小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「…ぁ……」
「おや、目覚めたか。おはようスメラギ」
「…………」

 ぼやけた視界に黒いアイツが映る。
 いつもの様な声で、少しおどけた様な声で。
 夢?夢だったのか?さっきまで全部。
 
 オレの声は出ない。いや、喉に違和感がある。
 腕も動かせない、足も動かせない。
 ぼやけた視界がクリアになっていくにつれて徐々に足と手に痛みが迫る。

「イ゛ダイ」
「当然だ、張り付けにしてるんだからな」

 張り付け?目を横に向ければ腕に刺さる赤黒い棒。そしてオレの腕を伸ばす為に縛られた槍。
 逆も一緒、こっちも一緒。
 肘に一本の棒、そして手に二本、さらにソレらの間に一本、二の腕に三本。

「ふむ、英雄を張り付けに…か。かの裏切り者はこんな心境だったのだろうか?」
「ぐるってう!でめ゛ぇ!ぐうっでる゛」
「うるせぇなぁ。家畜ですら黙って殺されるってのに。人間が叫ぶかね」

 なんなんだよ、コイツ!オレがオカシイみたいに!狂ってる!

「まぁいいか。さて幾つか質問してやろう。イエスなら瞬きを一回、ノーなら二回。わかったな?」
「ァ゛ー!!」
「ハァ、まったく。家畜以下だな」

 手で銃を形作ってオレに、オレの右手に向ける。
 咄嗟に指先を追ってオレは右手を見てしまう。

「バンッ」

「ァァァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」

 痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛!!

「うるせぇよ。高々右手が内側から爆発した程度で叫ぶんじゃねぇよ」

 アイツは鬱陶しそうに溜め息を吐いて指を少しだけズラす。
 そこには先を向いているのはオレの左手で。

「ャメ゛ロ゛」
「なら、質問に答えろ、おーけぃ?」
「わがっだがら」
「バンッ」

 オレの左手が熱くなる!
 また同じ痛みがオレを襲う!!

「言わなかったか?イエスなら瞬き一回、ノーなら二回。わかったか?」

 瞬きを一回する。熱い、手が焼けているように熱い。
 左右をチラリと見れば真っ赤に染まった掌だったモノがある。

「よしよし、いい子だ。さて質問だ。今から数年前…七年前だ。お前はその能力を持っていたか?」

 七年前。持っていた。忘れもしない。
 オレが能力をもらったのは三歳の時だ。
 瞬きを一回する。
 同時に目の前から溜め息が聞こえた。

「そうか……そうだよな。ではその能力を別の世界で使ったことは?」

 瞬きを一回。
 オレはあの世界で使った。悪人しか居ない世界で使った。

「……まぁそうなるよな。ハァ、本当に、遠回りした…俺自身の願いが叶う、叶ってしまう」
「……」
「至極、どうでもいい」

 アイツはそう締め括って溜め息を吐いた。
 溜め息と同時にオレの体が地面に打ち付けられる。
 砂が口の中に入り、ジャリジャリと舌の上を転がる。

「さて、少し動くなよ…まぁ動けないと思うが」

 御影の言う通り、オレには立ち上がる力すらなかった。
 地面に朱い魔法陣が出来上がり、オレの両手からじんわりと感触が戻ってくる。
 コレは、治癒?何故?なぜ?

「これで動ける程度にはなっただろう」
「ぁ、あぁ…でも、なんで」
「今からお前を殺し続けるのに、徹底的に絶望を味わってもらう為に、何度でも、何度でも、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も殺してやるよ」

 そして、アイツはオレを蹴り飛ばした。
 腹に直撃した蹴りは胃袋の中に何も入ってないのに、胃酸をオレに吐き出させた。

「おいおい英雄ゥウウ!!歯向かえよ!!ツマらんなぁ!!つまらんなぁ!!」

 宙に放り出されたオレを御影が掴み地面に投げられる。
 背骨からバキリと嫌な音が響き、オレの体を痛みが支配する。

「おいおいこの程度で終わりか?否、断じて否である。俺の気が済むまで、治して、壊して、治して、潰して、治して、引き裂いて、治して、砕いて、治してやるから安心しなぁ!!」

 またオレの身体がじんわりと暖かくなる。
 同時にオレの腕が踏み抜かれまたバキリと音が響く。
 叫ぶことも許されず、喉を殴られ、肩が壊される。

「クケッ、クケケケケッ!!楽しいねぇ!!楽しいじゃねぇか!!畜生が!!ほら、這いずって逃げろやァ!!」

 そしてオレがまた蹴り飛ばされ、地面を這わされる。
 同時にまたじんわりと暖かくなり、オレの意識を強制的に引き戻す。
 動ける、動ける、動け!!

 オレは立ち上がり横に転げる。
 オレのさっきいた場所に赤黒い棒が刺さる。

「おぉ、おぉ、ようやく動くようになったか!!そうでなくてはツマらんからなぁ!!俺を楽しませてくれよォ!!英雄様よぉおおおおおおお!!」









◆◆

 慌ただしく動くアースラの船員達。問題があったのは既に数時間前だ。
 問題というのが、夕君が事件の犯人であることが判明した事が原因である。
 リンディさんが全員に通達していたらしい、彼が犯人であることを。
 そして、犯人が見つかったのが数時間前。ライト君が見つけて、そして結界が張られた。
 ソレを見ていた私となのはちゃんは先程から不安に駆られている。
 朱い珠達が夕君を囲むように精製されて、そこで映像が途切れた。

「大丈夫……だよね」
「大丈夫…やと思う」
「そうだよね、ライト君だもんね」
「夕君が友達を簡単に捨てれるとは思わんし」
「でも御影君は私達の事を『ごっこ』だって!!」
「…あぁ、そうか」

 ようやく合点がいった。私達を切り離した理由。
 こんな事をするのだから、私達と一緒にはできない。私達との仲があってはいけない。彼と敵対しているのは管理局で。私を保護しているのは管理局で、なのはちゃんやフェイトちゃんも管理局勤めだ。
 仲良くしていたら、私達に被害がでる。

「……アホちゃうか…」

 結局のところ、彼の心はわからないも彼は誰にも頼ることなく、頼れないから、切り捨てたのだ。
 結果的に、それが私達の為になるから。彼は、そうした。当然の様に、また自らを捨てて。

「なのは!はやて!!」
「フェイトちゃん!!ライト君が、ライト君が」
「うん、大丈夫だよ…」
「フェイトちゃんは今の状態を?」
「うん。今まで結界を回って夕を探してたんだけど……間に合わなかったんだね」
「……せやね」

 友達を切り捨ててしまった彼。そしてその目の前にいるのは友人でもあり、自身の仇でもあるアイツなのだ。
 話し合いで終わる…訳もない。が、夕君が友達を殺すような事も思いたくない。

「結界は…」
「まだみたいやね」
「一定時間で解除パスが変わる結界だからね…」
「クロノ君!!私のスターライト・ブレイカーで!!」
「なのは、君の気持ちもわかるが、アレは強制的に破壊できないんだ」
「どういうことや?」
「ユウの性質は知っているだろ?あれには外から掛かる魔力の吸収効果も持ってるんだ。だからこそ僕らからの念話は向こうに届かないし、サーチャーが入る事もできない」
「また厄介なモンを…」
「まったくだよ…」

 クロノ君と一緒にため息を吐く。
 吸収効果を知っても、なのはちゃんはバリアジャケット状態から戻らずに、ソワソワとしている。
 フェイトちゃんは目を瞑っている。
 数秒してその目がパチリと開き、クロノ君の方に向く。

「アリシアを呼んだよ」
「よくやった…しかし、アリシアは今無限書庫で」
「うん、念話でこっちの状況を言ったら来てくれるって」
「そうか…」
「リアルタイムでユウちゃんが書き換える結界を破ると聞いて!!」
「……来た理由が不純過ぎないか?」
「え、えーっと…アハハ」

 自動な筈の扉を自分で開けた目を輝かせたアリシアちゃん。もうなんというか、ワクワクしすぎて遠足前の子供がたぶん、こんな感じだと思う。

「誰か、今の情報をこっちの端末に回して」
「アリシアちゃん…」
「なのは、大丈夫よ。私を誰と思ってるの?ついさっきから『名も知れた研究者』と呼ばれる様になった存在よ……さぁ!!慢心せずに邁進してあげるわ!!」



*********************

〜何処かの裏切り者
 師匠を国に売ってしまった裏切り者。ちなみに彼はかなりの後悔をしていた

〜狂ってるヨ…
 先に言いますが、夕であることを忘れてあげないでください

〜『名も知れた研究者』
 『名も知れぬ研究者』の壁をクリアして無限書庫を解放した者に送られる称号

〜治癒魔法陣
 ユウ個人が傷を癒す魔法を昇華させて出来上がった物。描写はしてないが形は綺麗な円形や三角ではなく、イビツに歪んだ線で結ばれた五角形

〜魔力吸収効果あるのに結界破壊出来るの?
 魔力吸収効果があるのは壁。強大な結界なのである程度の綻びも生じて、ソレを補うのは解除パス。みたいに考えてくだされば幸いだなぁとか。
 その解除パスをリアルタイムで一定時間毎に書き換えるということは、また一から結界構成を演算して、数値を変えて前の結界で使われている魔力をそのまま循環させて再構成している。
 解除するなら英雄様の様に物量で潰しきるか、解除パスを当てはめるか、吸収量以上の魔力を当て続けるかのどれかになる

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