小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「二人まとめてかかってきな。」

「ハーハッハ、こりゃ面白いガキだ。」


海斗の言葉に釈迦堂が笑い声を上げる。


「海斗!その人は川神院の元師範代で相当強いのよ!」

「ああ、それに2対1ではあまりにも分が悪すぎる。自分たちも海斗の援護
をするぞ。」

「手助けはいらねぇ。さがってな。」


クリスの申し出を断る海斗。


(由紀江が聞いたってことは当然、他のメンバーも俺の過去を知っちまった
ってことだ。)


そんなことを考え、1人で強敵2人に立ち向かおうとする。
海斗の言葉を聞いた釈迦堂はニヤニヤと笑みをこぼしていた。


「手助けはいらねぇ、ってか。勇ましいじゃねぇか。だがなぁ、勇気だけじゃ
力の差は埋められないぜぇ?」

「悪いが今回は手加減したりしねぇから心配は無用だ。」

「へへっ、口だけは達者だな。井戸の中から出たことのないカエルちゃんに
外の世界の怖さってのを教えてやろうか。」

「そりゃ是非とも教えてもらいたいもんだ。 ……九鬼英雄!」

「ぬ?何であるか。」

「俺がこいつら護衛をどかせば、お前葵冬馬を説得できるか?」

「無論である!」

「おっけー。なら役割分担だ。俺が邪魔者はなんとかするから、お前は葵冬
馬を救ってやれ。」

「言われずとも、分かっておるわ。」


海斗は頼もしい返事に笑みをこぼす。
葵冬馬の悪事を止めて、警察につきだすくらいなら自分でも出来る。
しかし、それでは助けたことにはならないだろう。
相手の意志で罪を償おうと思わなければ、結局何の解決にもならない。


「じゃ、俺のやることは決まったな。おっさん、かかってこいよ。井戸の中
のレベルを教えてやる。」

「おい、マロードの旦那。こいつは殺しても構わねぇんだよな?」

「今となっては作戦もばれているようですしね。構いませんよ。」

「海斗!」


小雪が思わず声を上げる。
それは釈迦堂たちの実力を知っているから。
殺すといったら冗談でもなく実行することを知っているから。


「大丈夫だ、俺がやられるわけがない。」


それでも、海斗の言葉を聞くだけで安心する。
不思議と信じさせるような説得力があった。


「せめて大口に見合った実力くらいは持っててほしいけどな。じゃ、いくぜ?」


釈迦堂が不気味な笑みを浮かべた直後、


「おら、リング!」


その両手から凝縮された気の砲弾が飛んできた。
リングとは名前のとおり、リング状の気弾を飛ばす技である。
両手に気を集中させ凝縮することで、より高密度高威力の技を生み出す。

その威力は爆発を起こし、床を大破させていた。
しかし、海斗はその場にはいない。
攻撃を左にかわして、釈迦堂に接近していた。


「よく避けたなぁ!川神流 無双正拳突き!」


感心しながらも繰り出される強烈な正拳突き。
近づこうとしていた海斗はタイミングをずらし、バックステップでそれを回
避する。
だが、釈迦堂の技による風圧が海斗の体に負荷を与える。

釈迦堂刑部。
幼い頃より才能に恵まれていて、その類まれなる強さで川神院師範代の座に
つくも、危険な考え方や力至上主義といった純粋なる武道とは相容れぬ素行
によって破門になった男。
かつての百代の師でもあった彼の強さは完全に異常の域だった。

回避のためと風圧によって後退した海斗と釈迦堂の距離がまた開く。
それを見て、釈迦堂は余裕の振る舞いだった。


「どんなもんかと見てみれば、所詮井戸の中は井戸の中だ。」

「どーでもいいが、油断は命取りだぜ?」


海斗がまた走って距離を詰める。
釈迦堂はまた拳を構えようとするが…。
海斗が近づく速さが先程とは段違いだった。
釈迦堂が用意をする前に海斗の一発が放たれる。


「おぉっと!」


そのまま連続攻撃につなげる。
一方の釈迦堂も速さには驚かされたものの拳の連打を冷静にかわしていった。


「確かに強いが…やっぱ底が見えてるなぁ。残念だ。」

「命取りだって言っただろ?」

「何をほざいて…」

「………リング」


釈迦堂は声も上げられなかった。
余裕でかわしている拳からリング状の気弾が放たれた。


(っ!何故気を使える?)


海で一度見かけたとき、いやついさっきまではどんなに探っても海斗の中に
存在する気は皆無、0だった。
にも関わらず、突然なかったものが膨れ上がり、使えないはずの気を使った。

しかも、それだけじゃない。
さっき使った釈迦堂の技“リング”を寸分違わずコピーしてきた。
あの短時間で威力も落とすことなくだ。


「くそ…面白いじゃねぇか!」


だが、釈迦堂はそれに喜びを覚えていた。
強いが故に満たされぬ戦闘欲。
強者との戦いは楽しい。

すぐに反撃を仕掛ける。


「川神流……」

「「無双正拳突き!」」


2つの拳が正面からぶつかり合い、互いの威力を相殺する。
だが、その余波は周囲に突風を巻き起こした。


「これはまずいですね…」


冬馬が辰子に向かって、携帯電話を投げる。
つながっている先は亜巳。
ストッパーを外す合図。


「うわああああああああぁぁ!」


3枚のジョーカーが揃った。

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