小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「ふざけんな!!」
―ふざけて言える内容ではないさ
「……夕…君?」
―おはよう、はやて
「夕君、やっぱり、夕君やねんな?」
―俺以外に聞こえるのか?耳鼻科に行くことを薦めよう。花粉症は気をつけろよ
「うん、ユウだね」

 何かを納得するようにフェイトは溜め息を吐いて。はやては息を飲む。

「そんなん…夕君を殺せやなんて」
―俺にお前たちを殺させないでくれ
「そんなん…そんなんないわ」
「ユウ…他に…他に方法はないの?」
―うん。無理だな

 きっぱりとアイツはそう言った。
 まるで自分の中では全て解決しているように。自分だけ犠牲にして。

―まぁ俺の命一つで世界が守れるなら、いいだろ
「よくない!!私は!!私は…」
―はやて、それ以上言ってくれるな。せっかく断ち切った事が無駄になるだろう?
「やっぱり…やっぱり、夕君はアホや…アホォ……」
「御影。オレはどうすればいい?」
―黙って殺されてた訳じゃないか…ふむ
「煽るなよ」
―すまんな。正直、そこの二人は戦力にならないと思ってくれ。アンヘルにリンカーコアを吸収されすぎてる

 チラリとフェイトを見れば、コクリと頷いた。

―後はどうにか俺がコイツの動きを止めるから
「宿主ガァァァッァアアアアアアアアアアアアア!!」

 途端の怒号。
 触手が膨れ上がり、そして破裂する。
 肩で息をするように揺れた影。立っていたのは赤黒い長髪を揺らし、同色のマントを羽織った褐色の男。

「クハッ!!喰った!!これで我が我だ!!もう既に邪魔をする者は居らん!!」
「わかったよ…」

 オレは空に武器を顕す。
 コレが、アイツの願いだというなら、オレが叶えよう。叶えてやろう。

「ククク、クキャキャ、クキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!それでどうするというのかね!!」
「こうするのんだよ」

 腕を振るい、幾つかの武器をアンヘルに降らす。
 止めどなく、休むことなく、降り注ぐ。

「フェイト、安全な所にいてくれ」
「……大丈夫なの?」
「正直な話、微妙だと思う」
「なら私らもおった方が!!」
「もしも、オレが負けたりしたら、お前らが次に狙われるんだ……アイツにお前たちを殺させてやらないでくれ」

 その一言に驚いたのか、二人はオレを凝視する。

「ホンマに、ライト君なんか?」
「お前らもか」
「だって、なんか、違うよ?」
「まぁ何回も殺されてれば、こうなるよ」

 我ながら酷い言い方だ。しかし、事実でもある。思わず苦笑してしまう。
 フェイト達がなのはの方に向かったと同時に剣射をやめる。

「どうせ、生きてるんだろ」
「キシッ!!どうやら貴様は我がどうかわかっているようだな!!」
「いや、まったくもって、わからん」

 当然だ。オレはそこまで高度な解析魔法を所持してないし、コイツに関する知識もない。
 でもわかる。コイツは今ココで、オレが殺さなくてはいけない。
 オレが……殺す……?

「今更、上の空とは余裕じゃないか!!」
「ッ!?」

 咄嗟に腕を上げて防御する。
 しかし魔法で作ったモノは壊されて腕に直接衝撃が加わる。
 そのまま地面に一直線に落とされて、叩きつけられる。

「ふむ、地面と自身の間に防御陣か…」
「生憎と、咄嗟の出来事には対応出来るように調教されててな」

 腕の状態を確認する。手は動く。指も問題なし。大丈夫だ。
 コイツを倒す事は、おそらく可能だ。アイツが力を貸してくれる。それは、まぁいい。

「また考え事か!!我を相手にしているというのに!!余裕じゃないか!!」
「クッ」

 剣を取り出して、アンヘルの腕を防ぐ。防いだ直後に弾き、大きく横に移動する。
 ダメだ、アイツの腕は触手なんだからマトモに受けたら飲み込まれる。
 あの移動方法は御影の技だ。

「ほぅ・・・ならば!!これならどうだ!!」

 銀色のナイフの中に幾つかの赤黒いナイフが見える。剣を振るい、全て墜とす。
 コレもアイツの攻撃方法だ。
 全部、今しがた受け流した攻撃も全てアイツの攻撃だったモノだ。 
 アイツがオレに教えてくれた、攻撃だ。


 何にせよ、オレがアイツを殺してしまう事に変わりは、ない。
 オレがアイツをコロス?あの日のように?
 違う、あの日の様な事は出来ない。出来ないからこそ、オレの手で、直接殺さなくてはいけない。

「また考え事かぁ!!」
「……いや、そうだな」

 そうだ。難しい事は、後で考えよう。それでいい。そうしないといけない。
 オレの精神がどうにかなろうが、知ったことか。オレはアイツの願いを叶えてやらないといけない。何度も殺して、何度も教えてくれた、アイツの願いを……。

「行くぞ…夕」

―あぁ、来い阿呆

 頭の中にそんな声が聞こえた気がした。
 気がしただけで気のせいかもしれない。しれないけれど、オレの背中を押すには十分な幻聴だった。

 剣を滞空させて、一本だけ抜きとる。
 幾千とも言える武器達を召喚して、アイツに向けて乱雑に飛ばす。

「ハーッハッハッハッハッハッ!!甘い!!この程度で我は殺せんぞ!!」
「わかってるよ…」

 グッと足に力を込めて、武器の嵐の中に突っ込む。
 同じ進行方向ながら、斧がオレの肩を裂き、槍が顔の横を通過する。

「なんだと!?」
「お前が…夕を騙るなぁぁぁぁぁああああああ
!!」
「その程度のこうげ、クッ!?動けない!?」

 アイツの動きが固まる。
 更に足に力を込めて更に速度を上げる。
 構えた剣がアイツの胸に向く。
 オレの中に一瞬だけ迷いが、躊躇が生まれる。

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああ」

 ソレを払拭するように、オレは叫ぶ。
 恐怖も、悲しみも、全部捨てる様に、ただ、叫んで、腕を前に突き出す。

 少しだけの抵抗のあと、ズブリと素直に剣が進む。
 温かい液体がオレの手を伝い、密着した身体がヤケに温かい。

「貴様……よう、やってく…お前は、もう消えろ、アンヘル」
「夕!?」

 剣から手を離して、コイツの身体を支える。
 ずり落ちたコイツをどうにかしたい、でもオレにはどうすることも出来ない。
 ゴフリ、と夕の口から真っ赤な液体が溢れる。

「ゴホッ…ガハッ」
「大丈夫かよ!?」
「見てわかれ、阿呆め……」

 そうだ、オレがやったことだ。オレが、コイツを殺した。殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。

「叫びたい気持ちはわかるが…最期くらい、静かに逝かせてくれ……」
「ぁ…ぁあ……お、お前が死んだら!!はやて達はどうするんだよ!!」
「俺より強い、お前がいるだろう……守れるさ……」
「無理だ…オレには、まだ、だから、お前も」
「俺は、無理だ。もう遅い…ずーっと、願われてたんだ」
「願われて……た…」
「今日も曇りか……アイツ等が好みそうな空だ…」
「空は晴れてるよ…快晴だよ…」
「そうか…?まぁいいさ……ようやく、俺の罪が消える…」
「待てよ!!死ぬなよ!!おい!!」
「静かに逝かせろと……いや、お前には無理か…?」

 夕は苦笑して、右手でオレの頬を撫でる。
 濡れているのは、アイツの血なのか…それとも、オレから流れている水が原因なのか。

「まぁ…いいさ……ライト…」
「なんだよ……!!」
「ありがとう……ありが……」

 右手が、地面にぽとりと着いた。
 その手を握りしめて、地面に広がる赤い泥も気にすることもない。

「ホントに…嘘だよな?嘘なんだろ?」

 アイツは応えない。
 応えれる訳が無い。
 冷たくなっていくアイツの身体。
 オレの目が熱くなる。意味もなく、熱くなっていく。

「ゆうぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」


 オレは、罪を背負う。ずっと降ろす事もない罪を背負う。



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