小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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遠ざかっていく海斗の背中。
それを見て、亜巳は口を開いた。


「いいのかい、マロード。行っちまうよ?仲間にならないなら、ここで潰し
ておくのが安全だと思うけどねぇ。」

「確かにそうですが、今は手を出さないほうがいいでしょう。それとも、海
斗君相手に絶対勝てる自信がありますか?」

「うちの辰なら大丈夫さ。」

「否定はしませんが、切り札というのはそう簡単に見せないものですよ。海
斗君はカーニバルには参加しないと言っていましたが、もしもの事態にも対
応できるようにはしときますよ。彼1人いるかいないかで戦場がガラリと変
わる、そんな駒ですから。そのための材料は十分に用意できました。」

「ふぅん。まぁ私らはカーニバルで暴れられれば、それでいいさね。」

「海斗くん、いい子だったなー。また会えるかなー。」

「いや、だからあいつの言うとおりならもう会えないって。」

「そうなのー?じゃあ天ちゃんは、どうなっちゃうのー。あんなに海斗くん
のこと好きなのにー。」

「天を連れて来なかったのはそう考えるとある意味正解だったね。とにかく、
私らはカーニバルで思う存分暴れまわるだけさ。」

「ふふっ、期待してますよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―翌日
いつものように登校する生徒たち。
そのなかには昨日大変だった一子もいた。
今日はファミリー揃っての登校。
変わらぬ平和、穏やかな日常がそこにはあった。


「へぇ、昨日はそんなことになってたのか。でも、本当に無事でよかった。」

「てか、その刺した奴を放ってはおけねぇだろ。」

「そうだな、私の可愛い妹に手を出したんだ。八つ裂きにしてくれる。」


…会話の内容こそ物騒だが。
間違いなく平和な時が流れていた。

学校に着いたメンバーはそれぞれの学年へと分かれていく。
一子を含め、ほとんどの者が向かうのが2−Fである。


「あれ、海斗はまだ来てないのか。」


クリスがそんなことを呟く。
一番に反応したのは一子。
その後、他のメンバーも教室の海斗の席に目を向ける。
確かにそこは誰も座っていなかった。


「どうしたんだろう…」

「ただの遅刻だろ、動物でも追っかけてんじゃねーの?」

「んぅ、だといいんだけど…」


一子が無駄に心配するのにも訳がある。
海斗はいつもこの時間にはとっくにいるのだ。
基本登校は早いし、遅刻もめったにない。
あったといえば、あのラブレター事件のときくらいだろうか。
そして、一子が最も気にかけているのは…


(昨日の海斗の様子はなんかおかしかった…。もしかして、それが…。)

「ワン子、そんな顔すんな。大丈夫だって。」


力なく頷く一子。
だが、無情にも最初の授業のチャイムが鳴り響いた。
遅刻だと考えようとするが、結局その日の授業は全て終わってしまった。
海斗の来ないまま…

ずーん、そんな音が一子から聞こえてくるようだった。
昨日、何もしてあげられなかった自分に責任を少なからず感じているのだろう。
クリスも一子には及ばないが、心配で元気がない。


「あいつも人間なんだから休むこともあるって。そんな気落ちするな。」

「ああ、そうだぜ。明日会って、元気に声かけてやりゃあいいだろ。」

「分かったわ…。」

「ああ…。」


だが、次の日になっても海斗は学校に現れなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「さて、このままでは約3名が生きる気力をなくしてしまいそうなので、対
策を考えることにする。」


急遽、開かれた集会。
金曜でもないのに、ファミリー数名の異常な落ち込み具合に全メンバーが集
結していた。


「やはり、流石にこれはおかしいだろう。」


クリスが話に入ってゆく。
すかさず、由紀江が賛同した。


「私もそう思います。失礼かもしれませんが、海斗さんが病気で休むなんて
考えられないです。今までもそうでしたし…」

「でも、彼だって1年に1度くらいそうなることはあるんじゃない?」

「アタシはそのやっぱり一昨日のことがあるから、普通じゃないと思うわ。」

「一昨日っていうと、この前言ってた様子がおかしいっていう奴か?」

「うん。なんていうか、深く考え事をしてる感じで…。」

「つまり、病気や事故っていうよりかはあいつの用事ってことで休んでるか
もしれないってことだな。」

「だけど、用事ってなんだよ?」

「「「・・・・・・」」」


ガクトの一言にみんな口を閉じてしまう。
そう、そもそもそこなのだ。
病気だろうと用事だろうと、問題ではない。
来ていないという事実の解決にはつながらない。
部屋が沈黙に包まれようとしていたとき…


「みんなー、大変大変だよーーー」

「どうしたんだ、クッキー?」


沈黙を破ったのは突如部屋に入ってきたロボット、クッキーだった。


「こんなのが落ちてて…」

「これは…?ノートパソコンか…」


机の上に置いたそれにはディスプレイはあるが、電源のようなものはない。
市販にしては欠陥品もいいところ。
まさに用途不明。

だが、突然画面は映った。
といっても、映像は砂嵐のようなもの。
しかし雑音はなく、代わりに明らかにいじった声が聞こえてきた。


「俺はマロード。風間ファミリーのみんな、少し話をしよう。」

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