小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

Side 大和


F組の応援席は騒然となっていた。


「あのイケメン誰よ?」

「ていうか、流川君ってあんなに喋るんだ。」

「なんか乗り移ったんじゃない?」


クラスの大半はその表情を驚きに彩られてるが、一部の単純な女子たちはその
容姿に騒ぎ立てている。

本当にあいつのことが分からない。
ただ……

あいつのことを見るワン子の目が若干取り返しがつかなくなっている…


Side out


「お前の相手はこの凡才の俺で十分だ。」


さて、大見得きったはいいが、どう勝とうか。

目立つのは仕方ないにしても、やはり弱く見られていたほうが何かと都合がい
い、相手の油断が俺にとって最高の武器だ。

出来れば、手を出さずに片付けたいのだが……
攻撃を見舞うというのは、色々と気が引ける。
しかし、さっきの方法は警戒されていて使えない。


「なら、せいぜい楽しませてくれよ、凡才!」


先ほどより、速い攻撃が一瞬のうちに5発繰り出される。

俺はそれを全てかわすことなく、体で受け止めた。
ただし、さっきと違うのは微妙に体をひねり、その威力を殺している。
あくまで、相手に気づかれないほど微妙にだ。
相手には同じように無抵抗で攻撃を受けているようにしか見えない。
なにせ、殴った感覚はそのままにあるからな。

戦い慣れたものほど、あまり攻撃の際に視覚を頼りにしない。
己の感覚を研ぎ澄まし、視覚はどちらかというと防御に用いる。


「たいそうなことを言っといて、反応もできないのかよ。」


いいぞ、もっと油断しろ。
やはり、場外に出すのが一番楽か。
そう思い、攻撃を受けつつもフィールド端に誘い込んでいく。


「おっと、そっちには行かねえぜ。」


……見抜かれていたようだ。
どんなに油断していても、やはり二度目は無理か。

なら、どうするか。
一応、準備はあるが、敵があの警戒状態では手数に欠ける。


「相手はアタシもいるわ、タァァァァ!」

「チッ、めんどくせぇ!」


すぐさま、メイドは振り下ろされる一撃に対応して、素早い小太刀の連撃で一
子をこちらに吹き飛ばしてくる。

…ん?
手数足りるじゃねえか。
自分がついさっきの試合で考えたことだ、今の手数は四対二。
俺は一子の腕を掴み、自分のほうに引き寄せた。


「うわ、何!?流川君」


何故、そんなに焦る……
目すら合わせてくれないし。
俺からアクションを起こすってことに慣れてないのか?


「今から言うことをよく聞け。」

「う、うん。」

「俺が合図したら、………れ」

「え、でも…」

「いいから、俺が頑丈なのは分かっただろ?」

「分かったわ。」

「おい、あたいはそんなに気が長くねえぞ。」


メイドが突っ込んでくるのを、二手に分かれ回避する。
一子に難しい作戦は無理だと考えたので、一つだけ単純な指示を出した。
これなら、失敗なんてこともないだろう。


「フ、そろそろ本気で仕留めてやるよ。」


案の定、俺の方に向かってきた。
サポートである守りの俺から潰すというのは定石だ。
だが……


「敵に背を向けるのは関心しないぜ。」

「川神流 大車輪!」

「くっ!?」


薙刀の一撃が真後ろから突如襲う。
メイドは多少、不意をつかれたものの、すぐに反転して、攻撃をいなす。


「そんな大振りな攻撃じゃあたらねえよ。」

「くっ…!」

「はん、雑魚は吹っ飛びやがれ!」

「だから、背を向けるのは関心しないって。」

「な!?」


メイドは今度こそ完全に不意をつかれた。
そりゃそうだ、俺から手を出すことはないと思ってんだからな。
回避は不可能とみて、俺からの拳をガードしようと構えるが…

俺は手を出さないんだっつーの。
守ろうと前に出された片方の手に手錠をかける。


「なんだこれは、アイテムは禁止だろ。」

「何言ってんだ、これは俺が正式に申請した武器だ。」


学園長はうなずいている。
そして、悔しそうにするメイドの前でもう片方の錠を自分の手にかける。


「あ、何やってんだ、テメェ。」

「これでお前は逃げられない。」

「何言ってんだ、近接戦闘なら、片手でもテメェに負ける気はしねえ。」

「いや、もうお前の負けは決定だ。」

「いくわ!」


後ろでは一子が薙刀を回していた。
どうやら、あの技薙刀を回すほど威力が上がるらしい。
先ほどは急だったので少ないモーションだったが、今度は違う。


「ふ、さっきはかわしたが、一度見た技なら止めることも容易い。」


まあ、威力が上がっているとはいえ、少なからずその可能性もあるだろう。
だけどな…


「川神流 大車輪!」

「何!?」


一子の薙刀は迷わず俺の方に伸びてきた。

俺が出した指示はひとつだけ。

“合図を出したら、俺を思い切り吹っ飛ばしてくれ”

これならフィールドから若干離れていても、場外に届く。
つまり、相手の警戒の外でチェックメイトができる。

肺の空気を根こそぎ持っていくような攻撃が俺に当たった。
ちとキツイが十分な威力だ。
刃の峰ではなく、柄でやったのは一子の優しさだろう。
頑丈だといっても、多少心配だったか、嫌な役やらせちまった。

このメイドはまだまだ力を残してるって感じだったな。
まあ、学校のイベントごときで本気は出さないか。
それにしても、油断しすぎだってーの。
つーことで今回はあの努力少女に優勝をやってくれや。


学園長は俺たちが場外に弾き出されたのをしっかりと確認すると、高らかに宣
言した。


「優勝は流川・川神ペア!!」

-12-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい!! 大判マウスパッド
新品 \2000
中古 \
(参考価格:\500)