小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 童実野埠頭の沖合いに突如現れた謎の神殿。
 その神殿の最上部の一室に雪花とフレディは居た。

 玉座らしき部分に座る雪花と、その横に立つフレディ。

 「先ずは成功ね。あの2人は?」

 「夫々の部屋に配置しとぅあ。お前の洗脳ぬぁらば、先ず解けることはないどぅあろう。」

 あの2人とは恐らくはディックとアギトの2名。
 2人とも雪花のサイコパワーで洗脳され、忠実な下僕とされてしまったらしい。

 「どぅえわ、私も自分の持ち場に付くとしよう…」

 「えぇ、頼むわ。」

 フレディも己が持ち場へ。
 神殿に入り込んだものたちを排除する役割なのだろう。

 「さて、此れが絶望の最終章の第2幕…如何する『チーム遊戯王』?」

 玉座に座ったまま手元のスイッチを押す。
 邪悪な笑みを浮かべた雪花の背後に、一瞬黒いローブを纏ったヤギの髑髏が見えた気がした…











 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel71
 『神殿に乗り込め!!』











 埠頭から離れたホテルの最上階からでも姿が確認できるほどの海上神殿。
 その大きさはきっと相当なものだろう。

 「神殿とかマジか?あの引き篭もり銀髪の脱獄のこと考えるとタイミングよすぎじゃねぇか?」

 「確かにそうだな。」

 その神殿を見ながら、矢張り遊哉と遊星――と言うかチーム遊戯王全員が何か『他意』を感じていた。
 アギトの脱獄、その報道の直後に浮上した海上神殿。

 単に偶然とするならば余りにもタイミングが良すぎるように思う。

 『アレは…何て言うのかな、物凄く『嫌な感じ』がする。』

 『ウム…此れだけの距離がありながらも邪悪な思念をヒシヒシと感じるぞ。』

 エリアとアグニは、流石に精霊と言うか、人間では感じ取れない『気配』を感じ取っていた。
 尤も、この面子も『アレがとてつもなく禄でも無い物』と言うのは本能的に感じ取っていたが…

 「どっちにしろ禄でもねぇ厄介モンか…よし、ぶっ壊そう!」

 「「「「「は?」」」」」

 「有っても邪魔だし、邪悪な気配とやらがするなら尚更だろうが。
  乗り込んで、中に居る奴デュエルでぶちのめして、十六夜の力でブラック・ローズ発動で神殿破壊で良いだろ?」

 最早お馴染みというかなんと言うか遊哉の思考がぶっ飛んだ。
 いや、カードの精霊たるアグニとエリアが『邪悪な気配』と言うのは流石に放っては置けない。
 更に、(目測でだが)このホテルよりも巨大な神殿が海に居座るのは確かに邪魔である。

 更に会場から消えたファントムの面々、脱獄したアギトも無関係ではないと思われる。


 そうなれば、確かに遊哉の言う事も間違いではないのだ――恐ろしくぶっ飛んでいる上に物騒だが。

 「相変わらずの思考だが…確かに一理ある。」

 「本より捨て置く気は無かったしね。」

 勿論其処まで物騒な考えでなくとも全員が、神殿を如何にかしなくてはとは思っていた。



 『此方現場に最も近い童実野埠頭です。神殿は不気味に佇んでおり……え?う、うわぁぁぁ!!!』


 「「「「「「!?」」」」」」

 と、突然室内のテレビから悲鳴が。
 何事かを確認するよりも早く…


 ――ドォォォォォォン!!


 空中から火炎放射とエネルギー砲が炸裂!


 全員ギリギリで其れを避け、空を見る。

 「カース・オブ・ドラゴン…!」

 「こっちはホワイトホーンズ・ドラゴン…!」

 「XYZドラゴン・キャノン…マジかよ。」

 其れを放ったのはデュエルモンスターズのモンスター達。
 今の一撃を見る限り、何らかの力で実体化しているのだろう。

 着弾点は床が抉れて下の部屋に繋がる穴が出来てしまっている。

 「モンスターの実体化と物理干渉…どうやらファントムの関与は間違いないみたいだぜ?」

 「アギトもね。アイツも闇のゲームで同じ事が出来てたから。」

 が、此れが奇しくも神殿出現にファントムとアギトが関与している決定打となった。
 サイコパワーと闇の力での実体化…その線が強いからだ。


 「まぁ、何にしても相手がモンスターなら如何にでもなるぜ!霧恵、遊星!!」

 「OK!」

 「あぁ、行くぞ!!」

 そして、相手がデュエルモンスターのモンスターならば対処は一つ。
 『此方もモンスターを召喚して迎撃』此れに尽きる。

 「蹴散らせ、アグニ!!」

 「エリア、お願い!」

 「頼むぞ、スターダスト!!」


 『任せておけい!』

 『ちょっと…大人しくしてて!』

 『クァァァァァァァ…!!』

 遊哉、霧恵、遊星の3人が速攻で己のエースモンスターを呼び出し応戦。
 アグニがXYZを、エリアがカース・オブ・ドラゴンを、スターダストがホワイトホーンズを夫々掃滅!


 「流石だな…だが、こうなると街には…」

 「えぇ、恐らくモンスターが溢れているはずよ?」

 さっきのテレビからの悲鳴と今の攻撃を考えれば其れは間違いではない。
 其れを肯定するがの如く、眼下の市街地では爆発音やら黒煙が…

 「ちっ…しょうがねえ、適当にバラけてモンスター共を倒しながら埠頭に集合だ!」

 「うん、其れが良さそう。」

 迷う事など無い。
 既に状況はのっぴき成らない状態に成っているのだ――無視はできない。する心算もないが。

 直通エレベーターで1階まで降りたチーム遊戯王の面々はそのまま外に出て夫々のDホイールに。


 ――バオォォォォン!!!


 そして一気にエンジンを起動し街へ繰り出す。
 掃滅戦の始まりだ!








 ――――――








 「オラオラオラァ!守護女神と龍皇のお通りだ!道を開けろ三下共ぉぉぉぉぉ!!!」

 で、六手に分かれてモンスターを掃討しつつ埠頭で落ち合う予定と相成ったわけだが…遊哉は予想通り暴れまくっていた。
 全力全壊の悪役モードはいつも通りだが、それ以上にモンスターが凄い事になっている。
 Dホイールに備え付けられているデュエルディスクにアグニ、ミヅチ、ヴァリアス、イズナ、ルドラの5体の龍皇。
 更に左腕にスタンディング用のデュエルディスクを装着し、其処にグラン、アルディオン、アシェル、グレイス、そしてシンクロ化したエアトスの5体が!
 正に過剰戦力此処に極まれり、『自重?なに其れ美味しいの?』と言わんばかりの状況だ。

 無論デュエルではないからこそやっているのだが…

 『グオォォォォオ…!』
 『キシャァァァ…!』
 『GYyyyyyyyyyyy!!』

 ある意味では最も効果的と言えるだろう。
 倒しても倒しても次から次へと湧いてくるのだ。
 今しがた現れた『アンデッド軍団』の様に。

 「アンデッド=生ける屍、ぶっちゃけ生ゴミ。つまり……汚物は…消毒だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 『どちらが悪役か分らぬセリフだが、取り合えず滅せよ!』

 『まぁ、マスターの悪役は絶好調の証ですからね…』

 悪役全開の遊哉にちょいと突っ込みいれながらも確りとモンスターは殲滅して行く。

 『ウガァァァ!!!』

 「邪魔だボゲェ!!」


 ――バガシャァァン!!


 『…Dホイールでモンスターを轢き殺すというのは…』

 『駄目ではないか?絵面的にも…』

 最早遊哉は止まらなくなっているらしい。
 龍皇とエアトスで掃討しつつ、時には自らでDホイールでの体当たりしてモンスターを完全滅殺だ。


 埠頭まではもうあと少し。
 が、決まってゴールが近づくと厄介な敵も現れる。

 『ガァァァァァァ!!』×3
 『ゴォォォォォン!!』×3
 『グゥゥゥゥゥゥ!!』×3

 遊哉の行く手を阻むように現れたのは3体のF・G・Dと3体の黒いサイバー・エンド・ドラゴン、3体のレインボー・ダーク・ドラゴンだ。

 「攻撃力4000が6体と、5000が3体だと?上等だゴルァ!!」

 だからと言って勿論怯む事はない。
 最上級クラスのモンスター9体に向かうが…

 「砕けろ『八双無限爆光破』!」

 其れよりも早く、8つのエネルギー波がレインボー・ダーク1体を残して粉砕。

 「今のは!成程、コイツで楽勝だぜ!アルディオン『ドラグライト・ブレイカー』!」

 『消えろ!!』

 続けてアルディオンの一撃で残るレインボー・ダークを撃滅。
 最上級クラスの9体もまるで相手になっていなかった。

 「サンキュー!助かったぜ撫子!」

 「ワシだけではない、影虎と総一郎、其れにチームレックスの連中もモンスターの掃討に乗り出して居る。」

 8体のモンスターを葬ったのは『チームYAMATO』の撫子だった。
 騒動を知り、チームメンバーと共に街に蔓延るモンスターを殲滅していたのだ。
 恐らくはチームレックスの面々も同じ理由だろう。

 「街のモンスター共はワシ等に任せろ。お主らはあの神殿を沈めるが良い。」

 「言われなくてもその心算だが、お言葉に甘えるぜ撫子!街のモンスター共は任せる!」

 「うむ、任されたぞ!」

 一度だけ拳を軽くあわせると、そのまま遊哉は加速し埠頭目掛けて一直線。
 チーム遊戯王の他のメンバーもそろそろ埠頭に付いている頃だろう。








 ――――――








 「全員揃ったな?」

 童実野埠頭にはチーム遊戯王のメンバー全員が揃っていた。
 多少の差異はあれ、ほぼ同時にこの場に到着。

 後は突入するのみだ。
 神殿は海上の先だが、其処はアキのサイコパワーを使う事でカバーできる。

 アキの力でミヅチの攻撃に物理干渉力を持たせれば海面を凍らせる事も可能だ。
 そうなればその上を走って神殿まで行く事が出来るのだ。

 そして此処で更なる人物が現れる。

 「矢張り来たかチーム遊戯王。私も共に行こう。」

 「お前は…。」

 現れたのはバイザータイプのサングラスで顔を隠した『謎のDホイーラー』。
 遊哉と遊星に『アクセルシンクロ』を授けたあの人物だ。


 「オメェかグラサン。つーかテメェ一体何モンだ?敵じゃあ無さそうだが…せめて名前くらい名乗ってくれよ?」

 「そうだったな。尤も君達ならば分るとは思うが…」

 遊哉に言われ、謎のDホイーラーはヘルメットとサングラスを外す。

 「な、お前は…!」

 「2年前に行方不明になったプロDホイーラーのブルーノ…!」

 全員がその顔に見覚えがあった。一方的にだが。
 男の名はブルーノ。
 2年半程前までは世界的に知られていたプロのDホイーラー。

 シンクロを操り、世界トップレベルの実力を有していたが2年前に突然消息不明に。
 其れについて様々な憶測がなされたのは遊哉達の記憶にも新しい。

 「アンタだったのかよ…一体今まで何処に居たんだ?」

 「…復活の為の準備をしていた。ファントムによって壊されたこの身体のな。」

 「ファントムに?」

 ファントムによって身体を壊されたとは如何いうことだろうか?
 其れはこの場の全員の疑問だろう。

 「私が消息不明になる以前よりファントムの創始ディックは活動を行っていた、己の目的達成の為に。
  当然、当時既にトップデュエリストとしてその名を馳せていた私にもコンタクトをとってきた。
  無論、私は彼の思想、目的に賛同する事はできなかったから其れを断ったが…其れがディックには面白くなかったのだろう。
  同志にならぬのならば邪魔と判断した彼は、私のDホイールに爆弾を仕掛け、調整走行中の私を爆破した。
  そのダメージで私は2度とデュエルはおろか普通に日常を送る事すら出来ない身体となってしまった。
  だが、私はデュエルを、Dホイールを諦める事ができず――唯一無事だった自分の生態脳を機械の身体に移し変えたのだ。」

 「「「「「!!!」」」」」」

 衝撃だ。
 目の前のブルーノは脳以外の全てが機械――サイボーグだと言うのだ。
 俄には信じがたい、だが否定するだけの材料も無い。

 「お前の目的はファントムへの復讐なのか?」

 「違う。」

 話を聞いて遊星が問うが、答えは否。

 「ファントムへの復讐心が無いかと問われれば、全く無いとは言い切れない。
  だが、私は私の様な人を増やしたくは無い…こんな思いをするのは渡し1人で充分だ。」

 矢張り復讐心はゼロではない。
 だがそれ以上にブルーノは『己と同じ人を増やしたくない』と言う思いが強い様だ。


 嘘とは思えない。
 サイボーグゆえのカメラアイだが、其れで居て尚その目には一切の偽りは感じられなかったのだ。

 「まぁ、敵じゃねえなら良いだろ?寧ろ世界トップランクのDホイーラーが仲間だってんなら頼もしい事この上ねぇ。
  なんにせよあの神殿は如何にかしなくちゃなんねぇからな……戦力は多いほうが良いってモンだぜ!」

 だから遊哉も肯定する。
 いや、遊哉だけでなくこれはチーム遊戯王全員の総意だろう。

 「ま、あんまし時間とるのも良くねぇし、ソロソロ神殿に突入と行こうや?十六夜。」

 「えぇ、任せて。」

 『即突入』の為にアキに頼むが、其れよりも早く



 ――ヴィィィィン…



 神殿から光の道が伸びてきた。



 誘っているのだ『来るなら来い』と。

 普通なら『罠か?』と警戒し、進むのを躊躇うだろう。
 だが、この『チーム遊戯王』に其れは通じない。

 「へっ…ったく優しいこって。」

 「あぁ、態々俺達が乗り込むための道を用意してくれたんだからな。」

 「寧ろ此れだけしてもらって乗り込まないほうが無礼よね?」

 何があろうと進むのみなのだ。
 罠が有ろうと何だろうと、歩みを止めないのがチーム遊戯王なのだ。

 「寧ろ乗り込んで、叩きのめさなきゃ万足出来ないぜ。」

 「そうね…迷わず行きましょう。」

 迷いなど端から無い。
 ブルーノを含めた全員がエンジンを起動させ、発進準備。

 「行くぜ!!」

 そして遊哉の号令と共に、光の道に飛び出し神殿に向かって驀進!
 恐らく1分もあれば神殿に到着するだろう。








 ――――――








 「安い挑発には怯みもしないか。そうじゃないと困るけれどね。」

 一方、玉座に座った雪花はモニターでこの光景を目にしていた。
 あからさまな罠を張っても突入してくる事くらいは予想通りなのだろう。

 「来なさいチーム遊戯王。お前達が神殿に降り立ったその時が絶望の最終章、その第3幕の幕開けになる。
  もっとも、私の元に辿り着ける者がどれだけ居る事か…ふふふ…あ〜っはっはっはっはっは!!!」

 玉座のある部屋には雪花の狂気に満ちた笑いが響き渡っていた…

















   To Be Continued… 




-71-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える