小説『The Beast』
作者:紅桜()

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 子供を追い返した後、何もない日常が戻ってきて安心する自分がいた。
 いつもどうり本でも読んでいようか、それとも久しぶりに魔術の研究でもしようかな?腕が鈍っているからまずは腕ならしからだ。魔術関連の本を選んでもてるまで持つと、広くて日当たりがいい屋上に行こうと長い静かな廊下を歩く。
 途中、人の声が聞こえたので、何気なく見てみると、若い男女たちが仲よく笑っていた。思わず足を止めてみていると、次々と友が増えていく。そして、仲よく歌い始めた。
 人が紡ぎ上げていく欠片たちが落ち重なるのを羨んでいる自分がいた。けど、この城には誰も入ってこられない。ここは私だけの孤独に作り上げた私だけの城。どこにもドアが無い。ドアを閉ざしているのは僕のプライドだった。


「馬鹿らしい」

 吐き捨て、屋上に向かい、早速魔術の研究に取り掛かる。
 本をよく読み、魔術を組み合わせていき、次々と新しい魔術が増えていく。けれど、それを喜んでくれる人はいない。私は一人、心の中で喜んでいた。
 愚かな人の体を捨て、秀麗な面立ちと死なない体を手に入れた私は、この性格もあり、一人で、なんでもできる気になっていた。人の手なんかいらない、私一人でこんなにたくさんのことができる。何も困らない。そんな自分に酔っていた。












 


 ある日、知らない青年が現れた。
 私からしてみれば誰が現れようが知らないのだが、とにかく、驚いた。木を登って高い塀を乗り越えたのか、ボサボサな緑の短髪の上に木の葉を乗せ、目を丸くして私を見ていた。私も、同じような顔をして見ていた。
 が、青年はニコリと笑うと、初対面にも関わらず気軽に私に話しかけてきた。

「やあ!こんにちは」
「何だお前は。ここがどこだか分かって入ってきているんだろう。何が目的だ」
「何がって・・・なんとなく」
「なんとなく・・・?」

 喰われるかもしれないのに、なんとなくで入ってきた?コイツは馬鹿か。
 とりあえず、喰われる前にとっとと帰れと言い渡し、背を向けた。すると、手を掴まれた。

「恐くないよ!だって、一度会ってるから。その時も、君は食べずにいてくれたじゃない」
「一度・・・?」

 私が会ったのは幼い子供だったが・・・

「・・・お前、あの時の子供?生贄の」
「生贄って・・・まあ、そうだよ。アレから13年たったんだ!」

 いつの間にかそんなにたってきたのか・・・長い間生きているから、時間の流れが人とは違ってきているな。

「やっぱり君は魔獣なんだ。あの時から変わっていない・・・綺麗なままだ」

 『綺麗』だと言われ、私は手を振り払った。

「でも、まだ冷たいままだね。寂しいんだ」
「うるさい!私は今の生活に満足しているっお前とは違うんだ!」

 怒鳴るが、怯えもせずに私に近づいてくる。思わず私が後ずさる。
 
「ところでさ、僕をここに住ましてくれないかな?」
「はぁ?ふざけているの?」
「君と一緒に居たいんだ」

 目を見開く。私と一緒に居たいと言うやつがいるなんて、いると思わなかった。いつか殺されるかもしれないのに、何も知らないままそんなこと言うのはやっぱり馬鹿なヤツだ。
 当然、駄目だと言う。

「なんで?」
「当たり前だ。ここは私だけの城。お前なんかに済ませる場所なんかない」
「でも・・・部屋はたくさんあいてるでしょ?」
「そういうことじゃない!お前みたいな人なんかと一緒に居たくないってわけよ!」
「でも、僕は居たいな。君と一緒に。好きなんだ、君のことが」
「〜〜〜!!勝手にしろ!」

 何を言っても諦めない気だ。青年を残し、私は一人図書館入り、ドアを勢いよく閉め。その場に座り込む。
 初めて言われた『好き』という言葉に鼓動が早くなる。一度だって、だれも私に言ってくれなかったそんな言葉。いつも醜いと言われ続けた。やっと永遠の美貌を手に入れても、恐い、危ない、恐ろしい、など、私を見るとみんな一目散に逃げて行った。
 でも、それだけではない、きっと私は・・・・
 

 やっと現れたお城の住人。
 初めての愛に戸惑いました。


 けれど、私は認めようとしなかった。くだらない自分のプライドが、自分を邪魔していた。







-2-
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