小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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今、川神ではいたるところで戦いが繰り広げられていた。
大和たちが通う川神学園。
通学のときに渡っていく橋。
また、その下に流れる川のわきでも。
さらには普段はにぎわっている商店街まで。


「おう、おめぇら!てめぇの街は自分で守れ!わけぇガキどもに大人の怖さ
を教えてやるぞ。」


こうして沢山の不良に対抗する勢力が出ているのも風間ファミリーの一週間
の呼びかけがもたらした結果だった。
戦闘面ではあまり役に立てないモロもはりきって、街をまわっていた。
そして、今街全てが襲いくる脅威と戦っている。

そしてここ、多くの建物が立ち並ぶ川神の市街地でも戦闘は行われていた。


「ちっ、こんな女、俺が一発で…」

「甘いわ!」

「なっ…!?」


男の体はひるがえり、硬い地面に背中から叩きつけられ、“ぐはっ”と息が
こぼれる。


「その程度で此方に挑むなど浅はかじゃ。高貴な此方の投げ技で庶民はひれ
伏すがよいわ、にょほほほ。」


自分よりも大きい図体の男を投げたのは着物を着た少女。
川神学園2−Sの生徒、不死川心であった。


「まったく…身の程知らずの愚か者ばかりじゃのう。」


周りに転がるのは、標的を発見した途端、何も考えず突っ込んでくる馬鹿な
不良ばかり。
柔術をたしなむ不死川心にそんな者が敵うはずもなく、随分な数が溜まって
いた。


「弱者が此方に一対一で勝負を挑むのがそもそもの間違いなのじゃ。」


余裕を持って呟く心。
そのとき、背後から足音が響いた。


「また愚か者でもきおったのか?」


しかし、振り返った先にいたのはこれまでの不良などではなかった。


「……排除する。」

「なんじゃ、おぬしは…」


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「大和!」

「どうした、モロ?」


いきなりの通信。
何かあったということだ。


「京たちの地点に色違いのクッキーが…!」

「なんだって!?もしかして、葵冬馬の奴…学校を守らせていた九鬼のとこ
のマガツクッキーにハッキングをかけたのか!それで、そっちはなんとかな
りそうなのか?」

「一応、京たちのところにクッキーが向かったよ。やっぱり苦戦してはいる
けど、一応抑えられてはいるよ。」

「すまない、頑張ってくれ。」

(相手もそこまで戦力を投入してきたか…。早いとこ黒幕をどうにかして、
この戦いを終わらせなきゃな。)


そうして、大和たちはチャイルドパレスを目指す。


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「私たちが切り刻んでくれる!」

「どういうことなのじゃ、こやつら。」


不死川心はマガツクッキー三体に囲まれていた。
その三人ともが光る剣を携え、切迫してくる。
本来ならば、機械なので柔術などは効かないという考えによって、焦るとこ
ろなのだろうが、そうではない。
不死川心ほどの実力を持っていれば、部分的に機械の関節を破壊することも
可能であるし、そのことは心自身分かっている。
問題はそこではなく、


(くっ、多対一では此方の技は圧倒的に不利じゃ。しかも、さっきのような
雑魚ではなく、技を極めにくいような相手…)


そう、可能とはいってもやはり機械の破壊は柔術では困難。
それを三対一の状況で行えというのは無理な話である。


「私の剣の錆となるがいい!」


後ろに下がっても、他の機体が待ち構えている。
かといって、正面から戦えばその隙をつかれることも確実。
どうにか助かる方法を模索するが、その間にも剣の切っ先は迫ってくる。
本能的に向かってくる攻撃に目をつむってしまう。
そんなことをしても、剣は真っ直ぐ向かってくる。
そして、少女の命など一太刀で刈り取ってしまう…


…はずだった。


「…あぶねぇ。」


不死川心は生きていた。
しかし、その体は宙に浮いていて、わきにかかえられている。
プライドの高い心からすれば、恥ずかしいことだろうが、本人は事態を把握
するのに必死である。


「な、なんなのじゃ、これは!?」


足をじたばたさせるが、何も状況は変わらない。
ただ、着物の丈が長いことは幸いだった。
これがミニスカートならば、大惨事である。

心は自分のことばかり気にしていたが、ふと気づく。
そして、そのかかえている者の顔を見上げた。


「お、おぬしは流川海斗!!」

(ん、知り合いだったか…まあいい。)

「気をつけろよ。」

「なんじゃ、此方にその程度で恩など売ったつもりか。おぬしの手など借り
ずとも、こんなロボ倒すのは容易じゃ。」

「……腕に自信があるのか知らねーけど、多数に囲まれたら逃げていいんだ
ぞ。どんなに強くともお前は女の子なんだからな。」

「な、な、な…」


途端に硬直する心に首を傾げる海斗。
そこにさっき斬りかかったマガツクッキーが言葉を放つ。


「私の攻撃を回避するなど、なかなか面白い。だが、所詮は私たちの完璧な
戦闘技術には追いつけまい。それでも我々に刃向かうか?」

「………………」

「言葉も出ないか。」

「…いや“我々”って、お前1体だけだけど。」

「なに…?」


その言葉に後ろを振り返ると、そこには頭を砕かれて煙を噴き出している、
さっきまで仲間の形を保っていった“ガラクタ”があった。


「これは…!」

「お前で最後だ。」


瞬時に相手の前に移動する海斗。
マガツクッキーも咄嗟に頭を守ろうと腕を交差させて、ガードを試みるが…


「な…んだ…と…」


その腕ごと頭は海斗の拳に貫かれた。

わずか数秒。
その間に高性能ロボットはただのガラクタとなって、転がっていた。

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