小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「ライト君…ライト君……」
「なのは……」

 私が抱えてきたなのはは、ギュッとライトを抱きしめてうわ言の様にライトの名前を呟いている。

―アリシア
―うーん、転移阻害はされてるからこっちから送れないし、そっちを転移させることも無理ね
―…そっか

 つまり増援もなければなのは達を送り返す事もできない。
 内心で溜め息を吐きながらライトを確認する。
 白い筈のなのはのバリアジャケットは赤く染まり、乾いてない事からまだ出血している事がわかる。ライトの身体は見る限り傷だらけで、今出血しているのは腹部だろう。

 ともあれ、このままでいる事はよくない事は確かだ。治癒系の魔法はテキトウに掛けてしまうとそれ自体が怪我になってしまう。
 それが分かってか……いや、なのははソレも頭になく錯乱している。不幸中の幸いか。

―フェイト、アンヘルを気絶させれるなら…そうしてほしい
―出来る限りはするよ…
―常に最悪を考えろ。最低な先生ね
―最良の先生だったけどね

 空を見上げて、少しだけ息を吸う。
 断ち切った迷いがチラつき、ソレを消していく。

―ユウは、私を恨むかな?
―私も恨まれるわよ
―……なら、一緒にユウに怒られようか
―その前に私達でアイツを叱ってやろう
―そうだね

 クスリと笑い、悩みを切り捨てる。
 何度か相棒を握り直して、なのはと視線を合わせるために膝を付く。

「なのは」
「……」
「私、行くね。助けないと」
「なんで……あんなヤツ…」
「うん。もしかしたらライトを傷つけたのはユウかもしれない。アンヘルかもしれない」
「じゃぁ…」
「でもね、なのは。私はそれでも、誓ったから」
「誓っ…た?」
「うん。誰かを助ける為の、私の為の誓い。アレから少しだけ強くもなったよ。
 だから、私は彼を助けたい。助けないといけないんだ。彼が、私にそうしたように」

 そうだ。私を救ってくれた彼を、次は私が助ける。
 それでようやく同じ場所に立てるような気がする。気がするだけかもしれないけれど。

「フェイトちゃん…私は…」
「なのはは、ここでライトを看てて。はやてが待ってるから、行くね」

 手を伸ばすなのはを背中に感じながら、私はフワリと飛翔する。
 滞空状態から最高速に至る頃にははやての戦っている場所に着くはずだ。

―フェイト
―ん?
―ユウちゃんが手遅れなときは
―大丈夫、その時は…

 私が彼を墜とすから。










「ふむ、ようやっと来たか」
「…なのはちゃんは?」
「転移妨害があるから、遠くに置いてきた」
「そうか…なら大丈夫やろ」
「クク、我にとっては何も変わらんがな。貴様らを喰らい、あいつらを喰らう。それだけなのだから」

 ユウの声で嗤うアンヘルを少しだけ睨み、再度バルディッシュを強く握る。はやても自身の杖を握り直してアンヘルを正面に捉えた。
 しかし、アンヘルだけは何も構えず、自然体でいる。ただ、そこに立っているだけ。唯一動きがあるとすればつり上がった口角とグネグネと動き続ける左手の触手だけだ。

「皮肉だな。宿主が助けた命が宿主に牙を剥くか」
「ちゃうよ。私らはアンタを倒して、夕君を助ける為に戦うんや」
「クカカ!!我を倒す事は宿主を倒すことと同義と言ったであろう!!」
「それでも、方法があるかもしれない…私達は、アナタを止めます」
「クキャキャキャキャキャ!!痴れ言を吐く人形め!!では子供二人で我を倒してみせろ!!我を止めてみせろ!!」

 ジリッ、と足が地面を擦りアンヘルが少しだけ足幅を変える。近接戦闘を主にしている私は気付いたが、はやてはその微妙な違いに気がついていない。
 少し前にいるはやての襟首を掴み後ろに引いて投げ飛ばす。少し上に向けておけば体を起こせる筈だ。
 アンヘルが上下にブレる。膝を落としたのか。私は目の前にバルディッシュを構え攻撃を防ぐ準備をする。

 ガリッと削れる音が響き、バルディッシュの黒い刃部分と赤黒いナニかがぶつかる。
 先の尖った…剣というにはかなり歪な形状のナニか。

「ほぅ、よく気付いたじゃないか!!」
「これでも、訓練してますから」
「クカッ!!それも今日で無駄になると思うと無残だな!!」
「無駄に、させません!!」

 バルディッシュを横に倒して、ナニかを地面にズラす。私自身にナニかが当たる軌道から外れた事を確認してバルディッシュを大きく横に振るう。

「ハァァァアアアアア!!」
「ケケケ!!当たらんよ!!」

 大きく後ろに下がられて回避される。それも頭の中には入っていた。

「穿て!!」
「なんだと!?」

 はやての声が響きアンヘルに向け赤い刃が飛来する。
 速く、そして追尾するソレはアンヘルに当たり、そして爆発して煙を出す。
 私はその間にバインドの準備をして、アンヘルの動向に備える。

「甘い!!蜂蜜に砂糖をブチ込んだ脳髄に掛けたもの程度に甘いなぁ夜天!!」
「甘いのはどっちや!!」
「ハァッ」

 ライトニング・バインドがアンヘルを幾重にも縛り、私はソレの制御に集中する。
 空にいるはやては夜天の書を開き、杖を横に構えた。

「クソッ!!なんだ!コレは!?」
「クッ…はやて、早く!!」
「彼方より来たれ、ヤドリギの枝」
「近代魔法め!!力づくで引きちぎってやろうではないか!!」
「させない!!」

 更に魔力を込めて、力を強める。
 はやての足元から白い光が射し、彼女が杖を上に向ける。

「銀月の槍となりて、撃ち貫け」
「いいのか!?我を殺せば宿主とて死ぬのだぞ!!」
「安心しぃ、殺すまでの設定やない。ただ、ちょっと石像になってもらうだけや」
「うわぁ…」

 はやてが物凄くいい笑顔でそう言って、私は思わず口から声が出てしまった。

「じゃぁ、次起きる時は宿主様に変わっとき。それで、しまいや」
「待て!!そうだ、我と共に世界を怖そうではないか夜天の王よ!!」
「……その誘いが夕君の口から出てれば…いや、夕君の口から出てるんやったな」
「はやて…」
「でも、もうええよ。またお眠り、アンヘル。

 石化の槍!!ミストルティン!!」

 白く輝く幾本の槍がアンヘルに向かって直進する。刺さる直前にミストルティンの影響でか、バインドが解消され、石化の槍はしっかりアンヘルを貫き、そして地面に刺さった。
 アンヘル周辺は煙で包まれわからないが、石化効果で土色の地面が灰色に変色していく。

「……」
「……」

 私の傍に降りてきたはやて。
 その目は少しぐらついていて、大切な人を撃ったという事に罪悪感を感じているのだろう。
 私も、そうだ。
 無言で、戦闘態勢を崩さずに煙が晴れるのを待つ。

「……ふぅ」

 息を吐いたのは私か、はやてか。まぁ両方なのだろう。
 しっかりと灰色に染められた彼が立っている。それはまるで私達の罪を見ているようで、目を少しだけ背けた。

「……あとは、アリシアちゃんがどうにかしてくれるやろ」
「うん…そう、思う」
「さってと、サクサクと転移してもらって、翠屋のケーキ食べに行こか」
「そうしよっか」
―はやて!!フェイト!!

 頭に響いたアリシアの叫びに私が反応出来て、はやてを抱いて空を駆ける。
 地面を穿ち生えて来たのは赤黒い触手群。数えるのも億劫になりそうな程のソレが地面から空に向く。

「…なんで」
「なんで?なんでだって!?クケケケケケケ!!答えなんて頭の中に浮かんでるんだろう!?ソレを否定してもいいが現実を否定するとはやはり殻に篭るのかァ!?」

 灰色に染まったアンヘル、その隣からテクテク歩いて出てきた無傷のアンヘル。
 なぜだ?しっかりと当たった筈だ。

「当たった!?しっかりと!?それは確実か!?クケケケケ!!やはりまだまだ甘いなぁ!!我は宿主であり、宿主は我であると何度も言っているだろう人形ぉ!!」

 ギリリと歯が軋む。
 そうだ。アンヘルが彼であるなら、ライトニング・バインドは無意味だ。既に解析されている。実際にアンヘルは言ったではないか。一度解析していれば完璧に吸収できると。

「直進する攻撃など、避けるに容易い!!クキャッ!!茶番として付き合ったが戯言にも及ばん!!」
「茶番…」
「わかる攻撃を受け、解ける縄で縛られ、倒せる相手に付き合う。コレを茶番と言わずなんと言う!!遊戯とでも名付けるかァ!?クキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!」

 灰色のアンヘルが崩れて、地面に赤黒い触手が散らばる。
 ダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ。諦めるな。思考を止めるな。
 私は彼を救う為に戦っているのだから。アンヘルに勝てなければ…勝たなくては!!

「まぁいい。少し時間を掛け過ぎた。遊びすぎたか。我もまた子供か…ケヒッ」
「え、キャァ!?」
「フェイトちゃ、キャァ!!」

 足に触手が巻きつけられ地面に叩きつけられる。
 咄嗟にはやては投げたが、どうやら無駄だったらしい。
 四肢を触手で縛られ、身体に赤黒いソレが這っていく。蛇の様に、ゆっくりと。

 ぐじゅり、ぐじゅりと水気を多く含んだ音が耳を刺激して、体を這う。

「さぁ、食事をしよう。暴れても構わんぞ。踊り食い、というわけではないが、苦しむ姿を見るのは好ましい」
「あ、アァ……」
「はやて!!」

 動こうとしても動けない。動きが制限されている。
 行動できない。選択肢を全て潰された。私達に、為す術は、ない。

「さぁ!!我に喰われろ!!そして、宿主と共に消えてしまえ!!」



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