小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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通話を切断する葵冬馬。
その顔は満足の結果に納得がいっているようだった。
今の通信を後ろで聞いていた亜巳がその背中に声をかける。


「大層な嘘をついたもんだね。」

「そんな…、名演技と言ってほしいですね。」

「どうすんだい?せっかく秘密裏に動いてきて、隠しとおせていたカーニバ
ルのことまで話しちまって。それに壊滅させる予定の風間ファミリーに教え
るなんてさ。直江大和の誘拐も急遽とりやめるとか言い出すし…」

「ふふっ、いいんですよこれで。少々計画が変わったんです。海斗くんとい
う厄介なジョーカーが現れましたからね。」

「ジョーカーねぇ…」

「流石に私でも風間ファミリーと海斗くん両方を相手にするのは無理ですし。
ならば、互いに潰しあってもらおうというだけですよ。そして、海斗くんと
いう強敵に立ち向かうには大和くんのような頭脳派がいないと始まりません
から。」

「えげつないねぇ…、でも流川海斗が来るのかい?」

「来ないとは言っていましたが、相手の言うことを鵜呑みにしていては作戦
は立てられないんですよ。それにもし来なくても、風間ファミリーの戦力を
分散させられますよ。街を徘徊するっていう…見えざる敵を探し回ってね。」

「はぁ…それにしても、敵の情報をそう易々と信じて、流川海斗と戦おうっ
てな具合に都合よくなってくれるもんかねぇ。」

「大丈夫ですよ。あくまで海斗くんが敵側についているんではないかという
認識は相手の心の内に芽生えたもの。私が植えつけたのではなく、あのビル
の屋上でのやりとりで育っていたんですよ。私はそれを指摘し、より明確な
ものにするのを手伝ったに過ぎません。」

「でも、まさか気のない存在として、死体を持って行けなんて流石の私でも
驚かされたよ。」

「まあ、あれは単純ですが効果的な作戦なんですよ。常識で考えて、気がな
いのは生き物じゃないなんて当たり前に行き着く答えですが、海斗くんとい
う存在を知っているがために気づけない。そして、学校に姿を見せていない
という不安の心をくすぐる。結局、人間は誰しも悪い方へ悪い方へと考える
生き物です。それは社会が偽りや嘘にまみれているから。疑心暗鬼に生きる
ことが平生となっているんですよ。」

「腐ってんのは常夜もこっちも変わんないってことかね。ストラップもわざ
わざ手に入れてきて…とどめはあの切り取った音声だろう?」

「あれだって同じですよ。普通あんな部分的なものには違和感を感じるでしょ
う?ですが、その前にもう心を不安定にしてあるから、余裕はないんですよ。
ぐらつく塔はわずかな風でも倒れてしまうように…私は風を吹かせただけ。
そして、その精神状態は狭い空間の中で緊張として、人から人に伝染します。
1人でも不安になれば、それは全体の不安でもあると…」

「よくそんな計画を短時間で考えたねぇ。本気の作戦じゃないか。」

「海斗くんは敵になれば、それだけの脅威ということですよ。少なくとも、
ユキを妨げるほどの武力と私をゲームで打ち負かすほどの知力は備えている
のですから。」

「まあ確かに正直なところ、あいつと戦うのは辰や師匠にパスしたいね。そ
れじゃないと、無駄に長引きそうだ。」

「来週が楽しみですよ、ふふ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


通信が途絶えてから一言もない秘密基地の狭い一室。
口を開かない理由はそれぞれだ。

聞いた情報を整理している者。
自分の中で1つの結論を導こうとする者。
信じられない出来事を前に何も考えられない者。
また、その人を気遣って黙っている者。

そんな様々な気持ちを分かったうえで率いる男は口を開く。


「俺たち風間ファミリーはマロードとかいう奴を倒して、川神に平和を取り
戻さなくちゃならねえ。けど、それは同時に海斗と戦うってことになる。そ
れでも立ち向かうか?」

「私は…海斗さんがとても優しい方というのを知っています。過去がどうで
あろうと、それだけは確実です。そして、私の初めての友達になってくださ
いました。その友達がもし道を逸れそうになっているのだとしたら、戦って
でも止めるのが本当の友達だと思います!」

「ああ!自分も海斗に認めてもらって本当に嬉しかった。そのとき、誓った。
正義に背くことがあれば、自分が傍で道を正してやると。」

「アタシも…あの優しい海斗が好き好んでこんなことしてるはずないわ!絶
対になんかある…。だから、アタシたちは止めるべきよ。この計画ごと成功
させるわけにはいかないわ!カーニバル…立ち向かいましょう!!」


恋する乙女3人は好き故に戦う道を選ぶ。
倒して、無理矢理にでも連れ戻そうと決意を新たにした。


「そうと決まれば、早速準備するぜ!モモ先輩の空いた穴も吹き飛ばすぞ!
俺たちは全員揃えば無敵なんだからな!!」


翔一が魂をこめた一喝をする。
取り巻く不安を吹き飛ばそうと。
理由も理屈も通用しない。
その叫びだけで皆は1つに団結し、立ち上がる。


「軍師大和!作戦は頼んだぜ。」

「ああ、期限は1週間。思いっきりぶつかってやろうぜ!」

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