小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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書く事を、強いられているんだ!!
誰に?私にですよ



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 トスン、トスン、トスン。
 一定のタイミングで身体が揺れる。

 まるで鉛が溶接されたように重い瞼をどうにか開けると、ボンヤリと、しかし、確実に9割方の視界を埋める桃色。
 どうやら眠っていたらしい。どうりで身体が重い訳だ。

「ん?起きたか」
「……シグ、なむ?」
「あぁ、私だ」

 未だに思考がうまく纏まらない頭を必死で動かして、なにが あったかを思い出す。
 スメラギの御蔭で面倒な事になって、保険医に俺の状況がバレそうになった。そして、俺は今背負われてる。誰に?シグナムに。

「しかし、私を呼ぶとはな」
「……お前なら、気を使わない」
「親戚とは、似ても似つかないさ」
「似てるなら姉として召喚したさ」
「そうか。なら眼鏡でも付けて黒髪にしてこればよかったか?」
「眼鏡で巨乳とはわかってるな」
「落とすぞ?」
「忘れてくれ」

 思考が纏まらない。
 どうも、ダメだ。分割されている思考が殆んど落ちている。正常に起動している思考も、俺に向かって呪詛の言葉を吐き出すだけの彼らだ。

「これで貸し1だ」
「……貸し借り無しだろう」
「助けられて借り1。今で貸し1」
「ゼロじゃないか」
「保険医から怒られた、誰の所為だと思ってる」
「ざまぁ」
「レヴァンティン」
「借り1で」

 怒りっぽいのもどうかと思う。
 溜め息を吐かれて、態勢を立て直される為に身体を大きく揺すられる。

「あぁ、俺の部屋に向かってくれ。くれぐれも八神家に連れて行くなよ?」
「む?どうしてだ?」
「はやてに心配を掛けるだろう」
「……お前はつくづく、阿呆だな」
「お前は脳に向かう栄養が、いや、なんでもない」
「このままお前を投げ出す事も辞さない」
「やめてくれ」

 少しだけ彼女の首辺りに回している手を締める。当然、シグナムが苦しむような事のない強さで。

「む?」
「スマン、苦しかったか?」
「いや、ふむ……」
「?」

 何故か歩く足を少しだけ遅くしたシグナムを訝しげに思ったが、まぁどうでもいい。今はこの微妙に両腕に当たる弾力を楽しむ事に意識を注ごう。

「少し、寝る…」
「あぁ、そうしろ」

 もちろん、俺が落とす事はない。そんな勿体ない事、俺には出来ない。
 下に少し力を込めれば、抵抗する弾力。もうコレは流石と言わざるを得ない。もう全てを救う為に存在してるんじゃね?もうコレさえあれば世界壊せるんじゃね?世界はおっぱいでできてるんだ。いなおっぱいは世界なんだ。つまりだ、巨乳はおっぱいで、おっぱいは世界な訳で、巨乳は世界だ。うっひゃいこれ最強な理論じゃね?俺って今最高に頭回転してね?ヤッベーは、チョーヤッベェーわー。



 ……寝よう。うん。














 いくらか時間が経ち、意識が薄らと残ったまま瞼を閉じていた。 

「…眠っているか」
「いや……起きた」
「そうか。着いたぞ」

 目の前にはいつもの扉。
 当然の事ながら閉じられている扉にシグナムは手を伸ばして、当たり前の様に開く。
 ……あれ?鍵締めたよな?

「おかえりなさい」
「あぁ、布団は…」
「あの部屋にあるわ」

 ぼんやりと開いた瞼から見える金色。
 声からしてシャマルなのだろう…。空間解析は情報を得すぎるから、今の状態で使用したら、たぶん死ねる。

「また、無理をしてるのね」
「……グー」
「寝たな」
「起きなさい。説教は始まったばかりよ」
「スイマセン、ごめんなさい。個人的には大丈夫だと思ってたんです」
「落ち着け、シャマル」
「リインフォース、ダメよ。この子、言わないと止まらないもの」
「言っても止まらないだろう?」
「……はぁ、そうだったわ…」
「病人に対して理不尽な話だな」
「病人なら病人らしく寝ておけ、という話だ。ツキビト」
「残念、かぐや姫でも無いさ。兎は餅でも()いてろよ」
「ほぅ、死にたいんだな?」
「リインフォース?」
「……すまない」
「ハッハッ、ざまぁ」
「ユウ君?」
「シグナム、布団の前に行ってくれ。俺が逝く前に頼む」

 溜め息を吐き出され、シグナムが襖を開き、更に大きく息を吐かれた。

「本はどうにか出来ないのか?」
「これでも選別して置いてるんだがな」
「……つまり?」
「隣の部屋は見ない方がいい」
「わかった、開けないでおこう」

 再度、溜め息を大きく吐かれて布団に横にされる。
 シャマルに呼ばれて部屋を出たシグナムに変わり、『夜天の』が入ってくる。

「……ツキビトよ」
「なんだ、『夜天の』」
「……お前は、どこまで触れている?」
「…………侵食の事か」
「私の中に入って来た時、主の大切な人という理由でお前の異常を伝えなかったが……」
「……もって六年程だ」
「……」

 スっと、左手を触られる。
 当然の事ながら、擬態魔法を行使しているので、そこにアンヘルは無い。触れられた所で、分かりはしない。

「お前は、まだ知らないのだな」
「……何をだ?」
「ソレは自身で知ることだ」
「……そうかい」

 少しだけ悲しそうな瞳を向けられたが、すぐにいつもの無表情に戻った『夜天の』。
 これの事を知らない?一応は知っているつもりだ。外部から得た知識だが…。
 コレ自身が魔力を吸収する御蔭で深い解析は出来ない。精々表層にある魔力やアレらの気持ちだけだ。
 否定する。俺はアンヘルの事を深く知ることをしていない。性能や、歴史は知っている、と思っているだけだ。
 いや、考えすぎだろうか?ともあれ、分割思考がほぼ落ちている中、思考するのは億劫だ……。

「少しだけ、寝る」
「あぁ、そうしろ。主が心配する」
「それは、嫌だな」
「では、眠っていろ」

 『夜天の』が手を伸ばし俺の瞼にかぶせる。
 暗くなる視界。体から力が抜ける。
 徐々に思考が遠のき、瞼からひんやりと冷たい感覚が伝わり、同時に身体がふんわりと軽く、しかし重くなる。
 重くなり、意識が落ち着き、スー、っと何かが引いていく。













◆◆



 辺りは暗闇……いや、まるで子供の落書きの様に鉛筆でグチャグチャと塗りつぶされていた。

 そんな中立っている俺は人型の白い布の塊だった。立っている事が不安で。まるで全てを否定されているような場所。

 顔を塗りつぶされたツギハギの人間がこちらを指差す。
 地面から這い出て来た黒く、グチャグチャに塗りつぶされた人型がコチラに手らしきモノを向ける。
 グチャグチャに塗りつぶされた地面から、一つ、また一つと人型が増えて、片手で数えれた人型は既に両手でも数えれなくなり、グチャグチャに塗りつぶされていた場所が全て人型だと理解した時には自身も塗り潰されそうになっていた。

 左手は既にグチャグチャと黒く

 右手もグチャグチャと黒く

 左脚も、右足も

 下半身が全て塗りつぶされて、

 腹部から黒い塊が華を咲かすように、白い布で出来た腹を突き破り

 胸に向かう様に黒い線が昇る

 俺は抵抗しなかった。
 抵抗する意味がないのだ。抵抗する権利が俺にはない。
 俺は彼らに否定されるべきだ。
 俺は彼女に否定されるだろう。
 俺は彼らに肯定されてはいけない。
 俺は彼女に肯定されないだろう。

 黒い線が顔を包みこんでいく。
 視界には黒い空間。
 これで、全てが終わる。

 そんな空間の中、ポッカリと小さく白い穴が見えた。
 黒い線達に混ざることも無く、ただソコに在る白い存在。
 誰でもない。誰かわからない。そんな白い存在は、口らしきモノを開く。
 真っ赤に開いた逆三角の口。何かを言っている。
 わからない。

 わからない。

 わからない。

 でも、どうしてだろうか。

 俺はその白い空間に、黒く塗りつぶされた左手を伸ばした。






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〜「ツキビト」
〜「かぐや姫じゃねぇよ。兎は餅でも()いてろよ」
 ツキビトの変換を月人に。月関連でリインフォースの目と髪色から

〜隣の部屋は見ないほうがいい
 つまり、そういう事だ

〜眠りに着くまでの感覚とか
 実際は、だるい身体→リインの冷たい手の感触→睡魔。の順なのですが、夕君の状態だと睡魔→思考が切れていく→温感復帰により冷たい手みたいな感じになってます

〜白い空間に手を伸ばす
 救済、ではないです。蒔いた種がようやく芽吹いた程度です

 

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