小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「清掃完了っと。」

(こやつ、ロボットをたった一撃で…)

「おろすぞー。」

「は?……そ、そうじゃ!さっさとおろすのじゃ!」

「言われなくてもするっての……ほらよ。」

「う、うむ。」

「汚れたりしてないか?」

「そうじゃの、大丈夫だと思うが、それはそうとおぬし…」

「じゃ、俺は行くから。」

「なっ、ちょっと待つのじゃ!聞きたいことが…」

「怪我とかしないよーにな。」


その言葉を残して、海斗はその場を去っていった。
取り残された心は中途半端に宙に伸ばしてしまった手を、恥ずかしく思いつ
つ下げた。


Side 心


なんなのじゃ、あやつは。
山猿のくせに此方を命がけで守りおって…
口には死んでも出さぬが、実際少し危なかったしの。
もし、あの男が助けに来なければ、此方は今頃…

しかし、何故此方を助けたのじゃ?
麻雀では敵対しておったというのに…(←そもそも覚えていない)
そういえば、あの言葉。

“逃げていいんだぞ。どんなに強くともお前は女の子なんだからな。”

も、もしや、女の子とはそういう意味か?
此方を異性として意識しておるという…そういうことか!?(←違います)

くっ、此方が一般庶民に翻弄されるなど、しかもよりによって2−Fの山猿
ごときに屈辱なのじゃ!
しかし、流川海斗か。

…執事くらいなら雇ってやってもよいかもしれんの。


Side out


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


海斗は街灯に照らされた道を走っていた。
かかってくる不良などはお構いなしに倒していき、どんどん歩を進めていった。


「止まりな、そこの兄ちゃん。」


不意にかけられた声に足を止める。
周りを見渡せば、銃を持ったスーツの男に囲まれている。
数は十と少し程度。
そして、前にはさっきの声の正体であろう初老の男。


「間違いねぇ、写真と同じ顔だ。兄ちゃんが流川海斗っつー奴だな。」

「だったら何だ。」

「ビンゴ、まさか俺の部隊が最初に見つけちまうとはな。まあ、これで友達
の役に立てたってところか。」

「言ってる意味が分かんないぜ。」

「君を捕まえるっていうのに協力してんだよ。俺の友達のお願いでな。しか
し、命まではとらない……と言いたいところだが、本気でやっていいみたい
なんでな、多少の怪我は覚悟してもらうぜ。」


そういって、自身も他の黒服と同じように銃を構える。


「俺に覚悟しろってんなら、自分も覚悟できてんだろうな。」

「おーっと言っておくが、俺のSPたちは強ぇよ。少数精鋭だからな。」

「SPって…どっかのお偉いさん気取りか。」

「偉かねぇよ。しかし、最近のがきはニュースっつーのを見ないのか?俺ぁ
これでも総理ってのをやってんだ。」

「はぁ……お前の友達ってのが大体分かった。けど、そんな奴がこんなこと
してていいのかよ。」

「俺は別に総理としてここにいるんじゃねぇ。由紀江ちゃんの友達として、
協力してるだけだ。」

「…まぁいいけどよ。」


そう言って、海斗が一歩踏み出す。


「待ちな、それ以上動いたらぶっ放す。出来れば、戦闘を行わずに無傷で捕
まえられるのが一番だからな。」


周りのSPたちも海斗に銃口を向けて構える。
下手な動きを見せれば、その全てが火を吹くだろう。
だが、海斗は臆することなく、もう一歩を進めた。


「おい、本当に撃…」

「引き金は引かないことをお勧めするぜ。」

「なっ…!?おい、撃つのをやめろ!」


海斗の意味深な言葉に総理はいち早く気づく。
いつの間にか起こった異常に。


(なんていうことだ…)


自分の持っている銃、SPの持っている銃も一つ残らず、銃口を無理矢理ね
じ曲げられていた。
今、撃てば火薬は内部で爆発し、被害を受けるのはこちら側だろう。
この頑丈な銃を素手で曲げたとかそういうことはどうでもいい。
確認できた移動はたったの二歩、最初の場所から1メートルも動いていない。
しかし、周りを取り囲む全ての銃は曲げられていて、その二歩を認識する間
にやり遂げてしまったということ。
いや、一歩目で既に行われていたのかもしれない。
もしくはそれ以前に完全な認識の外でやられていたのか、それすらも分から
ない。


「一手封じられただけで詰みか?」

「くっ…」


咄嗟に部下に指示をとばそうとするが、それはかなわない。


「何かに頼って安心してるから、こうなる。」


銃の腕は勿論、体術もエキスパートの精鋭十数名。
その屈強な男たちは腹、首、様々な場所を狙われて、誰もが一撃で意識を失
わさせられていた。
さっきの形勢が都合のよい夢のように感じられる。
まさに圧倒的だった。

総理は頼まれたときの言葉を思い出す。

“怪我をさせないようにと普通頼むのでしょうが、海斗さんに会ったら全力
で倒していいです。お願いします。”

それはある種敵にまわったことに対する決意みたいなものかと思ったが、違う。
本気を出さなければ、傷一つつかないと分かっていたのだ。
気遣われていたのは弱いこちらの方だったということ。


「こりゃ、作戦変えたほうがいいな。」


ごそごそと総理は内ポケットをあさる。
また銃かと海斗はすぐさま近づく。


「下手なことはやらせねぇ。」

「もう遅いぜ、兄ちゃん。」


ガッと気絶させようと一撃を入れるが、


「ぐはっ。」

「ちっ、少し逸らしやがったか。いいセンスしてやがんな。」

「やっぱり俺みたいなおっさんがでしゃばるんじゃなかったな。」

「お前それは…」


服の中から転がり出たのは銃などではなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「大和、まだチャイルドパレスにつかないの?」

「急いで向かってんだから、そのうち着くだろ。」

「しかし…」


クリスが言いかけたとき、前に人が現れた。
それは一度見たツインテールの少女。


「あ!アンタは!」

「んぁ!?テメーらは!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


銃などではない。
これはトランシーバー、無線機ってやつだ。
攻撃ではなく、援軍を呼ぶとなると…


「………海斗さん。」


あまりにも早い到着、それだけの実力者。
出会いたくはなかった援軍。
顔を上げればそこにはよく知る後輩の姿。


「……由紀江。」

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