〜無月流vs三刀流〜
side 三人称
戦いは激化した――
元より刀の速さが基礎の無月流、そして、神速を駆使する飛天御剣流を含めたハルの剣。速さはほぼ互角。
ただ……それでも戦いの均衡は少しずつ崩れていっていた。
ハル「くっ!(刀の速さに体が反応できない!)」
――そう…斑鳩の剣は速い。それは一撃ただが速いだけではなく、一振りの居合いから繰り出される数撃も速いのだ。
その為、全てを防ぐにはその刀の一撃一撃を見極め、それに合わせ、一本の刀、逆刃刀「真打」のみで弾くか防ぐかしなければならない。
人の反応速度には必ず限界がある。よって、少しずつハルは押され始めていた。
ハル「(それでも!)うおぉぉ!」
だがハルは諦めない。全てではなくとも、致命傷になりかねない一撃は防げている。それなら付け入る隙は必ずどこかにある筈。それをじっと待つように……
そして―――
ハル「ここだ!」
斑鳩の一撃に対し、オーラを込め強化した刀で受け、そして弾く。
斑鳩「くぅ!」
ハル「今だ!」
その勢いで後退する斑鳩。その隙にハルは大きく跳躍する。そして落下する勢いで刀を打ち込む。
ハル「一刀流…龍槌!」
斑鳩「ふっ!」
その一撃を避ける斑鳩。それでも着地後、一歩踏み込み懐に入る。そして峰をつかみ、飛びながら振り上げる。
ハル「翔閃!」
斑鳩「くっ!」
その一撃を斑鳩は鞘にしまった状態の刀で防ぐ。そして切り上げられた勢いで後退し、距離をとる。着地したハルは攻撃の手を緩めない為に、接近する。
しかしそこで斑鳩の居合いが始まる。慌てて後退するが、既に射程範囲だった為、服を着られ、刀も弾かれた。刀は回転しながら宙に舞い、ショウの近くに刺さる。
ハル「くっ……」
斑鳩「どうどすか?うちの居合いは。」
ハル「あぁ、確かに速いよ……」
斑鳩「そうでしょうなぁ。しかし…本気も出してないあんさんにそう言われても、実感がありまへんが。」
ハル「……わかるか?」
斑鳩「当然。うちの知るあんさんの情報は、三本の刀を使ってくる、もしくは大剣を操る剣士とあります。しかし、今回はどちらにも属さへん。」
ハル「…そこまで言われてしまうとな……」
そう言うとハルは両手を前に広げ、突き出した。すると右手に二本、左手に一本の刀がそれぞれ握られた。
斑鳩「換装の魔法どすか。」
ハル「あぁ、そうだ。」
ハルは短くそう答え、右手に持つ刀の一本を口にくわえる。
斑鳩「ほう、それで三本の刀を操ると?」
ハル「あぁ、問題はないだろう。」
斑鳩「なら…試させてもらいます!」
そう言うや否や、斑鳩は得意の居合いを放つ。それは一瞬で終わったが、斑鳩の顔には驚愕の色が見えた。
斑鳩(バカな…全て防ぎきった…!?)
そう、先ほどの数撃の居合いを、ハルは三本の刀で防ぎきったのだった。それは斑鳩も経験した事のない事だった。数撃を防がれる事はあっても、全ての攻撃を防がれたのは初めてだったのだ。
ハル「さぁ、行くぞ!」
斑鳩「くっ!」
そしてそのまま切り合いは始まる。しかしそれは先ほどとは違い、今度はハルの方が優勢だった。どうやら、手数を増やした事で、斑鳩の剣に対応しやすくなったようだ。
ハル「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
斑鳩「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
刀と刀(正確には刀と鞘)が交錯し、激しい衝突音が部屋に響き渡る。ショウはこの光景を目の当たりにし、驚愕していた。
ショウ(これが……これが姉さんが認めた剣士の実力。すごい…僕となんか天と地ほどの差がありそうだ……)
お互いに打ち合い、しばらく経った時だった。お互いにお互いを弾き、距離をとる。そして遠距離からお互いの剣をぶつける。
斑鳩「無月流……迦桜羅炎(かるらえん)!」
ハル「三刀流……土龍三閃(どりゅうさんせん)!」
斑鳩は刀をしまった状態の鞘で地面を削り、その摩擦で出来た炎で、ハルは手と口にある刀で地面を抉るように振り抜き、それにより生じた土砂で。
それぞれ迎撃した―――
斑鳩「くっ……!」
お互いの技がぶつかり合い、衝撃を生む。それにより爆煙が生まれ、視界を遮る。しかし斑鳩も油断しない。この隙に攻撃されるやもしれないからだ。
そして―――
ハル「一剛力羅(いちゴリラ)…二剛力羅(にゴリラ)……!」
斑鳩「っ!?」
不意に部屋に響く声。だがその声は正面から聞こえるのではない。斑鳩は即座に気配を探り………
ゾクリ…!
すぐに殺気を感じた。そしてそれは……後ろから、しかも少し上からだ。
振り向き見上げると、そこには両腕を肥大化させた敵の姿があった。既に落下しながら構えをとっている。すぐに後ろへ飛ぶ。だが、そのときにはハルは斑鳩とほぼ同じ高さにいた。
ハル「三刀流、二剛力斬(にごりざけ)!」
斑鳩「ぐぅぅ!!」
そして放たれる一撃。その重さは計り知れず、足を地につけていない斑鳩は、その勢いで木の橋を破壊しながら後退する。
一撃を放ち着地するハル。だが、時間が惜しいがごとく、そのまま斑鳩の元へ走る。
後退していた斑鳩も、体勢を立て直す。そして前を見据える。だが、その時には、既にハルが次の一撃を放とうとしていた。
ハル「三刀流…!」
斑鳩「っ!無月流…!」
ハルは両腕を自らの前で交差させ、斑鳩は再び居合いの構えをとる。
そして―――
ハル「鬼斬り!」
斑鳩「夜叉閃空(やしゃせんくう)!」
二人の体がすれ違う。神速を含み、速さと力のハルの剣。瞬く間に無数の斬撃を放つ斑鳩の居合い。
結果―――
バキィィン!
ハル「ぐっ!」
手数で劣るハルが、いくつかの切り傷を体に刻み、両手の刀を砕かれ、腕から落ちる。そして口にくわえていた刀がこぼれる。
斑鳩「勝負あり…どすな…」
自らの勝ちを確信する斑鳩。着ている服は切られているが、血は一滴も出ていない。
だが…それでもハルは諦めない。
斑鳩がこちらを振り返る一瞬。口から落ちる一本の刀を空中でつかみ、換装で取り出した鞘に納め―――
ハル「一刀流、居合い……!」
斑鳩「っ!?」
―――さらなる一撃を放つ!
ハル「獅子歌歌(ししそんそん)!!」
再び二人の体がすれ違う。そして………
斑鳩「ぐはぁ!!」
斑鳩の体から血しぶきが舞う。それは、戦いの終わりを示していた。
ハル「はぁ…はぁ…はぁ……」
刀を鞘にしまった状態で膝をつくハル。その肩は大きく揺れており、その後ろ姿は先ほどまで繰り広げられていた激闘を物語っていた。
ショウ「すごい…本当に倒した……!」
ハル「……てめぇ俺をなめてるのか?」
ショウ「い、いや、そんなつもりじゃ…!」
ハル「…わかってる。少し、からかっただけだ。」
それの一部始終を見ていたショウ。終わったと見て、すぐにハルの元に近づく。
だが、斑鳩にはまだ意識があった。
斑鳩「うちが負けるなんて…ギルドに入って以来、初めて、どす…。せやけど、アンタらもジェラールはんも負けどすえ……」
ショウ「どうゆう意味だよ!?」
斑鳩「あと5分……。落ちてゆく〜、正義の光は…皆殺し〜……ふふっ、ひどい歌……」
地面に転がりながらも手を挙げ、一句歌う斑鳩。最後にそう言い残し、意識を手放す。この言葉に一番驚いたのは、ハルだった。
ハル「5分後だと!?」
そう、原作とは違い、今から5分後にエーテリオンが発射される。自分から原作介入したとはいえ、ここまで時間がかかっているとは思っていなかったのだ。
ハル「(時間をかけすぎたか…!)ショウ、今すぐ動けるか!?」
ショウ「あ、あぁ。」
ハル「ならレットと一緒に外に出ろ!その間にシモンやウォーリー達に連絡とって、一緒に避難しろ!レット、後は頼むぜ!」
レット「あぁ、わかった!」
ショウ「でも、アンタは…?」
すぐさま指示を出し、避難させようとするハル。ショウは肝心のハルはどうするのかと聞いてきた。
だが、ハルは当然のごとく……
ハル「エルザの元に向かう!」
そう返し、エルザが向かった道を走りだした。
side out