小説『ゼロの使い魔 世界を渡る転生者【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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『第17話 竜の羽衣』





 翌朝、一行は空飛び風竜の上で、シエスタの説明を受けていた。

 シエスタの説明は、あんまり要領を得なかった。とにかく、村の近くに寺院があること。そこの寺院に『竜の羽衣』と呼ばれるモノが存在していること。

「どうして、『竜の羽衣』って呼ばれているの?」

「それを纏ったものは、空を飛べるそうです」

 シエスタは言いにくそうに言った。

「空を? 『風』系のマジックアイテムかしら?」

「そんな……、たいしたものじゃあありません」

 シエスタは、困ったようにつぶやいた。

「どうして?」

「インチキなんです。どこにでもある、名ばかりの……寺院に飾ってあるし、拝んでいるおばあちゃんとかいますけど」

「へぇええ」

 それからシエスタは恥ずかしそうな口調で、ひいお爺ちゃんが東から『竜の羽衣』に乗ってきたことや、その『竜の羽衣』もう飛べないこと、そして、『固定化』の魔法をかけて大事にしまったことなどを説明した。

「それってようは村の名物なんだろ? さっきのヨシェナヴェみたいな。そんなの、持ってきたらダメじぁん」と才人がいうと、

「でも……、わたしの家の私物みたいなものだし……、サイトさんがもし、欲しいって言うなら、父にかけあってみます」

 とシエスタは、悩んだ声で呟いた。

 才人はそんなインチキな代物いらないと思ったが、キュルケの解決策が打ち出した。

「まあ、インチキならインチキなりの売り方があるわよね。世の中にバカと好事家ははいて捨てるほどいるのよ」

「ああ、全くその通りだな。手ごろなバカでも見つけて売りつけようか」

 ルシファーはキュルケの策に賛成のようで頷き、ギーシュはそんな2人に呆れた声で言った。

「きみたちはいろいろとひどいな」

「…………」

「どうしたタバサ?」

 さっきから、というか今朝からこちらを赤い顔でちらちらと覗うタバサに、ルシファーは尋ねた。

「な、なんでもない」

 タバサは顔を俯かせて黙った。

「あらあらっ! どうしたのタバサ。朝から少しヘンじゃない? 体調でも悪いの?」

 キュルケも今朝から自分の顔を見ては目を逸らすタバサが気になってたずねが「なんでもない」と本に目を落として黙ってしまった。

 実はタバサは、昨晩の2人の営みは何かの間違いだと言う事にして、今度は早朝にいつも消えていた理由を突き止めに行ったのであったが、そこでまたしても見てはいけないものを見てしまったのだ。

 そう、最近のキュルケの日課である行為をルシファーと行っていたのだ。

 地面に膝をついたキュルケが一心不乱に、ルシファーのペニスに吸い付き、口に頬張っている姿を、フェラチオを見てしまったのだ。

 タバサは二度も情事を覗いてしまったことで、2人に顔を合わすことができなくなっていたのであった。











 ダルブの村に降り立ち、『竜の羽衣』が置いてある寺院に向かい中に入った。

 初めに入った才人は目を丸くして、『竜の羽衣』を見つめ、ギーシュは、気のなさそうにその『竜の羽衣』を見つめ、好奇心を刺激されたのか、珍しくタバサは見つめている。

 そしてその後ろで、キュルケは驚いたように「この前見せてもらった物に似てる……」と呟き、ルシファーは感心したように『竜の羽衣』を見上げていた。

 『竜の羽衣』を呆けた表情で見つめていた才人に、シエスタが近づき心配そうに言った。

「サイトさん、どうしたんですか? わたし、何かまずいものをみせてしまったんじゃ……」

 才人は答えない。ただ、感動したように『竜の羽衣』を見つめるばかり。

「これはカヌーかなにかだな? 鳥のおもちゃのように、こんな翼をくっつけたインチキだ。大体見ろ、この翼を。どう見たって羽ばたけるようにはできていない。この大きさ、小型のドラゴンほどもあるじゃないか。ドラゴンだって、ワイバーンだって羽ばたくからこそ空に浮かぶことができるんだ。なにが『竜の羽衣』だ」

 ギーシュは『竜の羽衣』を指差して、もっともらしく頷いた。

「サイトさん、ほんとに……、大丈夫?」

 心配そうに才人の顔を覗き込むシエスタの肩を掴んで、才人は熱っぽい口調で言った。

「シエスタ」

「は、はい?」

 シエスタは頬を染めて、才人の目を見つめ返した。

「お前のひいお爺ちゃんが残したものは、ほかにないか?」

「えっと……、あとはたいしたものは……お墓と、遺品が少しですけど」

「それを見せれくれ」

 そんな2人のやり取りの後ろでキュルケはルシファーに尋ねていた。

「ねえ、ダーリン。あれって前に見せてもらったエンジンで動く機械に似てる気がするんだけど」

「ああ似ているな。だが、アレは色々と造りが違う。俺の世界の道具ではないな」

「じゃあ、アレはここでも、ダーリンの世界のモノでもないの?」

「うーん。才人の様子を見る限り、アレは才人の元居た世界のモノじゃないか?」

「じゃあアレはサイトの世界から……」

 キュルケはここで言葉を切り、ルシファーに向かって叫んだ。

「サイトの世界って! サイトも別の世界から来たの!?」

「ああ、服装の材質や貴族に対しての態度やコルベールの装置をエンジンと言い当てたことから、この世界の者ではないと思っていたが、あの様子で確信した。あいつはこの世界の人間ではない。そして、俺の世界の人間でもない」

「そうなの……」

 キュルケは珍しげに、才人を眺めた。

 その後、才人はシエスタのひいお爺ちゃんの墓の文字を読み上げ、『竜の羽衣』を見上げながら、シエスタと話していた。

 その様子を少し離れた位置で、ルシファーとキュルケは眺めていた。











 その日、ルシファーたちはシエスタの生家に泊まることになった。貴族の客をお泊めすると言うので、尊重まで挨拶に来る騒ぎになった。

 才人はシエスタの家族に紹介され、シエスタが家族に幸せそうに囲まれている姿を見て、羨ましそうな顔で見ていた。

 夕方、才人は村のそばに広がる草原に来ていた。

「ん? 才人か」

 才人が草原に着くと先客が居た。

「ルシファー……」

 ルシファーが草原に寝転がって夕陽を見つめていたのだ。

「なあ、ルシファー。お前も別の世界からやってきたんだったよな……」

 才人はルシファーの隣に座り、沈んだ声で聞いた。

「ああ。そうだぞ」

「前の世界が恋しくならないか?」

「ああ。時々、恋しくなるな……」

 ルシファーは夕陽を見つめながら呟いた。

「家族に会いたいよな……帰りたいよな……」

「家族には、また会いたいが、俺はここに来ると選んで召喚されたからな。戻ろうとは思わないな」

「選んで来たって!」

 ルシファーはそう言えば言っていなかったと思い話した。

「俺はこの世界に召喚されるのを10年も前に巫女から教えられてたんだよ」

「はあ!? 知ってて異世界に着たのか!?」

「ああ。帰れないと覚悟の上できた」

「……家族はいなかったのか?」

「ああ、たくさん居たぞ。妻が……………何人ぐらいいたかな?」

「ちょ! ちょっと待て! なんで自分の嫁の数が分からないんだ! ていうか、なんでたくさん嫁がいるんだ!」

 シリアスな空気になっていたがルシファーの言葉に才人が驚きの声をあげた。

「そりゃあ、俺は大魔王だったからな。サキュバスの国民のほとんどは俺の妻になってるし、支配していた国々にそれぞれ千人くらいは妻を作っていたしなー」

「ま、まじかよ……」

「それと当然、妻よりも子共はそれ以上の数いたし、俺の娘で俺の妻になったヤツがいたからどうカウントすればいいんだ?」

「自分の娘……」

「その娘の娘。俺の孫も妻になった者がいたし、その孫が産んだひ孫も妻になったから、妻と娘はどうやって数えればいいんだろうな? 俺の息子と他の女との間に産まれた娘で妻になった女いるから、もう数え方が分からないんだ」

「…………………」

 才人は、あらためてルシファーが人間ではない事を認識し、そして次の話に何も言えなくなってしまった。

 しばらくして、再起動した才人が尋ねてきた。

「お前。俺と同じか少し上ぐらいに見えるけど何歳なんだ?」

「ん? 確か今は……100歳は過ぎているな。歳上だからと言っても、私的の場だし敬語は使わなくていいぞ」

「っ!! ………………そ、それで、お前の家族は、お前がいなくなっても平気なのか?」

「まあ、出て行く10年も前に話しておいたし、国の運営も政治も子共に伝えたし、大丈夫だろう。まあ。妻たちには、泣かれてボコボコにされたけどな」

「じゃあ、何でここに来たんだよ」

 才人は尋ねた。

「ふむ。これ以上自分の娘や、息子や孫の間に産まれた娘を妻にすると、国民が血縁者で溢れかえっていた事も原因の1つだが、そのまま、世界にとどまっても子供たちが本当の意味で独り立ちできないと思って、異世界のゲートを潜ったんだ」

「後悔していないのか?」

 才人は夕陽を眺めるルシファーの顔を真剣に見つめて聞いた。

「ああ。後悔していない。なにしろ、俺を召喚した人間は美人で優しいし、可愛らしい。ルイズと違って使い魔だからと犬扱いしないで、俺を対等に扱ってくれる。最高の女だからな」

 意味深に才人の顔を見返してルシファーが言うと、才人は「ぐぬぬ……」と唸って落ち込み、おもむろに手近にあった雑草を摘み、「俺なんか、俺なんか……」と呟いていた。

「まあ、頑張れ」

 ルシファーは鼻で笑いながら、才人に言った。

「くそー! なんでルイズはあんなに性格が悪いんだー!」

 才人はぶちぶちを雑草を引きちぎりながら、ルイズに罵声を吐いていると後ろから、メイドスタイルから村人スタイルになったシエスタがやってきた。

「ここにいたんですか。お食事の用意ができましたよ」

「ああ、じゃあ先に行くよ」

 ルシファーは立ち上がって、才人とシエスタの邪魔にならないように消えた。

 シエスタは才人に近づいて恥ずかしそうに言った。

「遊びに来てくださいって言ったら、ほんとに来る事になっちゃいましたね」

 それから、シエスタはひいお爺ちゃんと同郷である才人にこの村に住まないかと提案したが、才人はいずれは元の世界に帰ると、シエスタの告白を断ったが、シエスタは才人が帰れなかったらまた告白していいかと聞いて、夕食を食べにシエスタの家に向かった。











 ルシファーが草原で才人たち別れ、シエスタの家に向かっていると途中でキュルケに会った。

「あら、ダーリン偶然ね」

 キュルケはルシファーの腕に抱きついて微笑んだ。

「聞いていたのか?」

 ルシファーがそう言うとキュルケは笑顔のまま固まった。

「ええ。でも盗み聞きする際なかったわ」

「まあ、別にいいがな」

「…………」

 笑顔から落ち込むような表情に変わったキュルケにルシファーは言葉を続けた。

「前にも言ったが、俺がこの世界に来た事は後悔していないし、キュルケに出会えた事は幸運だと思っている」

「でも、本当に良かったの? 前の世界に家族がたくさん居るんでしょう?」

「大丈夫だろう。きちんと愛情を注いで育てたし、10年後にこの世界に旅立つと決めてからは、子共は産ませないように避妊をしてたし、皆、独り立ちできるように教育も施した。それにいつまでも俺が世界を支配していてもな」

 とキュルケの頭を撫でながら言った。

 まあ、俺の子共を産ませて欲しいって必死に懇願した妻には逆らえずに産ませてしまったことは言わないほうがいいか。

「まあ、俺はこの世界で生きて死ぬと決めたからな! お前から離れる事はないさ。だから、笑ってくれよ。俺はキュルケの笑った顔が好きなんだ」

「ダーリン……」

 キュルケはルシファーの腕に抱きつきなおして、顔を上げて微笑んだ。

「じゃあ、夕飯でも貰いに行くか」

「ええ。行きましょ」

 そして、翌朝、ルシファーたちは才人の希望でゼロ戦を、ロープで作った巨大な網に載せ、ギーシュの父のコネで、竜騎士隊とドラゴンを借り受け、それで学院までゼロ戦を運ぶ事になり、中庭に降り立ったゼロ戦を興味津々と見ていたコルベールに運送代を立て替えてもらう事になった。











 
 才人がコルベールとゼロ戦について話していた頃。ルシファーはというと、学院をサボった罰で窓拭きを言い渡されたキュルケたちの手伝いをしていた。

 本来、使い魔であるルシファーは罰の対象外だったが、キュルケが宝の地図を買った理由はルシファーと出かけたいがためであったから、自ら手伝いをかって出たのであった。

 そのキュルケたち一行がアウストリの広場に置いたゼロ戦の前で、才人とルイズが言い争いをしているところを発見し近づいた。

 近づいていくと、言い争いをしていたルイズがぼろぼろと泣き出した。

 ギーシュは、泣いているルイズと、それを慰めている才人を見て、にやにや笑いを浮かべた。

「きみ、ご主人様を泣かせたら、いかんのじゃないのかね?」

 ルシファーは楽しそうに話した。

「うむ。決め手は泣き落としだな」

「そのようね」

 キュルケはもう少し波風やドラマが見たかったようで、つまらなそうに呟いた。

 タバサは2人を指差して、

「雨降って土固まる」と、言った。











 それから、時は瞬く間に過ぎ、ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式が間近に迫った頃。

 ルシファーが女子寮でキュルケからこの世界の文字を教わっていたら、外から爆音のような音が聞こえてきた。

「な、何の音?」

 キュルケは窓を開けて、爆音が聞こえてくる方に顔を向けた。

「あら! 『竜の羽衣』じゃないの! どうしたのかしら?」

「おお、動いたか」

 ルシファーも窓から顔を出してゼロ戦を見た。

「動くって、今から空を飛ぶの!」

 キュルケは瞳を輝かせて、ルシファーの顔を見た。

「ああ。今からテスト飛行でもするんじゃないか?」

「へぇー、ほんとに飛ぶのねー」

 キュルケは窓から身を乗りだして飛び立つのを待った。

 すると、才人を乗せたゼロ戦が次第にプロペラの速度ながら、城壁に向かって地面を走り始め、城壁にぶつかろうというところで、大空へと飛び上がった。

「すごーい! 本当にお宝だったのね! それに、早いわねー! 竜よりも早いんじゃないの!」

 キュルケは興奮で跳ねながら、小さくなっていくゼロ戦を指差した。

「ああ、そうだな〜」

 ルシファーは小さくなって消えて行くゼロ戦に向かって、「頑張れよ才人」と小声で呟き。キュルケに再び文字を習い始めた。

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