少し前までは珍しくなく、今では珍しい事に私は一人の帰り道を歩いている。
学校にて、はやてちゃんから聞いた言葉を否定している。
『夕君は……遠い世界に行ったよ』
そう、一言。とても辛い顔で言われた一言に、私は追求なんて出来なくて、何処かで納得してしまっている。
彼が私達を切り離した時点で、なんとなく予想がついていた。
私としては、彼に誘われて、一緒に…なんて思った。思って、彼が誘ってくれるのを待っていた、だからこそ切り離された時に何も言わなかった。
ため息が、こぼれた。
アチラ…悲痛な顔をしていた人間関係を思い出せば、魔法関係の人だけだったから、おそらく彼はその為に“遠い世界”に行くことを望んだ。
ソレも、早急に動かなくてはいけない程…いや、違うな。違う。
私が彼ならば、早急に動かなくてはいけない事になる前に、解決している。彼なら出来た筈だ。
なら、どうして彼は急に私達を切り離したのか。
考えても答えは出ない。出たとしても、それが当たりとは思えない。
彼が急に遠くの世界に逝った理由は、もう、私が知ることはない。
「そう……思うんだ。ねぇ、皇君」
「……」
ずっと私の少し後ろを着いてきた彼に、ようやく振り返れる。私の中で、一つの過程が、ソレを禁止していたのだけれど。
はやてちゃん達よりも悲痛な顔をしていた彼。彼はどうしてそんな顔になる?私の知っている関係では、絶対と言って言いほどありえない。
つまり、仲を取り持つ何か、或いは“遠い世界”に逝った理由の一端を彼が持っている。
「…すまねぇ」
「どうして謝るの?理由を言わないとわからないよ」
「……夕は死んだ。オレが、殺したんだ」
ほら。
やっぱりそうだ。
私の中のナニかがぞわりと背中を撫でる。
小さく、でも確実に私の脳に語りかける。
コロセ、コロセ、コロセ。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
彼を想え。彼に成りきれ。彼の思考に近くなれ。
「謝っても…謝っても許してもらえないかもしれない。でも、ゴメン!!」
「…………頭をあげて」
「……ッ」
皇君の息を飲む音が聞こえた。
あぁ、それほど怖い顔になっていたか。溜め息を吐いて、顔に笑顔を貼り付ける。
「それで、アナタはどうされたいの?」
「どう……って?」
「私は彼が死んだ事をはやてちゃんから聞いています。その場にアナタはいました。もちろん、濁して、というか、彼が濁して言うように言ったんだと思う。
でも、アナタは今、ココで私に告白しました。彼を殺したと。アナタは何を思って、言ったんですか?」
「何を……」
「アナタの思考を当てましょう。
一つ、私に許して欲しかった。
一つ、申し訳ない気持ちがあった。
一つ、誰かに怒られたかった。
一つ。誰かに許してもらいたかった」
「ッ……」
「仕方なかったよ。
アナタは正しい事をしたわ。
化け物退治だから仕方ないじゃない。
さすが、皇君だね。
そんな言葉が、欲しかったんでしょ?あげるよ?今なら、全部言ってあげるよ?」
「やめてくれ…やめてくれ……」
「……もしくは、殺されたかったのかな?彼の様に、誰かに殺される事で許されたかったの?」
私は皇君に近づいて、目の前で止まる。
腕を振り上げて、力を込める。
「応えてよ。皇君。アナタはどうされたいの?」
「オレは……オレは…
死にたい」
私はその一言を聞いて、腕を振り下ろした。
振り下ろして、彼の肩に手を置いた。
「私はアナタを殺さない。絶対に」
置いた手に少しだけ力が入る。すぐに手をどけて大きく息を吐きだした。
「どうして…」
「どうして許したか…?許されてると思ってるの?」
「…いや、ごめん」
「…私はずっとアナタを許さない。許さないけど、手を出すこともない」
コレに殺された彼がソレを望む筈がない。
彼がどうしてコンナモノを遺して逝ったかは理解出来ないけれど。それが彼なのだろう。
「……もし、もしもアイツが生き返れるってわかったら」
「どうもしないよ…」
「でも!!」
「ソレは、確実にゆぅ君なのかな?ゆぅ君がもし生き返ったとして、それで、どうしたいの?」
「どうって……アイツが生き返ったら、」
「また、殺すの?」
「殺さない!!絶対に」
「どうして彼を殺したか、詳しく私が知ることはない。でも、ゆぅ君の気持ちはある程度わかってるつもり」
「……」
「ねぇ、皇君。安心していいよ。皆が忘れても、皆が許しても、私がずっと恨んであげるから」
その一言を聞いて、皇君は暗い顔をして帰っていった。
背中が見えなくなってから、溜め息を吐く。
「これで……いいのかな?」
おそらく彼がいるであろう所を見上げて、私は呟く。彼なら、こうする。彼なら、こうしてほしい筈だ。
すぐに逝くと怒られそうだし、綺麗になってから、自分に自信がついたら、彼を落としにいこう。
そして目一杯、甘えて、怒って、甘えさせてあげよう。
「こうでも考えないと、すぐに怒られそうだなぁ」
誰もいない筈の空に呟いて、私は苦笑した。