小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 「如何して…何でアリオスが…!」
 「アリオスちゃん…」
 霧恵:LP5950
 聖水霊魔導師−エリア:ATK2500


 「く苦ク狗ククク…感動ノ再会と言ウ奴だ。」
 「亜グゥゥゥゥ・・・」
 キリエ:LP3450
 ヴェルズ・へカーテ:ATK2950


 朽ちた洋館で行われているデュエル。
 霧恵の前に現れた、キリエ……其れが召喚した異形のエクシーズモンスター。

 失われた霧恵の仲間――聖霊魔導師−アリオス。

 その魂は6つに分かれ、他の霊魔導師に受け継がれ、アリオスはこの世界から消えた筈だった。
 だが、今其れが異形の存在と成り果てて霧恵と、霊魔導師と対峙している。

 一体何が起きているのかは誰にも分からなかった…











 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel47
 『Don't Break My Soul』











 「フむ…良い感じダ。困惑し、驚いテイるナ?」

 「良い感じ?…如何言う事?」

 姿が変ってしまったアリオス――ヘカーテに驚き困惑する霧恵に、キリエは笑ってみせる。
 何れにせよ、自分のと同じ姿をした『モノ』が不気味に笑うのは気持ちの良いものではない。

 「世界ガ負の感情で満たさレタ時、広大なミストバレー湿地帯においテ、過去幾多もの争イを生ンダトある地域で突如異変が起こル。
  彼等ノ数々の負の感情(ジャネン)がモンスターとナッテ具現化されたのダ。
  ソの身はカつてノ仲間や、かつテコの世界に存在シていタ種族達ノ容姿をしテいタノダった――」

 「え?」

 「!!まさか、若しかして其れって…!」

 突然意味不明な事を言うキリエ。
 勿論霧恵は何の事か分からないが、エリアは何やら思い当たる事が有る様子。

 「エリア、知ってるの?」

 「聞いた事が有るだけ。デュエルモンスターズの世界でずっと昔に起こった破滅と崩壊の物語。
  邪悪なる思念体によって引き起こされた未曾有の危機…『ヴェルズ』の名で気付くべきだったよ。
  其れは強い負の感情に呼応して力を強め人々やモンスター達に害を与える存在になるって…」

 「強い負の感情…?」

 「アレはきっとアリオスちゃんの残留思念がヴェルズに取り込まれたんだと思う。
  消えちゃう直前に募った、悔しさとか、怒りとか、悲しみとか…きっとそう言うのを取り込んだんだよ…」

 「アリオスの…」

 齎されたのは余りにも悲しい現実。
 エリアの話を本当だとするならば、アリオスはその身が滅びて尚、残った思念が彷徨って居た事になる…

 「流石ダな霊魔導師、ソノ通りだ。我等ヴェルズはヴァイロンの元に結束しタ4部族にヨッて倒さレた。
  だが、人々やモンスターの負の感情が消エル事なドハない…ククク、コイツの思念も相当なもノダったゾ?
  ソレコソ魂とは別ニ思念が人格ト力を持つクライには…強すギる故に支配に時ガが掛かッタがな。
  私ノコの姿も、アリオスの強烈な思念に引っ張られタ結果と言ウトコろか。
  イズレニシテモ、コイツの思念は役に立ツ。そう、ヴェルズが再び侵略を開始スル為のナ。」

 「残ったアリオスの思念を弄ぶって言うの!?…そんな事はアタシも霊魔導師の皆も許さない!」

 「吼えるカ。ダガ、感じルゾ、お前本当ハ、此れと戦いタクは無いノダロう?迷いが見えルぞ?」

 「!!!」

 まるで心を見透かしたかのように言い、嘲る様にキリエは嗤う。
 この状況を楽しんでいるかのように…

 「サテ、私のターンダッタな。私はヘカーテノ、オーバーレイゆにットを1つ取り除キ、手札カラ『ヴェルズ・ディスペラー』を特殊召喚。」
 ヴェルズ・ディスペラー:ATK2250


 「更にディスペラーのレベルを2つ下ゲテ『ヴェルズ・サイレス』を特殊召喚。」
 ヴェルズ・サイレス:ATK1150
 ヴェルズ・ディスペラー:LV6→4


 特殊召喚を駆使し、モンスターを展開してくる。
 しかも未だ召喚権は残したままだ。

 「ソシて『ヴェルズ・サンダーバード』を通常召喚。」
 ヴェルズ・サンダーバード:ATK1650


 「3体のレベル4モンスター…」

 「霧恵、来るよ!気をつけて!!」

 「私は3体ノレベル4もんスターをおーバーレイ。おーバーレいネットワークを構築。
  蘇レ破滅の邪龍、今此処に終焉ヲ齎せ。エクシーズ召喚、滅ぼセ『ヴェルズ・ウロボロス』!」
 「UgyaaaaaaaaAaaaaaYyyyyyyyyyy!」
 ヴェルズ・ウロボロス:ATK2750


 現れたのは三つ首の龍。
 闇の侵食を受け不気味に変質した氷結界の龍が1体だ。

 「トリシューラのヴェルズ化…!けどエリアの効果でこのターン、その力は無力となる!」

 「水縛の礎!」

 だがその力もエリアによって封殺され今は使えない。
 とは言え、攻撃力は2体ともエリアを上回っている。
 バトルは避けられない。

 「効果が無効ニ為ろウト、攻撃力でハ此方が上ダ。水の霊魔導師ヨ先ずは貴様カラヴェルズ復活ノ贄トナレ。
  ヤレ、ヴェルズ・へカーテヨ。自カラ手で嘗ての同胞を屠リその悔恨デジャネンを増幅しロ!」
 「宇亜aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 へカーテの手にした杖に禍々しい力が収束し、一気にエリアに放たれる。
 其れはアリオスであった頃の聖なる力とは似ても似つかない暗黒の…負の力。

 「アリオスちゃん!」

 「く…そうはさせない!トラップ発動『慈愛の魔導法衣』。
  このカードは発動後装備カードになり魔法使い族のシンクロモンスターに装備される。
  そして装備モンスターは1ターンに2度まで戦闘では破壊されない!」

 だが、此処はトラップ装備で戦闘破壊を回避する。
 相手モンスターはヘカーテとウロボロスの2体、エリアがこのターンで戦闘破壊されることはない。
 無論戦闘ダメージは受けるが…


 「うわっ…!やっぱり元がアリオスちゃんだから結構強い…!」

 「ゴメン、エリア…此処は耐えて!」
 霧恵:LP5950→5500


 「ほう、戦闘破壊を防ぐカードカ。ダガ未だウロボロスノ攻撃が残ッて居ル!ヤレ、ウロボロス!!」

 再度の攻撃。
 今度はウロボロスの3つの首から黒い氷結の息吹が放たれる。


 「くぅ…エリア、大丈夫!?」
 霧恵:LP5500→5250


 「大丈夫、此れくらいなら…!」


 ダメージを受けたとは言っても、其れは微量。
 さっきのターンでエリアの効果でライフを回復してたので此れくらいはなんとも無いだろう。

 「トラッぷ装備…成程『魔導使イ』に恥じズ、搦め手を使ッた戦闘ハお手の物カ。カードを1枚伏セターんえんド。」

 「アタシのターン。」
 ――アリオス…例え残った思念体でも戦いたくないよ…でも、やるしかない…!


 「魔法カード『隠された宝書』を発動。手札から魔法使い族のチューナーを捨て、カードを2枚ドローする。
  手札から『蒼雷の魔導戦士』を捨て2枚ドロー。
  …アタシのフィールドに魔法使い族のシンクロモンスターが存在する時、手札の『烈火の魔導剣士』を特殊召喚できる!」
 「瞬刃に…迷いは無い。」
 烈火の魔導剣士:ATK1800


 「更に手札の『湖の治癒魔導師』を墓地に送り、墓地の『蒼雷の魔導戦士』を特殊召喚!」
 「雷光散らして僕参上!」
 蒼雷の魔導戦士:ATK1700


 ――烈火とヒータの効果を使って一気にけりをつける!
 「レベル5の烈火の魔導剣士に、レベル3の蒼雷の魔導戦士をチューニング。
  猛る炎の魔導師よ、紅蓮の魔導で我を導け!シンクロ召喚、焼滅の力『聖火霊魔導師−ヒータ』!」
 「アリオス…テメェそんなとこで何してやがんだ!!」
 聖火霊魔導師−ヒータ:ATK2700


 速攻から現れたのは猛る炎の魔導師。
 目の前の変わり果てた同胞に一瞬驚くものの、すぐさま気を取り直しての臨戦態勢だ。

 が…


 「…?なんだ、力が全く上がらねぇ!?今ならアタシの攻撃力は1500上がってるはずだ!」

 「ヒータの効果が…!此れはまさか!!」

 本来ならば爆発的な攻撃力を叩き出せるヒータの攻撃力が全く持って上がっていない。
 その原因を即座に霧恵は看破した。

 「アリオスのモンスター効果無効能力…!」

 「その通リダ。ヴェルズ・ヘカーテハ特殊召喚サレたレベル5以上ノもンスターの効果ヲ無効にするのだ。
  4000オーバーの攻撃力トばーンダめージで一気に終わらセようとシタのだロウが、当てが外レタな。」

 そう、其れはアリオスが持っていたモンスター効果の無効能力。
 ヴェルズに侵食され、ヘカーテに姿を変えて変質したその力は高レベル上級モンスターを封殺する力。

 特に多彩なモンスター効果を使い分ける霧恵の霊魔導師には天敵とも言える能力だ。

 「ククク、矢張リ迷ッてイルな?アリオスノ負の思念たルヘカーテ。其れと戦ワナイように火霊魔導師を召喚したのだろウ?
  良いぞ…迷え、苦シメ。そレラの負の感情ハ全て我等ヴェルズの糧トナル。」

 「く…」

 精神的に追い詰める目的だろう、言葉巧みに霧恵を翻弄するキリエ。
 其れは聞いているだけで、精神を闇に蝕まれるかのような錯覚さえ起こすようだ。
 だが、霧恵は1人ではない。

 「迷うんじゃねぇ霧恵!アタシの効果は無効でも、烈火の剣士の力でアタシもエリアもパワーアップしてんだ!
  アリオスの思念があのクソッタレに捕らわれて苦しんでんなら、倒す事で解放してやろうぜ!」

 「そうだよ霧恵!私でアリオスちゃん――ヘカーテを倒せばヒータちゃんの効果は復活する。
  それからウロボロスをやっつければ霧恵の勝ち。大丈夫、私達が一緒だから!」

 頼れる仲間が、霊魔導師が霧恵を支える。

 「そうだけど…良いの?思念体とは言えアレはアリオスなんだよ?」

 「ハッ、構うこたねぇぜ!苦しんでんならぶん殴っててでも救ってやる、それがダチ公ってモンだろ?」

 「さっすがヒータちゃん、男前〜!」

 「おうよ!…ってアタシは一応女だ!!」

 エリアとヒータに迷いは無い。
 本当は思念体とは言え嘗ての仲間を攻撃するのは辛いだろう。
 だが、其れを解放するために、霧恵の重圧にならないために言い切る。
 ならば霧恵が其れに答えない道理は無い。

 「分かった。先ずは蒼雷の魔導戦士の効果でデッキから『闇総べる魔導王』を手札に加える。
  そして烈火の魔導剣士の効果発動!このカードが魔法使い族のシンクロモンスターのシンクロ召喚に使用されたとき、
  アタシのフィールド上の魔法使い族は全てエンドフェイズまで攻撃力が500ポイントアップする!」

 「遊星流に言うなら、アタシ等の絆を舐めんじゃねぇ!」
 聖火霊魔導師−ヒータ:ATK2700→3200


 「一気に行くよ!此れでアリオスちゃんの思念体を救う!」
 聖水霊魔導師−エリア:ATK2500→3000


 ヘカーテの効果はあくまで『特殊召喚されたレベル5以上のモンスター』にしか対応しない。
 つまりシンクロに使用され、墓地で効果を発揮する烈火の魔導剣士の効果は無効に出来ないのだ。
 これで霊魔導師の攻撃力は2体のヴェルズを上回った。

 「行くよ!先ずはエリアでヘカーテを攻撃!『清流のクリスタル・ストリーム』!」

 「アリオスちゃん…眠って!」

 強烈な水の力がヘカーテを襲う。
 この攻撃が通れば、ヒータの効果が復活し霧恵の勝ちが略確定だ。

 「いい攻撃だがガ念ダッタな。トラップ発動『邪念の誘惑』。
  ヴェルズガ存在する時、相手の攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃宣言をリセットシ戦闘をオコナウモンスターは私が決める。
  エリアの攻撃宣言はリセットサレ、バトルをヒータとウロボロスに変更すル。」

 「そんな…!」

 霧恵の考えを読んでいた様に、キリエはこの一撃をかわす。

 「ちぃ…!だったら先ずはテメェからくたばりやがれ!『焦熱のイグニッション・ストライク』!」


 ――バガァァン!


 それでも果敢に、ヒータの一撃がウロボロスを吹き飛ばす。


 「イイ攻撃だ…。此れクライ無くてハ詰まランがな。」
 キリエ:LP3450→3000


 目論見は外れてもライフは確実に削っていっている。
 このまま行けば、或いはと言うところだ。

 「でも、攻撃を中断されたエリアは新たに攻撃権利を得てる!エリアでヘカーテを攻撃!」

 「効果は無効にされちゃったけど、もう一度…!終わりだよ!!」

 再び激流がヘカーテを襲う。
 今度はかわす事は出来ない。


 ――ドシュウゥゥゥ!


 その攻撃はしっかりと通り、ヘカーテを霧散させる。
 此れで呪縛は解けた筈だ。


 キリエ:LP3000→2950
 「ヤルナ。だがこの瞬間ニヘカーテノ効果発動。ヘカーテが破壊さレタ時、デッキから『ヴェルズ』を特殊召喚でキル。
  だが、ヘカーテの効果でしか特殊召喚デキナイモンスターガ存在する。
  ヘカーテは貴様等ノ前から消えはセン。さぁ来イ、『ヴェルズ・ヘカーテ・ダークネス』!
 「うぅ…ガァァァァァァァァァァ!!!」
 ヴェルズ・ヘカーテ・ダークネス:ATK3550


 「そんな…!」

 ヘカーテは破壊したものの、その効果で現れたのは又してもヘカーテ。
 その姿は更に侵食が進み、仮面はなくなった変りに、顔の半分は蟲の其れに変異している。
 体の彼方此方から蟲を思わせる足が生え、その姿に最早嘗ての聖霊魔導師の姿は無い。
 そして、その力で霊魔導師達の力は矢張り無効にされてしまうのだ…

 「クソ野郎…!何処までもアリオスを穢すつもりか!」

 怒り心頭のヒータのセリフは、このデュエルを見ている美咲達も思っただろう。
 何より、霊魔導師を失った時の霧恵の悲しみを知るものにとっては此れは許せるものではない。

 「アリオス…!…この……カードを2枚伏せてターンエンド。そしてエリアとヒータの攻撃力は元に戻る…」

 聖水霊魔導師−エリア:ATK3000→2500
 聖火霊魔導師−ヒータ:ATK3200→2700


 さりとてデュエルは続く。
 攻撃力は元に戻り、強化されたヘカーテには及ばない。
 伏せられたカードが頼みだろう。

 「私のターん。ヘカーテ・ダークネスの効果、手札ノヴェルズを墓地に送リ、相手モンスターを全滅サセる!」

 「何ですって!?」

 「ヴェルズ・ゴーレムを墓地に送り…滅びろ霊魔導師!!」


 ――ゴガァァン!


 「きゃぁぁぁ!」
 「畜生…!!」

 凶悪至極と言える効果で、霧恵の場は一掃。
 ダイレクトは確実だ。
 にも拘らず、キリエは更に、

 「ダークネスをリリースし――現れろ『ヴェルズ・ヘカーテ・ザ・ケイオス』!」
 「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…!」
 ヴェルズ・ヘカーテ・ザ・ケイオス:ATK4050


 究極の1体を召喚して来た。
 其れはヴェルズに完全支配されたアリオス。
 下半身はムカデを思わせる蟲の其れになり、上半身には無数の足が生えている。
 辛うじて顔だけが、前の段階とは違いアリオスだと分かるくらいだ。

 「ザ・ケイオスの効果で、お前ノフィールドのモンスターハ全て効果ガ無効ニナる。尤もお前の場ニモンスターは居ないガナ。」

 「そんな…アリオス…!」

 思念体とは言え、此処まで犯された姿は見たく無いのは当然だ。
 あまりにも残酷な所業だ。

 「その魂ヲ砕いテヤる。ザ・ケイオスでダイレクトアタック!!」


 凶悪な一撃が霧恵を襲い、そのライフを一気に削り取る。

 「う…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 霧恵:LP5250→1200


 「未だだ。ザ・ケイオスが攻撃シタ時、相手に1000ポイントのダメージを与エる!」

 「そんな…あぁぁぁぁあぁぁ!!!」
 霧恵:LP1200→200


 5000ポイント以上あったライフが一気に削られる。
 更に今の一撃は、霧恵の心にもダメージを残す結果となった。


 ――勝てない…勝てないよ。霊魔導師達の力が通じない…アタシの戦術も読まれてる…終わりだよ…


 ライフを失い、4050ものモンスターを前に心が折れそうになる。
 あまりにも絶望的な状況だ。

 「心が折レタか?ターンえンド。」


 エンド宣言。
 しかし霧恵は動こうとしない。
 間違いなく絶望に支配されかけていた。


 「アタシは……!」


 「諦めるな霧恵。」

 だが、その霧恵に声が話しかけてきた。
 其れは二度と聞くことが敵わないと思っていた声…


 「!!!この声は…まさかアリオス!」

 「そうだ、私だ霧恵。」

 失われた筈のアリオスの声に相違なかった。

 「私の魂は6体の霊魔導師に受け継がれた。私は一時出てこれただけだ…この一瞬だけに。」

 「アリオス…」

 奇跡といっていいだろう。
 僅かな時間で有れ、アリオスの魂が復活したのだ。

 「諦めるな霧恵。お前にはまだ手が残されている。
  アレは確かに凶悪かつ強力だが、お前のその2枚の伏せカード…其れが鍵だ。
  諦めるな。諦めなければ必ず勝つ事が出来る。私も常にお前と共に居る。
  だから絶望に染まるな。お前の力で、邪念に囚われた私の思念体を救ってやってくれ…頼む。」

 それだけ言ってアリオスの姿は粒子と名って消えた。
 恐らくは此れで本当にアリオスと会うのは最後になるだろう。
 だからこそその言葉は霧恵に届いた。
 折れ掛けた心が持ち直した。


 ――そうだよね。諦めちゃいけない。アタシのライフは未だ尽きてないんだから!ありがとうアリオス!
 「アタシのターン!」

 「く…持ち直しタカ…厄介な魂メ。余計ナ事を…!」


 持ち直した霧恵には真に迷いがなくなっていた。
 それどころか、不屈の、絶対に砕ける事の無い強さすら感じさせる『何か』があった。

 「トラップ発動『ロスト・スター・ディセント』。アタシの墓地からシンクロモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
  ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になってレベルは1つ下がり、
  守備力も0になって表示形式も変更できないけどね。
  それでも、此れが私の新たな道の始まり、戻ってきて『聖水霊魔導師−エリア』!」
 「大分制限されたけど…復活だよ!」
 聖水霊魔導師−エリア:DEF2500→0   LV8→7


 「更にトラップ発動『霊魔導の封印結界』!
  アタシの場に『霊魔導師』が存在する場合、このターンのエンドフェイまで相手フィールド上の全てのカード効果を無効にする!」

 「何だト!!」

 伏せられていた2枚のカードによるコンボ攻撃。
 此れでこのターン霧恵のモンスターの効果が無効にされることはなくなった。

 「アリオスの魂は何時でもアタシと共にある。でもそれだけじゃなくて、例え負の感情でも其れは全てアタシが受け止める!
  だから苦しまないで?アタシはもう大丈夫だから…ゴメンね、貴女もアタシと一緒に居よう?」

 「亜我…?…キ…リエ…」

 優しく話しかける霧恵に、ヘカーテの瞳が僅かに揺れた。
 ヴェルズに支配されきらなかった僅かな思念体の理性の部分、其れがホンの少しだけ戻ったのだ。

 「おいで、ずっと一緒だから。ううん、アタシと一緒に居て?」

 「霧恵…アァ…そうか…私は…此れで解放されるんだな…」

 ヘカーテの身体から淡い光が溢れ、其れが霧恵に降り注ぎ吸収されていく。

 「ば、馬鹿な…!コンナ事が…!」

 キリエも驚く。
 まさかこんな事態が起こるとは思わなかったのだろう。

 「お休み、アリオス――貴女が残してくれたモノ…大切に使わせてもらうから。
  ふぅ…待たせたわね!さぁ、覚悟は良い?アリオスの思念体を弄んでくれた礼はしっかりさせてもらうから!」

 「くぬ…!」

 アリオスの思念体をその身に取り込んだ霧恵は微塵も迷いは感じれない。

 「今此処でアンタを倒してヴェルズの野望は砕く!チューナーモンスター『祝福の魔導騎』を召喚!」
 「この翼…折れる時まで!」
 祝福の魔導騎:ATK1500


 「祝福の魔導騎の効果発動!召喚に成功したとき墓地からレベル3以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚できる。この効果で、蘇れ『湖の治癒魔導師』!」
 「さぁ、行きましょう。」
 湖の治癒魔導師:ATK300


 シンクロモンスターと2体のチューナー。
 単純にそれだけでは、ザ・ケイオスを倒す事はできない。
 だが、霧恵の新たな力は、既に覚醒していた。


 アリオスの思念とその身を一つにした事によって。


 「アタシとアリオスの思念は一つになった。もう迷わない。この心と魂は二度と砕けない!
  砕け得ぬ我が魂――『ダイヤモンドソウル』!」


 瞬間、霧恵から眩いばかりの光が溢れ出す。
 其れは正に絶対的な強さを誇るダイヤモンドの如き光。

 「レベル7となったエリアに、レベル2の湖の治癒魔導師と、レベル3の祝福の魔導騎をダブルチューニング!」


 「「「ダブルチューニング!?」」」

 「馬鹿ナ…ソンナ事が有りエルノか…!」


 2体のチューナーが通常のシンクロとは異なり、ダイヤモンドの如き輪となりエリアを球形に包み込む。

 「大いなる魔導と優しき心が今此処に交わる。砕け得ぬ魂よ、無限の力を我が前に示せ!
  シンクロ召喚、清き流れ『神水霊魔導師−エリア・ヘカーテ』!」
 「ずっと一緒だよ、アリオスちゃん。ヘカーテになった思念体もね…」
 神水霊魔導師−エリア・ヘカーテ:ATK3200


 輪が砕け、その中からエリアが新たな力を持って現れる。
 アリオスの魂と思念、その両方を受け継いだ最強の姿で!

 「コ、此れハ…!」

 「湖の治癒魔導師がシンクロの素材となった事でアタシのライフは900ポイント回復する。」
 霧恵:LP200→1100


 「そしてエリア・ヘカーテはアタシの墓地の魔法使い族のチューナー1体に付き攻撃力が700ポイントアップする。
  アタシの墓地の魔法使い族チューナーは4体!よって攻撃力は2800ポイントアップ!」
 「皆の力、私に貸して!」
 神水霊魔導師−エリア・ヘカーテ:ATK3200→6000


 「こ、攻撃力6000ダト!?」

 「此れで終わり!速攻魔法『霊魔導術−覚醒』!アタシの場に霊魔導師が存在する時、アタシのフィールドのモンスターの攻撃力を1500ポイントアップする!」
 「侵略者、覚悟はいいよね?」
 神水霊魔導師−エリア・ヘカーテ:ATK6000→7500


 究極至極。
 正に圧倒的な攻撃力だ。
 折れかけた心を持ち直した事で得た砕けぬ魂『ダイヤモンドソウル』。
 それが侵略者の策略を越えたのだ。

 「バトル!エリア・ヘカーテでヴェルズ・ヘカーテ・ザ・ケイオスを攻撃!『激流のダイヤモンド・スプラッシュ』!」
 「大人しく眠ってて!!」


 ――バシャァァァァァァ!!


 撃ち出された一撃はまさしく激流。
 しかし激しくも、力強い輝きを宿した透明な水の力は、思念を失い抜け殻となったザ・ケイオスを粉砕する。

 「コンナ…馬鹿な!」
 キリエ:LP2950→0


 「アリエン…我等ヴェルズの悲願がコンな所で…!コンナ…こんなトコロでぇぇぇぇ!!
  オノレ…オノレェェェェェェェェ!!我等は滅びヌ…この世に邪念ガアる限り何度でも…何度でモぉぉぉぉ!!」

 「何度来ても無駄。アタシが、遊哉と遊星が、チーム遊戯王が…ううん、真のデュエリストの魂を持つ者が居る限り侵略は成就しない、絶対にね。」

 「ウガァァァァァァァァァ!!!」



 ――バシュゥゥゥ…



 邪念そのものと言える断末魔を残し、キリエは消滅した。
 否、消滅の瞬間には既に霧恵の姿ではなくなっていたが…


 ――ガチャリ


 「鍵が開いたよ霧恵!」

 「…館に巣食う悪意を倒して開放ね…ホンと最後の最後までお約束だわ。」

 邪念の消滅と共に入り口の鍵が開き、外に出られるように。
 同時に、洋館を覆っていた不気味なオーラも消え去った。


 「霧恵…その大丈夫かい?」

 「氷雨…うん、もう大丈夫だよ。吹っ切った訳じゃないけど、アリオスはアタシと一緒。この命尽きるまでね。」

 自分の胸に手を当て霧恵はそう告げる。



 こうして、開発地区で誰に知られる事も無い事件は幕を閉じた。



 そして、この洋館が完全に取り壊されたのはそれから3日後の事だった…









 *補足




 ヴェルズ・ヘカーテ
 ランク6   闇属性
 魔法使い族・エクシーズ/効果
 「ヴェルズ」と名のついたレベル6モンスター×2
 エクシーズ素材を持っているこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上に存在するレベル5以上の特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
 フィールド上のこのカードが相手によって破壊された場合、自分のデッキから「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚できる。
 ATK2950    DEF3050



 ヴェルズ・ヘカーテ・ダークネス
 レベル9   闇属性
 魔法使い族・効果
 このカードは通常召喚できない。「ヴェルズ・ヘカーテ」の効果でのみデッキから特殊召喚できる。
 このカードが表側表示で存在する限り、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターの効果は無効になる。
 1ターンに1度手札の「ヴェルズ」と名の付くカードを墓地に送り、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。
 ATK3550    DEF3450



 ヴェルズ・ヘカーテ・ザ・ケイオス
 レベル11   闇属性
 魔法使い族・効果
 このカードは通常召喚できない。自分フィールド上の「ヴェルズ・ヘカーテ・ダークネス」をリリースした場合にのみ特殊召喚できる。
 このカードが表側表示で存在する限り、相手フィールド上のモンスターの効果は全て無効になる。
 このカードが戦闘を行った場合、ダメージステップ終了後に相手に1000ポイントのダメージを与える。
 ATK4050    DEF3950



 ヴェルズ・ディスペラー
 レベル6   闇属性
 機械族・効果
 このカードはフィールド上のエクシーズ素材を1つ取り除き、手札から特殊召喚できる。
 「ヴェルズ・ディスペラー」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
 ATK2250    DEF1150



 ヴェルズ・サイレス
 レベル4   闇属性
 昆虫族・効果
 自分フィールド上のモンスターのレベルを2つ下げる事でこのカードは手札から特殊召喚できる。
 ATK1150    DEF150



 隠された宝書
 通常魔法
 手札から魔法使い族チューナー1体を捨てて発動する。デッキからカードを2枚ドローする。



 霊魔導術−覚醒
 速攻魔法
 自分フィールド上に「霊魔導師」と名のつくモンスターが表側表示で存在する時にのみ発動できる。
 エンドフェイズまで自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターの攻撃力は1500ポイントアップする。



 慈愛の魔導法衣
 通常罠
 このカードは発動後装備カードとなり自分フィールド上の魔法使い族のシンクロモンスターに装備される。
 装備モンスターは1ターンに2度まで戦闘では破壊されない。



 霊魔導の封印結界
 通常罠
 自分フィールド上に「霊魔導師」と名のつくモンスターが表側表示で存在する時にのみ発動できる。
 エンドフェイズまで相手フィールド上に表側表示で存在する全てのカードの効果を無効にする。



 邪念の誘惑
 通常罠
 自分フィールド上に「ヴェルズ」と名のつくモンスターが表側表示で存在する時にのみ発動できる。
 相手の攻撃宣言を中止し、自分フィールド上のモンスター1体と相手フィールド上のモンスター1体を選択して戦闘を行う。
 この効果で攻撃を中止した相手モンスターは効果が無効になり、このターンもう1度攻撃する事ができる。

















  To Be Continued… 

-47-
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