小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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怪我をしたガクトを乗せて飛行するクッキー。


「すまねぇ、クッキー。」

「心配はない。すぐに着く。」


その言葉通り、進む先に川神院が見えてきた。



―川神院
普段は修行僧たちが修行に励んだり、試合が繰り広げられているここだが、
街がカーニバルで大変になっているなか、怪我をした者たちがここに運びこ
まれてきていた。
修行僧の医療班をはじめ、ボランティアも協力して、沢山出ている怪我人の
対処にあたっていた。


「すまない。」

「怪我人ですか?」


入り口でクッキーたちを向かえたのは、大和田伊予だった。
彼女もここにボランティアとしてきた1人だ。


「結構な怪我を負ってしまっているのだが…」

「任せてください。それを手当てするのが私たちの仕事ですから。」


そう言って、伊予は早速準備にとりかかった。


Side 伊予


川神院でのボランティア。
私がここに来たのにも理由がある。
一週間ほど前、まゆっちからカーニバルのことを聞いた。
なんでも最近学校に来ていない海斗さんを助ける戦いでもあるらしい。
そして、最後にまゆっちは私に言った。
危険だからその日は家を出ないで、と。

まゆっちはおそらくその強さで戦いに出るんだと思う。
私にそんな不良の人たちと戦える力はない。
だけど、何もせず安全な場所に隠れていることなんて出来ない。
友達が戦っているんだから。
そして、何より…

自分も好きな人を助けるために何かしたかった。
表舞台に立てないなら、裏方で。
海斗さんを助けるためでもあるこの戦い。
傷ついた人を少しでも助けるのが、今私が海斗さんのために出来る精一杯の
ことだ。


Side out


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―チャイルドパレス
突如乱入した者により、状況は大きく動いていた。


「ふはははは、九鬼英雄光臨である。」

「っ!……英雄は激務で今電話も取れない多忙状態のはず。これはどういう
ことでしょうね。」

「なーに、簡単なことさ。まずは一子から電話をさせて話を聞いてもらう。
あとは親友であるお前の名前を出せば、こうして飛んできてくれたぜ。」

「冬馬!一子殿が言ったことではあったが、まさかそんなことは断じてない
と思い来てみれば……これはどういうことであろうか!」

「どういうことも何も、騙していたんですよ。そんなことも分からないんで
すか?」

「くっ…ならば、我が止めてやろう。」

「フフフ…」


同じ頃、クリスと小雪は。


「はぁっ!」


繰り出されるクリスのレイピアでの連続突き。
小雪はそれをかわす一方である。
やはり平静を装っていても本調子ではない様子だった。


そして、その逆側の一子と準は。


「オラ!」

「甘いわ、せぇいっ!」


激しいぶつかり合いが行われていた。
準が扱うのは主に武器を用いぬ拳術。
洗練された技術は薙刀とのリーチの差を埋めるほどであった。
だが…


(やはり、ユキの様子がおかしい…)


逆側にいる仲間のほんのわずかな違和感が気になる。
加えて、一子はいつも以上の力を発揮できていた。
この戦いを終わらせれば海斗を捜すことが出来る。
由紀江と同じように好きな人を想う気持ちが原動力となっていたのだ。


そんな2つの戦いの様子を見る冬馬。


(ユキも準も総じてこちらが押され気味といったところでしょうかね…。こ
のまま続けても状況は不利になる一方…。)

「冬馬、我が目を覚まさせてやる。我の誠心誠意の拳を受けよ。」


そう言って、冬馬のほうへと歩き出す英雄。
だが、それよりも前に冬馬が命令をとばす。


「準、ユキ、一旦下がってください。」


そう言うと、各々は真っ最中の戦闘から離脱して、冬馬のほうまで後退する。


「ちょっと、いきなり何なのよ。」

「まだ勝負は終わっていないぞ。」


一子とクリスはいきなりの事態に文句を言うが、そんなことを冬馬は気にす
る様子はない。


「準は入り口の方を守っていてください。これ以上邪魔が入っても困ります。
ユキは少し休んでいてください。あまり調子が良くないときに無理に頑張る
必要はありません。」

「トーマ、ボクは平気だよ!」

「いーや、若の言うとおりだ。俺に任せてユキは少し休んでな。」


渋々といった形で小雪は下がり、準も入り口に向かうためその場を離れる。


「護衛がいなくなっちまったけど、降参ってことでいいのかな?」

「ふふ、まさか…」


守りがいない今が絶好のチャンスだと英雄が向かおうとするが…
その道に立ち塞がるように2つの影が現れた。


「あぁー、やっと出番かね。」

「うぅーん、眠いなー。」


それはまさに異質。
一目見ただけで強いと分かる者と全く読めない者。
釈迦堂刑部と板垣辰子だった。


「大和くん、さっきは自分たちの方が優勢だと喜んでいたようですが…私の
ほうはまだゲームを始めてもいないんですよ。まだジョーカーが2枚も残っ
ているんですから。」


その意味は大和でも分かった。
本当に戦況を一気に変えてしまいそうな雰囲気。
そんなものを感じた。


「くっ、迂闊に近づくことも出来ぬとは…」


英雄も二の足を踏む。


「対してそちらのジョーカー“川神百代”は力を封じられています。さて、
大和くん。今どちらが優勢なんでしょうね。」

「ちっ…」


せっかく追い詰めたのにここまで来ての奥の手。
一子も釈迦堂の強さがよく分かっているため、今どれだけピンチな状況か分
かっている。
まさに万事休す。





そんなときだった。
新たに現れるもう1人。
誰もが目を疑った。


「…約束守りに来たぜ。」


最後のジョーカーがやってきた。

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