「……」
転移して戻ってきたアースラ。転移した直後にライトは視線を下に向けて、自分の部屋に逃げるように走っていった。
気絶していたなのはは医務室にいるし。
ユウと仲が良かった、といっていい私達は心の何処かにぽっかりと…いや、かなり大きな穴があいていた。
「お疲れ様、フェイト」
「アリシア…」
「うん、とりあえずは、お疲れ様」
何か言おうとした私の口を塞ぎ、アリシアはそう言って私を迎えた。
「はやても、お疲れ様」
「……うん」
はやては元気も何もなく、心が何処かに飛んで言ったように答えた。
他の管理局の人が、ユウを持ってきてくれるらしくて、先ほどまで私達が乗っていた場所をジッと見つめているはやて。
「アリシア…」
「ん〜?」
「私やアリシアと同じ様に、ユウを蘇らせる事とか」
「出来ない事はないけど」
「ホンマか!?」
「犯罪よ。しかもギリギリアウトどころの話じゃなくて、真っ黒ね」
「それでも、そうしたら夕君が」
「あのね、はやて。アイツがそんな事をさせるためにはやて達を逃がしたっていうの?」
「アリシアちゃんにはわからへんやろ!!」
「分かりたくないわね!!ユウちゃんの気持ちを一切考えない自分勝手な夜天の王様の気持ちなんか分かりたくもない!!」
「あ、アリシア」
「これやから研究者如きは!!」
「あら、その研究者の研究を頼りにする夜天の王様はなんだって言うの!?」
「言うたな!!」
「何回だって言ってやるわよ!!夜天の王様は二度も命を救ってくれた人間を自分の為の人形にしたいド外道だって!!」
「ッ…」
はやては息を飲んで、走り去る。
たぶん、今日はココに泊まるだろう……地球との距離も遠い。
「アリシア…どうして…」
「私が蘇った時、色々話を聞いたわ。ユウちゃんのした事も、今になってあの研究資料を見返す事もある……。
アレは人間が二日三日で出来る作業じゃないのよ。それこそ母さんでさえ、何年も掛かって出来たのは私じゃなくて、フェイトよ?」
「……」
「…ごめん」
「いいよ、大丈夫だから」
平静だと想っていたアリシアも、今はかなり混乱している。
彼を蘇らせれない、そう言ったのは、たぶん私達の不足だ。できるのなら、アリシアは自分を犠牲にしている筈だ。それこそ、ユウが死んですぐに思考実験を繰り返してしまうほどに彼を想っていた。
だからこそ、彼を救えない事を誰よりも知っている。
「んーおんやぁ、アリシアさん。わざわざ出迎えとは…ついにうちの子になることを決心してくれましたか」
「黙れ。お母さんに言うわよ」
「プレシアさんには、ちょっと…」
そういって言い淀むのは白衣を着た男性。
その手には少し大きめの瓶が握られている。
中には朱い光が内包されていて、よく見れば幾重にも魔法陣が重なっている。
「それは…」
「『名も知らぬ』のお土産です。本局のクズに渡すよりも、アリシアさんに」
「よこしなさい」
ひったくる様に瓶を奪い、アリシアはソレを色んな角度から見る。
「開かない…また解析から始めないといけないの?」
「そのようです。本局に渡したところで、開けれないので」
「そう……ありがとう」
「いえいえ。では私は帰ります。まだ少し残業が残っているので」
クスクスと笑って白衣の男性はまた転移陣に乗り、光に包まれ、消えた。
「フェイト…明日までには、これ、解くから」
「う、うん」
そういってアリシアは研究室に向かって歩き出した。
私は、まだココに立っている。たった独りで、ユウを待ち続けている。
数分程して、ユウを抱えたクロノが帰ってきた。
クロノは私に触れる事を許さず、無表情で…いや、少しだけ悲しい顔をしてツカツカ歩き、ベッドしかない部屋に彼を寝かせた。
「彼の…親御さんは?」
「いないよ…そうユウが言ってた」
「そうか…」
そして言葉が止まる。
ダメだ、まだ実感が湧かない。本当に彼は死んだのだろうか。
本当に?本当に彼はいなくなってしまったの?
「クロノ……触って、いいかな?」
「……少し席を外そう」
「…ありがとう」
クロノが立ち去り、私はようやくユウに触れる。
冷たい肌をさすって、もしかしたら、と一抹の希望に掛けてしまう。
もしかしたら、瞼を上げて、また気だるそうに、私を叱ってくれるかもしれない。
私の存在を確かめさせてくれるかもしれない。私を私と最初に認めてくれた存在が、私が、私が。
「……少し、泣いても…怒らないよね?」
ユウは応えない。きっと、ソレは肯定なんだろう。
私は、ようやく、彼を受け止めることが出来た。
「おはよう、アリシア」
「おはよう、フェイト」
翌日となり、私達はアリシアに呼び出された。
もちろん、彼を殺したライトもこの場にいるし、気絶していたなのはもココにいる。
「あぁ……アリシアちゃん、昨日は」
「いいわよ。私もはやてを焚き付けたし…まぁ一通り感情を出したら元気も出たでしょ」
申し訳なさそうに喋るはやてに、気にしてないように喋るアリシア。
そんなアリシアの手には昨日の瓶が握られている。
「アリシア…それ」
「うん。昨日の、だね」
「…一応、僕は忙しいんだが?」
「硬いこと言わないでよクロリン。ユーノンなんて何も言わずに連れてきたっていうのに文句の一つもないのよ?」
「…それは、彼が撃沈しているからじゃないのか?」
「……さて、話を進めるわ」
「ユーノは犠牲となったのか…」
「縁起でもない事いわないでよ!?ボクは犠牲になんてなってないよ!!」
飛び起きたユーノにみんなが少しだけ苦笑して、アリシアの方を向く。
「さて、じゃぁまずは説明するわね。コレの中身は映像記録ね」
「映像?」
「そう。映像記録以外にも色々と入ってるんだけど、大体は映像ね」
「以外ってのは?」
「知らないわよ。私も開いてないし」
アリシアがキーを叩いて、瓶の蓋が一人でに開く。
カランと床に蓋が落ちて、朱色の光が部屋を照らして壁に当たる。
「……夕君」
「夕…」
その壁に映ったのは、何故かかしこまった様に座るユウの姿だった。
『あー……撮れてるだろうか。まぁこういった魔法の行使は初めてな訳だ。音声が録れてなければ…笑い事だな』
そういって画面の彼は苦笑する。
『さて、こうして顔を合わせるのは幾年振りになるだろうか。もしくは昨日振りになるのだろうか。もっとも、俺には明日以降の出来事になるわけだが…まぁその辺りはどうでもいいさ。
俺自身の身体はよく理解しているからこそ、こうして映像を残す。
俺は、近い内に死ぬ事になる。どうやって死ぬかはわからんが…おそらく、アンヘルに取り込まれて死んでしまうだろう。
故に、遺言…というか、まぁ謝罪だな。後は少しのお願いの為にこの映像を記録する。
もしも、俺が死んでなけりゃ今すぐに映像を消してくれ。恥ずかしくて死ぬ。絶対死ぬから今すぐ映像を消してぇええええ!!
……まぁ消してないということは、死んでるんだろう。ちなみに、例に及ばず、この映像を一度みたら再度見ることはできないので注意な。
もちろん、ダビング等もできない筈だ。やったね!
さて、まずは謝罪からか。
おそらく、結構な人に迷惑を掛けて死んでると思う。まぁそれは別段どうでもいいんだけど。
切り捨ててしまった友人達には謝りきれない。が、言葉だけ送らさせてもらう。
すまない。
目の前で友達が死んでしまう事と、友達だった存在が死んでしまう事を天秤に掛けた結果だ。まぁお前さん方なら乗り越えれると思う。というか、乗り越えてくれ。
おそらく、この映像を見ている人間は魔法関係者だけだと思うから…すずかやバニングスさんにはテキトウに言い訳してくれ。遠い世界に旅立った、とでも言えばすずか辺りなら感づいてくれるさ。追求もしないはずだ。
そこまで好かれている人間だとは思ってないけれど、もしも、俺を殺した人間を殺してやるー、だとか思ってる奴がいたら、という前提で話す。
やめてくれ。ソレを俺は望んでない。
というか、俺は殺してくれた奴に感謝すらしてるよ。化け物になったけど、俺であることは変わらんし。
変に俺が世界を壊すだなんて想像もしたくない。
と、まぁ、そんな感じで、お前らに願う事は一つだけ。
俺を殺した人間を恨むな。
以上。
まぁ遺言らしい遺言はそれだけかな。
この映像に同梱している技術関連は、結構オーバーテクノロジーっぽいのもあるから、その辺はアリシアが上手く操作してくれてるとありがたい。
ムッツリとは…まぁアッチの世界でチェスでも指そう。次も俺が勝つけどな。
ユーノは胃に気を付けて。その若さで胃に痛みを覚える事が問題だけど…まぁ大丈夫だろう。
スメラギ君は、高町さんとお幸せに。
高町さんに関しては、あのバカをしっかりと見ていてほしい。間違えたら間違いっていってあげてくれ。
フェイト、結構助けられたよ。たぶん、お前とあってなけりゃここまで生きれなかったと思う。ありがとう
はやて……ごめんな。色々と言っちゃったが、はやてならどうにか乗り越えてると思う。俺を恨んでくれて構わない。で、十何年もしてお前の振った女はこんなにいい女になったぞ!!とでも俺の墓に言ってくれ。それだけで満足だわさ
さて、最期になるんだが、三人娘はきっといい女になるだろうから、しっかりとな。いい男でも捕まえてくれ。悪い男に捕まんなよ、とでも吠えておこう。
男ども?テメェらは悪い女に捕まって絞られてろ。
んー、他に言い残した事は
すっかり忘れてたわ。これでホントに最後な。これ言っとかないと締まらないし。
では、皆の衆、よく聞きたまえ。
あぁ、神様お願いします。
我が友人達の人生にささやかなる幸福を。
では、死んだ時にでも会おう。酒もってこいよー』
そこで映像は切れた。
切れてから、全員がポカンとしている。色々言われすぎて脳がついていかない。
「は、ハハ……」
はやてが笑いだす。
目から涙を流して、でも顔を無理に笑顔に変えて。
「わかった、わかった…言わせたろ、ぎゃふんって言わせたるで…アホぉ……あほぉ…」
そんなはやての声が部屋に静かに響いて、この事件は幕を閉じた。
後に、『英雄誕事件』と言われる御伽噺のような、優しすぎる化け物と、何も知らない英雄の卵の事件が。
幕を、閉じた。
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〜バッドエンド?
そんなこんなで、ここで終了です。
あぁ、わかります。わかりますとも、色々言われる事は既にわかりきってます。
ユウは死んで、ライト君は英雄として生かされ続けます。いやぁ、友人を殺して生き続けてあまつさえその功績で英雄と謂われ続ける彼は正常な神経で生きれるんでしょうかね?
ともあれ、当初の予定していた文章はココで完結いたしました。
最後の追い上げがががががggggg。
〜あぁ神様お願いします。
この小説のタイトルをこうして使うのは、実際は二度目になります。一度目は今は亡きにじファンにて最後の投稿でしてました。
〜読者にお疲れ
色々と言われて、どうにか完結までこぎ着けました。
読んでくださった方には感謝してもしきれないです。特に指摘してくださった方には本当に感謝してます。
読みにくいと言われて結局直せませんでしたが…まぁすいません。これに関しては何も言えないんですよ
〜次話…だと?
一応、ユウの気持ちとか、どうして行動を起こしたか、アンヘルに関して、とかまぁどうでもいい内容のネタを次のページに裏ローグとして書いてます。良ければそちらもお読みください。
半年間お疲れ様でした。