小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side 百代

ワン子は来る日も来る日も努力していた。

だから、その強さは私も認めているが、あくまでそれは一般の武道家たちと比
べてということだ、上には上がいる。

そして、今回の相手は明らかに格上の相手。
事実上、二対一の試合だったし、始まる前から結果は見えていた。
それでも、ワン子は諦めることなく、果敢に攻め込み、相手の1人に大きなダ
メージを与えた。
予想より善戦したが、やはりそれまで。

すぐに残りの1人に反撃されて、フィールド端まで追い込まれた。
よく1人だけで準決勝まで進んだと帰ったら褒めてやろう。

そんなことを考えていたら、目の前に信じられない光景があった。

あの無気力男がワン子の前に立ち、攻撃を受けた。
そいつはいくら攻撃を受けても、全く痛がる様子はなく、最後までワン子に攻
撃を通すことなく、対戦相手を道連れにして、場外負けとなった。

気もない人間がまさかあの二人に勝ってしまうなんてな。
やり方はどうあれ、なかなか面白い奴だ、流川。


Side out


ふぃ〜、なんとか勝てたわ。
てか、体がまじで痛いわ、まあ骨がイってないだけいいか。


「流川君、大丈夫?」


一子が今にも泣きそうな顔で迫ってきた。
なんか、こうして見るとワン子と呼ばれているのも頷ける。


「ああ。」

「でも、流川君のおかげで勝てたわ、ありがとう。」

「ん、別に。」


実際、一子がフィールドに残っていたから出来た作戦だし、何よりこの試合で
勝ち残っていたのは一子ひとりだけなのだが。

まあ、こんな笑顔で感謝してくれてることだし別にいいか。
一子には借りもあるし、こんな嬉しそうにしてくれるなら、まあやってよかっ
たってとこか。


「でも、アタシが守るって言ったのに、結局守られちゃったわ。」

「男が女を守るのは当然だ。」

「………………」


口をあんぐりと開けて、一子が沈黙している。

やばい、なんかキザなこと言って、ひかれたか。
でも、これは建前とかじゃなく、本心なんだが……
え、てことは何?他ならぬ俺自身にひいてるってこと?

これは正直、さっきの試合の傷より痛いぞ。


「……した」

「ん?」

「初めて文章を話した!」

「……は?」

「いつも2文字くらいしか喋ってくれなかったのに!」


ああ、分かった。
俺が普通に話したことがかなり驚きなのか。

まあ、俺もこのまま誰とも話さずに学校生活が終わると思っていたが。
こいつと二人で話す分には目立つことにはならないだろう。

なんか予定が狂わされてるな、見事に。


Side 一子


本当に驚いた。
私の前に立ったときもそうだけど、あの二人を全く手を出さずに倒してしまっ
た、そのことがすぐには信じられなかった。
でも、じいちゃんの声が響き渡って、その光景が現実であることを実感した、
本当に勝ったのだ。

流川君がアタシの前で相手から一方的にやられてるとき、胸が張り裂けそうだ
った、アタシが追い詰められたことで流川君が犠牲になっている。

だけど……

何故だか、その守ってくれてる大きな背中を見てると嬉しかった。
流川君が攻撃されて悲しいのに、その嬉しさも収まってはくれなかった。
アタシが何もできなかったのはそのせいもあるのかも。

でも、アタシが守るって約束したのに、守られてしまったのはやっぱり、悔し
いし、情けないし、申し訳ない。
そのことを流川君に謝ると、真剣な顔で“女は男が守る”んだって。

今まで、“おう”とか、“ああ”しか、話してくれなかったのに、やっと会話
ができて、ちょっと仲良くなれた気がした。
この調子でもっと、毎日を楽しいと思えるようになってほしい。

でも、アタシの方が流川君に喜ばされることが多いような……

そして、さっきは嬉しさが先行して、なんともなかったけど、後で流川君の言
葉を思い出して、どきどきしていた。


Side out


次が決勝か、ここまで来てしまった。
俺の予想では勝ちあがってくるのはS組だろう。
ちょっと優勝は流石にまずい、目立つとか最早そういう次元じゃない。
やっぱり一応、きいてみるか。


「なあ」

「ん、なーに?」

「棄権しn…」
「決勝、がんばりましょ。」


俺の提案は会議にかけられる前に否決された。

まあ、今更か。
棄権もそれはそれで目立つし、普通にいって負けるのが無難か。
次の相手には多少、警戒も生まれちゃってるだろうし。

ああいうのって、不意打ちだからな、一発限りなんだよな。
それに相手は決勝に上がってくるほどの実力者。
あれ?よく考えるとなんの心配もないんじゃないか。

負けても総合2位なわけだし、一子も文句ないだろう。


Side 大和


正直、“流川海斗”という男が分からない。
人と関係をもっていない奴は俺にしても調べようがない。
ただの陰気で孤独な奴だと思っていたので、ワン子とペアにならせるのは正直
なところ反対だった。

しかし、今はますます分からなくなっている。
ピンチのワン子を助けただけでなく、試合にも勝利してしまった。
しかも、全く手を出さずにだ。

今の行動、一部始終を見て、クラスメイトは困惑している。

委員長やキャップは警戒を解いて、良い奴かもという認識に改めているという
感じだ、逆にそれ以外の人間は今ので多少印象は変わるものの根本にあるクラ
スでのアイツのイメージを払拭できていないってところか。

だが、ワン子は実際に守られた身、ある程度の信頼が芽生えていると解釈をし
て、まず間違いないだろう。
相手がそれを狙っているということも考えられなくはない。
十分に可能性はあるし、警戒するに越したことはないか。

今、俺の出来ることは奴の情報をなるべく早く集めて、仲間の安全を確保でき
るようにしておくことだけだ。


Side out


「では、これより最後の決勝戦を開始する。」


思っていた通り、S組の九鬼・忍足ペアが勝ちあがってきた。
ていうか、このメイドは少しやばい感じがする。
なんつーか、試合への闘気っていうよりも、この冷たい感じは……


「始めぇ!」


最終試合が始まった。

-10-
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