小説『ゼロの使い魔 世界を渡る転生者【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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『第42話 新たな新魔国とその裏側で人知れずに終わってた人 』






 新魔国に国民が増えて一ヶ月……。

 先に住んでいた妻であるキュルケ達と元孤児院の子共達と、新にやって来た235名の女達もお互いの距離を測りかねていたが、今ではすっかり慣れていた。


 始めキュルケ達は修行だったとしても、自分達より長い時間を共に過ごした事に、嫉妬心を感じ、女達も自分達とは違う『妻』というポジションにいるキュルケ達に、内心嫉妬していたが、キュルケ達は夜のセックスで『孕ませる』という明確な目的で抱かれ、女達も妻達が近くにいても、あまり変わりなくルシファーに抱いてもらえる事で、敵対心や嫉妬心が薄まり、さらに、現在の国民は家族で、公の場ではなく、仕事とはいえ、現在は外聞を見繕う必要はないだろうと、身分や種族などの関係のなくアットホームに触れ合う内に、しだいと仲良くなっていったのだ。


 これがもし、普通の人間の男だったなら……。

 妻達とほぼ妾のような国民達の関係は最悪になり、修羅場となったり、妻達から離婚を申し付けられるだろうが、ルシファーは『普通』とはかけ離れすぎていたし、そもそも前提から違っていた。

 現在の妻達は『自分以外に妻がいる』という事と、『とんでもない女好き』だという事を|知っていて(・・・・・)妻となったのだ。

 今さら女を増やそうと、いまさら呆れるだけだし、いつも閨を共にしている妻達は、7人だけではルシファーの性欲が受け止められない事を、身をもって分かっていた。

 女達も皆平民で、しかも元奴隷だったのだ。

 ルシファーに買われなかったら、どこかの貴族か金持ち、はたまた娼館に買われて、性の捌け口にされるか、奴隷を増やすために同じ奴隷と無理矢理交配させられたか、死ぬまで働かさせられるかと、絶望が広がる未来が待っていた事を女達は知っていた。

 ルシファーはそんな自分達を救い、様々な教育を施し、病気や怪我をした時などもハルケギニア大陸では秘薬とも言える薬を惜しげなく渡し、デザインはアレだが清潔な服ときちんとした個室を与えてくれたのだ。

 しかも、主人に逆らい、メイド以外の職業がやりたいと言った女達を怒りもしないどころか、希望する職業を行う場と職業訓練まで与えてくれた。

 そんなルシファーを女達はもちろん嫌いにはなれないし、愛していた。

 ものずごい女好きで妻がいる公言しているのに、数えきれないほど自分達と一緒に風呂に入ったり、閨を共にしたりと、夫として恋人としては最低な男だが、奴隷と堕ちた自分達を『人』に戻してくれて、さらに生活する場を、理不尽な貴族達の存在に怯える事のない国に連れてきてくれたルシファーを神と同列ぐらいに信愛していた。

 なので、女達はルシファーが妻達だけを抱き、自分達を抱いてくれなくなっても、一生自分のすべてを賭してルシファーに尽くす覚悟をそれぞれ決めていた。

 しかし、女達のそんな覚悟を嬉しい形で裏切られ、3年間過ごした修行場と変わらず愛してくれるのだから、妻達への嫉妬心を抱く事が馬鹿らしくなったのだ。

 つまりは、ルシファーの妻であるキュルケ達と、新しい国民である女達は、諦めたのだ。

 最初に会った時からとんでもない女好きである事は分かっていたし、十二分に愛してくれるし、そんなルシファーに惚れてしまったのだから、仕方がないと……。

 それに、新魔国で過ごしていたキュルケ達には、貴族特有の差別意識など皆無だったので、女達からの受けもよく、仲良くなったのだ。

 最後に元孤児院の子共達だが、こちらはまだ仲良くなれていない。

 というかジャック、サム、ジム、エマ、サマンサの人間関係が問題だったからだ。

 サムとジャックはエマが好きで、サマンサはジャックが好き、エマはジムが好きで、ジムは……。

 ジムは爆乳で母親代わりだったティファニアが好きだった……、がルシファーに取られ、知らないところで妻になっていた事に絶望し、そこを、同じくウエストウッド村出身でティファニアが好きだったサムとジャックに、親身になって慰められたことで、何を間違ったのか、男色に目覚めてしまい、サムを好きになっていたのだ。

 しかも、女の子側にはルシファーの妻となっているキュルケ達、特にマチルダが教育し、貞操観念をしっかりと植え込み、ルシファーと違って『人間』なんだから、男は自分のものだけにしておくようにとしっかりと教えられていたので、エマとサマンサは浮気を許さない嫉妬深い女の子に成長していた。

 そんな混沌とした人間関係の元孤児院メンバーは、他に人が増えたからと言っても別に想うところはない。

 というか余裕がない。

 ライバルになりうるだろう10歳ぐらいの女の子達も増えたが、全員完全なルシファーの虜なのだから、サムとジャックは可愛いと思う事はあっても恋する事はなく、ジムにいたっては完全な男色だった。

 だから、新魔国は今日も平和で穏やかな時間が流れてゆく……。












「あ……」

 新魔国の巨城の食堂で朝食を食べていたルシファーは、食事の手を止め、思い出したように呟いた。

「どうしたのダーリン?」

「どうしたのですかルシファーさま?」

 キュルケとメイド隊隊長アザリーがルシファーに尋ねた。

 本来家来やメイドは主と食事の席を共にする事はないが、現在の食堂には城の外に住んでいる者達以外の女達が、ルシファー達と一緒に食事を摂っていた。

 その女達を含め、全員食事の手を止めてルシファーに注目した。

 注目を浴びたルシファーは手の平に、ガリア王ジョゼフの使い魔シェフィールドから返してもらった、現在台座だけとなっている『アンドバリの指輪』を取り出して呟いた。

「ああ。ラグドリアン湖に住んでいる水の精霊に指輪を返すのを忘れていた事を思い出してな」

 ルシファーの呟きを聞いたシャルロット……、タバサが口を開く。 

「ルイズ達が返すって約束したアノ指輪?」

「その指輪だ」

 ルシファーは指輪を弄りながらポケットに入れる。

 そして朝食のパンを齧り、呟いた。

「このままルイズ達に返却するように言っても、本当に返却できるか分からないし、なにより今は台座だけになってるからなー。俺が直接水の精霊と話をつけないといけないだろう……」

「じゃあ……」

 マチルダが呟く前にルシファーが呟く。

「ああ。指輪を返すのを完全に忘れている才人が死んだ後に、水の精霊が怒ってハルケギニア大陸が水に沈んだり、精霊と人間の戦争になるのは嫌だからな。2、3日ぐらい国を開けて指輪を返しにいくよ」

「きゅるきゅー! それならお土産よろしくなのね!」

 骨付き肉をもったイルククゥがルシファーに強請る。

「わかってるよ。あとついでに、今の新魔国にはブドウを育てる人間がいないし、ワインが飲めなくなるのも嫌だから、そっちの方の人員も確保しとこうかなー」

 ルシファーはそこで再び気づいて立ち上がる。

「そのついでだから、何か必要な物があれば紙に描いて俺に渡してくれ、明日か明後日には出発するからその時までにな? 個人的な物とかは名前の記入をするのを忘れるなよー」

 女達はそれぞれ返事をしてから食事へと戻った。












「ほ、ほんとに護衛はいらないんですかルシファーさま」

 ルシファーは転移の【ゲート】を潜ろうとして、後から呼び止められた。

「ああ。今回はラグドリアン湖の水の精霊に指輪を渡して、人員確保とかするだけだからな」

 ルシファーは後を振り返って、声をかけた新魔国魔王軍総帥クリスティーヌにむかって呟いた。

「で、ですが……。一国の王が護衛をつけないのは……」

「わたしたちは信用ないですか?」

 今度は作戦参謀役のオルタンスと、騎士団長のルキニアが抗議する様に口を開いた。

 ルシファーはそんな3人にふっ、と微笑んだ。


「そういうわけじゃないさ。それに、俺はこの国の主ではあるが、ハルケギニア大陸では誰も俺が砂漠の国の国王なんて知らないだろう? 襲ってくるのはぜいぜい盗賊だが、今回の移動は常に認識阻害の結界を張って空を飛ぶから、盗賊に襲われる可能性はほぼ0だだ。買出しの荷物持ちも『魔法の袋』があるから必要ないし、2、3日国を空けるとは言ったが、完全に空けるわけじゃない。度々転移で戻ってくるからな」


「そ、そうですか……」

「そ、それなら護衛の必要はありませんね」

「うん……」

 ルシファーの言葉で納得する3人。

 ルシファーは次に妻達に向き直った。

「じゃあ、行ってくるな」

「早く帰ってきてねダーリン」

 こちらは慣れたもので妻達は簡単に挨拶を交わす。

 ルシファーは転移の【ゲート】を潜った……。











 ルシファーはまずラグドリアン湖へと転移した。

 そして近くに人間の気配がない事を確かめると、ラグドリアン湖の水に手を翳して呟いた。

「水の精霊よ。現れろ」

 ルシファーが呟いた途端……。

 ラグドリアン湖の水面がボコボコと泡立ち、水柱が立ち上がり、以前訪れた時のように、水の精霊はモンモランシーの姿をとって跪いた。

『我に何か御用でも? 大いなる者よ』

「ああ。以前お前が奪われたと言った『アンドバリの指輪』を返しにきた」

『まことですか!?』

「水の力はすでに使われて台座だけとなったがな」

 ルシファーはアンドバリの指輪を投げ渡す。

『…………』

 水の精霊は台座となった指輪を無言で見つめた。

 モンモランシーの姿をとって人間らしく落ち込んでいる姿をとる水の精霊にルシファーは、ふぅー、っとため息を吐いて呟く。

「もしよかったら俺が台座に新たな結晶をつけるが?」

『よ、よよよろしいのですか!!?』

「俺がやった事ではないとはいえ、このまま台座だけ返しては気分が悪いからな」

『ぜひお、お願いします!!』

 長年共にあった指輪の力が失われた事は残念だが、自分よりも上の存在から物をもらえると、水の精霊は喜び、気持ちをあらわすかのように踊り始めた。

 ルシファーからはモンモランシーが裸で踊るように見え、苦笑しながら指輪を受け取り、魔力を注いで指輪の台座に新たな宝石を創りだした。

『おお! おおっ! 指輪からすごい力が! 大いなる者よ感謝します! 感謝します!! 大いなる者!』

「いいさ。だが、今度は盗まれないようにしっかり守れよ?」

『もちろんです! 幾千年と守り通してみせましょう!!』

「そうか。じゃあ、俺はこれで行くな」

『はい!』

 ルシファーは爛々と喜ぶ、裸のモンモランシー……、もとい水の精霊を置いて、空へと飛び上がった。











 水の精霊に指輪を返したルシファーはラ・ヴァリエール領へとやってきていた。

 目的は通信手段がないために返事を返せなかったカトレアに、貰った手紙の返事を返すためだ。

 ルシファーは現在赤いロングコートと、その上に黒いマントを羽織り、貴族に偽装して門を潜っていた。

 一方、ルシファーがやって着たという事でルイズの父、ラ・ヴァリエール公はまるで国の重鎮にでも会うかのように、正装に着替えていた。

 そして、ルイズの母親であり、ラ・ヴァリエール公の妻であるカリーヌも、ラ・ヴァリエール公爵家の次女であるカトレアも正装に着替えてルシファーを待っていた。

 ルシファーがラ・ヴァリエール家の執事に案内されながら、城の門を潜る。

「ルシファー殿。久しいな」

「ごきげんようルシファー殿」

「お久しぶりです」

 ラ・ヴァリエール公、カリーヌ、カトレアの順で挨拶された。

「ああ。久しぶりだな」

 ルシファーも挨拶を返して、城の奥へと通された。

 それからルシファーは昼食を食べながら、ラ・ヴァリエール公に質問され、それに答えるように領地経営の改善点を話し合った後、カトレアの部屋へと通された。

「ふふふっ、やっとルシファーさんをひとりじめできますね」

 カトレアはベッドに腰掛けて微笑んだ。

 ルシファーもカトレアの正面に椅子を置いて腰掛け、微笑む。

「手紙を読んでくださいましたか?」

 カトレアは少女のように顔を赤らめながら呟いた。

 ルシファーは手紙を懐から出した。

「もちろん全て読ませてもらったよ」

「そ、そうですか……。ルシファーさまが住んでいるところがわからなかったので、ルイズに渡したのですが、届いて本当によかったです」

 それからルシファーとカトレアはたわいもない会話を楽しんだ。


 そこで、カトレアはルシファーに妻が大勢いる事や、すごい女好きだと言う事を知ってしまい度々黒いオーラを纏わせながら微笑んだり、婚期をのがして『いきおくれ』となっている事を気にしていたところを、カトレアのよさをルシファーが自然な形で褒めたりと、穏やかに時間を過ごし、最後に、文通できないという事で、新魔国のルシファーの机と繋がっている郵便箱をカトレアに渡して、ラ・ヴァリエール領を後にした。


 そしてそのまた一方で、ルシファーとカトレアのやり取りを隣の部屋で盗聴していた夫婦が、カトレアをルシファーに嫁がせるか、嫁がせないかでもめていた……。











 現在ルシファーはトリステイン王国、王都トリスタニアの繁華街の宿に訪れていた。

「んー。たまには安酒をあおるのもいいな」

 宿屋の一階は酒場となっていて、ルシファーは酒場のカウンターに座り、安いワインを飲みながら、つまみを食べていた。

 とりあえず新魔国に人を増やさないといけないが、どうしようかな。また女を奴隷商から買うのもいいが……。

 ルシファーは後に視線を移動させる。

 丸いテーブルがいくつも並び、平民の男達がワインを飲みながら、食事をしたり、談笑と楽しんでいたりしていて、可愛い衣装に身を包んだ給仕の女の子達がせわしなくワインや料理を運んでいた。

 ん?

 ルシファーは酒場の隅で固まっている女達を見つけた。

 大胆に胸の開いたドレスを着込み、ワインを飲みながらも品定めをするかのように、酒場の客、特に男に視線を向けている。

 ルシファーと女達の中でも一段と着飾った女と視線が合う。

 視線が合った瞬間、女は驚いたような表情を浮かべたが、すぐに妖艶な笑みを浮かべて近づいてきた。

 そして目の前まできた女は笑顔は人懐っこい笑顔を浮かべて呟いた。

「ご一緒してもよろしいですか貴族様?」

「もちろん」

 貴族に偽装しているルシファーは短く応えてカウンターに向き直った。

 女は静かにルシファーの隣の席に腰を降ろすと、ルシファーが飲んでいるものと同じワインを頼んだ。

「どうぞ」

 女は笑顔を浮かべたまま、ワイン壜を持って、ルシファーの空となっていたグラスにワインを注いだ。

「ありがとう」

 ルシファーは礼を言うと、女を観察した。

 尻辺りまで伸ばしたさらさらの薄い緑色の髪、目元に小さな泣きホクロ、大きく澄んだブラウンの瞳、優しそうにも、艶かしそうにも見える軽く化粧された小顔、もともと大きな胸がドレスで強調され、くびれた腰と、形のいい尻、強い香水の香り、身に纏う雰囲気。

 ああそうか、っとルシファーは気づいた。

 娼婦だな。

 女は酒を飲むたびに、追加の酒を注ぎ、妖艶な、男を誘うような笑みを浮かべて口を開いた。

 今夜はどうなさったんですか? お一人なんですか?

 と尋ねながら、ところどころでルシファーを褒めて、体を擦り合わせた。

 ワインがなくなりかけた時、娼婦の女、メディナは勝負を仕掛けた。

「ねえ、貴族様? 今夜の予定はお決まりですか?」

 甘えた声で尋ねるメディナ。

 ルシファーはその娼婦に口説かれながら人なりを観察し、面白いと思った。

 男を誘い惑わす事に手馴れ、心の隙を突いてどうやって自分に興味を持たせるかと笑顔の裏で考える。

 そしてルシファーが一番面白いと思ったところは、男を誘う事に慣れてしまっている自分自身を嫌い、それでも金のために、生きるために男を誘う、その心の動きだった。

 ルシファーは瞳の奥を覗いていると、そこで、男としての本能が疼いた。

 以前の世界ではサキュバスの国で王をやり、世界を統一して大魔王となり、大勢の妻達や女達と欲望のままに、サキュバスの王としても、毎日人間では考えられないほどの大勢と交わっていたのだ。

 それが、新に増えた国民や妻達との淫行で目覚め始めていたのだ。

 封印まで施していた性欲が漏れ始めたルシファーは欲望に忠実で素直だった。

 ルシファーは本能の疼きに従い、女の誘いに笑顔を浮かべて乗り、宿屋の親父に代金を払って、娼婦メディナを連れて二階の宿屋へと向かった。












 宿屋の部屋に入ってすぐ、娼婦メディナはルシファーと唇を合わせた。

 ぐいぐいと唇を押し付けて胸を押し付けるメディナ。

 ルシファーは野獣の笑みを浮かべてメディナをベッドへと押し倒した。

「きゃっ!」

 突然押し倒されたメディナは悲鳴を上げた。

 ルシファーは腰から杖を抜くモーションを取って『サイレント』を部屋にかけた。

 そして服とマントを脱いで椅子にかけると、メディナの頬に手を添えて呟いた。

「お前の本当の顔が見たくなった」

「ほ、本当の顔ですか……?」

 黄金の瞳に見つめられたメディナは戸惑った。

 本当の顔? この男はなにを言ってるの?

 戸惑うメディナを無視してルシファーは再び唇を合わせた。

「んちゅ……、ああっ…………、ぅん……」

 情熱的な、恋人同士が交わすようなキス。

 普段相手をしている平民や貴族とは違う。

 自分の性欲を満たすための、ただの性処理道具として体を蹂躙する男達とは違い、優しいルシファーにメディナは心を大きく揺れた。

 ルシファーの手がドレスに伸びる。

「あっ!」

 いったん唇を離して素早くドレスを脱がす。

 ドレスを脱がされたメディナは裸のまま、仰向けでベッドの上に寝かされる。

 普段の相手と違うルシファーにメディナは自然と胸を両手で隠してしまう。

「あははっ、娼婦のわりには初心だな」

 ルシファーは普段の優しい態度ではなく、メディナを卑下するように呟いた。

「くっ……!」

 メディナはそんなルシファーの態度に、顔を赤に染めて背けた。

「ふふっ、すまない。怒ってしまったか?」

 ルシファーは呟きながら太ももに舌を這わせた。

「いえ……、それよりもどうぞ、お楽しみください」

 メディナは金づるを逃さないために、貴族を怒らせてしまわないように、笑顔を浮かべて股を開いた。

 本当は体など開きたくはないのだろう。

 娼婦などにはなりたくなかった。

 男なんかには触れられたくない。

 と、心の底では男を毛嫌いしているメディナ。

 ルシファーはそれでも金のために、生きるために体を開き、ずたずたに傷つき、嘘か真実か、ツギハギだらけとなったメディナの本心を暴き、心を癒したいと感じたのだ。

 それは長年サキュバスと交わり続け、インキュバスのような存在となったルシファーの本能とも言えた。

 女に快楽を与え、心を癒し、生気を吸う。

 ルシファーの中での優先順位は女が高い。

 不幸な女は放っておけないし、美しい女や興味を持った女を手に入れたいと思うのは本能だった。

 娼婦メディナの男を誘う自分が嫌いだという気持ちを、男が嫌いだという気持ちが変えたかった。

 男を誘う顔と、男を嫌う顔の二つの顔を暴き、心の奥底に潜む本当の心を癒したかったのだ。

 股を開いて挿入を待つメディナの足首を掴み、体をくの字に曲げさせると、ルシファーは太い緑色の毛で覆われたダークローズの陰唇に口をつけた。

「えっ!? き、貴族様!? そ、そこは汚いぃいいっ!」

 腰を動かせて逃げようとするメディナの足首を押さえつけて、ちゅく、ちゅくっと舌で恥垢を舐めるルシファー。

 舌を膣口にねじ込み愛液を啜ると、メディナは顔を真っ赤に染めて戸惑っていた。

 ルシファーはそんなメディナに微笑む。

「なんだ? 舐められるの初めてだったのか?」

「……っ!」

 ルシファーの問いに無言で顔を逸らせるメディナ。

 ルシファーは、あははっと、笑い声を漏らすと本格的に愛撫を開始した。

 膣口に舌を差し込んだり、尿道口に舌を這わせたり、クリトリスの包皮を剥いて唇で挟んだりと、メディアに快楽を送り続けた。

 そして、絶頂を迎え、潮を漏らしてしまったメディナにルシファーは手を休ませる事などはせずに今度は、メディナの豊満で少し垂れた釣鐘型の胸へ舌を這わせ、使い込んで茶色くなった乳首を吸った。

 数時間以上メディナの性感を開発し、いき狂い始め、自分からペニスを求めるまでによがらせ狂わせて、心に自分の存在を刻み込み、一夜だけでも男を、自分を愛するように性交を続けた。

 メディナはというと、性処理道具にされている娼婦の股を舐め、優しくお互いの性感を高めるセックスに心を大きく乱していた。

 メディナはもともと口減らしで捨てられた孤児であり、生きるために12、13で娼婦となった、まだ15歳の女の子だった。

 娼婦として生きるために男に体を開く、セックスを仕事にしていたメディナにとって、ルシファーのまるで恋人とセックスするかのような丁寧な愛撫に、メディナは初めて一人の女として愛を感じ、さらに嫌いだった行為を自分から、本心から求めてしまった事に、心を大きく乱していたのだ。

 そして、ルシファーに、そんな乱れた心を落ち着かせるように、優しく包み込む様に体を抱きしめられたメディナは安らぎを感じていた……。












 翌日、メディナが目を覚ますと、目の前には昨夜引っ掛けた男、ルシファーの顔があった。

「起きたか?」

 先に起きていたルシファーが腕の中のメディナに尋ねた。

「……はい。貴族様」

 メディナは頷き、ベッドから起き上がった。

 久々に大きいのを相手にして股が痛かったが、いつもの不快感はなかった。

 メディナはハンカチで体液をある程度拭き取るとドレスに着替え始めた。

 ルシファーはそんなメディナを眺めながら考えていた。

 そう言えば、ハルケギニア大陸の娼婦は、口減らしで売られた者、捨てられた者、奴隷が多いと聞いたな……。

 それに元娼婦のアザリーは、娼婦は待遇が悪くて、避妊などはあまりされない場合が多く、娼館の娼婦などは売れなくなったら、奴隷として売られるそうだからな……。

 うむ……。

 それにメディナのような磨けば光る原石のような心を持った女が不幸になるのは嫌だな。

 一石二鳥でいいか。

 うん。奴隷商は買いすぎると人攫いが増えるからな、とうぶんは娼婦に誘いをかけるか。

 考えをまとめたルシファーは、メディナの体を抱きかかえて、ベッドに座らせた。

「なんですか貴族様? まだなにか?」

 不思議そうな、怪しむような、警戒するような視線を送るメディナの唇を塞いだ。

「なにを……!?」

 メディナはこれ以上する必要はないと拒絶するように、ルシファーの胸を押そうとしたが、腕に力がまったく入らないどころか、侵入してきたルシファーの舌を歓迎するかのように、自分の舌を絡めてしまった事に、股がじゅんっと疼いた事に驚いた。

 なんなのこの気持ち?

 男なんか嫌いだったのに……。

 メディナは口内を犯されながら感じていた。

 セックス自体仕事となり、心を偽り、娼婦として男を誘っていた男嫌いの自分が、なぜか目の前の男からされる行為に対して、喜びを感じている事に戸惑った。

 ルシファーは戸惑うメディアを抱きしめながら呟く。

「なあ、メディナ。俺の国に来ないか?」

「……国?」

「ああ。ハルケギニア大陸とは違う。俺が作った国だ」

「あなたが作った国?」

「ああ。メディナにはその国の国民になって欲しい」

「国民?」

「そうだ。今は作ったばかりで国民がいなくてな。見所のある者を探していたところだ」

「……なにを言ってるんですか?」

 与太話にしか聞こえないルシファーの話にメディナはさらに戸惑った。

 ルシファーはそんなメディナを抱きしめ、耳を舐めながら囁いた。

「お前が望むなら、娼婦などしなくていいし、お前に新たな未来を自分で選ぶ権利をあたえよう。貴族に怯える人生ではなく、ただの人として生きれる場所を提供しよう」

 メディナの心に不思議なほどルシファーの声は響いた。

「なあ、メディナ。生き方を決めるのも、これからを決めるのもお前しだいだ。俺の話しに乗り、この国を捨てて、新天地へと希望を見るか、このまま娼婦として一生を終えるか……、お前はどうしたい?」

「わ、わたしは……」

 娼婦をやめたい……!

 こんな人生いやだ!

 なんで好きでもない男に体を開かなきゃいけないんだ!

 わたしは、わたしは……!!

 娼婦として生きる事しかできなかった少女の心が氷解する。

 他に選べる道もなく、仕方ないと、すべてを諦めていたメディナの心から感情があふれ出した。

「わっ、わたし……、わたしは……!」

 涙が溢れ、化粧が落ちるのも気にする余裕もなく、メディナはルシファーの胸にすがりつく。

「わたしは! もうこんな人生! いやっ!! わたしは、もう娼婦として生きたくないっ!! お願い! わたしに未来をちょうだい……!!」

 ルシファーはメディナを抱きしめる。

「わかった。俺がお前に未来を与えよう」

 メディナはルシファーと唇を合わせた……。












 メディナを連れて行くことにしたルシファーは、娼館に所属していたメディナを金で買い取った。

 そして、その後、新魔国の女達からの頼まれモノを購入しながら、トリスタニアや近隣の街などの娼館を回っていた。

 全部一度で連れて行く方が効率がいいからだ。

 ルシファーは何度も娼館や酒場で客引きをしている娼婦を抱きながら、原石を探して集めていた。

 ルシファーは邪魔者が現れたり、騒ぎになったりしないように水面下で動き、4日間で娼婦達に誘いをかけ、何人かには断られたが、30名ほどが新天地へ向かう事を決意した。

 そして5日目、つまり今日、ルシファーは誘いを受けた娼婦達を馬車で回収し、新魔国へと戻る計画だ。

 ルシファーは宿屋のベッドで目を覚まし、起き上がろうとして、股間に違和感を感じた。

 じゅぽっ、じゅぷぷっ、という水音に、毛布に浮んだ女のシルエット、ペニスを這い回るいくつもの指、みずみずしい唇の感触。

 ルシファーが毛布を捲ると、案の上そこには裸の女達がフェラチオをしていた。


 始めに確保した娼婦メディナと、メディナの娼婦仲間で親友だと言う肩を超える当たりまで伸ばした茶髪、翠眼、つり目、スレンダーだがバランスのいい体、クラディナ17歳に、13歳で娼婦となって1年目だという、赤い髪を短いポニーテールして、まだ凹凸の薄い体、おっとりとした可愛らしい柔らかい顔立ちのアイギスと、26歳でそろそろ娼婦としては寿命が近づいてきた、長く尻まで伸びたふわふわの水色の髪、女としての凹凸が目立つ、巨乳で、妖艶な未亡人、エイダだった。


 4人で協力するようにフェラチオを行っていた。

 ルシファーが目覚めた事に気づいたエイダが挨拶する、

「おはようございますルシファーさま♪」

 ルシファーは次々に挨拶してくる全員を挨拶を交わした。

 挨拶を交わした後、女達は再びペニスを咥えて、胸を押し付け、玉袋を揉み、アナルを舐め、ちゅーっと口を窄めてペニスから精液を出そうとフェラチオを再開した。

「うっ、|射精()すぞ……!」

 ルシファーが腰を震わせて呟くと、嬉しそうに、はい♪ と頷いてエイダ、クラディナ、メディナ、アイギスの順に射精するペニスに口づけて、口内いっぱいに精液を溜めた。

 くちゃくちゃと舌で転がしてゆっくりと喉を鳴らして精液を飲み干す4人。

「いつもありがとうな」

 ルシファーはそんな四人に礼を言って立ち上がった。

「いえいえ。ルシファーさまの精液は美味しいですし、わたしたちはルシファーさまのものですから……、ご主人様のおチンポが苦しそうにしていたら抜くのは当然ですわ」

 エイダは頬に手を添えてうっとりと呟いた。

 ルシファーはふふっ、と笑って四人と唇を交わして、赤いロングコートとマントを羽織った。

 その後、ルシファーは宿屋を引き払って用意しておいた馬車の荷台に女達を乗せて、約束している娼婦を集めに向かった。

 その向かう途中。メディナは甘える仔猫のように、ルシファーの首に抱きついて胸を押し当てながら耳を舐めた。

 そんなメディナに親友のクラディナは呆れたように呟く。

「まったく……、少し前まで仕事以外で男に触れるのも嫌だったあのメディナが、こんなに変わるなんてねー」

「ルシファーさまとそこらの男を一緒にしないでよ。わたしはルシファーさま以外の男は大嫌いなんだから」

 メディナは抗議するように呟き、ルシファーの頬にキスをおとす。

 ルシファーはわいわいと騒ぎながら、娼婦達を集めさせた。

 そして、全員集めたルシファーは転移の【ゲート】を発生させて娼婦達を新たな新天地へと導いた……。











 娼婦達は目の前に広がる光景に言葉を失っていた。

 先ほどまでトリステイン王国に居たはずなのに、光の門を潜った途端、景色が一変したからだ。

「る、ルシファーさま……、こ、ここが……?」

 震えた声でメディナが呟いた。

 まさか、本当に国があるとは、しかも、光の門を潜った途端に新しい世界が広がっていることに娼婦達はルシファーの顔を見つめた。

 そして堂々と自分の国を紹介するルシファーに、不安と疑心を抱き、同時にこれから始まる生活にわくわくしていた。

「あはははっ! 驚いているようだな。この国は俺が創った国でな、人口はまだ300人にも満たないが豊かな土地が広がり、ハルケギニアの間違った貴族たちの様な者もいないし、ここでは教養も受けられるし、職業の選択は自由だ」

 ルシファーは笑いながら馬車を城へと進ませる。

「さらに、あれが俺の城だ。ここに連れてくる前にも言ったが、これから半年ほど全員に教養を学んでもらい、その後はぞれぞれ好きな職業を選んでくれていいぞ。勉強中も少しは働いてもらうがな。そしてこの国は亜人も暮らす国だから」

「あ、亜人ですか!?」

 娼婦達に驚きの声をあげ、怯え始める。

 ルシファーは怯え始めた娼婦を両手に抱いて笑う。

「亜人と言っても今住んでるのは数名の翼人と人型になれる竜で韻竜、ハーフエルフだな。まあ、人を襲ったりしないし、この国と外はまったく違う。始祖ブリミルを妄信する信者はいない。亜人の中の韻竜とハーフエルフは俺の妻だし、なによりもおれ自身人外だからな」

 再び驚く娼婦達にルシファーは腕に抱いたメディナの首筋を舐めながら呟く。

「種族の差など、この国では些細な事だ。俺は種族関係ないし女は好きだ。お前達はまずは教養を身につけて、少しずつ人としてふれあい自分で決めればいいさ」

「んんっ……、は、はい。ですがルシファーさま」

「なんだ?」

「わたしたちはルシファーさまに買われたので、もはや行き場などありません。それにわたしたちはルシファーさまの物ですし、ルシファーさまを信じて国を捨てたのですから、今さらですよ?」

 一番の年長者であるエイダが微笑みながら呟くと、他の娼婦達も頷いた。

「そうか。それは嬉しいな。ありがとう」

 ルシファーは馬車をとばして城へと進んだ。











 新魔国の城に戻ってきたルシファーは、まず新しい国民である娼婦達に自己紹介をさせて、妻達、役職のトップの順に行った。

 そして次にルシファーは、メイド達の屋敷に娼婦達の部屋を設けさせた。

 次の日、食堂で城に住んでいる全員と食事を摂った後、作戦参謀で教えるのが得意のオルタンスや手の空いているメイド達に娼婦達の授業を行わせ、ルシファーはその間に特注のメイド服というか修行服と、着替え用の下着などを、城下町の一角に開かれた衣服店へ赴き作成した。

 好きな男に体を開く必要も、飢える心配も、貴族達に怯える事もないと、娼婦達はすぐに新魔国を気に入り、学ぶ事の楽しさを知った。

 亜人という事で始めは怯えていた娼婦達も、周りに流される形で交流を開き、一ヶ月も経てば仲良くなっていた。

 ルシファーに拾われたもの同士で、さらに言うと同じ男に親愛を向ける女同士でもあり、ルシファーが度々開く乱交パーティーなどで痴態を見せ合った事で妙な連帯感がうまれたのだ。

 なので今日もルシファーは城下町に赴いて、城の外に住んでいる女達の様子を見るついでに、その女の柔肌を楽しんだり、メイドや軍人の屋敷へ赴いて乱交したり、妻達と普通のデートを楽しんだり、精液漬けにしたりと、思う存分楽しんでいた。











 その一方で、トリステイン王国、トリステイン魔法学院に王宮の勅旨が現れ、ルイズと才人を始めとする|水精霊(オンディーヌ)騎士隊が、アンリエッタ女王に『至急、王宮にくるように』と命令を受け、王宮のアンリエッタの執務室へとやってきていた。

「それで……、ルイズと俺達が姫様の護衛でロマリアへ向かうんですか?」

「はい。なんでもロマリアの方から、もし良ければ伝説の虚無の担い手とその使い魔を連れてきて欲しいとの事でしたので……、護衛ついでにわたくしとご一緒してくれませんか?」

 ロマリアから3周年式典への参加を促す手紙を受け取り、虚無の担い手と使い魔もつれてきて欲しいと頼まれたアンリエッタは、ルイズと水精霊騎士隊にロマリアまで同行するように、命令するために呼び出したのだった。

「で、ですが姫様……」

 普段なら二つ返事で了承するルイズが、申し訳なさそうに肩膝をついた。

「どうしたのルイズ?」

 アンリエッタが尋ねるとルイズは言い難そうに、ゆっくりと呟いた。

「わたしは今、虚無の魔法が使えないんです……」

「なんですって!? どういうことなのルイズ?」

 アンリエッタはルイズの両肩に手を当てて尋ねる。

 ルイズが口ごもっていたので才人が代わりに応えた。

「ただ単に精神力が切れただけですよ」

「精神力が切れた?」

「はい」

「なら、すぐに回復するんじゃないの?」

 アンリエッタはルイズに尋ねるが、ルイズの表情は硬く、重々しい。

「回復するにはすると思いますが、今までのように強い力は出せないと思います」

「そうなの……」

 アンリエッタは表情には出さなかったが、内心うろたえていた。

 ロマリアの教皇の目的は聖地奪還で、今は4つの虚無を集めているそうだが、今のルイズのように虚無の担い手の精神力が切れてしまったのなら無力で、虚無を4つ集めてもエルフと戦うなど無理ではないかと。

 言いようのない不安にかられるアンリエッタだったが、とりあえず、ロマリアへと向かわないと……。

 問題を先送りにして、アンリエッタはルイズたちとロマリアへ向かって出発した。












「あっ……」

 ルイズ達がロマリアへと出発していた頃。

 新魔国の巨城の後宮の居間で妻達とくつろいでいたルシファーは、また忘れていた事に気づいた。

「どうしたのダーリン? また忘れ物?」

 ルシファーに膝枕をしていたキュルケは、太ももに乗ったルシファーの頭を撫でながら尋ねた。

「ああ。すっかり忘れてた……」

 ルシファーは面倒くさそうに、心底面倒くさそうに呟いてキュルケの腰に顔を埋めた。

「なにを忘れたの?」

 本を読んでいたタバサがルシファーに尋ねた。

「賞金首を結界に閉じ込めて捕らえてた事を忘れてた」

 ルシファーの呟きに、最近編み物が趣味になっている年長組みのマチルダとエルフィアが呟く。

「それは……」

「……生きてるんですか?」

 ルシファーはうーん……、と寝返りをうって応える。

「ずっと眠らせてるからきちんと生きてるよ。ああ……、でもずっと入れとくのも嫌だし、さっさとお金に換えないとなー」

「また家を空けるの?」

 ジョゼットが不満そうに呟いた。

「いや、それは嫌だな。今回はさっさと換金して夜には戻るよ」

「そう?」

「さっさと終わらせたいし、明日行くよ」

 ルシファーは呟くと、キュルケの膝から起き上がり、テーブルに乗っているワインをメイドから受け取り、飲んだ。














 翌日……。

 ルシファーはトリスタニアに出向いて、捕まえた賞金首達を衛士達に突き出した。

「おお! こいつは大物だな! 元グリフォン隊のワルドじゃねえか!」

「ほんとだ! かなり変わっちまったが、こいつは風のスクウェアのワルド殿じゃねえか!」

「すごいなあんた! こんな大物連れてくるなんて!」

「ていうか、風のスクウェアも両腕を失ったらもう終わりだな」

 衛士達は興奮しながらルシファーが捕らえてきた賞金首達を見て驚いていた。

 そこに他の衛士よりも上等な服を着た男がルシファーへ金貨の詰まった袋を渡す。

 ルシファーは予想よりも多い金の詰まった袋に驚いた。

「こんなにいいのか? トリステイン王国は現在財政が苦しいと聞いていたが、5万エキュー近くもあるぞ?」

 ルシファーの問いに男は、縄で縛られているワルドの頭を掴みながら呟いた。

「ああ、他の者達もそこそこの値段だが、こいつだけはトリステインでは物凄い大罪人でな。裏切り者でもあるし、アンリエッタ女王陛下が直々に値段を吊り上げたんだよ」

 ルシファーを憎憎しげに、呪いでもかけようとしているかのように睨むワルドやその他の賞金首達だが、捕らえた時も、衛士たちに突き出した時も、ルシファーが取っている姿は、ルシファーの姿とかけ離れた傭兵風の男で、名前も偽装していた。

 そんな事はまったく知らないワルドと賞金首達は、架空の人物に恨みの念を送っていることには気づかなかった。

 ルシファーがそんな視線を受け流していると、ワルドの頭を掴んでいた男が呟いた。

「こいつ、両腕がないが、お前が切ったのか?」

「いや、一本は奇襲をかけて俺が切ったが、もう一本は最初からなかったぞ」

 ルシファーは軽く応えた。

 確かにガリアとトリステインの国境付近で、金銭目当てで襲おうとしていた傭兵達に混じっていた時からワルドは片腕だったし、傭兵達が襲おうとした瞬間に、奇襲をかけてワルドの腕を一番初めに切りとばして気絶させた。

「そうなのか? まあ、いいか。また賞金首を捕らえたらここに突き出してくれよ」

「ああ。わかった」

 ルシファーは衛士に軽く挨拶してから、新魔国への帰路へついた。














<後書き!>

 変な所でワルドさんが捕まっちゃいました。

 原作ではマチルダさんが世話をしていましたが、この話ではマチルダさんはレコン・キスタ側にいませんし、そもそもワルドとも出会っていませんから、ワルドさん傭兵兼賞金首に身をやつしています。

 おそらくもう出番はありません。

 両腕ないですし……。

 そして、現在原作小説でいうところの11巻辺りです。

 ですが、ヨルムンガルドやウエストウッド村からティファニアを連れてくるイベント、さらに二重の心のイベントはからに変化しています。

 ティファニアがいないので、アルビオンにはいきませんし、そのままロマリアへと直行しています。

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