小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 ――童実野中央スタジアム


 『レディ〜ス&ジェントルメン!!さぁ、2週間の延期を経てついにWRG1予選の最終日がやってきた〜〜!!
  最終戦を戦うは、2連勝で決勝トーナメントを出場を確実にした『チーム遊戯王』と2連敗で脱落が確定した『チームアウトロー』。
  しかし、チームアウトローは負けはしているものの、戦術的には侮ることが出来ないチームだ〜!
  このままチーム遊戯王が無敗で予選を終えるのか、それともチームアウトローが一矢を報いるのか〜!?』


 WRG1の予選最終日。
 既に予選通過が確定しているチーム遊戯王だが、このデュエルは如何有っても負けられないものだ。

 霧恵のデッキを物理的に破壊した相手……此れに負けることは許されない。
 遊哉や遊星は勿論の事、矢張り一番その気持ちが強いのは霧恵だ。

 再起してからこの日まで、何度もデッキを作り直して仕上げた新たなデッキ。
 霊魔導師は無くとも、充分な仕上がりとなったようだ。


 ――デュエル開始まであと15分…やっぱ6枚のカードを2週間でってのは無理が有ったか?ファーストデュエルにゃ間に合わねぇなこりゃ…


 遊哉としては霧恵の再起は嬉しいことだったが、霊魔導師が未だペガサスから届いていない事がちょいと気になっていた。


 ――まぁ、何とかなんだろ。
 「予定通り、霧恵がファーストで良いんだよな?」

 「勿論。てか、あいつ等全員アタシが倒す!」

 依存は無い。
 チーム全員が、このデュエルを霧恵に一任していた。









 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel39
 『復活の前奏曲(プレリュード)』










 一方のチームアウトローのピット。
 此方もピットクルーが居るものの、ドイツもコイツも柄が悪い。
 何と言うか街中のチンピラを只寄せ集めてきたような集団だ。

 「代えずに迦神霧恵がファーストホイーラーとして出て来たな。」

 「願ったりじゃん?此処で叩き潰してそれで『デュエリスト迦神霧恵』はお終いよ。」

 会話内容も大凡デュエリストの話す内容とは思えない。

 否、基よりアウトローの連中はデュエリストとは程遠い。
 デュエルを利用しての悪行の限りを尽くし、其れを楽しむ『外道』…

 だから連中は気付かなかった、チーム遊戯王から、特に霧恵から凄まじい『デュエリストのオーラ』が発せられていることに。

 「ま、俺が引導渡してやるぜ!霊魔導師の無い迦神霧恵なんぞ所詮はデュエルが出来るだけの小娘だからな。」

 矢張りこいつ等はデュエリストではないだろう。
 霧恵を『強いカードがあるから強い』と勘違いしているのだから。


 しかし、アウトローのメンバーは其れが間違いだったと思い知らされることになるのだった。


 他ならない霧恵自身の手で!








 ――――――








 『さぁ、いよいよ予選の最終戦の開始だ〜〜!チーム遊戯王のファーストホイーラーは迦神霧恵!
  対するチームアウトローのファーストホイーラーは黒崎元治!技と力のぶつかり合いと言える組み合わせだ〜〜!』


 デュエルの開始時間が訪れ、両チームのファーストホイーラーがスタート地点に着く。

 「へ、馬鹿な奴だなお前も。あのまま大人しく引退してりゃ痛い目に遭わずに済んだのによぉ…」

 そのスタート地点で、アウトローの黒崎は見下し、挑発するように霧恵に言う。

 「……」
 「だんまりかぁ?それとも俺にびびってんのかよ?え?」

 霧恵は答えないが、それに調子に乗って更に挑発的な事を言ってくる。

 「だっせ〜な。びびってんならでてk「五月蝿いわね三下。」あぁん!?」

 突如の強烈なカウンターにガラ悪く反応。

 「五月蝿いって言ってるの。…バカには言うだけ無駄ね。」

 霧恵の方が相手を挑発するということに関しては一枚上手だったらしい。

 「このクソアマ…叩き潰してやンぜ!」
 「デュエリストなら、口よりもカードで語りなさい。」

 吼える黒崎に、霧恵は何処までも冷静だった。

 内心では相当に怒りが渦巻いている霧恵だが、だからと言って爆発はしない。
 どちらかと言うと、怒ると逆に頭が冷えるタイプなのだ。


 シグナルはレッドが点灯し、後はグリーン点灯を待つばかり。

 Dホイールのエンジンは唸りを上げ、何時でも飛び出すことが出来る状態だ。



 ――ピッ、ピッ、ピーーーーーー!!



 『ライディングデュエル、アクセラレ〜ショ〜〜〜ン!』



 シグナルグリーンが点灯し、2台が一気に加速。


 前に出るのは霧恵の機体。
 先行しただけではなく、ドンドンその差を広げて行く。

 当然だ。
 再起した後、霧恵は遊哉と遊星に自身のDホイールの強化改造を頼んでいたのだ。
 機体強度と馬力を犠牲にしても良いから限界までスピードを上げて欲しい、と。

 勿論、遊哉と遊星の2人も霧恵の真剣な頼みを無碍にする事は無い。
 希望通りに、徹底的に『スピードを重視した機体』に改造を施したのだ。

 普通ならば、スピードのみを追求した機体ではバランスをとるのが難しく、ともすればコースアウトでクラッシュしかねない。
 しかし霧恵は、改造が終わった後、毎日の様に走り回りこの機体を完璧に操れるようになっていた。

 なので当然コーナーリングなどお手の物。
 圧倒的な差で第1コーナーを制した。


 『何と言う凄まじいスピード!先行はチーム遊戯王、迦神霧恵だ〜!』



 「「デュエル!!」」


 霧恵:LP4000   SC0
 黒崎:LP4000   SC0



 「アタシのターン。『魔導獣ケルベロス』を召喚!」
 魔導獣ケルベロス:ATK1400


 「魔導獣ケルベロスをリリースし、『魔導超獣・ベオウルフ』を攻撃表示で特殊召喚!」
 「グルルルル…!」
 魔導超獣・ベオウルフ:ATK1900


 「カードを2枚伏せてターンエンド。」

 先攻は取ったものの、矢張り霊魔導師が無い状態では今まで通りとは行かないのも事実。
 初手は条件召喚モンスターとリバース2枚。

 「へっ!何だそのだせぇモンスターは?霊魔導師が無きゃ所詮は小娘、俺の敵じゃねぇなぁ。俺のターン!」


 霧恵:SC0→1
 黒崎:SC0→1


 「行くぜぇ…『ゴブリン突撃部隊』を攻撃表示で召喚!」
 ゴブリン突撃部隊:ATK2300


 こっちはレベル4でも最高クラスの攻撃力を持ったモンスターを召喚して来た…それにしてもよく喋る。

 「バトル!やっちまえゴブリン突撃部隊!ベオウルフに突撃だ!!!」

 攻撃敢行。
 確かに攻撃力はゴブリン突撃部隊の方が高いが、この攻撃は稚拙としか言いようが無い。

 「同じ攻撃型でもデュエル馬鹿と只の馬鹿だと此処までの違いが有るんだ…リバースカードオープン!」

 霧恵には2枚のカードが伏せてあるのだ。
 基より、日常的にパワーデッキと戦っている霧恵に単調な攻撃など通用しない。

 「トラップカード『漲る魔力』!自分フィールド上の『魔力カウンターを乗せることが出来るカード』1枚に魔力カウンターを3つ乗せる。
  この効果でベオウルフに魔力カウンターを3つ追加。そしてベオウルフは自身に乗ってる魔力カウンター×500ポイント攻撃力がアップする!
  ベオウルフに乗ってる魔力カウンターは3つ!よって攻撃力は1500ポイントアップする!」
 「ムゥゥゥゥ…!」
 魔導超獣・ベオウルフ:ATK1900→3400    魔力カウンター3


 「な、バカな!!」

 「此れで攻撃力はこっちが上。ベオウルフ、ゴブリン突撃部隊を返り討ちにしなさい!」
 「ガァァ!」


 ――ゴガァァン!!


 文字通り突撃していたゴブリンは、ベオウルフの反撃の前に霧散し部隊壊滅。


 黒崎:LP4000→2900
 「クソがぁぁ!!」

 思わぬ反撃…とも言えないだろう。
 2枚の伏せカードを警戒しない方が悪い。

 「ベオウルフは相手モンスターを戦闘で破壊した時自身に魔力カウンターを2つ乗せる。此れにより、攻撃力は更に1000ポイントアップ!」
 魔導超獣・ベオウルフ:ATK3400→4400   魔力カウンター3→5


 「こ、攻撃力4400だとぉ!?」

 「このくらいの攻撃力、遊哉に比べれば大した事無い。此れで終わり、トラップ発動『魔素爆弾Typeβ−05』!
  自分フィールドの魔力カウンターを全て取り除き、取り除いた数×600ポイントのダメージを相手に与える!
  アタシのフィールドの魔力カウンターは、ベオウルフに乗ってる5つ。此れを全て取り除き、3000ポイントのダメージを与える!!」
 魔導超獣・ベオウルフ:ATK4400→1900   魔力カウンター5→0

 「なんだとぉ!?」


 ベオウルフから魔力が抽出され、其れが巨大なエネルギー球を形作り、一気に発射!
 対抗手段など無い。


 ――ゴガァァン!!


 「うごわぁぁぁ!!」
 黒崎:LP2900→0


 『決まった〜〜!!なんと、まさかのカウンター1ターンキル!迦神霧恵このまま一気に…「――バババババババ!――」
  な、なんだぁ?…あ、アレはI2社のヘリコプター!?一体如何した事だ〜〜!?』


 霧恵が見事なカウンター1Killを決めた直後、スタジアムの真上に現われたI2社のヘリ。

 其処から何かが降りてくる。


 「ハウアーユー!皆さんデュエルを楽しんで居ますカ?」

 パラシュートで降下してきたのはペガサス。


 思わぬ珍客に騒然となる会場を余所に、ペガサスはチーム遊戯王のピットに降下する。



 「ペガサス、遅かったじゃねぇか!ファーストデュエル終わっちまったぜ!」

 「ソーリー遊哉ボーイ。バット、霊魔導師は全て復活しました。新たな力を得てネ。
  その新たな力を持たせる為に時間が掛かってしまいましタ。其処は容赦して欲しいので〜ス。」

 差し出された6枚のカードにチーム全員が見入る。

 ペガサスが取り出したのは6体のシンクロモンスター。

 其れを見て鬼柳は直ぐにピットクルーに指示を出す。

 「霧恵をピットインさせろ。あいつを満足させられるカードが、今届いた!」

 その指示を受け、ピットクルーとして参加してる美咲が霧恵にピットインの指示を出す。
 この辺の連携は流石と言えるだろう。


 その指示を受けた霧恵も素直にピットに入る。


 『おぉっとぉ、迦神霧恵此処でピットイン。デュエルは可能なようだが、まさかマシントラブルか〜!?』


 MCであってもこの事態は正確には把握できていなかったようだ。








 ―――――――








 会場の盛り上がりとは別に、チームアウトローのピットは騒然となっていた。


 「ドチクショウが!霊魔導師が無くてもあのアマ強いじゃねぇか!!」

 今になってアウトローの面々は迦神霧恵と言うデュエリストを読み違えてた事に気が付いた。

 そう、霧恵は霊魔導師が有るから強いのではない。
 霊魔導師は無くとも、霧恵はデュエリストとして超一流の腕を持っているのだ。

 霊魔導師があるから霧恵が強いのでは無い。
 霧恵が強いからこそ、霊魔導師はその力を発揮できていたのだ。

 「ちっ、やってくれるねあの女。いいよ、私が出てやる!!」

 霧恵の力を知りながらも、負けた恨みを凌駕するには至らず、セカンドホイーラーの女性がデッキをセットする。
 だが、連中は此処でも一つ見落としてた。

 そう、『ペガサスがチーム遊戯王のピットに降り立った』その理由はまるで考えていなかった。








 ――――――








 同刻、チーム遊戯王のピットには、指示通り霧恵が戻ってきていた。

 「何でピットイン?ってペガサス会長!?」

 突然のピットイン指示に戸惑った霧恵だったが、ペガサスの姿を確認し流石に驚いたようだ。

 「ミス霧恵、ファーストデュエルは終わってしまいましたが、何とか此れを貴女に渡す事が出来ましタ。」

 挨拶もそこそこに、ペガサスは霧恵に6枚のカードを渡す。

 「!!…このカードは!!」

 「イエス。あなたの魂のカードで〜ス。遊哉ボーイが死に掛けのそのカードを私の元に持ってきてくれたので〜ス。」

 「遊哉が!?」

 驚きの表情で遊哉を見やると、若干照れているのか頬を紅くしてる遊哉が。


 「まぁ、何だ、テメェの彼女が塞ぎこんでるのは見たくねぇし。霧恵には霊魔導師が無いと締まらねぇっつーか…
  未だ生きてるカードを見殺しには出来ねぇみたいな?兎に角、ペガサスのとこに持ち込んだのは間違いじゃなかったぜ。」

 「ったく…昔っから変わんないね、この不器用馬鹿…!」

 遊哉が霊魔導師をペガサスの元に持ち込んだことは霧恵も知らなかった。


 正にサプライズ。
 だが、霧恵は嬉しかった、遊哉の心遣いが。
 自分のことを想ってくれているという事が。


 「不器用馬鹿だと?最高の誉め言葉だコラ!行って来いや霧恵、外道共にデュエリストの魂を見せ付けてやれ!!」

 「迦神、お前は1人じゃない。俺達は仲間だ。」

 「連中に本物の『満足』って奴を教えてやれ。」

 「出来るわ霧恵なら。」

 「デュエリストの誇りを示しなさい。貴女なら出来るでしょう?」

 遊哉のみならず、遊星、鬼柳、アキ、シェリーからもエールが。
 いや、口にこそ出さないが3人娘を始めとするピットクルーも同じ気持ちだ。

 「皆…うん!行ってくるよ!!」

 6枚のカードを受け取り、霧恵は再びサーキットに飛び出した。








 ――――――








 『おぉっと、迦神霧恵はそのままピットを出た〜!マシントラブルではなかったのか〜〜!?
  チームアウトローはセカンドホイーラー三島千春が飛び出している〜〜!
  カウンター1Killで決めたことにより、先攻は再び第1コーナーの争いで決定されるぞ〜〜!』



 あまり無い事態だが、今回のように自分のターンでは無い状態で勝利した場合、先攻後攻は再び第1コーナーの取得で決定される。


 霧恵は新たなカードを手に疾走し、アウトローのセカンドホイーラー千春もまた先攻を取らんと疾走する。


 だが、矢張りスピード重視の霧恵の敵ではなく、難なく霧恵が第1コーナーを取る。


 『先攻はまたまた迦神霧恵!さぁ如何なるセカンドデュエル!!』


 「「デュエル!!」」


 霧恵:LP4000  SC1
 千春:LP4000  SC1


 「アタシのターン!」


 霧恵:SC1→2
 千春:SC1→2


 ――!この引き…そっか、生き返ったんだよね皆!


 まるであつらえたようなドローカードに、しかし霧恵は納得した。


 あの日失われた自信の相棒達は戻ってきたのだ。
 このドローカードは、再会の為のカード。

 「霧恵、私達戻ってきたよ♪」
 「あのクソッタレどもに見せてやれよ、お前の力をさ!」


 声が聞こえた。
 霧恵がアリオス以外で最も使っていた2体の霊魔導師の声が。


 ――分かってるよ。私は負けない!!
 「チューナーモンスター『ネコ魔導剣士・銀仁郎』を召喚!」
 「負けないのにゃ!!」
 ネコ魔導剣士・銀仁郎:ATK500


 「チューナーモンスターですって!?何で…アンタのシンクロモンスターは…!」

 「確かにアリオスはアンタ達の手で葬られたわ…でも霊魔導師は死なない!新たな力を得てアタシの元に戻ってきてくれた!」

 霧恵の瞳に最早暗い影は無い。
 あるのはデュエリストとしての闘志だけだ。


 「だからアタシは戦う!戻ってきてくれた皆の為に!信じてくれる仲間の為に!!
  行くよ!レベル6のベオウルフに、レベル2の銀仁郎をチューニング!!」


 銀仁郎が2つの輪になりベオウルフを包み込む。
 それは霧恵復活の為の前奏曲(プレリュード)。

 「聖なる魂を受け継ぎし水の魔導師よ、清き力を我が前に示せ。シンクロ召喚!不浄を流せ『聖水霊魔導師−エリア』!」
 「この前のお礼はたっぷりさせてもらうよ!」
 聖水霊魔導師−エリア:ATK2500


 新たな力を得た霊魔導師が、威風堂々降臨。


 デュエリスト迦神霧恵は、今此処に完全復活を遂げたのだった。








 *補足




 漲る魔力
 通常罠
 自分フィールド上に存在する「魔力カウンターを乗せることの出来るカード」1枚を選択し魔力カウンターを3つ乗せる。
 エンドフェイズ、自分フィールド上の魔力カウンターを全て取り除く。




 魔素爆弾Type−β05
 通常罠
 自分フィールド上の魔力カウンターを全て取り除き、取り除いた数×600ポイントのダメージを相手に与える。
 このカードを発動するターン、自分はモンスターの召喚及び魔法の発動が出来ない。















  To Be Continued… 

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