「どんな悪口?」
「え、ああ……『死ね』とか、かな。
お昼の時間によく言ってる。私もときどき賛成しちゃってた」
あまりの定番なセリフに笑うことすらしたくなかった。
「ふ〜ん。あっそ。」
自分でもドライな声音だと思う。
私の心がそのまま反映されていた。
「……ごめんなさい」
かわいそうなくらい震えてるか細い声。
いまにも消え入りそうだ。
謝罪する彼女が居たたまれなくなり、真実を話してやろうかと思う。
「私さ。小学校、中学校でそういう経験してるから。
いまさら『死ね』とかそんな陳腐なセリフ言われても傷つかないよ、残念だね」
最後の言葉は仕返しだ。
でも、今言ったことは全て事実。
けれど、唇を無意識に噛み締めていた。
――純ちゃんはしっかりしてるわね。
それが大人たちの私の評価。
そして同級生たちからも、それが一般的。
誰から見ても『イイ子』。つねに同級生からも頼りにされてた。
先生たちからも、態度などで定評があった。
――真面目で、責任感が強くて、正義感も強くて誠実な子。
そう、まさにそんな児童であり生徒だったのが、私。
しかしそれは同級生からの嫉妬の種だった。
おまけに当時クラス内の女子の中で、漫画が流行っていた。
読むのもそうだが、とくに『描く』ことが主流。
小学生の描くものだから、読んだ雑誌の漫画を真似ているのは当たり前。
けれど絵の上手さが、上手か下手につながるのだ。
当然、私も描いていた。
大好きな漫画家の絵を真似ることで、自分の絵を開拓した。
評判は上々で、描くのを催促されることもあった。
しかしそれが全ての幕開けだった。