小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「ん!?」

「どうしたんだ、クリス。」

「いや、今ほんの一瞬だけ変な感じが…」

「変な感じ?」

「いや、言い表しづらいんだが、寒気というかなんというか……まあいい、
忘れてくれ。」


クリスはその感じたものが分からなかった。
ほんの一瞬だけというのもあるが、根本的に今の感覚に覚えがない。
初めて感じるものだった。


「とにかく無線がつながらないなら、仕方ない。俺たちは俺たちに出来るこ
とをさっさとやっちまおう。マロードを倒せば、まゆっちを捜しにいくこと
も出来る。」

「そうね、海斗が敵じゃないなら親玉を早く倒しちゃって、海斗も捜したい
し…。」

「通信がつながる皆には一応さっきの情報を流しときゃな。モロ、頼めるか?」


無線機に向かって話す。


「おっけー、任せといてよ。」


これが今出来る最大だった。


「お前はどうするんだ?」

「ウチはウチで海斗を捜す。本当ならウチの雇い主を潰そうとするお前らの
相手をするべきなんだろーが、生憎ウチの最優先は海斗だ。マロードの味方
だけど、ウチは海斗を見つけるまでは自由に行動させてもらうぜ。」

「ちょっと待ちなさいよ。」

「あぁ?」


一子が天使に話しかける。


「あんた、海斗をもし見つけたらどうすんの。」

「そんなの止めるに決まってんだろ。海斗をあっちの世界になんて絶対に行
かせねー、……ウチはぜってー二度と会えないなんてゴメンだ。」

「海斗はアタシたちが見つけて止めるわ。……けど、もしもあんたのほうが
会うことが出来たなら、……絶対止めなさいよ。」

「…言われなくても、ウチの勝手だ。」


いがみあっていても目的は同じ。
どちらも海斗と別れたくはない。
その気持ちには少しの違いもなかった。
対立する両者は言外に共同戦線を築く。
絶対に止める、と。


「よし、じゃあチャイルドパレスに向かうぞ!」

「うん!!」
「ああ!!」


二人の声は大きく強く。
さっきまでとは変わっていた。
どんな状況であろうと海斗はやっぱり敵などではなかった。
そのことが二人に活力を与える。

そして、三人はチャイルドパレスを目指す。
軽い足取り、大きい歩幅、速いペースで。
目的地はすぐそこだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


足の力を失い、倒れそうになる由紀江を海斗は抱きとめる。
そして、そのまま体を抱え、寄りかかれるような壁際に運んだ。
そんなにすぐには目覚めないだろう。
完全に勝負は決した。

それを見ていた総理は息を呑む。
あの最強の由紀江が気絶させられた。
立ち上がってからのあまりにも速すぎる攻防。
それなのに、由紀江は全くの無傷だった。
少しの出血も骨折もしていない。
怪我をしたのは勝利した海斗のほう。
何がどうなったかは分からずとも、結果はその目にしっかりと映っていた。


海斗は由紀江を運び終えるとその歩みを総理の方へと向ける。
今、この場で意識を保っているのはその2人だけだ。


「起こされたりしたら困るからな、少し眠っててもらう。」


総理は近づいてくる海斗に、抵抗する力も意思もなかった。
そしてわずかな衝撃の後、視界は黒に染まった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一方、大和、クリス、一子の三人はやっと敵の本拠地を目の前にしていた。
工業地帯入り口に存在するそれはどこか無機質な外観。


「ここがチャイルドパレス…」

「クリス、ワン子、準備はいいか?」

「勿論だとも。」

「さっさと行きましょう。」


三人はその内部に足を踏み込む。
この馬鹿げた祭り、カーニバルを終わらせるために。
そして、大切な人を助けるために。

中に入って進んでいくと開けた空間に出た。
小さいコンサートホールのようで無数のライトに照らされた部屋。
そこの中央に目的だった敵の親玉が立っていた。


「やっぱり、お前か…。葵冬馬。」

「ふふ、来ましたね。大和くん。」


全ての元凶、葵冬馬。
川神学園の生徒を中心にユートピアを広げ、不良たちを集めてこのカーニバ
ルを開催した。
そして、風間ファミリー全員に流川海斗が敵であると演じ、思い込ませた。

考えてみればおかしいところが今になれば幾らでも見えてくる。
焦りや混乱が1つの結論から逃げられないようにしていたのだろう。
真実が分かった今、とても安心している。

しかし…。
一子が、クリスが、由紀江が、皆とても悲しい思いをした。
一番好きな人を疑わなければならなかった。
戦わなければならなかった。
それはどれほど辛いことなのだろう。


(ファミリーの仲間を傷つける奴は誰だろうと容赦しない。)


大和は今一度、目の前の敵に目を向ける。
葵冬馬の横にはいつも一緒にいた二人。
榊原小雪と井上準が控えていた。
井上準はいつも通りなんら変わりない様子だったが、榊原小雪の方はなんだ
か少し元気がないようだった。


「ここまで来たのはいいですが、ここからの作戦はあるんですか?」

「一応、俺は軍師だからな。」

「覚悟しなさい!」

「正義の鉄槌をくだしてやる。」


この戦いで全てが決着する。

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