小説『獣医禁書』
作者:深口侯人()

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ということで、有休を無理矢理使わされ、休みが分断されている上に帰省ラッシュが起こっているために帰郷もできず、あっという間に過ぎ去って全然“黄金”という感じのしないゴールデンウィークが終わった。
院長に怒鳴られないのはありがたかったのだが、多くの人がのんびり休んでいる時に普通に働くのはなかなか精神的にくるものがある。
「ウィーク」はこの病院の従業員にとって、「週」ではなくて「弱る」という意味の方がより相応しい。
しかし、そんなことは気にならなくなるような事件がゴールデンウィーク明けに発生。
新人看護師のうちの1人が来なくなったのだ。
電話で辞めると言ってきたらしい。
理由は「もう限界」だそうだ。
そりゃそうだ、僕も辞めたい。
院長は「最近の若い奴は根性が無い!!」とか「誰かいじめたんじゃねえだろうなぁ!?」とか言って従業員に当たり散らしていたが、その場の誰もが「お前のせいだよ!!」と心の中でつっこんだに違いない。
さらに、先輩獣医師が相槌を打ちながら辞めた看護師の悪口を言って院長を一段とヒートアップさせるので、先輩以外の従業員への被害がどんどん拡大する。
ホントにウザいコンビなので、『事故とかで早く死んでくれないかなぁ。』と心から願う。
興奮した院長は「お前らは辞めるとか言わんだろうな?」みたいな内容の事を脅迫めいた言い方で言ってくる。
とてもそんな事を言える空気ではないし、病院内は治外法権なので領主である院長に何かされても文句は言えないため、とりあえず調子を合わせて難を逃れる。
もっとも、八つ当たりを受けている時点ですでに災難に遭っているわけだが…。

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