あの後、三人はというと……。
「おっ、俺達をここからだせぇっ!」
ここはヴァルミリオン艦の留置所エリア内の留置室。逮捕した罪人や捕虜、反乱分子達を本部隊へ送致するために一時的に閉じ込める場所である。
三人はあの後、カーマイン提督の命令により兵士に連れられていった場所がここであった。
「僕たちっ……どうなるのかなぁ?」
「……わからない。けどあの様子だとタダごとじゃあなさそうだ」
一人で空しく抵抗しているジャイアンをよそに、座ってショボくれている二人。
しかし三人共、共通していた思考は『何の説明も』ないまま、ここに入れられたと言うことに対する怒りと疑問だった。
「ドラえもんっ、このまま俺達は黙ってていいのかよっ?
ここから抜け出す道具を出してくれよ!」
「落ち着いてよジャイアン!
ここから抜け出してどうしようって言うんだよ!?」
「決まっているじゃんかよ。カーマイン提督に直接会って頼み込むんだよ、俺達も参加させてくれってなっ!」
ジャイアンのその発言にびっくりして飛び上がるドラえもんとスネ夫。
「むっ、ムチャゆうなよぉ!
もし僕らが抜け出してここの人達に見つかっちゃったらどうするんだよっ!?」
「僕は絶対反対だからねっ!」
二人は断固拒否するが、それでは引き下がれないのが彼の性であった。
「なんだとぉ、俺達になにも教えてくれないでこんなとこに閉じ込めるあいつらが悪いんだぜ!」
「そっそれだよ、僕の言いたいことは!」
「「??」」
理解できないスネ夫とジャイアンにドラえもんは二人にこう説いた。
「去っていく時のエミリアさんはいつもと何か違ってた。
しかもカーマイン提督の叱り方も尋常じゃなかった。
これには何か深いワケがあるんだよ。
それを何も知らない僕らが今何を言ったって聞いてくれないと思うんだ。

……せめて、あの時の状況を教えてくれる人がいてくれれば……っ」
「「…………」」
三人はその場で沈黙する。確かに今は完全に『井の中の蛙』状態で手も足もでなかった
せめて少しだけでも教えてくれる人がいてくれたら……。
三人はそう気がして仕方がなかった。
しばらくすると、
“……みんな、大丈夫……?”
突然、ドア越しから聞いたことのある声がしてくる。
三人はそれに気づいてすぐドアに向かい、耳を傾けた。
「みっミルフィちゃんなの!?」
「ここにいても大丈夫なのっ!?」
声の主はミルフィだった。しかしいつもの明るい声ではなく、非常に暗く悲しい声だった。
「うん、話をさせてって言って監視係を下がらせたの。みんな……ごめんねっ、こんなことになったのも全部アタシ達の責任だヨっ……」
「違うよ、ここに来たいと言い出した僕らが悪かったんだよっ!ミルフィちゃん達は悪くないっ!」
深く謝罪する彼女に対して、代表して彼女を励まそうとするドラえもん。
「なあ、教えてくれ。あの時二人に何があったのか?しかもどうして俺達に何の説明もないのにここに閉じ込めるのかっ!?」
「そうだよそうだよっ!あと僕らはこれから一体どうなるんだよ?」
「ちょっと落ち着いてよ二人ともぉ!ミルフィちゃんに失礼だよっ!」
彼女に質問責めを行うスネ夫達二人をたしなめようとするドラえもん。
すると、ミルフィのほうからしずかに口を開いた。
「……わかったヨ。この後アナタ達は今までの記憶が一切なくなるんだからこの際、話してあげるわ……っ」
「「「えっ?」」」
するとミルフィは三人にこう説明した。
「あたし達はね、黙ってたけど本来アナタ達地球人には逢ってはいけない立場なの。
『異星人文化干渉法』に基づいてねっ」
「異星人……文化……干渉法……?」
「なっなんなのそれっ?」
初めて耳にする用語に全く理解できない三人にミルフィは理解できるようにこう説明した。
……………………………………
【異星人文化干渉法】
銀河連邦の定めた法律の一つ。主に発展途上惑星や未開発惑星において、まだ発展希望のある種族が存在する場合、その種族の自力の発展を尊重し、先進種族の科学技術等の文明、文化を持ち込まないと言う法律。
厳密にはその種族と接触により、独自の文化に影響を与えるものと考えられているため接触はおろか、目撃される、感知されるのも禁止である(例え、事故で対象惑星に不時着しようと例外ではない)。
この法を破ると重刑に処せられる(地球もその法の対象内であるため、エミリア達の地球での行動や今までに至る行為は完全に違法となる)。その対象となるかならないかの基準は全て本隊が取り決めている。
……………………………………
「何だって……っじゃあ……っ?」
「俺たちと話すどころか会っただけで?」
「そこでアウトってわけ?」
ミルフィは小さな声で返事を返す。
「うん。アタシたち偵察部隊の任務は地球とかの対象惑星に他の先進種族や知的生物が介入しないか確め、発見した場合はすぐに本艦に連絡し、捕まえて取り締まるのが本来の目的……。それをアタシ達自らが破ったこととなる……」
あまりにも厳すぎるその法に納得する三人ではなかった。特にジャイアンは……。
「こんな無茶苦茶なことあるかよぉ!大体エミリアさん達のはどうみても事故じゃねえか!!」
「落ち着いてジャイアンっ、あっちにはあっちの法律があるんだ。僕らがどうこう言っても仕方がないよっ!!」
すると珍しくスネ夫はミルフィにこう聞いた。
「じゃっ……じゃあ、その法を破ったらどうなるの?エミリアさん達は……?」
その核心的な発言にミルフィはしばらく黙ったあと、こう言った。
「……エミリアとあたしはその法を違反したことで、一番重い罰を受けるのは当然責任者のエミリア……。多分…本隊で軍事裁判がかけられて、良くて階級降格、下手したら懲戒免職、または逮捕されて懲役になりかねない。
あたしもほとんどの行動が制限されるかも……っ」
三人はその凄まじさに唖然とした。なぜそこまで酷いのか理解出来なかった。
「おいミルフィ、俺らを出して提督に会わせてくれっ!
エミリアさんとミルフィを許してくれるように頼み込んでやる!
もしダメって言われたらこの俺がぶん殴ってやるっ!
ミルフィだって助かりたいだろ!?」
彼の大胆かつ乱暴な発言を聞いた全員はびっくりして飛び上がる。
「そっ、そんなことしたら、かえって立場が悪くなるじゃないかぁ!?」
「乱暴もいいとこだよぉ!」
二人が彼を静めようとする中、ミルフィは身体をぶるぶる震えてついに怒りを彼にぶちまけた。
「「「! ?」」」
三人ともミルフィのキレた声を初めて聞いて、沈黙する。彼女の瞳から涙が浮かび上がっている。
「タケシ君、ここはアナタがいつもいる地球じゃなく、ここは銀河連邦、アナタ達の地球で言う……軍隊なのヨ。
もし提督にむかってそんなことをしたらどうなると思うっ?
反逆者としてあなたは即死刑、一緒に行動したドラちゃん達にまで何らかの刑に処せられるのヨ!?アナタの勝手な行動で全員を陥れるなんてドラちゃん達にとっても絶対もってのほか、そんなのあたしはもちろんエミリアも絶対望んでないし、彼女自身の顔に泥を塗ることになるのヨ、それでもいいの!?」
「……」
ついに何も言えなくなるジャイアン。今気づけば今までの発言は非常に自分勝手で回りを一切考えないことばかりだ。
さすがの彼もそれもわからないようなバカではない。
ミルフィも言い過ぎたのか、シュンとなり目を瞑る。
「……ゴメンナサイ、言いすぎたわ。
アナタ達の気持ちは非常にわかる。
私だって……たった一人のパートナーであるエミリアを裁判沙汰にしたくない。
……けど、これは銀河連邦が定めた法律なのヨ。
これを違反したエミリアはもちろん、その直々の上官でかつ艦長であるカーマイン提督、その艦に所属する兵士達全員にも恥をかかせたのと同じになるの。
アナタ達はまだ子供だから分からないかもしれないけど、軍隊では自分勝手な行動をする兵士が一人でもいるだけでその部隊は全滅してしまうだけでなく、隊全体に影響を及ぼす危険性は非常に高いの。
だからアタシ達の処遇は間違っていないの。そこだけはわかってちょうだいっ……」
「「「ミルフィ((ちゃん))………」」」
ドラえもん達はそれに気づいてしまった。ここは地球と違い、自分たちの思い通りに行くところじゃない、銀河連邦という正真正銘の軍隊だということを。
わきまえた行動や発言をするべきだったと特にジャイアンは思うのだった。
するとドラえもんは思っていたことをミルフィにこう聞いてみた。
「ミルフィちゃん、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何……?」
「エミリアさんのことなんだけど、そのアマリーリスって組織に何かあったの……?
今思い出したんだけど地球で僕がタイムテレビで見てた時の一緒に見たあの人の表情と言い方が非常に怖かった。
あんな表情、かなりの恨みや怒りを持っているとしか思えないし……もしよかったら僕達に教えてくれないかな?」
「…………」
ミルフィはその質問に答えづらいのか、しばらく沈黙したが、コクっとうなづくと静かに口を開いた。
「……いいヨ。何があったか教えてあげる……」
…………………………………………………
その頃、エミリアは自室に待機していた。彼女はデスクに置いてあった写真をたたひたすらに見続けている。
その写真には、恐らく彼女の故郷と思われる所で二人の睦まじき恋人が仲良く抱きつき合い、笑顔で写っていた。
見るかぎり、その女性の方はエミリア本人のようだが……?
「…………っ」
彼女のサングラスの下から一滴の雫が流れ出す。それは涙であった。
彼女も軍人とは言え、いち女性である。泣きたい時には泣いてしまうのは性ではあるが、彼女は仕事上、誇り(プライド)があるため普段は滅多に泣かなかった。
そんな彼女が泣いているのはなかなかないことだった。
突然、自室のドアが開くとそこに立っていたのはなんとあのヴァルミリオン艦長、カーマインだった。
「……提督?」
エミリアはとっさに涙を手で拭い。すぐに彼の元へ向かう。
彼はさっきの怖い表情とは異なり非常に優しそうな表情をしていた。
「エミリア、さっきはあんなに激怒して悪かった。だがわかってくれ、あれはーー」
「……わかっております。あれは私の独断で招いたことですから……。それでご用件は?」
「久々にお前と話したくなってな。お前の好きな飲み物を持ってきたし、落ちついてここは階級を忘れてお互い人間同士で話したいと思うのだが、大丈夫か?」
「……本当にありがとうございます。もちろんよろしいですわ、ではこちらへ」
彼を自室のソファーへ案内すると彼はスッと座り込み、持参した飲み物のボトルを前のデスクに置いた。
彼女も彼の前のソファーに座り込む。
しかし、彼女はもの悲しい表情で顔を下へうつむいている。
それを見て、カーマインは軽くため息をついた。
「……気にするのなら無理に話さなくてもよいが、良ければ地球の偵察中に何があったか教えてくれないか?いつもより遅く帰還し、地球人の子供達をここに連れてきた理由も……」
「……わかりました」
……エミリアは地球であったことを全て彼に打ち明けた。地球に自分たちの偵察機が自分達の不注意で墜落したことも、彼らの不思議な道具のお陰で偵察機を修理できて無事、帰艦できたことを。
そして、なにより重要なことはその彼らの友達が……ある理由でアマリーリスの本拠地に……。
「……そんなことがあったのか……。なんと悲惨なことであろうか……」
「…………っ」
二人に静寂で重々しい雰囲気に包まれる。確かにそうゆう理由なら今までの出来事に全て辻褄が合う。彼はそう思った。
「なら彼らは私達と協力してアマリーリスにいる友達を助けたいというのだな?」
「……はいっ、しかしここで私がちょっとしたよからぬ思いでこんなことになったことに深く反省しております。やはりあの時は断固としてあの子達がついてくるのを止めさせるべきだったのです」
カーマインは腕組をして、深々とソファーに背もたれる。少し黙りこんだあと、彼女に対してこう言った。
「実は別部隊の連絡により、今アマリーリスがこちらに向かってきているということで作戦を作成しているのだが……今回の作戦ではお前を外そうと思っていた」
「えっ?」
それを聞いたエミリアは信じられないような表情をしている。その理由を彼は少し黙った後こう言った。
「ホントは言いたくはないがお前、まだ立ち直ってないだろう?あの惨劇からな……」
「…ううっ………」
その言葉で彼女はあの忌々しい記憶が蘇ろうとしている。思い出すだけで怒りと憎しみ、そして悲しみの三大負の感情が自動的に沸き上がり、もう何がなんだか分からなくなる。
そう……それはあの時、3年前に遡る。
…………………………………………………