小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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いつも金曜集会が行われる秘密基地。
来る日も来る日も集まっては、居心地よく手を加えられていった場所。
そんな笑いが絶えない空間は今までになく重い空気が漂っていた。
そんな皆の様子を見て、最初に口を開いたのは風間翔一である。


「実質的な損害としては、モモ先輩の力を封じられたことだけか。多少の怪
我はあっても何日も続くような傷を負った奴はいないな。」

「…確かに肉体面の被害は少ないけどな…精神面で…」


大和が部屋を見渡して、呟く。
一子、クリス、由紀江の三人は顔を俯かせていた。


「ふむ…私が大変な誤解にあっている間にそっちも随分なことになっていた
んだな。つまり、去り際に姿を見せた敵の中に1人気がない黒ローブの奴が
いたんだな。それで流川海斗ではないか、ということか…。」

「でも、気がないだけであいつって決まるわけじゃないだろ。極端に弱いだ
けの奴っていう可能性は?」

「それは考えにくい。そもそも、どんなに弱い奴でも気は存在しているんだ。
一般人だと、懐に入られても気配を探知できないことはあるが、まゆまゆが
相手の気を探ってそれで感じられない奴なんて普通いない。正真正銘、気を
持っていないってことだからな。確かに前までは私も流川のような奴を知ら
なかったから絶対とはいえないが…。でも、もう1つあるんだろ。」

「…ああ。その机の上のストラップ、流川の携帯に付いてたものだ。それを
投げてきた。」

「アタシと携帯買いに行ったときにもらってたやつなの…」

「そんなものを投げてきたってことは流川海斗は…」


そして、また会話が途切れる。
違うと思えば思うほど不安は大きくなっていく。


「風間ファミリーの皆、元気かい?」

「!」


そこへあの画面がついて、忌々しい機械音が聞こえてきた。


「マロード…!」

「あれ?なんか怒ってんの?声が怖いよ。」

「ふざけんな!今更、何の用でかけてきやがった!」

「何って、流川海斗のこと知りたいんだろ?」


ガタッと一子が立ち上がる。


「どういうこと!?」

「俺は嘘はつかないよ。しっかり来てくれたから、流川海斗のことについて
教えてあげるよ。ま、気づいてるとは思うけど。」

「このやろ…」

「いいねー、その反応。やっぱ、分かるよねー。流川海斗がこっちの仲間だ
ってことは。」


決定的な言葉を吐いた。
それは誰もが口に出さなかったが、誰もが懸念していたこと。
さっきの不可解な事柄が全て説明できてしまう。
だが、一番認めたくはない答え。


「ふざけるな!!!海斗はそんな正義の道から完全に離れたようなことには
協力しない!!」

「そうです!海斗さんは誰よりも優しい方です!」

「でも、君らだって想像しなかったわけじゃないだろ?」

「…っ…海斗はそんなことしないわよ!!」


マロードの言葉に一瞬言葉が詰まってしまう。
それがマロードの意見を肯定しているかのようだった。


「大体、そんなに庇ってるけど、君たちは彼の何を知ってるわけ?」

「何って…」

「彼と出会って半年も経ってないだろう?しかも、最近までは会話すらなか
った。そんなんで信頼してるなんて、笑えちゃうな。」

「私はそれでも海斗さんが優しさに足る人物だと思います!!」

「はぁ…、じゃあ教えてあげるよ。彼の汚れた過去を。」

「何だと?」

「君たち“常夜”って、知ってるよね。」


全員知っている。
この前の特別集会で話題に出たばかりだ。


「彼はあそこの出身なんだよ。生まれつきの極悪人。」

「は?」

「どういうこと?」


事態が上手く飲み込めていない。
脳の処理が追いつかない。
マロードは構わず続ける。


「彼はあの腐った世界で生きてきたんだよ。勿論、他の人間も沢山殺してね。
彼がなんて呼ばれてたか知ってる?“死に神”だよ、怖いねー。」

「そんなの嘘よ!大体、なんでアンタなんかに分かるのよ!!」

「俺たちを惑わそうとしてるだけだ。気にすんな。」

「証拠もあるよ、これ録音なんだけどね…」


そう言って、再生されたのは…


“「ああ、確かに俺が常夜から来たのは間違いない。」”


「っ!海斗の声…」

「ふふ、こんなのもあるよ。仲間になってくれって説得したときなんだけどね…」


“「俺はお前らの敵にはならない。」”


「……おいおい、嘘だろ。」

「ワン子……」

(そういえば、海斗に常夜の話をしたとき、少し様子がおかしかった…)

「流川海斗は俺たちの仲間だ。そして、カーニバルにも協力してくれる。」

「カーニバルだと?」

「簡単に言えば、川神が崩れる日だよ。開催は一週間後。大勢の不良の一斉
大暴挙さ。それに彼も一役かってくれるのさ。ま、自由行動にしてあるから、
当日はどこにいるか分かんないけど…、街を徘徊してるんじゃないかな?」

「なんだ、そりゃ…」

「楽しみにしててよ、じゃあ約束も果たしたし、バイバイ。風間ファミリー。」


絶望という土産を残して、通信は途絶えた。

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