小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「……ッ」

 目を覚ました。
 正確には、誰かが俺の手を掴んだから起きたのかもしれないが、ともかくとして、俺は目を覚ました。
 ヤケに重い瞼をゆっくりと上げて、ぼんやりとした視界に明かりが差し込む。
‐コレが世界か
‐目がァ!!目がァ!!
‐バルス
 ワロス。
 思考は絶好調だった。どの意味であっても、絶好調だった。
 最悪である。

「…大丈夫?」
「……ァー、そうだな、左手が少し冷たい程度で、他はポカポカと温かいよ」
「……私は、両手が少し熱いかな」
「ソレはいけない。自分の耳たぶでも触ってなさいな」
「そこも、少し熱いんだ」
「そうかい……ァー、質問しても?」
「答えは知ってるでしょ?」
「ヤー、知ってると思ってる。思ってるさ。でも質問させてくれ。どうしてすずかがココに?」
「夜這い」
「あぁ、知ってた、知ってたさ。知って……聞き間違いか?」
「聞き間違いです」
「それも知ってたさ」

 夜這いと見舞いを聞き間違えるだなんて、我ながらハッピーな頭をしている。
‐おっぱい魔人の事を言えんな
‐ノー、おっぱい魔人の頭の中には首塚が並んでるんだ
‐自身の中には花畑か?
‐クソ喰らえ
‐墓でも数えてな
 カット。薙刀の数なんてゼロさ。刺さっても無い。

「やっぱり、無理してたんだ」
「そう見えたか?無理なんてしてなかったさ」
「シャマルさんに言えばいいのかな?」
「ァー、ソレはやめてくれ。それこそ無理になる」

 どうやら完全に意識が落ちていたようで、彼女が手にとっている左手に肌色が見えない。
‐擬態魔法行使
‐空間解析行使
‐見舞い客の確認
‐いつものメンバーか
 左手が肌色に変わって、少しだけ満足する。
 同時に溜め息が聞こえた。

「……魔法で、隠してたんだね」
「便利だろう?今なら希代の魔術師にでも成れそうだ」
「モノクルでも付けて?」
「白いタキシードにシルクハットも忘れずにな」
「探偵役は誰になるんだろ?皇君かなぁ?」
「おや、怪盗側の勝ちが決まってるじゃないか」
「じゃぁ探偵はアリサちゃんで」
「なら、タキシードの上着を振ることにするよ」

 お互い少しだけ笑う。当然の事ながら、未だにボンヤリとしている思考の御蔭で空間解析が正しく行使されていない。精々自宅だけだ。
 どうしようもなく、身体が重い。いつの間にリアルな世界でも鉛を付けられる様になったのか。
‐順当
‐順当
‐当然の結果だ
‐ロリコンは不治の病
 カット。

「じゃぁ、私はみんなに知らせてくるね?」
「ァー、頼む。ついでに静かに頼む」
「手話はまだ覚えてないんだ」
「なら針と糸を頼む」
「どうして?」
「わかるだろ?」
「ならわかってるよね?」
「あぁ、騒がしいのがくる事はな」

 また少し苦笑されて引き戸を彼女は開けて、そのまま出て行った。
‐アレは誰だった?
‐白い存在は?
‐黒い世界は?
‐子供特有の心象世界か?
 俺も、子供と言える年齢か?いや、年齢は子供だったな。
 とにかく、意味が分からない夢の話は後で考えよう。今は意味の分からない彼らに関して考えよう。
 怠い身体を無理やり起こして、本の塔を杖に立ち上がる。立ち上がって、少しだけ寒気を覚えて、溜め息。
 そのまま引き戸に手を掛けて、なるべく素早く開いた。開いて、カラフルな頭が沢山並んだ周りを少し見てから、小さく息を吸った。

「テメェら。うるさくするんだったら、今すぐソコの窓から飛び降りろ。俺じゃなくて閻魔様にその言葉を聞いてもらえ。ユーコピー?」

 当然、返事はなかった。
 返事をしたらこの部屋から追い出してたね。あぁ、当然だ。当然さ。

 数度頷かれて、満足した俺は本の塔が立つ世界に戻る。塔達の間には祭壇があって、ソコで主が眠るのだ。
‐生贄の間違いだな
‐細断されるんだろ?
 密室のロジックは組めねぇよ。
 少しだけ溜め息を吐いてから、布団に倒れこむ。どうやら結構限界だったらしい。何もかもが億劫で、面倒だ。
 特に引き戸から覗く沢山の視線に構う事とか、最悪に最高だ。

「……ぁー、なんだ?」
「いや、辛いんやったら寝てもええんよ?」
「あれか、人の寝顔を観察するそんな趣味でも持ってんのか?変態め」
「失礼なやっちゃな……すずかちゃんと一緒にせんといて」
「え?」
「えッ」
「おい」

 ソコは黙っておくのが美徳だろう。いや、まぁ怖いモノに触れたくないだけだが。

「ユウ、大丈夫なの?」
「大丈夫だ、問題か?」
「ユウちゃんだから、問題だね」
「何か欲しいモノとか無い?」
「ないね。今は全部揃ってるよ」
「フフー、意味のわかる人間がいないと思うてか!!」
「本はいっぱいあるもんね」
「お前の妹がわかってない側だ」
「おぅ、シット」
「え?」
「確かにお前って本好きだもんな」
「俺としてはお前がココに居る事を小一時間問い詰めたいところなんだが?」
「お前、親が居ないってホントの事か?」

 わぁい。このタイミングで聞かれるんですね。
‐さっすがスメラギ!!
‐俺たちに出来ない事をやってのける!!
‐ズキュゥゥゥン
 カット。

「お前に関係はないだろう?」
「あるだろ!!嘘なんてつくんじゃねぇよ!!親戚の姉が居る癖に!!」
「…いや、まぁ、色々ツッコミどころが満載な訳だが、とりあえず、喚くな。一応コレでも病人だ」
「……わかったよ」
「でも、私達もちゃんと説明してほしいな」

 高町さんがコチラを見ている。それはもう、こっちが目を逸らしたくなるような真っ直ぐな瞳で。
 本当に、高町家は苦手だ。こうやって人の心に土足でバタバタバタバタと。
‐欧米か?
‐ピーチパイでも食べるかい?
‐クレアァァァァァ!!
 カット。

「……ァー、簡単な説明とクソ面倒な程長ったらしく、それこそ映画を三部作も出来る程度に俺の過去を長く語る説明とどっちがいい?」
「簡単な方で頼む」
「親が死んで、今に至る。以上」
「短すぎるだろ!!」
「お前が短い方がいいって言ったんだろ?文句を言うなよ」
「なら、長いほうだ!!長い事語ってみろよ!!」
「そうだな、アレは我らの父デウス様がご降臨された時代の話だった」
「ちょい待たんかい!!アンタは何処から語る気や!!」
「最初から騙る気だったが?」
「あぁ!!なんやこの歯車の噛み合ってない感じは!!」
「まぁ落ち着けよ『はや助』。コロッケでも食べるか?」
「いらないナリよ!!」
「冗談はやめろよ…こっちは本気なんだ」

 本気、本気だったのしても、何に本気なのか。
 まぁ至極どうでもいいことだ。それこそ、どうでもいい。

「バニングスさんも聞きたいのか?」
「私はどっちでもいいわよ。どうせアンタの口から聞けるんだし」
「まぁご尤もだ。なら今から語ろうとするかね」

 少しだけ溜め息を吐いて、先ほどまで倒れていた身体を起こす。コレでも病人だというのに。
‐それでも言うのだろう?
‐当然だ
 ともあれ、この部屋では少し小さい。というか座るスペースがない。
 俺が立ち上がったのを見て、理解してくれたのか、全員がリビングに移動する。

 ふと、このまま引き戸を閉めて眠れば幸せになれるかもしれない。
 と邪推な思いが湧いて出たが、箱にしまっておこう。

 リビング、というには物が少ない部屋に出て、手近の椅子に座る。ソファは当然の様に彼が占拠していた。
 ふと、後ろから毛布が掛けられた。紫色の彼女に軽く視線を合わせてから全体を見渡す。

「ふむ、カラフルだ」
「オイ」
「いや、スマン。思ったことが口にでる人間でね」

 桃色に金色が四つ、銀色二つに栗色二人、そして隣には紫があって、上を見ればチラホラと黒い線が見える。
 ともあれ、黒い瞳が二つほどこちらに向いている。ソレも結構黒い何ががこもった感じで。全くもって意味を理解してくない。

「さて、相変わらずの始まりになるんだが、何処から話そうか」
「親がいないって……本当か?」
「イエス。実親はいない…というか、捨てられてるから、俺」
「捨て…ッ!?」
「まぁ、落ち着け。その辺の詳しい説明は至極面倒なのだよ。子供が捨てられた、それだけだ」
「それだけって…アンタ、どこに住んでたのよ…」
「どこって言われると……うーん、どう説明すれば…。ソレが一般的に、日常的に起こる世界と言えば言いんだろうか?」
「どこのスラム街よ」
「まぁよく言えば、ゴミ捨て場だ。悪く言えば結婚、とか?」
「人生の墓場みたいに言わないでくれるかしら?」
「オーライ、ここにはまだ夢を見れる少女が居たようだ」
「少女達よ。バカ」
「コレは失礼、レディ」

 軽く頭を下げて、話を頭の中で纏める。

「まぁともかく、捨てられた俺が今ココに居るわけだ。あれ?話が終わったな」
「待てよ。親戚ってのは何なんだよ!!そんな場所で生まれてるお前が親戚なんて」
「親戚なら、ソコにいるだろ」
「……シグナム?」
「今回ご協力いただきました、烈火の騎士でございます」
「ノラんぞ?」
「そうかい」
「ちょっと待てよ!!どうしてシグナムとお前が親戚なんだよ!?」
「こんなの絶対おかしいよ!!」
「いや、ちゃんと説明してあげなさいよ」
「つまり、俺が嘘を吐いた訳だ」
「?」
「……ヘルプ!!高町さん!!」
「え?えーっと、つまり、御影君にはご両親がいなくて、シグナムさんとの親戚関係はないって事でいいのかな?」
「…なんでそんな嘘をつくんだよ」
「世間体の問題だ。俺を保健室に連れて行かなければそう言う問題にはならなかった訳だ」
「…………海外に親がいるってのは?」
「当然、嘘だ。というか、そんな子供を置いて海外に行く親ってどうよ?どこの資本家の子供ですか…」
「ソレは私に対するあてつけかしら?」
「コレは失礼、レディ」

 ココに居たようだ。
 というか、本当にお嬢様なんですね、バニングスさん。

「まぁバニングスさんがお嬢様だと気付いた所で話は終わりか?」
「というか、お前が学校に来なければそんな問題にはならなかったんだろ?」
「……まぁそうだな」
「どうして来たんだよ」
「変な心配をかけるだろ?」
「ふざけんな!!」
「至極まともな意見だと思ってるんだが……まぁいいさ」

 俺は立ち上がって、毛布をズルズルと引き摺りながら歩く。
 少しだけ意識が落ちてきた。

「少し寝るよ。見舞いには感謝を。親が心配するからサクサクおかえりなさいな」

 ワーギャー騒ぐ、一人を無視して俺は引き戸を閉めて、その閉めた引き戸にもたれ掛かる。
‐ふむ、限界だったか
 身体が重い。どうにか騙し騙しで喋れたが…。限界だ。まったく、心配をかけたくないのに、心配させるだなんて。

「…滑稽だな、まったく」

 少しだけ笑って、布団までズルズルと這って行くとしよう。




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〜墓の数
〜薙刀の数
 グレイブ→墓
 グレイブ→薙刀的な武器

〜モノクル
〜白いタキシードとシルクハット
 トランプ銃でも用意しようか

〜タキシードの上着を振る
 降参

〜さっすがスメラギ!!俺たちに出来ない事をやってのける!!
 ソコに痺れぬ!憧れぬゥ!!

〜欧米か?
 チェリーパイでも食べるかい?

〜ピーチパイ
〜クレアァァァ!!
 218回だったか…いや、まぁなんでもない

〜高町家
 悪い意味で書くと、人の心に土足で踏み入って相手に信頼させるのを天然でやってのける怪人達
 イイ意味で書くと、何故か心の内を話してしまうそんな存在。何事にも一生懸命と書けばいいのか

〜アトガキ
 今回の感想でまた高町家ネタで荒れそうです。仕方ないね。やめてください。私の力量不足だと何度言えば…
 英雄様?、あぁいい奴だったよ。今回は完全にアホキャラですね…いや、自分で考えない人間だから仕方ないのか。友達を想えるいい子供なんですけどね……いやぁ。

 少し、お休みをいただきました。感謝を。更新が遅れてしまった事に謝罪を。

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