宇宙を自由自在に翔け、敵戦闘ユニット部隊の猛攻さえもことごとく回避するラクリーマの姿はまさに韋駄天であった。
『うわあああっ!!あの男を止めるんだ!!やられるぞ!!』
“連邦主力中型戦闘ユニット『クイスト』。
連邦初にしてNP炉心を搭載した機体であり、機動性と汎用性に優れ、さまざまな武装、オプションを換装できる量産機”
その数十機の両腰部に装備された多連装の発射管から無数の実弾ミサイルが一斉に発射され、それがラクリーマに向けて飛んでいく。
ラクリーマはその場で止まり右手を開いて追ってくるミサイルに向け、手の平にそのミサイルが直撃、爆発。
「クカカッ!!いいぞ、もっと来いや!!」
……全く効いていない。ミサイル一つ一つの全長がラクリーマと同サイズでそれが無数で襲いかかっているにも関わらず、右腕全体がもげるどころか、焦げ、傷ひとつもついてない。彼自身もバリアのおかげで爆風が全く届いておらず、無傷だ。
『やったか……!?』
連邦は爆煙を弱まり、その望みをかけてモニターを凝視した。
が……、その願いが叶うハズもなかった。
多数のミサイルが命中し、爆発した中心部からそう、あの男が何の影響もなく存在していたのだから……。それも今度は狙いをつけているように睨み付けながら……。
完全に畏れをなしている連邦兵士達。
――当たり前であった。生身の人間が宇宙空間にいることでさえ異常であるが、連邦の戦闘ユニット……いわゆる巨大な機動兵器の武装を持ってしても全く通用していないのは考えられない。
夢を見ているのかと疑いたくなるほどであった。
そんな中、
横から割り込んだスレイヴの集団が、絶望したのか動こうとしないクイストの胴体をあのエネルギーの刀身で斜め上から次々と一刀両断し、すぐにその場から離脱。
クイストの金属の胴体が焼ききれて半分に分断され……強烈な光を内部から発し、そして『ボボボッ!』と鈍い音を放ちながら爆発。
そんな光景をラクリーマは皮肉まじりな笑みを浮かべる。
「おいおい、それは俺の獲物だぜ?」
“クククッ、すんません。まあいい的だったんで許してくだせえ”
“たまには俺らにも勝ち星くださいよ、リーダー♪”
「まっいいさ。お前達は向こうを頼む。
なんかあったらスグに駆けつけるからな、あんまり離れすぎんなよ!!」
“了解!!”
仲間がまた次なる戦場へ赴くところを見届けるラクリーマ。
しかし、彼をよく見るとわき腹を左手で優しく撫でている。
(クククッ……どうやら耐えられなくなっちまってる……。痛みは感じねえが……かなり軋んでるのがよくわかるぜ……だが勝つためにやるしかねえんだ!!)
渋い表情をして彼も旅立っていく。
……そしてまた分散し、それぞれまた別部隊と介入、または仲間と合流した。
――無数のクイスト、ゼウシウスの集中砲火が周囲を隙間無しに埋め尽くす中、ラクリーマは爆炎の中から出現、ボロボロと化したアーマーを脱ぎ捨て突撃した。
「うああああァァーーっ!!」
彼の叫びが響いた瞬間、軌道上にいた十数機の腹部に貫かれたような大穴が発生し、その後ろでラクリーマがログハートを前に突き出していた。
すぐにその場から離れた瞬間、貫かれた機体群は一気に爆発したのであった――。
突然、ブラティストームの炉心を積んでいる肩の側面と上部の金属穴から細長いチューブがニュルニュルと5〜6本飛び出し、それがログハートの炉心を積んでいる翼のような突起物へと伸ばして、そのまま直結した。
「よし、試しに……ちょうど敵部隊が……」
彼の前方からはまた別部隊がこちらへ向かってきている。どうやら……戦闘機だけで構成されているみたいであるが。
ブラティストームの小型レーザー砲の全銃口をその戦闘機に向けてゆっくり狙いを定め――。
通常の出力とはワケが違い、発射された極太の光線が目にも見えぬ超スピードで一直線に駆けて、戦闘機は避ける暇もなくまともに直撃!!
しかし、その光線はその機体どころか後ろにいた機体さえも貫通、さらに貫通と遥か彼方まで伸びていった――。
『うわああっ!!何があった………』
爆発、その四面にいた戦闘機さえも巻き込んで誘爆した。
――ラクリーマは閃いた。『これは使えると』とうんうん頷いた。
「……やっぱりな。どうやら二つの炉心を連結させるとどちらかの炉心出力が上乗せされるようだ……こりゃあいいことを見つけたぜ!!」
ニィと笑う否や、ブラティストームを天に突き上げて、各銃口から光線がどんどん伸びていき……長いってもんじゃない、一体何百kmあるのか疑いたくなるほどの先が見えない極太の4つの光線を放ったままそれを維持し、まるであのスレイヴやゼウシウスのような……いやいや、そんなものとは比べ物にならないほどの全長を誇る光の刀身であった。
もはや説明の仕様がなかった。
4つの長いNPエネルギーの光で輝く刀身を形成し銃口を、左から右へ、その銀河連邦製戦闘機『ホルス』の密集地帯へ豪快に薙ぎ払った。
破格の全長を誇る光刀身一本が計四本縦にしているためその範囲は凄まじく、直撃したホルスは全機、切れ目と共に上と下に分断、爆発したのであった――。
“ほ〜〜う、ラクリーマ〜〜やるじゃんか♪
こればかりはあたしも考えてなかったよぅ♪”
「へっ、変な声を出すんじゃねえよ!!」
サイサリスから猫なで声で賞賛され、気味悪がる彼だが。
“ラクリーマは戦闘に関したら素晴らしいねぇ〜〜、センスいいねぇ〜〜♪憎いねぇ〜〜っ、このこのぉ♪
オマエだけでなくあたしにもやらせろぉん♪”
「やらせろってオマエ……」
“クククッ……ここでとっておきその3だ!!まあ見てな!!”
……開発エリア。サイサリスはどこから持ってきたのか謎のゴーグルを装着し、右手には拳銃のグリップとトリガーしかない形のデバイスを持っていた。
彼女が右手を前に伸ばすとそれに連動して、ラクリーマの意思とは無関係に右腕も同じ行動を取った。
“さっ、サイサリス?右腕が勝手に動いてんぞ!?”
「心配すんなラクリーマ。今だけログハートはあたしの掌握下だ」
サイサリスに映るゴーグルの画面にはラクリーマと同じ視点で、先ほどの斬撃で倒せなかったホルスの残機を何やら赤く丸で囲み……標準を合わせている。
「くくっ……ロックオン、目標、画面全体の敵軍団。NPエネルギー収束開始、死ねやイカレチ〇カスどもぉ!!」
持っていたデバイスのトリガーを力強く引いた――。
ログハートの機械や回路が一気に活性化した時、ホルス全機が突然一斉に爆散。一瞬で回りにバラバラになった胴体の破片や内部の機械が飛散しまくり、よくみるとパイロットの肉片や内臓も見るかげすらなく浮かんでいる。
ラクリーマは一体何が起こったか瞬きもせずにただ茫然と見ていた。
“どうだ!?この威力は!!”
彼女の声にやっと我に変え、ハッと大声を上げた。
「お前、一体何をした!?」
“クククッ、ワープホールの応用さ。高出力のレーザーをターゲットロックした対象物の内部へ空間移動させて直接撃ち込むっつう機構だ。
つまり相手からこちらの手を全く予想出来ずに直接に攻撃できる優れもんだ!!
最も、試験的に取り入れた機構だからさっきの一発しかもう使えねえが、もし生き残ったらそれが実用化できるように改良してやるよ。お前自身でも使えるようにな!!”
「…………」
さすがのラクリーマも彼女のあまりの凄さに口が震えていた。
「……ホントに敵に回したくねえ奴だなオメェはよ……こんなの連邦でも考えつかねえぜ……」
“けっ、このぐらい用意させてもらわねえと同じ土俵に立てねえぜ。
なんせ相手は連邦だからよ”
……確かにその通りである。もしログハートがなかったら確実に大苦戦を強いれていただろう。
ブラティストームだけではさすがに相手にならず、たとえ戦闘ユニットに乗っていても、無数の数で攻めてくる連邦相手には分が悪すぎる。
実際にログハートを装着しても、苦戦するとラクリーマは考えていたのだから、ここまで殲滅できるとは……サイサリスの持てる全技術を全て注ぎ込んだ『最強の殺戮兵器』なのだから。
……次第に彼は身震いし始め、右腕をぎゅっと握った。
「サイサリス……?」
“どうしたラクリーマ……?”
「俺、楽しすぎて今までにない快感を味わってる……こんなに破壊できて……こんなに敵を殺して……なんだろう……理性のタガが外れそうなんだが……」
“お、おい!?落ち着けよ!!”
「ああっ……分かってる……だが」
……何かがおかしい。彼女は悟った。
元々ラクリーマには、こう言うのもなんだが先天的に持って生まれた常人を遥かに超える身体能力、戦闘的センスもさることながら、戦闘訓練で垣間見せた凶暴な本能も兼ね揃えている、いわば『生まれながらの闘犬』と言える。
……しかし彼には理性がある。たまにくだらないイタズラ等もやらかすが決して頭は悪くない。
しかし、ログハートを装着した際、旅立つ際に彼女へ放った言葉は何か危ない言葉を放っていた。それは普通の思考ではまず口にしない言葉である。
つまりである。彼は本性を隠している。今までに誰も見せたことのない本当の姿が……。
“ラクリーマ……お前のアリのままが見てえぜ。
私も自分が作った武器で敵を殺戮する光景を見るのが大好きだ。
だから……全力でいけ!!奴らをブっ殺してやれ!!そのログハートで……私を濡れさせやがれ!!”
……彼女もかなり逸脱した発言をしているが。まあ二人とも思考がよく似てる。
「クククッ……お前に今まで男が寄り付かん理由がよぉくわかったぜ。テメェは真性の殺キチじゃねえか!!」
“うるせぇ、まだセルグラードが残ってるんだぜ。
あと見る限り、リミッターを解除してもイケそうだな……どうする?」
「ああっ、俺の合図で解除してくれ!!」
“分かった!!”
……………………………………
その頃、戦闘員達は度重なる宇宙戦闘に段々と疲労していた。
破壊しても破壊しても次々とやってくる連邦部隊を前にして、もはや底なし地獄である。
『くっ……さすがに頭が痛くなってきた……』
レクシーもなんとか生き残っているが、いつ終わるやも分からない迎撃に頭痛を発していた。
彼の乗っている機体も装甲がすり減っていつやられるかも知れない状況にあった。もちろん、他の戦闘員達の機体も同じである。
もう現時点で2500機近くあった機体の数がもう1900機前後である。
機体が破損し、戦線を離脱し帰艦した者はもちろん、敵の攻撃で大破し、命を落とした者も。
仲間意識の高い彼等からすればその光景を見るのはあまりにも辛いことであった。
――そして、今彼らと交戦している銀河連邦、本隊直属第17攻撃部隊……あの二人がいる部隊であった。
『ケッケッケ、よくもここまで好き勝手に暴れてくれたな!!
俺様のアデリーンで貴様らを制裁してくれる!!』
迎え出るはサルビエス。彼の搭乗するこの機体は不気味である。
全長は大型クラスであり、さらに狐の顔を模した頭部、限界まで装甲を削り、スマートすぎる胴体、そして後腰部には金属でありながらまるで尾のようにユラユラ揺れる柔軟性をもった物体が計9本……。
それ姿はまるで中国の妖怪である『九尾狐』の姿と酷似していた。
『……他の戦闘ユニットと違って嫌な感じがするぜ……全員、あの戦闘ユニットに気をつけろ!』
レクシーのかけ声に仲間は分散し、サルビエスの駆る『アデリーン』を四方八方取り囲んだ。
『全員、一斉攻撃だ!!』
彼の合図と共に、両肩から長く突き出た砲身から放たれる一点集中型の光線をアデリーンに撃ち込んだ。しかし、光線が突如アデリーンの全身から緑色の粒子が放出、エネルギーの力場が発生され、全方向からの光線がいとも簡単に弾かれた。
『クックック……お前らの攻撃なんぞ利くわけねえだろうが!!』
コックピットで余裕こいて高笑いしているサルビエス。
『ならこちらからも行くか……全機、俺様を援護しろ!』
“了解……”
周りの部下の返事が何か元気がない。それはコモドスも同じであった。
『あいつ、バリア持ちか……これはヤバイなぁ……』
レクシーは歯ぎしりを立てている。
こんな独特のフォルムはどうみてもクイスト、ゼウシウスのような量産機ではなく特機だ。
後方にはもう一機、他の機体とは形状が違うまるでゴリラをそのまま機体にしたような重量感ある戦闘ユニット。全長はスレイヴと同等である
そして彼等の前に立ちはだかるサルビエス率いる攻撃部隊、果たしてレクシー達の運命やいかに……。