小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「……ァ」

 目が覚めた。目が覚めたらしい。眠っていたのか。
 いや、意識はあった、しかし眠っていた。
 ぼやけた視界に映ったのは、深い色の人型。
 本を読みながら、俺の様子を確認している事はわかる。が、誰かは分からない。

「…ァ…さん?」

 彼女がこっちを向いた。
 ぼやけていた視界が一気にクリアに変わり、本を置いた女性を認識する。

「…なんだ、プレシアか」
「なんだ、とは随分な挨拶ね」
「イイ挨拶だろ?」
「易い挨拶ね」
「悪くなけりゃ、重畳」

‐ボヤけていた
‐もういないと言うのに
‐間違うなど
 本当に、昔にでも戻ったつもりか?
‐全部置き去りにして
‐全てを忘れて
‐総じて消え去るように
 カット。

「体調はどう?」
「悪いと思うか?」
「悪いでしょう?」
「なら聞くなよ。実際、喋るのも億劫だ」
「なら口は閉じてなさい」
「閉じてたら喋れないだろ?」
「口を閉じても喋れるわ」
「残念、声は遅れて聞こえてこない」

 本の隙間から見える窓は暗く、時間にすればもう夜と言っていい程の時間か。
‐生命反応四つ
‐双子もいるのか
‐出来ることなら添い寝とかだな
 カット。
 ふと、額に手を当てられる。

「熱は……下がってるわね」
「寝れば直る」
「寝ても治らなかったでしょう?」
「ならもう少し寝るさ」
「なら何か食べてからにしなさい」
「料理は、科学だ…てか?」
「アナタに特殊な反応が起きる料理を作ってもいいのよ?」

 それは、確実に死ねるな。

「まぁ少し待ってなさい。持ってくるわ」
「いや、リビングには行くよ」
「そう…まぁ無理そうなら寝てなさい」
「無理ではないさ」

 少しだけ重く感じる身体を無理やり起こして立ち上がる。
 寒気がする。
‐症状の確認
‐体に異常はなし
‐あれか生理現象か
 至極、どうでもいい。

「あ、起きたんだ」
「おはよう、ユウ」
「あぁ……」

 机に乗せられたサラダやら香り立つ夕食。
‐この二人が作ったのか…
 チラリとプレシアを確認しようとしたが、やめた。舌打ちが思いっきり聞こえたからだ。
‐それだけ悔しかったら自分で作れと
‐そのクセ、食べないと怒るんだろうなぁ
‐無理がある
 全くだ。

「これは…お前らが?」
「うん」
「ほとんどフェイトが作ったんだけどねー」
「ほぉ……」
「ユウはこっち」

 そう言ってフェイトが持ってきたのは、少し前…と言っても一年程前にフェイトに食べさせたようなお粥。
 それこそ、使われている鍋も同じだ。
‐女の子の成長は早いな
‐女児、三日会わざれば
‐おっぱいを見よ
 カット。

「魯粛も何も言えんだろうに」
「ろしゅ?」
「いや、なんでもないさ」

 レンゲを手に取ろうと手を伸ばす。
 が、そのレンゲが誰かに持たれた。腕を辿れば、ルビーの瞳がコチラを見ている。

「……」
「た、食べさせてあげヨウカ?」
「声が裏返るぐらいなら、遠慮するさ」

 そういうと、白い頬を膨らませて“ぷんすか”と怒るフェイト。
 意趣返しとしてはいいだろうが、そこまで弱ってはいない。

「そうやって何でも自分でしようとするから」
「何でもはできてないさ。それこそ無理なことの方が多い筈さ」
「…例えば?」
「そうだな……自分の体調管理とか」
「違いないわね」

 そう言ってフェイトからレンゲを奪ったプレシアがお粥を掬いこちらに近づけてくる。
 彼女に威圧を感じたのは俺だけでいい。

「なんで母さんからは食べるのかな…」
「妹みたいな存在には少しでも気丈に振る舞いたい年頃なんだよ」
「妹…ねぇ」
「ん?どうかしたか、アリシア」
「べっつにぃ」

 そう言ってそっぽ向くアリシアに首を傾げる。
 前からはプレシアのため息が聞こえてきて、後ろからは「妹、妹…ふへへ」と何故か呪文を唱えているフェイトがいる。
‐最悪だな
‐最高に、最悪だ
‐最低で、最悪だ
 どうしようもない。本当に。最低だ。

「あ、」

 と声を出したは呪文を唱え終わったらしいフェイトだった。

「えっと…聞き辛いんだけど」
「このお粥攻撃を終わらせてくれたら、答えよう」
「お粥で溺れなさい」
「えっと、母さん、ストップ」

 そしてお粥攻撃が終わってしまい、彼女は質問する権利を得る。
‐まともに応えるなんて言ってないよ
‐当然はぐらかそう

「ユウって妹さんとかいたの?」
「妹?」
「うん。妹」

 ……はぐらかそうにも、はぐらかせない内容だった。

「それは、なぜに?」
「いや、えっと、闇の、じゃなかった夜天の書さんの中に入った時の話なんだけど」
「あぁ、俺の昔話をした時な」
「うん。あの場所に一人だけ女の子が居たんだ」
「……ほぅ」
「御影夕お兄ちゃんをよろしく、って」
「…………そんな可愛い妹が居たらお兄ちゃんシスコンになっちゃうなぁ」
「あら、私達は可愛くないのかしら?」
「お前さんらは別枠だよ。妹分って言った方がいいのか」
「ふーん、まぁそれでもいいかな」
「何を妥協した」
「妥協を妥協かな」

 まぁどうでもいいのだけれど。
‐妹、ねぇ
‐あんな劣悪な環境で子供が育つかね
‐俺は子供であって子供ではないし
 ふむ……面倒だな。

「まぁ、ともあれ俺に妹はいないよ」
「え、いないの?」
「居たとしても、ってことかな」
「……ごめんなさい」
「いいよ。もう終わってる事さ」

 今もしも、この場にあの災害の犯人がいたならば…変わらないか。
‐殺しもしない
‐そんな次元ではない
‐またつまらぬ物を斬ってしまった
‐次元ではない
 カット。

「さて、それじゃぁアナタはもう少し寝なさい」
「えー、お母さんやだよー」
「……」
「すいません、そんなジト目で見ないでください」
「熱がまだあるのね…早く寝る事をオススメするわ」
「酷い言い草だけど…そうするさ」

 戸締りとかはプレシアに任せればいいだろう。
 イソイソと移動しながら、布団に倒れる。
 ごろりと身体を回して、天井に左手を掲げる。
 擬態魔法を解き、左手の甲に顕れる赤い石。

「…………ふむ」

 とにかく、風邪を治そう。



*****************************

〜口を閉じても…
〜声は遅れて聞こえてこない
 とある腹話術師の事

〜またつまらぬ物を
 大泥棒

〜魯粛
 三国志時代の将軍。男児三日会わざれば刮目せよ、を言った人の先輩だったはず
 言ったのは阿蒙、失礼、呂蒙

〜アトガキ
 最低で最悪です。
 期間が空いてしまい申し訳ございませんでした。結果のこれですよ。
 クオリティ落ちてるどころの話じゃありません。もう破いて捨てるレベルの話です。はい。
 ここから先の展開もわかりやすいものになってますが、一度完結しているものなので、どうかご容赦を。

-95-
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