小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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かすかな明かりに照らされた夜の道。
由紀江と海斗は向かい合い、一歩も動いていない。
だが、戦いはもう始まっていた。
お互いに相手の出方を伺い、硬直状態が続いている。
その場にいる者しか分からないような極度の緊張。
強者同時の間に生まれる凄まじい重圧に一般人の総理などは意識を保ってい
るだけでやっとだった。

(由紀江ちゃんが強いのは知っていたが、あの小僧も相当なもんだ。)

「黛由紀江、参ります!」

「おう。けど、剣なしでいいのか?あんまり甘く見てもらっちゃ困るぜ。」

「ご心配には及びません。」

「へぇ……なら!」


余裕の態度を見せる由紀江。
そのなめているようにも取れる姿勢に海斗が、軽く先制攻撃を仕掛けようと
仕掛ける。
軽くとはいっても、それは海斗の中でのこと。
傍らにいる総理の目には全く移動が見えなかった。
海斗はその超速で懐に潜り込み、一発入れようと思ったが…


(!? …まずいっ!)

「せやぁっ!!」


ヒュンという澄んだ音が響いたように感じた。
海斗が危機を感知して、退いたそこには剣先がすぐそこまで迫っていた。
先程の音は幻聴でもなく、まさに空気を切り裂いた音。

―居合い。
余裕の佇みのようにギリギリまで引きつけてからの一瞬の斬撃。
凄まじい集中力から生み出される静から動への威力。
もし、少しでも海斗が気づくのが遅ければ、攻撃に踏み込もうとしていれば、
あの刀の餌食になっていただろう。

どうやら油断していたのは海斗のほうだった。
相手がなめていると思い込んだ安易な突撃。
しかし、由紀江はとてつもなく真剣
まじ
だった。


「居合いって…、洒落にならない攻撃してくるねー。」

「流石、海斗さんです。やはりかわされてしまいましたか。」

(あまり間合いに入るのはよした方がいいな。)


抜刀状態で構える由紀江にますます油断は出来ない。
そう考えた海斗は地面に対し、思い切り足でインパクトを行った。


「…っ……」

「これならどうだ!」


それによって跳ね上がった瓦礫を思い切り蹴って、前方へと射出する。
しかも、弾数は3発。
それは砲撃のような速度で連続で向かっていく。

が…


「はぁっ!!!」


振るったのは一太刀。
しかし、それだけで3本の剣閃が走り、全ての岩を両断した。
いとも簡単にこなすが、一般人には弾道すら見抜けぬ速度。
それを放つ海斗も、見切って打ち落とす由紀江も常人の域を超えていた。


「次は私からいきます!」


刹那、由紀江が一気に空いている間を詰める。
そして、一瞬で十二の斬撃を放った。
だが、それでも海斗は全てを見切りかわす。
初見で由紀江の刀をかわしきるのは至難の業だ。
しかも、十二斬全てを。


「あぶねっ。」

「まだまだ私の攻撃です!」


しかし、海斗がかわしきることなど予測済みだったとばかりに攻撃の手を緩
めない由紀江。
次々と斬撃を重ねていく。


(ちっ、隙がねぇ。)


普通どんな攻撃にも技を出した後の硬直がある。
それが明確に表れたものがいわゆる“隙”というやつだ。
再度言うようだが、どんな攻撃にも絶対にあるもの。

しかし、海斗が言うように由紀江の攻撃にはそれがない。
いや、ないのではなく最小限に留めているというのが正確だ。
流れるように次の攻撃へとつなげていき、動きに一切無駄がない。
それは戦闘というよりも一つの舞踊を見ているようだった。
ただ我武者羅に隙を潰すような連撃ではない。
しなやかに美しく、その刀は猛威をふるう。


(だが……)


再三のことだが、隙はないのではなく見つけられないだけだ。
しかし、海斗の目はそのごくわずかな隙を幾重にも重なっていく超速の戦闘
のなかで慣れていく。
そして、しだいに刀のギリギリを見極める。
全ては隙をつく布石。

由紀江の刀を意図的に紙一重のところで避ける。
そうすることで自分の動きを最小限に、相手のわずかな隙に付け入る可能性
を生み出す。
それが出来るのは戦闘センスのおかげだけではない。
圧倒的な自信と勇気がなければ出来ないすれすれの回避。
そして、それは反撃の余地をもたらす。

が、しかし…

ザッ


「なにっ!?」


海斗の肌から滲み出す鮮血。
確実に刀の軌道を見切り、寸分の狂いもなく移動したはず。
それなのに、海斗はその身に軽くはあるが、確かに切り傷を刻まれていた。
どう考えてもおかしいことだが…


(気か…)


海斗は即座に1つの考えに辿り着く。
海斗がギリギリでかわしているところに、刀に自身の気を流して剣閃を伸ば
し、海斗の考えていた刀のリーチを強引に変えた。


(まさか、闘気を人を斬る武器として扱うとはな。)


剣に己の力を纏わせて、強化する。
武人ともなればよく使う手ではあるが、分からないほど本当にわずかな力加
減や使いどころが上手すぎる。

しかも、今のは完全に狙われていた。
由紀江にとって武器のリーチが伸びるなら、最初からやっていた方が有利だ。
しかし、彼女はそれをせずに海斗がギリギリでかわし始めた瞬間を待ってい
たかのように使ってきた。
それは海斗がこの技を見切り、反撃を狙うため完璧にかわしてくると読んで
いたということ。
相手の強さをしっかりと理解し、逆にそれを利用した。
まさに非の打ち所がない作戦。


(少し見誤っていたな。)


海斗の目の前に立つ少女は確実に強い。
別に侮っていたわけではないが、それでも想像を遥かに越えるレベル。

本来なら海斗にとって戦いたくはない相手。
しかし、その強さは純粋に惹かれるものがあった。
退屈とはかけ離れた飛びぬけたセンス。


(面白いじゃねぇか。)


海斗は垂れる血を拭い、構えなおした。


激闘はまだ終わらない。

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