小説『ゼロの使い魔 世界を渡る転生者【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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『第16話 宝探しとタバサショック』





 ルイズがアンリエッタの婚儀の巫女に選ばれ、オスマンから祈祷書を貰った日の夜。ルシファーとキュルケは夜空の下を散歩していた。

「ねえ、ダーリン! あれ! あれ見て!」

 キュルケが突然大声を出して指を差した。

 ルシファーはキュルケが指を差した先にあるものを確認した。

「あれって、ルイズの使い魔のサイトよね! しかも、変なお風呂に入ってるし……それに、メイドと2人で一緒に入ってるわよ! ルイズったらメイドに負けたのかしら?」

 噂と恋の話が大好きなキュルケは、ルシファーを草むらに引きずり込んで、興奮しながら小声で叫んだ。

「ふふふっ、あの冴えない使い魔くんって、優柔不断そうで手が遅い子だと思ってたけど、意外と手が早いのね〜」

「いや、どちらかと言うとあのメイドが積極的に迫ったかもしれないぞ? あの才人にそんな度胸はないだろうしな」

 キュルケとルシファーは草陰で様子を覗いながら、好き勝手に才人とメイドのシエスタがどんな関係なのかを想像した。

 そして、才人とシエスタが入浴を終えて別れると、今度は才人がルイズどんな関係なのかが気になり、タバサに頼んでシルフィードを借りた。

 タバサに口笛で呼ばれたシルフィードは、女子寮の前に降り立った際に、ルシファーが居た事に気づき、驚いて「翼の人なのね!」と人の言葉でしゃべり空気が凍ったが、タバサが「ガーゴイル」と言い。早くシルフィードの背中に乗るように言ったので、風竜が人語をしゃべった事は、キュルケの頭から抜け落ち、才人とルイズに興味が向いた。

「へえ〜、仲良くなってるじゃないの」

 キュルケは小窓から部屋の中の様子を見ながら、感心したように呟いた。

 部屋の中では、才人が藁の上ではなくルイズと一緒のベッドで眠っていた。

「ああ、今まで藁の上で寝ていた才人が、一緒のベッドに寝る事を許可されるなんて、ルイズの性格も改善し始めたのかもな」

 ルシファーも来キュルケの横でルイズの部屋を覗きながら、生活改善されて良かったなと思った。

 そんな2人を、タバサは今まで読んでいた本を閉じて、聞いた。

「親心?」

 キュルケは頬を染め、もじもじと独り言を話し始めた。

「あたしとダーリンの子共が出来たら、こんな感じに子共を見守るのかしら……ふふっ、ダーリンとの子共……うふふ」

 今までのキュルケではありえない事だった。『微熱』の二つ名を持ち、恋に関しては百戦錬磨で、いつもは男と付き合っても余裕な態度のキュルケが、耳まで真っ赤にして、狼狽している姿は、以前のキュルケでは想像できなかった。

「ふむ。キュルケに娘が生まれたら、きっとキュルケに似て美人になるだろうからな。悪い虫がつかないようにしないとな」

「ダーリンっ……」

 突如、シルフィードの背中で始まった、惚気合いの熱気に当てられたタバサは「暑苦しい」と愚痴を溢した。











 アルビオンから帰ってきて10日ばかり過ぎた昼休み。食事を終えたルシファーとキュルケは、魔法学院の東の広場、通称『アウストリ』の広場で昼休みを穏やかに過ごそうと思い広場に来てみると、ルイズがベンチに腰かけ、一生懸命に何かを編んでいた。

 ベンチに腰かけ、編み物をしているルイズを発見したキュルケが、ルシファーにアイコンタクトを送り、なにをしたいのかを察したルシファーは頷いた。

 キュルケはそうっと、ベンチに腰かけているルイズに近づき、肩を叩いた。ルイズが振り向き、慌てて、文字が書かれていない真っ白な本で、今まで編んでいたものを隠した。

「ルイズ、なにしてるの?」

 キュルケは悪戯っぽい表情を浮かべ、ルイズの隣に座り、更にその隣にルシファーが腰を下ろした。

「見ればわかるでしょ。読書よ、読書」

「でも、その本真っ白じゃないの」

「これは『始祖の祈祷書』っていう国宝の本なのよ」

 ルイズは説明した。

「なんでそんな国宝をあなたが持っているの?」

 ルイズはキュルケに説明した。アンリエッタの結婚式で、自分が詔を読みあげること。その際、この『始祖の祈祷書』を用いること……等々。

 キュルケはルイズの話を聞いているうちに、先日、ルイズたちが秘密の任務でアルビオンに行った事が関係していると、気づきそれをルイズに指摘し、ルイズは認めた。

 つまり、ルイズたちの任務は王女の結婚を無事に行うためのもので、トリステインとゲルマニアの同盟が絡んでいたのだ。

 かなり重要な事であったが、それよりもキュルケはルイズが先ほどまで編んでいたものに興味があるらしく、始祖の祈祷書の下から、ルイズの作品を取り上げた。

「か、返しなさいよ!」

 ルイズは取り返そうともがいたが。キュルケの体に押さえられてしまった。

「こ、これはなに?」

 キュルケはぽかんと口を開けて、ルイズの編んだオブジェを見つめた。

「セ、セーターよ」

「セーター? ヒトデのぬいぐるみしか見えないわ。それも新種の」

「そんなの編むわけないじゃないの!」

 ルイズはキュルケの手から、やっとの思いで編み物を取り返すと、恥ずかしそうにうつむいた。

「あなた、セーターなんか編んでどうする気?」

「あんたに関係ないじゃない」

「いいのよルイズ。あたしはわかっているわ」

 キュルケは、再びルイズの肩に手を回すと、顔を近づけた。

「あなたの使い魔くんになにか編んでいるんでしょう?」

「あ、編んでないわよ! ばかね!」ルイズは顔を真っ赤にして怒鳴った。

「あなたって、ほんとにわかりやすいのね。好きになっちゃったの? どうして?」

 ルイズの目を覗き込むようにして、キュルケは尋ねた。

「す、好きなんかじゃないわ。そもそもあんたみたいに、使い魔を好きになるなんてある訳ないじゃないの!」

「あたしの二つ名は『微熱』よ? 恋の炎が燃え上がったら相手の身分なんて関係ないし、それに、ルシファーは今までの男たちと比べ物にならないぐらい素敵なのよ! そうよ! あたしたちの絆は使い魔契約よりも深い絆で繋がっているのよ!」

 キュルケは熱で惚けた表情で、隣に座ったルシファーの腕に胸を押し付け、キスを求め始めた様子にルイズは若干引いてしまった。

「へ、へぇぇ〜…………」

 ルイズは、キュルケの幸せそうな顔を見ながら、自分と才人の今までの関係を思い返し、若干今まで才人に辛く当たりすぎていたと反省していた頃。キュルケがふと思い出した。

「ああ、そう言えばルイズ! 厨房にいたメイド……」

 キュルケがメイドと言った瞬間。ルイズの目が吊り上った。

「あら? どうしたの?」

「べ、べつに……」

「…………うふっ、今、部屋に行ったら、面白いものが見られるかもよ? って、あら? どうしたのルイズ?」

 ルイズはすくっと立ち上がり、「わ、忘れ物をとりにいくだけよ!」と怒鳴って駆け出して行ってしまった。

「うふふっ、どうなるかしら?」

「修羅場になるな。まあ、楽しそうであるがルイズが魔法を暴発させて、俺たちの部屋を破壊しないか心配だな」

「まあ、その時はその時よ!」

 キュルケは悪戯が成功したように楽しそう微笑んだ。



 
 
 ◆





 ルイズと才人が喧嘩し、ルイズが才人が追い出して3日が過ぎたころ、ルシファーは才人がヴェストリの広場の片隅に建てたテントを訪れていた。

 テントの中には、ルシファーと才人。更にはヴェルダンデというギーシュの使い魔であるモグラ、デルフリンガーの2人と1匹と1つ?がいて、ルシファーは自棄酒をしている才人の愚痴をひたすら聞いていた。

「ヴェルダンデ! ここにいたのか!」

 才人の自棄酒に付き合っていると、テントにヴェルダンデを探しに来たギーシュがやって来た。

 ギーシュは始め、テントの中にヴェルダンデを見つけて安心したが、その奥にいたルシファーを見つけ腰を抜かした。

「な、なななぜ! ミス・ツェルプストーの使い魔君が!」

 ルシファーはギーシュの情けない姿に笑いを堪えつつ、平然と言った。

「別にいいだろう?」

「うっ! そ、それもそうだね……」

「そうだ! べぇついにいいだろぅ!」

 大勢の男子生徒を圧倒的な力で倒し、オスマンに土下座までさせたルシファーにビビったギーシュだったが、酒に酔った才人は、ヴェルダンデとギーシュを無理やりテントの中に引き込んだ。












 一方、キュルケはというと、ルイズの部屋を訪れていた。

 何故かと言うと、ルイズが3日前から、体調不良と言って学院を休んでいたためであった。

 キュルケはルイズの部屋をノックして、部屋に入ると、ルイズのベッドに座り込んで、布をはいだ。ルイズは、ネグリジェ姿のまま、すねたように丸まっていた。

 それに、食事の現場を見たぐらいで、才人を追い出してしまったルイズの初心さに、キュルケは呆れてしまっていた。

「で、どーすんの。使い魔追い出しちゃって」

「あんたには関係ないじゃない」

 キュルケは冷たい目で、ルイズを見つめた。薔薇のような頬に、涙の筋が残っている。

「あなたって、バカで嫉妬深くて、高慢ちきなのは知っていたけど、そこまで冷たいとは思わなかったわ。仲良く食事していたぐらい、いいじゃないの」

「それだけじゃないもん。おりによって、わたしのベッドで……」

 ルイズはぽつりと呟いた。

「あらま。セックスしてたの?」

「ぶっ! 違うわよ! 抱き合ってたのよ!」

 ルイズは、才人とシエスタが抱き合っていたことが、よほどショックだったようだ。ご飯を持ってきた子を押し倒しただけか、とキュルケは更に呆れた。

「まあ、知らないところで好きな男が他の女と自分のベッドの上で抱き合ってたらショックよね〜」

「好きなんかじゃないわ! あんなの! ただ、貴族のベッドを……」

「そんなの言い訳でしょ。好きだから、追い出すほど怒ったんでしょ」

 いちいち図星なキュルケのセリフだったが、ルイズは認めずに唇を尖らせた。

「しょうがないじゃないの。あなた、どうせ何もさせてあげなかったんでしょ。そりゃ、他の子といちゃつきたくもなるってもんよ」

 ルイズは黙ってしまった。

「ラ・ヴァリエール、あなたって、ヘンな子ね。キスもさせてあげない男のことで、泣いたり怒ったり……」

 キュルケは言葉を切り、立ち上がった。

「サイトは、あたしたちがなんとかしてあげる。毎回毎回、あなたの気まぐれで、殴られたり蹴られたり追い出されたり、彼がかわいそうよ。彼はあなたのおもちゃじゃないのよ?」

 ルイズはきゅと唇を噛んだ。

「使い魔はメイジにとってパートナーよ。それを大事にできないあなたは、メイジ失格ね。まあ、ゼロだししかたないかもね」

 キュルケがドアに手をかけて、去ろうとした背中に、ルイズは苦し紛れに呟いた。

「……なによ。使い魔を誑かして遊んでるクセに……」

 キュルケは出て行こうとした足を止め、振り返り、鼻を鳴らして冷たくルイズに言い放ってから、部屋から出て行った。

「あなたたちの関係と一緒にするんじゃないわよ。あたしたちは主従関係以上の絆で結ばれてるの。あたしは彼を使い魔なんて思った事はないわ。あなたたちと一緒にしないでほしいわね」

「ううっ……」

 キュルケは去っていった。ルイズはもうなにも言い返せなかった。

 ルイズは、キュルケがルシファー関係を堂々と宣言できた事が、くやしくて、せつなくて、ベッドに潜り込んだ。そして、幼い頃のように、うずくまって泣いた。











 才人のテントの前に、キュルケがやってきたのは夜もふけた頃だった。

 ボロテントの中からは、酔っ払いの声に混じって、ルシファーのため息が聞こえた。

 ルシファーが才人の様子を見てくると言ってから半日ほどが経っていたが、未だにボロテントの中にいるようだ。

 キュルケがテントの入り口の布をがばっと開けると、中には惨状を呈していた。

 ギーシュは、モグラに突っ伏して泣いている。才人はバンバンとワインの壜を片手にくだりを巻き、ルシファーは迷惑そうにその様子を眺めていた。

「そうらぁ! おまえの言うとおりら! おんにゃはバカばっかりら!」

 才人が大声で怒鳴った。しこたま酔っているのか、ろれつが回っていない。

「ぼくはねー、モンモランシーにだって、あのケティにだってなにもしていないんだ。ケティは手を握っただけだし、モンモランシーだって、軽くキスしただけさ! それなのに……、それなのに……。ぼくはねー!」

 ギーシュはさめざめと泣いていた。酔うと泣くタイプらしい。

「はあ〜。帰りてぇ……」

 ルシファーはそんな2人を見ながらぼやいていた。

 キュルケは才人とギーシュの情けない姿にため息を吐きつつ、テントの中に入って、ルシファーの隣に定位置とでも言わんばかりに腰を下ろした。

「おんにゃはばか!」

「ぼくはねー!」

 キュルケが入ってきた事に気づいていない才人とギーシュは叫びをあげた。

「おお、キュルケ来てくれたか」

 そんな2人を無視して、ルシファーはキュルケの登場に喜んだ。

 デルフリンガーもキュルケに気づいたようで声をあげた。

「ジェントルメン、客だぜ」

「きゃくぅ」

 才人は酔ってにごった目で、ルシファーの隣に座ったキュルケを見つめた。

「キュルケ?」

 キュルケは、微笑を浮かべて言った。

「楽しそうね。あたしも交ぜてくれない?」

 才人はこれ以上ないというほど酔っていて、女を見ただけで怒りを覚えた。すくっと立ち上がると、キュルケに向き直った。

「そのでっかいおっぱい、見せてくれたら、交ぜてやってもよい」

 ギーシュが立ち上がり、拍手をした。

「断然同意だ! トリステイン貴族の名にかけて! 断然! 同意であります!」

 キュルケは返事をする代わりに杖を抜いて、呪文を唱えようとしたが、先にルシファーが才人とギーシュの額に向かって、パンっと景気のよい音が響くほどの威力を孕んだでこピンを放ち、余りの痛みに額を押さえてもがく酔っ払い2人に、隣のキュルケを抱き寄せて言い放った。

「これは、俺の乳だ。おまえ等などにやるわけがなかろう!」

「ダ、ダーリンっ!」

 いろいろツッコミどころのある発言だったが、心の底からルシファーに惚れているキュルケは、嬉しそうにルシファーに抱きついた。

「酔いは醒めたか?」

 ルシファーがそういうと、正座をした才人とギーシュは頷いた。

 周りには、才人のテントの残骸で散らかっていて、才人とギーシュは地面に転げまわったせいで、服は泥だらけでボロボロになっていた。

 酔いの醒めた才人とギーシュにキュルケは言った。

「じゃあさっさと出かける用意をして」

「出かける用意?」

 才人とギーシュは、顔を見合わせた。

 









 それからキュルケは、宝探しをして、ひと財産当て才人にゲルマニアで貴族にならないかと誘いをかけた。

 もともと、ルシファーと冒険をしに行くために買った宝の地図だったが、ルイズに余りの仕打ちを受けている才人が、かわいそうになっての提案だった。

 才人もキュルケの提案に乗り、宝探しに出発する事になった。

 それで、宝探しのメンバーは、ルシファーにキュルケ、キュルケに誘われたタバサ。才人についでの戦力としてギーシュも誘い。おまけとしてシエスタまでついて来ることになった。











 タバサは息をひそめて、木のそばに隠れていた。目の前には、廃墟となった寺院がある。かつては壮麗を誇った門柱は崩れ、鉄の柵は錆びて朽ちていた。

 明かり窓のステンドグラスは割れ、庭には雑草が生い茂っていた。

 ここは数十年前にうち捨てられた開拓村の寺院であった。荒れ果て、今では近づくものもいない。しかし、明るい陽光に照らされたそこは、牧歌的な雰囲気が漂っている。旅する者がここを訪れたなら、昼飯の席をここに設けるようななどと思うかもしれない。

 そんな牧歌的な雰囲気が、突然に爆発音で吹き飛んだ。

 キュルケの炎の魔法が、門柱の隣に立った木を、発火させたのだ。

 木陰のタバサは杖を握りしめた。

 中から、この開拓村がうち捨てられた理由が飛び出してくる。

 それはオーク鬼だった。その数はおおよそ十数匹で開拓村に住み着いていたのだ。

 タバサの魔法でオーク鬼の数を確認し、オーク鬼を罠にはめて退治する事にした。

 まずは、ギーシュの掘った穴におびき出したオーク鬼を落とし、タバサとキュルケが魔法を放つという作戦だったが、ギーシュが先走り、作戦が失敗した。

 ギーシュが殺しそびれたオーク鬼をタバサとキュルケが魔法で殺したが、オーク鬼はまだまだ残っている。

 キュルケとタバサの魔法は強力だが、一匹一匹に使えるものではなく、緊張がはしった。

 オーク鬼は仲間を倒された怒りをあらわにして、寺院の中からぞろぞろと走り出し、人間を探し辺りを見渡した。

 すると、すっと門の前に剣を背負った人間があらわれた。

 巨大な豚の化け物が、群れをなして襲ってくる。

 才人は、震える左手で、背負ったデルフリンガーを掴み、心を落ち着かせて、跳躍のタイミングをはかり、咆哮をあげながら襲い掛かってきたオーク鬼に飛び掛った。

 才人はオーク鬼と交差する瞬間に首を切り落とし、絶命させた。

 オーク鬼は才人の人間離れした動きに恐怖し、木の上に上っていたキュルケの方へ方向を代え、走り出した。

「あっ! こら待て!」

 才人は多数のオーク鬼がキュルケたちの方へ行くのを止めようとしたが、数が多すぎて止めれずに取り逃がしてしまった。

「ルシファー! そっちにいったぞ!」

 才人は叫んだ。

 オーク鬼は咆哮をあげながらキュルケたちに方へ走ったが、また何者かが立ちふさがった。

 ルシファーは、オーク鬼を恐れた様子もなく、襲い掛かってくるオーク鬼を見据えた。

 先頭のオーク鬼が、棍棒を振りかぶり、力いっぱい振り遅した。

「がぁ?」

 オーク鬼は手応えに違和感を感じ、声をあげた。そして、棍棒の下から男の声が聞こえた瞬間。棍棒を持っていたオーク鬼の頭は、弾け飛んだ。

「ぶひっ!」

 襲いかかろうとしていたオーク鬼は、全力ではなたれた棍棒を受け止め、更にその場から動かずに同属を倒された事で、気づいたのだ。

 格の違いに。自分たちが何人いようと勝てない絶対的な強者の存在に、エルフや精霊などよりも力を持った存在に、戦意を完全に喪失し、逃げる事もなく立ち尽くしたのだ。そして、男が手を振った瞬間。戦意をなくし立ち尽くしたオーク鬼の頭が一瞬で消えうせた。

「終わったな」

 大した疲労もない様子でルシファーは才人の方を見た。

 才人は、3匹のオーク鬼に囲まれていたが、才人はガンダールヴのルーンを発動させデルフリンガーで屠り、オーク鬼の群れは全滅した。

「さすがダーリンね!」

 戦闘が終わると、タバサの風竜が地面に降り立ち、木から下りてきたキュルケは、ルシファーに抱き喜んだ後。ギーシュを小突いた。

「あいたぁ! なにをするんだね!」

「あんたの所為で、危ないところだったじゃないの! せっかくの作戦が台無しじゃない!」

「まあまあ、結果オーライでいいじゃん」

 才人が言った。

 物陰で震えていたシエスタが駆け寄ってきて、感極まったように才人に抱きついた。

「すごい! すごいです! あの凶暴なオーク鬼たちが一瞬で! さすがサイトさんすごいですっ!」

 シエスタはそれから悠々と、オーク鬼の死体を見つめた。

「あははは……、でも、俺が倒したのって4匹だけで、ほとんどルシファーがやっつけたんだけどな」

「それでも、すごいですよ!」

 才人は、デルフリンガーにこびりついたオーク鬼の血と脂を、むしった木の葉でぬぐって、命の取り合いによる恐怖を感じ震えていたが、シエスタが才人の震える手を握り、いい雰囲気を出していた。

 一方。オーク鬼を一瞬で屠ったルシファーはと言うと、タバサに質問を受けていた。

「さっきのは、なにをしたの?」

 タバサはルシファーの顔を見上げながら聞いた。

「ん? さっきのか? 何をしたかって言われたら……前と同じように拳圧をぶつけただけなんだが……」

「拳圧?」

 タバサは首を傾げた。

「魔法ではないの?」

「ああ。ただ単に素早く拳を突き出して、空気の塊りをぶつけただけだぞ」

 ルシファーは木に向けて放ち、軽くやって見せた。

「…………」

 タバサは、ルシファーの拳圧で真ん中からへし折れた木を見て絶句した。

「えっとね、この寺院の中には、祭壇があって……、その祭壇の下にはチェストが隠されているたしいの」

 タバサが絶句していると、寺院の入り口に移動したキュルケが、宝の地図を眺めながら言った。

「その中には、ここの司祭が、寺院を放棄して逃げ出すときに隠した、金銀財宝と伝説の秘法『ブリーシンガメル』があるって話よ?」

「ブリーシンガメルってなんだ?」

 ギーシュが尋ねた。キュルケは、地図につけられた注釈を読み上げる。

「えっとね、黄金でできた首飾りみたいね。『炎の黄金』で作られているらしいの! 聞くだけでわくわくする名前ね! それを身につけたものは、あらゆる災厄から身を守る事が……」












 その夜……、一行は寺院の中庭で、焚き火を取り囲んでいた。ルシファー以外、皆疲れきった顔だった。そんな中ギーシュが、恨めしそうに口を開いた。

「で、その『秘法』とやらはこれかね?」

 ギーシュが指差したのは、色あせた装飾品と、汚れた銅貨が数枚であった。祭壇の下には、なるほどチェストはあった。しかし、中から出てきたのは、持ち帰る気にもならないガラクタばかりであった。

「この真鍮でできた、安物のネックレスや耳飾りが、まさかその『ブリーシンガメル』というわけじゃあるまいね?」

 キュルケは答えない。ただ、つまらなそうに爪の手入れをしていた。タバサはルシファーの顔をじーと見て、ルシファーは苦い顔でタバサの顔を見つめ返していた。才人は寝転がって月を眺めている。

 ギーシュはわめいた。

「なあキュルケ、これで七件目だ! 地図をあてにお宝の眠るという場所に苦労して行ってみても、見つかるのは金貨どころかせいぜい銅貨が数枚! 地図の注釈に書かれた秘法なんかカケラもないじゃないか! インチキ地図ばっかりじゃないか!」

「うるさいわね。だから言ったじゃない。『中』には本物があるかもしれないって」

「いくらなんでもひどすぎる! 廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし! そいつらをやってけて、得られた報酬がこれじゃあ、割に合わんこと甚だしい」

 ギーシュは薔薇の造花をくわえて、敷いた毛布の上に寝転がった。

「そりゃそうよ。化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が入ったら、誰も苦労しないわ」

 険悪な雰囲気が漂った。しかし、シエスタの明るい声が、その雰囲気を払ってくれた。

「みなさーん、お食事ができましたよー!」

 シエスタは焚き火にくべたシチューをよそって、めいめいに配り始めた。いい匂いが鼻を刺激する。

「こりゃうまそうだ! と思ったらほんとにうまいじゃないかね! いったい何の肉だい?」

 ギーシュがシチューを頬張りながら呟いた。皆も、口にシチューを運んで、うまい! と騒ぎ始めた。シエスタは微笑んで言った。

「オーク鬼の肉ですわ」

「ほう。これが……」

 ルシファーは肉を見つめて意外そうに呟き、ぶほっと、ギーシュがシチューを吐き出し、唖然としてシエスタを見つめた。

「じ、冗談です! ほんとは野うさぎです! 罠を仕掛けて捕まえたんです」

 それからシエスタは、皆が宝探しに夢中になっている間に、うさぎや鷓鴣を罠で捕まえ、ハーブや山菜を集め、シチューを作ったのだと説明した。

 シチューは、流れ者だったシエスタの曾お爺ちゃんが村に伝えた。『ヨシェナヴェ』という村の名物料理だったらしい。

 その美味しい料理のおかげで、座は和んだ。学園を出発してからすでに10日ばかり過ぎていた。











 食事の後、キュルケは再び地図を広げた。

「もう諦めて学院に帰ろう」

 ギーシュがそう促したが、キュルケは首を縦に振らない。

「あと一件だけ。一件だけよ」

 キュルケは、何かにとりつかれたように、目を輝かせて地図を覗き込んでいる。そして、一枚の地図を選んで、地面に叩きつけた。

「これ! これよ! これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」

「なんというお宝だね?」

 キュルケは、腕を組んで呟いた。

「『竜の羽衣』」

 皆が食事を終えたあと、シチューを食べていたシエスタが、ぶほっ、と吐き出した。

「そ、それホントですか?」

「なによあなた。知ってるの? 場所は、ダルブの村の近くね。ダルブってどこらへんなの?」

 キュルケがそういうと、シエスタは焦った声で呟いた。

「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって……、わたしの故郷なんです」

 その後は、疲れを癒すために就寝する事になり、焚き火を中心に毛布に包まって眠った。










 ルシファーとキュルケは、皆が寝静まった事を確認すると、2人で森の奥に入っていった。

 タバサは2人がこの10日間。深夜と早朝に姿を消す事を怪しみ、明日で最後になるだろう今日。何をしているのかを確認するために、見失われない様にシルフィードに上空から見張らせ、2人が立ち止まったところを使い魔のルーンの効果による感覚共有でシルフィードの視界で確認すると、気配を絶って2人が止まった場所に急いだ。

 タバサは気配を絶ったまま、ルシファーとキュルケに近づき大木を背にして覗き込んだ。

「っ!!」

 キュルケの荒い息使いが聞こえた。タバサは何をやっているのか首を少し出して覗くと絶句してしまった。

 木に両手でもたれ掛って尻を突き出しているキュルケに後ろからルシファーが腰を撃ちるけていたのだ。

 タバサの顔がどんどん赤くなる。

「ああっん! ああっ! いい! いいわぁっ!」

 自然と聴覚が叫びをあげているキュルケの声を捉えた。

 なにをやってるの? タバサは2人が行っている行為は分からなかったが、顔が赤くなった。

 タバサはもう一度。意を決して2人がなにをやっていたのかを確かめようと顔を出して覗き込むと、丁度ルシファーがキュルケの片足を持上げてたところだった。

 ルシファーの股間に聳え立つペニスが、キュルケのオマンコを広げ、激しくピストン運動をしている所がタバサの思考を止めた。

「ああ〜! 気持ちいいっ! ダーリン最高よぉぉ……んんっ」

「キュルケっ! そろそろ|射精( だ )するぞ!」

 なに? アレは? なに? キュルケになにをやってるの? 股に何かを入れてる? だすってなに?

 2人の姿にタバサの思考は疑問に埋め尽くされた。

「ええ! いっぱい……、いっぱい頂戴っ! あああぁぁぁぁーー!!」

「で、|射精( で )るっ!」

 ルシファーがキュルケのオマンコにペニスを深く差し込み、射精を開始した。

「いく、いっちゃう! いくううぅぅぅ……!」

 キュルケの歓喜の叫びが森に響いた。

 キュルケは力尽きて地面に崩れ落ちようとしたが、ルシファーが慌ててキュルケを抱きとめた。

 ルシファーは結合を解いてペニスをキュルケから抜くと、ぶびゅびゅと白濁したおびただしい量の精液が逆流した。

「ふふふっ、いっぱいでたわね」

 キュルケは荒い息のまま、艶やかな女の顔でこぼれ出る精液を掬い取りこくりと飲んだ。

 タバサはもう限界だった。

 タバサは急いでその場から逃げ出した。

「きゅるきゅるー」

 タバサが寺院に戻ると上空からシルフィードが降りてきた。

「アレはなにをしていたの?」

 タバサはシルフィードに顔を赤らめたまま聞いた。

「お姉さまには、まだ早いのねー」

 シルフィードは言葉をしゃべって答えた。

「いいから、アレはなに?」

「きゅるきゅるー、アレは交尾をしていたのね。あの赤いのに卵を産ませようとしてるのね」

「っ!!?」

「お姉さま? お姉さまどうしたのね!」

 タバサはいつもの無表情のまま、頭から湯気が出るんじゃないかと言うほど赤くなって、そのまま後ろに倒れた。

 そんな頃、ルシファーとキュルケはと言うと。

「ねえ、ダーリン。さっき物音がしなかった?」

「ん? そうだったか?」

「うーん。あたしの気のせだったのかしら?」

「まあ、今はそんなことどうでもいいだろ?」

「ふふっ、そうね!」

「今度はどっちがいい?」

「うーん……どっちがいいかしら」

 再びお互いを求めてセックスしようとしていた。

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