小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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海斗と釈迦堂が正面から激突する。
それはただ拳を交わらせているだけではない。
各々の気と気のぶつかり合いだった。
留まりきらずに溢れる衝撃は周りの一子たちにも及んだ。
気を緩めれば、そこに立っているのもかなわないほどだ。
しかし、それよりも本人たちは…


「どうして海斗が気を使えるの!?」

「今まで一度も感じたことは…」


タッグマッチ、翔一との川神戦役、海での騒動、様々な戦いを思い出しても、
今までの戦いで海斗が気を使っているのを見たことがない。
クリスにいたっては、直接戦ったことがあるにも関わらず、少しもそんな素
振りは見せなかった。

けれども、より驚愕していたのはクリスではなく一子のほうだった。
自然と自分の体のある部分に手を持っていく。
それはあのとき、ナイフで刺されたはずの場所。
今となってはそこにあったというのを証明するのは自分の記憶のみ。
跡形もなく綺麗に消え去っている。

一子は思い出す。

百代に傷を見せたとき…
一子は自分が怪我をしたという場所を見せても、ずっと何か考えているよう
な百代にどうしたかを聞くと、“傷がここまでなくなるのはおかしい”と言
っていた。

次の日、大和に事情を説明したとき…
海斗に病院に連れて行ってもらったらしいと話すと、これまた大和が疑問を
感じたような顔をした。
そして、“病院での料金はどうしたんだ?保険証もないし、一学生に払える
額じゃないだろ”と言われた。

百代と大和の話を聞いて、改めて考えるとやはりおかしい。
気になって近くの病院で確認くらいはしてみようと思っても、やはり自分を
治療してくれたという場所は見つからなかった。


(もしかして…)


今、目の前で気を行使する海斗。
即座にリングをコピーできるのは、何も目が良いだけが理由ではない。
何よりも気の使い方が上手すぎるのだ。
だから、自分の見たばかりの技に応用できる。

その気の扱いなら、あるいは傷を治すことも出来るかもしれない。
普通ならすぐに否定するだろう。
なにせ、あの百代の瞬間回復でさえ対象は自分だ。
それを人に使うようなもの、一体どれほどの難易度なのだろう。
しかし、目の前で戦う海斗にはそれが可能に見えてしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


板垣辰子は普段はその戦闘力を抑えている。
三姉妹のなかでも家事くらいしかとりえがないと言われるほどだ。
だが、実は秘めたる力は軽く他の二人を凌駕している。
それを発揮するスイッチが長女である亜巳の一言だった。


「うわあああああああああぁああ!」

「お!遂に辰の奴も暴れるか。」

(なんだ、あれは?)


辰子が携帯を受け取った瞬間、その気が爆発的に膨れ上がる。
流石に海斗のように0から一気にというわけではないにしても、さっきまで
の量とは比べ物にならない。
純粋に気の量だけで考えれば、それは由紀江を上回るほどだ。

いや、ついつい戦いを経験していると、気に目を向けがちになってしまって
いるがそれだけじゃない。
最初に話しかけてきたような大人しい雰囲気は微塵もなく、凶暴で荒々しい
感覚だけが空間を支配していた。
垂れ流しの殺気は容赦なく肌を刺す。
何も分からない者でも、それは明らかだった。


「流石の海斗くんもこれはお手上げでしょう。」


二枚のジョーカー。
葵冬馬が余裕でいられる理由が分かった。
確かに圧倒的な力を持ったこの二人を残しているならば、頷ける。
この二人を同時に相手となると、どれだけの強さが求められるのか。


「あー、辰。俺ァ、もう少しこいつと差しでやり合いてぇんだけどな。」

「うぅああ、海斗くん!」

「って、聞いちゃいねえか。こうなっちまったら止めんのは面倒だし、まあ
今はカーニバルの成功優先でさっさと殺っちまうか。」

「どうです、海斗くん?今からこちらの仲間になれば、戦力として活用して
あげますが?」

「笑わせんなよ。最初っから二人で来いって言っただろ?今更、引き下がる
選択肢なんてねぇよ。」


海斗は完全に不利な状況を前にしても怯むことはない。
拳を構えなおす。


「…海斗。」


小雪は小さな声をもらす。
それは海斗を信頼していても、現状を見て生まれる不安からであった。
海斗ならなんとかしてくれる、そう思って頼った存在だった。
それでも名前を呟いてしまうほど、不安も隠せない。
だが、逆に海斗以外なら完全に諦めるゲームだ。
それでも海斗には可能性を感じる。

かつて自分を暗闇から救ってくれたから。
壊れて戻らないはずの感情を取り戻させてくれたから。
そんな奇跡をくれた人だから。


「うぁああ、武器は…これでいい!」


辰子は近くにあったオブジェと思われる柱を強引に折り取り、自身の得物と
した。
重量もあるはずのそれをバトンか何かのように軽々振り回す。


「うぁああああああああ!!!」


武器を手にした瞬間、一気に海斗に向かってくる。
パワーとスピードを併せ持った強烈なインパクトを放つ。
床を、大気を振動させるその一撃をギリギリでかわす海斗。


(…ここだ!)


威力が相当な分、由紀江のように隙を見せないというわけではないらしい。
柱を振り下ろして無防備な辰子を狙う。


「リングぅ!」

「なっ…」


絶妙なタイミングで横から飛んでくる気弾。
今まさに攻撃を避けて空中にいる海斗に向かって、放たれた。


(かわしきれねぇ…!)


気弾は標的にぶつかり爆発する。
釈迦堂のリング、まともに受ければ大ダメージは必至。
それは一子がよく分かっていることだった。


「海斗っ!」


巻き上がる煙に向かい、一子が叫ぶ。


「へへっ、死んじまってねぇよなぁ。」

「はぁぁああ…」


これがジョーカー2枚。
間違いなく最強だった。

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