小説『ゼロの使い魔 世界を渡る転生者【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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『第9話 ここは原作通りにしないと後々面倒だよね』






 早朝。才人とルイズとギーシュが馬に乗って、学院を出発したところを見たというキュルケに起こされ、「ダーリン追ってみましょうよ」とお願いされました。

 はい。イベント発生ですね。

 その後、キュルケと共にタバサの部屋に侵入、ベッドで寝息をたてているところをキュルケが叩き起こして、タバサにシルフィードを呼んでもらい才人達の後を追った。

 はあ、アルビオンには確か馬で3,4日かかるらしいから、マチルダとの予定を変更。連絡用の護符で、マチルダには先にアルビオンのウエストウッド村に行ってもらった。
 後、俺ならマチルダの魔力に向かって飛べば一瞬でつくとも説明しているから、才人たちが、どこに行くのかを調べてから、マチルダの元へ向かうことにした。

 そして、才人たちを追って3日ほどが経ったぐらいの夜中。才人達が、ラ・ロシェールの港町の入り口に着いた。

 シルフィードの背から、岩山の峡谷の間を縫うように街が見えた。街道沿いに、岩をうがって造られた建物が並んでいた。

 更に才人たちが進みと、待ち伏せするように崖の上に男たちが集まっていた。うん。上空からは丸見えだ

 どうやら、才人たちを待ち伏せしているようだ。

 はあ、メンドイ……。

 男たちは、才人とギーシュの目の前に火のついた松明を投げ、馬から落馬させて、矢を放った。才人に向かう無数の矢。その矢を、ワルドであろうグリフォンにまたがった羽帽子を被った長髪の男が、杖を振るい、矢を打ち落とした。

「ダーリン! タバサ!」

 キュルケがこちらを見て叫んだ。どうやら、助けに行こうと言っているようだ。

 タバサは無言でうなずきシルフィードを降下させ、小型の竜巻を起こさせて、崖から吹き飛ばす。

「シルフィード!」

 グリフォンに乗っているルイズが驚きの声をあげる。

 シルフィードを更に降下させ地面に降り、シルフィードの背からキュルケが飛び降りて「お待たせ」と髪をかきあげた。

 その様子にルイズはグリフォンから飛び降りて、キュルケに怒鳴った。

「お待たせじゃないわよッ! 何しにきたのよ!」

「助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、窓から見てたらあんたたちが馬に乗って出かけようとしているものだから、急いでダーリンとタバサを叩き起こして後をつけたのよ」

 キュルケはシルフィードの背に乗っている俺とタバサを指差した。タバサは、パジャマ姿で本のページをめくっていて、特に気にした様子もない。

 俺はシルフィードから降り、キュルケの隣に立つ。

「ツェルプストー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」

「お忍び? だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじぁない。とにかく、感謝しなさいよね。あなた達を襲った連中を、捕まえたんだから」

 キュルケは倒れた男たちを指差した。怪我をして動けない男たちが口々に罵声をルイズたちに浴びせかけている。そこに、ギーシュが近づいて、尋問を始めた。

 ルイズはキュルケと俺の腕を掴むと、キュルケをにらみつける。

「勘違いしないで。あなたたち助けに来たわけじゃないの」

「だったらなによ!」

 ルイズはキュルケに再び怒鳴るが、キュルケは俺の腕をとって言う。

「私たちは、アルビオンに旅行に行くついでにやってあげただけよ」

「「へっ?」」

 その言葉に俺まで間抜けな声を出してしまった。

「キュルケ?」

「あら、まだダーリンに言ってなかったわね」

 ハイ。キイテマセンヨ?

「ここからアルビオンはすぐ近くなのよ。ルイズたちをつけてて偶然ここまでアルビオン近くに着たんだし、ダーリンもこれからアルビオンに行くんだから、このまま私も一緒にアルビオンに『旅行』に行く事にしたのよ」

「マジで?」

「ええ。だから早くアルビオンへ向かいましょう」

 そう言って、キュルケはルイズの腕を払って、俺を引っ張りながら、シルフィードの元へ向かう。こいつ確信犯だな。

「ちょっ! 待ちなさいよキュルケ! あなたアルビオンが今どんな状況か分かってるの!」

 ルイズは立ち去るキュルケの背に向かって怒鳴る。

「待ちたまえ!」

 今度はグリフォンにまたがったワルドが大声を出した。

「なんでしょうか?」

 キュルケは割るワルドに興味なさげに返した。

「君たち。どうせアルビオンに向かうのなら一緒に向かわないかい? 我々もアルビオンに向かう途中なんだ」

 ワルドは困惑していた。風竜に乗ってきた3人組が内戦真っ只中のアルビオンに『旅行』に行くと言った事に、何故学生が? という疑問が生まれ、これからの計画に不確定要素を入れないためにも、どうしても、手元で監視しておこうと思ったのだ。

 うーん、とキュルケが唸り少し考えて「まあ、どうせアルビオンに向かうんだからいいわよね」と思い同行を了承した。ていうか、タバサの意思は確認しないんですか?

 それからは、ルイズ一行と一緒にラ・ロシェールに一泊することになった。











 ラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭に泊まることにしたルイズたち一行は、酒場でくつろいでいた。いや、一日中馬に乗っていたのでクタクタになっていたのだ。

 シルフィードに乗っていたことで疲れの少ない、俺やキュルケやタバサは同じテーブルにつき、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていたルイズとワルドが帰ってくるのをまっていた。

 そして、交渉から帰ってきた2人によると、明後日にならないと船が用意できないらしい。

 それから、旅の疲れを癒すためにみんな、今日はもう休むことにした。

「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋をとった」

 ワルドはそう言って鍵束をテーブルの上に置いた。

 なんだかんだで、原作通りに進んでいるみたいだ。

 っていうか、アルビオン編かよ。俺は関わらないようしておこうっと。

「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュと才人が相部屋」

 ワルドから聞いたギーシュと才人はにらみあった。

「ルシファーは、キュルケの使い魔で人間ではないとの事だったから、キュルケと同室かもしくは話し合ってくれ。僕とルイズは同室だ」

 まあ、ワルドが言っているように、自分が人間ではないと教えた。最初は始祖ブリミルの使い魔とかキュルケが虚無だと疑ったようだが、キュルケが自己紹介するときに『火』の魔法が得意だと言ったから、キュルケが虚無の使い手ではないことを確信し、興味を失ったようだ。

 才人は最後の言葉にぎょっとして、ワルドの方を向いた。

「婚約者だからな。当然だろう?」

「なあに? このオジさまって、あなたの婚約者だったの?」

 キュルケは興味津々と言った風にルイズを見た。

 だが、ルイズはそれどころではないらしい。

 キュルケに気づいていないのか、ワルドと話している。

「そんな、ダメよ! まだ、わたしたち結婚しているわけじゃない!」

「大事な話があるんだ。2人きりで話したい」

 とかなんとかで、結局ルイズはワルドと同室になった。

 そして、俺自身もタバサに許可を貰い。キュルケと共に同室になった。











 キュルケとタバサと一室使うようになった俺は、まず部屋の掃除を開始した。

 感染症とか心配だし、この国はきちんと衛生管理がされていないから、浄化魔法で部屋を綺麗にした。

 そしたら、タバサに一言「ありがとう」って感謝された。ていうか、タバサって、時々すごい可愛いときがあるよね。

 まあ、その後はいつもと変わらず、タバサはベッドに座り、本を読み出した。

「ダーリン」

 そう言って手を取ったキュルケは、窓側に誘う。

 テラスに出ると、神秘的に輝く二つの月が顔を照らした。

 キュルケが胸に抱きつき、顔を上げ唇を突き出した。俺は屈みキュルケとキスした。

 まずは軽く一回触れ合うだけのキスを、二回目は口を開き舌を絡める熱いキスをしようとしたとき。視界の端に、本の隙間からこちらを覗くタバサと、ルイズとワルドが使っている部屋の窓の外壁に器用につかまりながら、中の様子を覗う才人がいた。

 俺はキスを中断して、才人を指差す。

「どうしたの? ってあれって才人じゃないの。なにやってるのかしら」

 キュルケも気になって才人のほうを向く。

「どうやらルイズたちの部屋を覗いてるみたいね。まったく」

 キュルケは悪戯っぽく笑うと杖を取り出し、レビテーションで才人を浮かし、ルイズたちの部屋の中に入れあげた……というか、窓を壊して部屋に突っ込んだ。

「ふふふっ、これでもっと中の様子が知れるようになったはずよ」

 キュルケは悪戯成功と杖を胸の谷間に戻して、タバサが使っていないほうのベッドに腰を下ろした。

 それからは、何事もなく(まあ、ルイズと才人が怒鳴りあっていたが……)、いつも通り、キュルケと一つのベッドを使い就寝することになった。











 次の日の早朝。部屋をノックされる音に起き、誰だよとドアを開くとワルドがいた。

 なんでも、才人と決闘するらしい。そして、その決闘の立会人になってほしいとの事だった。

 まあ、「めんどい」って言って断ったけどな。

 そりゃあ、俺はそんな男通しの決闘なんかにゃ興味もないし、さっさと追っ払って、キュルケの布団にもぐりたかったんだから仕方ないだろ。











 才人がワルドに負けてから、宿屋で落ち込んでいた時。

 俺は、キュルケとタバサに自分だけ先にアルビオンに行きたいと相談をした。

 内戦中のアルビオンにマチルダが居るからだ。

 原作介入によってマチルダはレコン・キスタ側の人間じゃないし、魂のパスを繋いでいないから心配なのだ。

 キュルケにそのことを相談すると、「私たちだけで行きましょう」と言ってくれたが、ここでキュルケやタバサがルイズ一行から消えるのはよくない。ルイズはワルドが確実にアルビオンに連れて行くとして、才人とギーシュで30人もの傭兵を相手に出来るわけがない。

 俺は、まずキュルケに先日の、ギーシュが尋問して物取りだと判断した男たちが、何者かに雇われていると教え、ここで、キュルケやタバサまで居なくなると、ルイズ一行は死ぬかもしれないと説明した。

 それを聞いたキュルケは驚き、すぐにルイズたちに教えようと言ったが、どうせ信じられないと一脚した。

「それで、結局どうするのよダーリン」

「…………」

 キュルケに尋ねられ、タバサにじっと無言で探るように見られた。

「キュルケとタバサはルイズたちを一緒に行動してくれないか」

「それって、ルイズたちの任務に同行するってこと?」

「ああ。ワルドはルイズ以外を守るとは思えないし、傭兵に襲われた場合は、任務優先と簡単にギーシュや才人を囮に使って見捨てるだろう。前回の襲撃失敗もあるから傭兵の数も多くなるだろうし、ここで俺たち3人が全員抜けるわけには行かない」

 キュルケとタバサに更に説明する。

「それに、俺一人なら内戦中アルビオンでも行動できるし、今すぐにでもアルビオンに移動できる」

「ちょっとダーリン。結局、私を置いていくの?」

 潤んだ瞳で見上げてくるキュルケ。

 マジで可愛いっス! ていうか、だいぶ原作と性格変わったなあ。頼られ系お姉さんから甘えん坊のお姉さんに転向みたいな。

「すまない。キュルケ」

 キュルケの頭を撫でて謝った。

「わたしだけでも倒せる」

 そこに今まで沈黙を保っていたタバサが言ってきた。

「わたしが襲撃者を倒す」

 だから、キュルケを連れて行けと言ってるみたいだが、それはダメだ。

「それじゃあ、ダメだ」

「なんで?」

 少しタバサが怒ったようだ。傭兵ぐらい倒せると目で訴えてきた。

 ここで俺は、何故ダメかを丁寧に説明する。そう、あの件のことも含めて。

「それではルイズが危険だからだ」

「え? ルイズはワルド小爵が守るんでしょ?」

 キュルケが不思議そうに聞く。

「ワルドは裏切り者だという可能性があるんだ」

「裏切り者!?」

「っ!!」

 爆弾発言に驚く二人に、ワルドが何故怪しいかを軽く説明。まあ、才人とルイズを離したがっている事と、ルイズと10年以上も会っていなかったのに、堂々婚約者を名乗り、しかも同室を希望した事。後は『勘だ』と言った。

「そう、あのワルド子爵は裏切り者かもしれないのね」

「でも、本当に?」

 キュルケもタバサも信じられないようだ。まあ、当然か。

「たぶんな。だから、キュルケとタバサとギーシュには襲撃者が着たら応戦して、ルイズと使い魔である才人を一緒に行動させて欲しいんだ」

 そう、なるべく原作に会うように持って行くのだ。

「わかったわ。任せてダーリン!」

 キュルケは大きな胸を叩いて言ってくれた。

 まったくいい女だなあ……うう、今すぐ押し倒したいっ!

 「わかった」

 タバサも小さく言ってくれた。ていうか、タバサってキュルケに毎回トラブルに巻き込まれてるけど怒らないな。まあ、これが本物の親友ってやつなのかな?

「ありがとう2人とも。じゃあ、俺はこれからアルビオンに向かうとして、キュルケとタバサに護衛をつけるよ」

「護衛?」

「?」

「そう、護衛」

 そう言って、魔法を発動させ、前に留守の間キュルケを守るように創った大虎を出す。

「きゃっ!?」

「っ!!」

 部屋の中に突然現れた大型の獣に驚き、キュルケは短く悲鳴を上げ、タバサは杖を構えた。

「ああ。2人とも心配しなくていいよ」

 そう言って、大虎を小虎モードに、マスコット化させる。

「こいつは魔力で作った魔物だよ。俺がいない間はキュルケを守るように創ってある」

「すごい魔法ね!」

「…………」

 キュルケは小虎を抱き上げ、タバサは未だに杖を握り締めている。

「こいつがいれば、万が一にもキュルケが傷つくことも、まして死ぬこともないからな。こんな危険地帯にキュルケをなんの備えもなく置いていくわけないだろう?」

「ダーリンっ」

 キュルケが感動したように抱きついてきて頬にキスの雨を降らしてきた。

 キュルケよりもマチルダのほうが大切なの? 見たいな事を思っていたんだろうな。

「こいつは、キュルケとタバサに危険が迫ったとき必ず守るように創ってあるんだ。だから今、俺がいなくなっても大丈夫だろうし、この魔物からキュルケたちの様子もわかる。それに魂のパスを繋いだキュルケがいる場所になら、一瞬で移動できるから、アルビオンで用が済んだら転移して帰るから、置いていかれても大丈夫だからな」

「すごいわね」

 これにはさすがに驚いたらしい。キスをやめて興味深めに小虎を観察している。

「まあ、大魔王だからな」

 格好良く決めて、キュルケと熱く唇を交わし舌を絡めて口内を名残惜しげに蹂躙してから「じゃあ、また後でな」と言ってから翼を出し、窓からアルビオンに向かって飛びたった。

 飛び立つ瞬間。ちらりとタバサを見ると、俺とキュルケにあてられたのか、わずかに頬が赤らんでいた。

「ダーリン頑張ってね〜〜〜!」

 窓側に身を乗り出したキュルケが手を振りながら叫んだ。

 タバサの思考は止まりかけていた。キュルケの使い魔が人間でなく、強いことは、先日キュルケを馬鹿にした『疾風』のギトーに、仕返しとしてか『火』の魔法でギトーが作り出した防御魔法をいとも簡単に破壊して、ギトーを震え上がらせた事などで分かっていたが、ここまで規格外だとは思わなかった。

 杖も使わずに見たこともない魔法を発動させ、今回は大型の魔物をだし、6枚の翼を広げてアルビオンへと飛び立った。キュルケの使い魔に自分の中にあった常識が崩れそうになっている。

 その後。タバサは本も開かずに、キュルケの使い魔の情報を、キュルケに聞き始めた。

 ほんの少しだけ、自分を救ってくれるかもと期待を込めて。

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ゼロの使い魔 (MF文庫J)
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