小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 3組に分かれて神殿内部を進む一行。
 その中の1組、アキと鬼柳は暗い通路をDホイールのライトの明かりのみで進んでいた。

 神殿内部に大きな違いあるとは思えない。
 恐らくは残る2組も同じような通路を走っている事だろう。


 「曲がりくねった緩い坂道か…少なくとも上には向かってるって事か?」

 「えぇ、そうなるわ。遊星達も上に向かっているのかしら?」

 「多分な。ラスボスの部屋は最上階が決まり事だ。其処を目指していこうぜ!」

 「そうね。…どうせなら一番乗りして満足してみる?」

 「分ってきたな?そうだ、一番乗りして満足しようぜ!」

 お世辞にも広いとは言えない通路を、しかしスピードを緩める事無く疾走しゴールを目指す。
 やがて通路の終わりを告げる扉が現れ、その扉が開く。

 「此処は…?」

 「随分広い部屋だな?」

 2人が付いたのは何の飾り気もない巨大な部屋。
 今までの通路と違い、照明はある様だ。

 「くくく…僕の前に現れたのはお前達か…」

 その部屋に響く声。
 現れたのは長い銀髪の男――元ノーバディの首領、アギト=アルツベイン…











 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel73
 『存在しない存在』











 現れたアギト。
 そのアギトをアキは鋭い視線で睨みつける。

 『闘いの王国』でのアギトの所業と、自らの敗北は忘れる事はできないのだろう。

 アギトもアギトで、睨みつけてくるアキに対しに歪んだ笑みを浮かべる。
 以前よりも不気味に感じるのは操られているが故だろうか…

 「又しても僕の前に立ち塞がるのか、十六夜アキ?闘いの王国で僕に無様に負けたことを忘れたか?」

 「忘れては居ないわ。…けれど貴方こそ忘れたの、決勝戦で遊哉にパーフェクト負けを喰らったのを。」

 挑発には挑発で返す。
 アキの瞳には一切の迷いは見て取れない。


 其れは鬼柳もまた然りだ。

 眼前に現れた、『ノーバディの首領』を前に、しかし緊張は皆無。
 緊張どころか、


 ――…銀の長髪、俺と被るな。


 こんな事を考える始末。
 自分の意志で行動するデュエリストと、洗脳された者の差がまさに此れなのだろう。



 「…嫌な記憶をを…。まぁ緋渡遊哉への復讐は後に回すとしても、お前達は此処から先には進ませない。
  どうしても進みたいと言うのなら、僕をデュエルで屈服させるより他に方法はないよ?」

 「なら先に進むのは楽そうだな。ファントムの操り人形が相手じゃ満足には程遠い…」

 視線が交錯し、挑発舌戦。
 本より、舌戦は舌戦でデュエルを回避するなどと言う考えはない。

 アキと鬼柳は先に進むために、立ち塞がる相手は砕くのみ。
 雪花の手駒と化したアギトは、操り手の命令に従いこの場に現れたデュエリストは抹殺し先には進ませない心算なのだ。


 「大口を…なら2人纏めて相手をしようか?僕1人vsお前達2人の変則デュエルで!」

 「本気?私達2人を相手にして勝てる気でいるの?」

 「大口はどっちだか…良いぜ、お前の策に乗ってやる。来いよ、俺達を満足させられるならな!」


 『纏めて相手をする』と言うアギトに、敢えてアキも鬼柳も乗る。
 2vs1と言う変則マッチならば、2人の方は使える戦術が倍になる。

 鬼柳のデッキは特殊だが、その辺はアキも分っている上での変則マッチ承諾だ。


 「くくく…乗った事を後悔させてあげるよ!」

 「やってみろ操り人形。」

 「是が非でも先には進ませてもらうわ。」


 デュエルディスクが展開され、ソリッドヴィジョン発生装置が輝きを放つ。
 其れと同時に、不気味な結界が発生。

 『闘いの王国』でアギトが使った『闇のゲーム』のフィールドだ。
 此処でも其れを使う機満々らしい。


 が、アキは前の様に気圧されはしない。
 一度見た戦術ゆえ、その効果も分っていれば怖くない。
 鬼柳など、ハナッから気圧される気配すらない。


 闇のゲームを展開しても微動だにしない2人にアギトは顔を歪ませる。
 が、直ぐに気を取り直し意識をデュエルに切り替える。

 アキと鬼柳は既にデュエルモードだ。



 「「「デュエル!」」」


 アキ&鬼柳:LP4000
 アギト:LP4000



 始まった変則デュエル。
 1vs2のハンディキャップデュエルの場合、先攻は1人の方から。

 よって先攻はアギトからとなる。


 「僕のターン!僕はフィールド魔法『何者でもない者の聖域』を発動。」

 先ずはフィールド魔法を発動。
 その効果で景色が変わり、生物の体内を思わせる不気味なフィールドに成り代わる。


 「…悪趣味ね。」

 「マッタクだぜ…」

 「くくく…まぁ万人受けするフィールドじゃあないさ。
  けど、このカードの効果は強烈無比だ!『何者でもない者の聖域』の効果発動!
  1ターンに1度デッキか手札から『不明存在』と名の付くモンスター1体を特殊召喚出来る!
  この効果で、僕はデッキから『不明存在−シャドウ』を攻撃表示で特殊召喚する!」
 不明存在−シャドウ:ATK1800


 「更にシャドウの効果!このカードの特殊召喚に成功したとき、手札の『不明存在』と名の付くモンスターを特殊召喚出来る!
  現れろ、『不明存在−マリオネット』!」
 不明存在ーマリオネット:ATK1500


 「そして、『不明存在−シン・サイズ』を通常召喚。」
 不明存在−シン・サイズ:DEF1200


 「カードを1枚伏せてターンエンドだ。」

 全てが下級モンスターとは言え、1ターンで3体ものモンスターを呼び出してきた。
 凄まじい展開力と言えるだろうが、アキは其れとは別のことが引っかかった。


 デッキだ。
 このアギトは明らかにデッキ構成が『闘いの王国』の時とは異なる。
 あの時は『ヴィジョン』と言うカードを使っていたはずだ。

 其れが今回は『不明存在』と言う新たな謎のカテゴリーモンスター。
 ファントム(引いては雪花の)操り人形と化した後に、デッキが組みかえられたのは明らかだった。


 「…鬼柳、私から行かせてもらっても良いかしら?」

 「ん?…ヤル気充分か。なら先ずはお前に任せるぜ。」

 「ありがとう。私のターン!」

 アギトのデッキ変更に『嫌な予感』を感じたアキは、先ずは自分が出ることを決めた。
 鬼柳も其れを承諾し、タッグチームはアキが先鋒となる。


 「手札のモンスターを捨て、チューナーモンスター『薔薇聖人』を特殊召喚するわ。」
 薔薇聖人:ATK700


 「更に私のフィールドに植物族モンスターが存在する時、墓地の『黒薔薇の苗竜』を特殊召喚出来る。」
 黒薔薇の苗竜:DEF300


 先陣を切ったらしく、即座に己のエースを呼び出す手段を整える。
 こうなれば止まらない。

 「レベル2の黒薔薇の苗竜に、レベル5の薔薇聖人をチューニング。
  冷たい炎が世界の全てを焼き尽くす…。漆黒の華よ、開け!シンクロ召喚、咲き乱れよ『ブラック・ローズ・ドラゴン』!」
 『ゴァァァァァァ!』
 ブラック・ローズ・ドラゴン:ATK2400


 「更にブラック・ローズ・ドラゴンをリリースし、手札から『ピュアホワイト・ローズ・ドラゴン』を特殊召喚するわ。」
 『キョォォォォ…!』
 ピュアホワイト・ローズ・ドラゴン:ATK3000


 速攻に継ぐ速攻であっという間に己のエースカードを進化させる。
 驚くべき速さだ。

 「ピュアホワイトの効果発動。このカードの特殊召喚に成功したとき、このカード以外の全てのカードを持ち主の手札に戻すわ!」

 更に強力な効果。
 花弁の嵐が吹き荒れ、ピュアホワイト以外の全てを持ち主に戻そうとする。

 「小癪な…トラップ発動『不明物体−X』!この効果で僕の場の『不明存在』はこのターン相手のカード効果を受けない!
  更に『何者でもない者の聖域』は相手のカードの効果ではフィールドから離れない!!」

 だがその効果をかわし、アギトはフィールドアドをキープ。


 其れは見事にはまり、アキが狙ったコンボは崩れる。
 だが、其れを引いてもピュアホワイトの方がアギトのモンスターよりも攻撃力が高い。

 其れに唯一のリバースがなくなった今、これは絶好の攻撃チャンス。
 其れを逃さずにアキは一気に攻める。

 「けど、これで貴方の場に攻撃を防ぐ為のカードはない…バトルよ!
  ピュアホワイト・ローズ・ドラゴンで、不明存在−マリオネットに攻撃、『ホワイトローズ・インフェルノ』!」


 白い炎が放たれ、アギトのモンスターを焼き尽くす。
 白き薔薇の龍はその力も恐ろしく高い。


 「ぐあぁぁぁ!!」
 アギト:LP4000→2500


 先ずは先手。
 アギトのライフを大きく削り取った。
 イキナリ1500のダメージはアギトにだって辛いはずだ。

 「ぐ…マリオネットの効果発動!
  このカードが戦闘で破壊されたとき『不明存在−マリオネット』『不明存在−ブラッドマリー』『不明存在−フェティッシュ』の何れか1体を特殊召喚出来る。
  僕はこの効果で、デッキから『不明存在−フェティッシュ』を攻撃表示で特殊召喚する!」
 不明存在−フェティッシュ:ATK1900


 だが其処は操られているとは言え、元は一組織の長だった男。
 大ダメージを喰らって尚、その顔は不気味な笑顔。
 確かにダメージこそ受けたものの、マリオネットの効果でフィールドのモンスター総数は変わっていないのだ。


 「フィールドモンスターの総数に変わりは無い…か。カードを1枚伏せてターンエンド。」

 フィールドのモンスターを途切れさせないアギト。
 勿論これもまたアギトの狙い。
 モンスターが多ければ、アドバンス召喚をはじめとして可也動ける幅が広がるのだ。


 「僕のターン!」

 アギトも其れを見越しての布陣だったのだろう、顔には『反撃準備完了』と言わんばかりの笑みを貼り付けている。
 其れが又不気味な雰囲気を漂わせているのだが…


 「僕はシャドウとフェティッシュの2体をリリースし、ダークチューナー『DT−ブラックマトリクス』をアドバンス召喚。」
 DT−ブラックマトリクス:DEF0


 「ダークチューナーですって!?」

 「一体何者だ?」

 呼び出したのは、闘いの王国の決勝戦で遊哉相手に繰り出した『闇のシンクロ召喚』に必要な『ダークチューナー』だ。
 考えるまでも無くやるつもりなのだろう『ダークシンクロ』を。


 「くくく…見せて上げるよ、ダークシンクロの力という奴をね!
  レベル2のシン・サイズに、レベル11のブラックマトリクスをダークチューニング!」

 黒い星が現れてシン・サイズが其れに飲まれ、其処に黒い星が入り込んで行く。


 「死の淵よい蘇りし、残酷なる否定存在者よ。その力で今の世界をうち滅ぼせ。
  ダークシンクロ…!世界の全てを黒く塗りつぶせ…『不明存在−フェイスレス・ドラゴン』!」
 『グォォォォォォォォ…!!』
 不明存在−フェイスレス・ドラゴン:ATK3200(レベル−9)


 現れたのは漆黒の体躯に、顔の無い頭部を持った異形の竜。
 辛うじて頭部の形と、唯一存在する口から『ドラゴン』と認識できるほどだ。

 其れほどまでに異質な竜なのだ此れは。


 「来たわね…ダークシンクロモンスター…!」

 「マイナスレベルの黒いカードか…見てくれだけのハッタリは止めてくれよな?」

 その凄まじい存在感にも、驚きはするも恐怖は皆無だ。


 だが、アギトも余裕の2人に対し不気味で歪んだ笑みを更に強くする。
 その顔はあからさまに何かを狙っている顔だ。


 「ハッタリなんかじゃないさ…この僕の力、骨の髄まで教え込んであげるよ?
  さぁ……デュエルの本番はこれからさ!」
 『ゴォォォォォォォ…!』


 アギトに呼応するようにフェイスレスも咆哮をあげる。


 デュエルは此処からが本番の様だ…
















   To Be Continued… 






 *登場カード補足



 不明存在−フェイスレス・ドラゴン
 レベル−9    闇属性
 ドラゴン族・ダークシンクロ/効果
 チューナー以外のモンスター1体−ダークチューナー
 このカードが相手モンスターを攻撃する場合、攻撃対象になったモンスターの攻撃力は半分になり効果は無効になる。
 このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、デッキからカードを1枚ドローする又は墓地のカード1枚を選択して手札に加える。
 このカードが破壊された場合、デッキからモンスターカード1枚を選択して手札に加える事が出来る。
 ATK3200     DEF2600



 DT−ブラックマトリクス
 レベル11   闇属性
 悪魔族・ダークチューナー
 このカードはダークシンクロ召喚の素材にしか使用できない。
 墓地のこのカードを除外する事で、自分の墓地のダークシンクロモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ATK0    DEF0



 不明存在−マリオネット
 レベル4    地属性
 悪魔族・効果
 このカードが戦闘で破壊されたとき、デッキから「不明存在−マリオネット」「不明存在−ブラッドマリー」「不明存在−フェティッシュ」
 のいずれか1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚出来る。
 ATK1500    DEF1500



 不明存在−ブラッドマリー
 レベル4    闇属性
 悪魔族・効果
 このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールド上の「不明存在−マリオネット」と「不明存在−ブラッドマリー」の
 攻撃力は300ポイントアップし、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。
 ATK1600    DEF1400



 不明存在−フェティッシュ
 レベル4    炎属性
 悪魔族・効果
 このカードが破壊されたとき、自分の墓地に存在する「不明存在」と名の付くレベル4以下のモンスター1体を手札に加える事ができる。
 ATK1700    DEF1500



 不明存在−シャドウ
 レベル4    闇属性
 悪魔族・効果
 自分フィールド上のモンスターがこのカードだけの場合、このカードは相手に直接攻撃できる。
 このカードが戦闘で破壊された場合、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
 ATK1800    DEF1600



 不明存在−シン・サイズ
 レベル2    風属性
 悪魔族・効果
 このカードはカード効果では破壊されない。
 ATK800   DEF1200



 何者でもない者の聖域
 フィールド魔法
 1ターンに1度デッキか手札から「不明存在」と名の付くモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードは相手のカード効果ではフィールドを離れない。
 このカードを墓地に送る事で、フィールド上の「不明存在」と名の付くモンスター以外のモンスターを全て破壊する。



 不明物体−X
 通常罠
 発動ターンのみ、自分フィールド上に表側表示で存在する「不明存在」と名の付くモンスターは相手のカード効果を受けない。

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