 途端に周辺にアリシアの声が響く。撫でてもさっぱり起きなかったフェイトが飛び起きた程の大声だった。

「どうかしたのか?」
「ふざけないで、ホント……ヤだよ」
「?」

 アリシアがペタリと膝を着く。隣からフェイトが来てアリシアの肩を掴む。

「誰か、この状況をオレに教えてくれ」
「スメラギ准空尉。『名も知らぬ研究者』を知ってますか?」
「?なんだソレ」
「研究者達の中で知らない人間がいない程度には有名なのですが…まぁ武装隊は知らなくて当然ですね」
「で、その名無しの研究者がどうかしたのか?もしかして、それが犯人とかか?」
「察しがいいですね。その通りです」
「ハァ?本局の人間が裏切ったって事か?」
「いえ、厳密に言えば彼、いや彼女かもしれませんが便宜上彼にしましょう。彼は本局には勤めてません。私達に一方的に技術を提供してくれる存在でしたから」
「なんでそんな奴が……」
「それは私達にも分かりかねますが、戯れにしては少し行き過ぎですね」

 つまり、そいつが犯人って事か。
 研究者たちは揃ってため息を吐いて、ディスプレイを睨みつける。

「じゃぁ、そいつを捕まえればイイだけの話じゃねぇか」
「いえ、私達は彼の存在を知らないので」
「は?」
「彼は居るかもしれない、されど彼女はいないかもしれない。最近よく研究者のレポートの端に書かれてたモノです。今回も書かれてますね」

 白衣の人間の出したディスプレイには確かにそう書かれている。

「所在を知ってるのはプレシア・テスタロッサのみだったのですが」
「最近は、普通に本局の方にレポートが送られてたわ」
「アリシア」

 少しだけ顔が暗いアリシアが呟く。

「つまり、アリシアさんも所在は知らないと?」
「私が知るわけ無いでしょ。顔も見たことない人間の居所なんて知らないわよ」
「お母様は知っておられたようですが」
「もう一度言うわ。私は『名も知らぬ研究者』の顔も存在も知りえない。知ってれば今すぐ連れて来てココで解析させるだの、技術を搾り取るだのしてるわよ」
「……ふむ、そうですか。まぁともあれ、これの解析に時間が掛かるとお墨付きを頂いたわけです」
「そうね。本局のバカどもにやっかみを受けなくていいわ」
「いやぁ、クズ共が聞いてたら罰せられますよ」
「ゴミどもが聞く前に口を慎まないといけないわね」
「そうですね。カス共が吹っ飛んでしまうので口を閉じてましょう」

 白衣の人間とアリシアが妖しく笑う。
 そしてお互いにディスプレイを睨んで、更にニヤリと笑う。そしてキーを凄まじいスピードで叩き始めた。

「あぁ……またか…」
「アリシアちゃんも室長も相変わらずだ」
「さて、俺らも作業に戻りますか」
「『名も知らぬ研究者』の課題に挑戦か」

 今までため息を吐いていた研究者達が揃ってキーボードを叩き始めた。
 カチャカチャと音が響く中、フェイトが立ち上がる。

「ゴメン、ライト。私、行かなきゃ」
「は?何処にだよ」
「えっと、どう言えばいいんだろ。ともかく、私にしかできない事だから」
「待て、オレも行く。お前だけを危険な目に合わせたくない」
「……ううん。私は大丈夫だから。ライトは指示があるまで待機しててほしいんだ。私がやることは軍規違反にあたるし」
「…そういえば、ここの責任者はオレだったな」
「え、うん。ライトは准空尉だからね」
「では、フェイト嘱託魔導士。キミに暫し時間を与えよう。キミに出来る事をしたまえ。ってな」
「!、ありがとう!!」

 走って消えたフェイトを見送り、オレは息を吐いた。
 フェイトが何をするのかは知らないけど、こうしておけばフェイトの罰は軽くなるはずだ。まぁオレの罰がキツくなるが、特殊なオレを罰せれる程管理局は強くない筈だ。
 ついでにフェイトの印象とかも良くなるし。ノーリスクハイリターンだ。

―ライト君、いいかしら?
―リンディさん?
―無限書庫はアリシアさんに任せて、そこから転移してくれるかしら?
―転移?何かあったんですか?
―複数に結界が張られてて、その場所の調査よ
―…このタイミングで結界って事は
―今回の犯人がいる可能性が高い
―了解しました。調べてきます
―お願いね。なのはさんやはやてさんにも応援呼んでるから
―なのはが着く頃には終わらせてますよ
―期待してるわ

 念話が終わり。アリシアに伝えようとしたが、やめた。

「何、この式?この程度で足止め?ブラフにもなりゃしないわ!!私を止めようと言うのならもう少し質のいいモノを置いときなさい!!」
「やりますね、アリシアさん。まぁその部分なんて私は既に過ぎてるのですが」
「アッハッハ、そこ間違ってるわよ室長さん」
「なん……ですって……」

 あの空間に入る勇気はオレにはない。まぁどうにかなるだろう。







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〜名も知らぬ研究者
 最近のレポートにサインを残す研究者。本名も性別も人種も不明。しかし、成果だけはあるので認められている。
 サインが出始めた当初は模倣する研究者もいたが、件の人がそのレポートの穴と対策、及び発展系を提出してフルボッコにした経緯もある

〜白衣室長
 男の研究者、何事も愉快に解釈して他人からは『頭のネジを嵌めるところを置いてきた』などと評される人物。ちなみに既婚者

〜壁を壊す時間
 本局の研究者の技術は世界一ぃいいいいいいいいいい

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