小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 ――童実野中央病院


 「ん〜…完全に治ってる。何処も問題なし。」

 廃工場地帯でのタンクローリーの爆発に巻き込まれた遊哉は、流石に火傷を負い、事件後病院に。

 「それにしても、あの事故に巻き込まれて『軽度』の火傷で済んで、しかも3日で完治って、君はどんな身体してるの!?」

 「自分でも謎だ。言うなれば此れが主人公補正と言うやつだ!!」

 「意味が分からない。」

 例え何が有ろうとも遊哉は遊哉だった。









 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel38
 『動機と真相と……?』










 あの事件から5日、コンドミニアムには遊哉と遊星を除いたチーム遊戯王のメンバーが集まっている。

 事件自体は大きく取り上げられ、出場チームが巻き込まれたとあって大会運営側も予選最終日を2週間延期する異例の措置をとった。
 ただ、巻き込まれたチームの詳細に関しては報道規制が掛けられ、コンドミニアムに報道陣が殺到するような事態にはなってはいない。

 この辺は、霧恵の心情を察したレンが、辰美財閥の力で裏から手を回した結果なのだが…


 「…霧恵、もう大丈夫なの?」

 「うん…全快とは行かないけど…心配掛けてゴメン。」

 アキに笑って言う霧恵だが、無理をしているのは誤魔化せない。
 だが、それでもたった5日で無理にでも笑うことが出来るように成ったのは、凄い事だろう。


 事件直後の霧恵は、それこそ『抜け殻』と言うのがピッタリの酷い状態だった。

 誰が呼びかけても、心此処に有らずな空虚な返事が返ってくるだけ。
 食事は摂っていたようだが、デュエリストとしては死んでしまう可能性すら有った。


 それでも再起できたのは、矢張り霧恵が生粋のデュエリストだったからだろう。
 ショックを受けても魂までは死ななかった事が最大の要因だろう。

 しかし、未だ再起しただけだ。
 デュエルはあれ以来1度もしていないし、それ以前に新たなデッキも組んでいない。


 目の前でデッキが焼失したショックは簡単に癒せるものではないのだ。


 「でも、何でアタシだったんだろうね?」

 「「「え?」」」

 「狙われたの。予選の第1試合とか、闘いの王国の成績的に、警戒されるのって遊哉とか遊星じゃない普通?」

 「言われて見れば…確かにそうね。」

 言われて気が付く。
 確かに、チームに打撃を与えようとしたと取れなくも無い、今回の事件。

 だが、それならばネームバリュー的には霧恵よりも上の遊哉や遊星が狙われて然りだ。
 霧恵も有名ではあるが、世界レベルではない。

 それを踏まえると、ピンポイントで霧恵を狙ったというのは腑に落ちない。

 「ずっと考えてたんだ。何でアタシなんだろうって。若しかしたら、アレは『迦神霧恵』個人を狙ったものだったのかも…」


 「それ、間違ってないよ。」
 「調べてみて正解だったな。」


 コンドミニアムにやってきたのは遊星と氷雨の2人。
 氷雨の手にはポータブルPCが。

 「遊星に氷雨…間違ってないって?やっぱりアタシ個人を狙ったって事?」

 「そう言うこと。」

 言いながらPCを起動し画面を映し出す。

 「霧恵は有名でも、ネームバリュー的には遊哉達には及ばない部分があるでしょ?
  それが気になって調べてみたの。響がジャンクショップの人達から聞いた話が有ったから分かったことなんだけどね。」

 「響が?」

 「あぁ、岡島の話だと、事件の1週間前くらいから、大型車の補修に使うパーツを大量に購入していったグループがあるらしい。」

 PCの画面には次々とデータが表示されていく。
 それらは、ジャンクショップの防犯カメラの映像と思われるものだ。

 「で、同時期にモグリの中古車販売業者から大型のタンクローリー購入した連中も居るの。
  あんまりにも時期が重なってるから、防犯カメラの映像貰って比べてみたら、どっちも同じ奴等だったのよ。…と、遊星先お願い。」

 「あぁ。其処から、連中が犯人なのは間違い無いと思って、連中に前科が無いか警視庁のデータバンクにハッキングして調べてみた。
  そしたら……大当たりだった。3年前に、デュエルを悪用しての強盗の罪で全員が懲役2年の実刑を受けていた。」

 遊星がPCのモニターに出した画像。
 霧恵はそれに見覚えがあった。

 「!!この連中って…!」

 「覚えてる?霧恵が1人で壊滅させたデュエルギャングの一派よ。」


 それは嘗て霧恵が壊滅させたデュエルギャングの面々だった。

 遊哉がアメリカに行っていた時に発生した、連続カード強奪事件。
 霧恵は自らを囮に、犯人グループを誘き出し、見事デュエルで全員をコテンパンに伸してしまったのだ。

 結果、犯人グループは潜んでいた警官隊に逮捕され、2年間の牢獄暮らしと相成ったのだ。

 しかし、刑期を終えて出所し、自分達が牢獄暮らしをする事になった原因である霧恵に復讐を…と言う事のようだ。


 「只の逆恨みじゃねぇか…不満足だぜ…」
 「自業自得の言葉の意味を知るべきね…」

 あまりの事に鬼柳もシェリーもアキも、怒りを通り越して呆れてしまっている。

 「確かにそうなんだが、この連中は覆面をつけてWRG1に出場しているんだ。」

 「…それ、本当なの?」

 更に遊星から聞かされた事に、霧恵の語気が強くなった。

 「あぁ、しかもそのチームは予選の最終戦で俺達が戦う相手だった。」


 「マジか遊星!?」
 「最悪ね…!」


 まったく持って予想していないことばかりだ。
 だが、逆にそれが犯人達の怨念の深さを思わせ、不気味極まりない。


 「……そんな奴等にアリオス達は殺されたって言うの?」

 「迦神?」

 「ふざけんじゃないわよ!!アタシへの恨みなら正々堂々、デュエルで晴らしなさいよ!」

 あまり見る事の無い、霧恵の本気の怒りが爆発した。

 如何有っても許せないのだ。
 自分を恨んでデュエルで潰そうというのなら未だ良い。

 だが、デュエルの形だけ取り繕って、実際にはデッキを焼失…あまりにもふざけ過ぎている。


 まったく皮肉なものだが、この怒りが霧恵のデュエリストの魂に再び火を付けたのだ。


 「最終戦まであと9日…新しいデッキを作らないとね。もう1度全員アタシが倒してやる!」


 もう、落ち込んでいたときの弱々しさは無い。

 未だデッキは無い、だが、『デュエリスト迦神霧恵』は間違いなくこの瞬間に復活したのだった。








 ――――――








 ――決闘者の王国・城、最上階


 「無理言ってわりぃなペガサス。」

 「いえ、寧ろ知らずに見過ごしていたら、後悔していたでしょウ。」


 遊哉は病院の後、コンドミニアムには帰らずに辰美財閥を訪れ、レンに頼み込んでヘリで此処まで来ていた。
 目的はペガサスに会うことだ。


 「必ずや、このカード達を復活させて見せましょウ。彼女達の魂は未だ生きているのですかラ。」

 「スマネェ、頼む!あいつの、霧恵の『剣』を復活させてくれ!」

 「勿論です遊哉ボ〜イ。デュエルモンスターズの創造者の力、御覧に入れましょウ。」


 遊哉からペガサスに渡されたのは、焼け焦げた霊魔導師のカード。
 遊哉はこのカード達を蘇らせる為に、ペガサスに会いにきたのだった。

 「恩にきるぜペガサス。」

 もう1度礼を言い、遊哉はその場を後にした。








 ――――――








 ――童実野埠頭のある倉庫



 「大成功だったね。あの女のデッキは死んだ。」

 「だな。仮にデュエリストとして再起したとしても、霊魔導師の無い迦神霧恵など恐れることは無いぜ。」

 「再起して、当初の予定通り最終戦に出てくるのなら逆に都合が良い。」

 「そうね。その時に完膚なきまでに叩き潰して、デュエリスト生命を絶ってやれば…くく、最高ね。」


 薄暗い倉庫内での暗い、暗い会話。
 其処にはデュエリストの誇りのようなものは一切存在しない。

 有るのは霧恵を叩き潰そうと言う暗黒の情念だけだ。


 「いずれにせよ、迦神霧恵をデュエリストとして殺す、その第1段階は成功だ。」
 「えぇ、後は、再起した場合に再度潰してやれば…ジ・エンドよ。」



 様々な思惑が交錯する中、時は過ぎ、




 WRG1の予選最終戦の日を迎えるのだった…















  To Be Continued… 

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