小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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 彼を見続けて、約七年。
 彼の辿った道は乱雑に黒く塗りつぶされている。
 この広い空間で、ワタシと彼と、ソレだけが認識出来る。

 彼自身、無理だとわかっている。
 ワタシ自身、無益だと知っている。
 カレ自身、無償だと言っていた。
 けれども彼は無駄でも、ただ無骨に、求め続ける。

 七年間。それだけを彼は見続けて。
 そんな彼をワタシは無下にすることは出来なかった。

 彼は今も未だ、守れなかったモノを守ろうとしている。



◆◆

「…御影」
「あ?…なんだ、珍しいなお前から俺に話しかけるなんて」
「……」

 朝、教室でのんびりと本を読んでいた時の話だ。
 サボりがバレて、リンディ・ハラオウンからの呼び出しとも思ったが、コイツの顔を見る限り違うようだ。
‐何がそんなに辛いかね
‐悔やんでる?

「…なんだ、また本をダメにしたのか?」
「違う…」
「ふむ……他にお前に何か言われるような事はしてないつもりだが」
「……」
「むぅ、まぁ、なんだ。悩みなら聞くし、俺が何かしたなら謝ろう、スマンな。さっぱり理由はわからんのが悪いとは思うが」
「ッ、なんでもない!!」

 そう言って踵を返して走り出すスメラギ。
‐オィ、男からの告白なんざいらんぞ?
‐男色の趣味はない
‐イケメンショタだぞッ!?
 …カット。
 どうしようもない。

「……なんだったんだ?」
「どうかしたのゆぅ君」
「んー…変な奴が余計に変に成ったと言うか、シャイな男を見てる感じが、どうもな」
「あぁ…うん。少しだけ待ってあげたらどうかな」
「待って改善するものか?」
「改善される…んじゃないかな」
「曖昧だな」
「アイ、でもマイでも、私の話じゃないもの」
「ご尤もだ」

 まぁのんびりと待つことにしよう。幸いにして、待つことには慣れすぎている。
‐色々と考える事もあるしな
‐色々と考えなくてはいけない
 本当に、どうしたものか。

「…そういうゆぅ君も悩んでるよね?」
「当然悩んでるさ。最近身長がさっぱり伸びて無くてな……牛乳をもう少し飲んだほうがいいのだろうか」
「うーん…シャマルさんに聞いたら?」
「彼女に聞くと入院させられる」
「どういう事なの?」
「そういう事さ」

 恐らく、というか、ほぼ確実に。彼女に俺の体の事を相談すれば要入院を言い渡される。
‐妥当です
‐妥当すぎる判断だ
‐打倒しなければ
‐打破すべきか
‐まずはおっぱいをどうするかだな
‐妥当です
‐妥当だ
 カット。打倒して叱るべきか。いや、愚問だな。

「ねぇ、御影君……少し、いいかな?」
「高町さん?」
「いいかな?」
「……まぁ構わないけど」
「じゃぁ、ついてきて」
「なのはちゃん」
「大丈夫だよ、大丈夫」
「大丈夫か否かを問答してる時点で俺の不安がやばいんだけど?」
「行こ」
「……はぁ、」

 席を立ち、高町さんの後ろに着いて行く。
 少しだけこちらに伸ばされたすずかの手は敢えて無視する。
‐さてさて、何がそんなに怖いのか
‐なにが不安なんだか
‐何故必死なのか
 他人に回す思考は、まだ持ってたか。中々に、滑稽だ。










 夏だというのに、朝の風は少しだけ冷たい。
 一般の学校にしては珍しく屋上が解禁されているこの学校の屋上。
 高町さんは扉を背にしていて、その目の前に俺はいる。

「で、何用かな?」
「どうして、ライト君なの?」
「……は?」

 落ち着け、落ち着いて文脈を探すんだ。
‐一声目だ
‐ムリポ
 終わってるな。

「どうせ、御影君が情報の操作でもしてるんでしょ!?」
「……ぁー、スマン。何がなんだか分からないわけだけど」
「とぼけないで!!」

 トボけたつもりは一切ないんだけどな。
‐アイツが悩んでた原因か?
‐アレと俺の関連?
 カット。考えるな。

「フェイトちゃんやアリシアちゃんも騙して!!次はライト君が邪魔だからって!!」
「……」
「私は、騙されない!!絶対に、アナタに踊らされたりしない!!」

 あぁ、なんとなく予想できてしまった。
 予想できたからこそ、ソコから先はきっと彼女の口からは言わせてはいけない。
‐どうする?
‐ノってやれ
‐解決はしないけどな
‐彼女もソレを望んでるさ
‐改善はせんがね

「クヒッ…」
「何がオカシイ!!」
「いやはや、クヒッ、なるほど、なるほど。気付いたのが高町さんだけだとは、中々に滑稽だな!」
「や、やっぱり」
「だがね、高町さん!!君に何が出来る!!全ては俺の思想で動いている!!それこそ微細の誤差もないッ!!」
「ッ!!」
「俺を殺すかね?ソレもいいだろう。君は犯罪者として肩書きを横に付けるがね!!フェイトやはやてに言うかね?ソレもいいだろう。君と俺、単なる友人と命を救った人間、さぁどちらを信じるだろうね!!すずかやバニングスさんに言うかね?ソレもいいだろう。だがしかし彼女らに何が出来る!!他人を巻き込むかね?ソレもいいだろう。魔法少女としてこの世界に名を馳せるか、管理局との鬼ごっこを楽しむがいい!!」
「ッ…!?最低だね…!!」
「最高の褒め言葉をどうも!!感謝のしすぎでどうにかなりそうだよ!!」
「……ライト君は…助けてほしいの」
「クヒッ、君は何を差し出す?まぁ、君自身を含め、君の持ち物に価値は一切ないがね」
「どうしたら…」
「君は何も出来ない、その歯痒さを持ち、もう一度考えたまえ。俺と交渉したいのなら、それ相応の準備をしたまえ。考えたまえ、思考を張り巡らせて、自分で考えたまえ、高町なのは」

 ニヤリと嗤う俺と、下唇を噛み締める彼女。
 彼女は悔しそうに扉に手を掛ける。

「あぁ、コレをスメラギ君に言うんじゃないよ。彼を消す計画が早くなってしまうからね」
「…最低」

 そう言って彼女は屋上のドアを力いっぱい閉めた。
 バンッと大きい音が鳴る扉に苦笑して、我ながらバカだなぁと思う。
‐思考停止しているのは、誰だったか
‐高町さんだったか?
‐それとも、
 カット。

「はぁ、馬鹿らしい」

 色々と思考を張り巡らした所で、彼女はアイツを正当化してしまうだろう。
 アリシア達が得た情報が何かは……まぁうん、ワカラナイが。
 先の事を考えても、彼女が考えないでいる事はダメだ。ソレは絶対にいけない事だ。
 彼に言われたから人を殺しました。なんて未来、大切な友人に負わしたくはない。

「ゆぅ君」
「はぴょ!?」
「すごい声出たよ?」

 クスクス笑うすずかがいつの間にか目の前に居た。
‐はぴょ?
‐ハッピーよ
‐さてどうだろうか

「ぁー……もしかして聞いてた?」
「うん。バッチリ。ゆぅ君が演技を始める前ぐらいから」
「……ストーカーは犯罪です」
「ゆぅ君だけしか追っかけないから、大丈夫だよ」
「個人的には後ろを追っかけられるより、隣に居てほしいけどな」
「友達として?」
「友人として」

 何故か少しだけ不満そうな彼女は放置して、フェンスに背中を預ける。
‐実は切れ込みが入ってて
‐殺すのは最期にしてやるといったが、アレは嘘だ
‐こいよ!銃なんて捨てて掛かってこいよ!!

「なのはちゃん、どうするんだろうね」
「さてね。俺は誰も救う気はないから知ったことじゃないさ」
「…救わないの?」
「救えないんだよ。守る事は出来てもな」
「他人を救った、なんて精神的な救済は自己満足だもんね」
「辛辣だなぁ」
「化け物ですから」

 ふふふ、と笑う彼女に苦笑して、少しだけ空を見上げる。
 本当に、どうしようもなく、救えない。
 守る為に生きながらえさせようとした、が…。

「カット」
「え?」
「で、化け物さんは何をしに来たのかな?」
「うん。ゆぅ君って猫好きかな?」
「嫌いではないよ」
「よかったぁ。えっと、私の家に猫がいっぱいいる訳ですよ」
「猫が一杯か。鍋猫ならぬ湯呑猫」
「よかったら見に来ないかな?というか触りにきませんか?」
「どうして敬語…いや、まぁいいけどさ」

 猫か…。いや、前に出向いた時は一匹もいなかった訳だが…隠してた?隠れてた?
 まぁ、何にせよ、少しだけ思考を別の方向に向けておこう。





******************************
〜スメラギ君
 今の彼は、どうしようかわからない、そんな状態です。
 前話の後、責められるわけでもなく彼が自覚した所で話は終了しました。誰かを一方的に責めれるほど、彼女たちは偉くもなく、関係もありません。

〜高町さん
 現在暴走中。彼を信じているからこそ、彼にとって不都合な事は全て虚言であると思っている素敵脳。
 その事を理解しているからこそ、夕君は否定せずに、肯定して彼女に“考える事”を推奨しました。否定した所で彼女は信じませんし。おすし

〜夕君が止めた言葉
 貴方なんて**じゃえばいいんだ!的な。言われた時点で彼は首を落とします

〜ワカラナイが
 何を知ったか、サッパリワカラナイナー

〜アイでも、マイでも
 IでもMyでも

〜殺すのは最後にしてやる…
〜銃なんて捨ててかかって…
 メイトリックス大佐、だっけか。筋肉モリモリマッチョマンの変態です



〜アトガキ
 ノーカウントだ!ノーカウント!!
 と逆足二脚に乗ってくねくねしたい年頃な猫毛です。

 なのはさん好きな方々には申し訳ないのですが、コレがニコポの力です。ちょっとした麻薬中毒だと思ってください。身体に害はありませんが。
 前の話から、どうも彼女が暴走しすぎでどうしようも出来ません。誰かどうにかしてください。終盤あたりに英雄様がどうにかしてくれる…というか、英雄様でしかどうにかする事ができません。

 逆に英雄様は、自身の罪を自覚して、どうしようも出来ない状態で宙ぶらりんです。そんな中、謝らなくてはいけない相手に何故か謝られるという精神苦を彼には負ってもらいます。ジワジワと追い詰めましょう。夕君は知らない所で鬼畜です。

 どこかで言ったと思いますが、夕君は英雄様を転生者と理解していて、ニコポナデポ持ち、というのも知ってます。だからこそ、なのはさんの状態も理解している訳です。うん?うん。

 あと、救済√と名を打ち付けてますが、IF√で彼女の事は一切書いてないので、この話はそういう事にします。
 まぁ、エンディングだぞ泣けよ。みたいな状態にならないよう微力を尽くします。

-99-
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