小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side 由紀江


見事……
その一言に尽きます。

あの…“流川”さんでしょうか。
全く手を出さずにまたもや勝ってしまいました。
相手の忍足さんという方も見たところ相当なやり手です。
それをあんな奇策で出し抜いてしまうとは。

しかも攻撃を受けていたように見えて、全ていなしていました。
気こそないですが、あの方は相当に強いのではないでしょうか。
それに……

“高い壁を前にしても、努力をし続けられる人が天才”

心に響く言葉です。
あの方の人間性が分かる一言でした。

私ももっと努力しないと…
あうう、友達100人できるでしょうか。


Side out


「さっさと外しやがれ。」

「はいはい……」


このメイド、めっちゃイライラしてやがる。
そんな罠にはまったのが気にくわねえのか。


「おらよ。」

「はん!」


メイドは不機嫌を隠す様子もなく去っていった。


「流川くーん!」

「おう。」

「大丈夫だった?」

「平気だ、頑丈だっつっただろ。」

「うん、良かったわ。」


どの口が言うか。
多少のことならいいが、今日は流石にダメージを受けすぎた。
だが、少しでも弱みを見せると、こいつは罪悪感を感じちまうだろう。

これから表彰式だが、あいにく興味はない。
優勝を目の前の少女にプレゼントしたかっただけだしな。


「おい、一子。」

「はう、え、今なんて?」

「は?今なんても何も“おい、一子”としか言ってないが。」

「か、一子…!?」

「ん?名前で呼んじゃいけなかったか。」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……いきなりだったから……」

「今まで機会がなかっただけで、俺の中では最初から一子だったんだが。」

「そ、そうなの…、別にいいんだけどね。」


嘘だった。
最初はフルネームだったが、おそらくコイツを守ると決めたときから、自然と
一子になっていた気がする。

まあ、基本俺は誰でも名前呼びだ。
今まで呼ぶ相手がいなかっただけのこと。


「あ、そうじゃなくて、一子。」

「はう」

「…お前は一子と呼ばれる度に、そう答えるのか。」

「いや、なんか慣れてないだけで。」

「まあいい、俺は表彰式出ないで帰るから。」

「え!?なんで?」

「別に興味がないし、それに勝ったのは一子だからな。俺は最後の二戦以外は
手を出してないし、その二戦も負けてるしな。」


そう言って、片手を上げて、颯爽とその場を立ち去った。










……はずだった。
なんか、思い切り、上げた手を掴まれてる。


「勝てたのは、悔しいけど、ほとんど流川君のおかげだわ。」

「…………」

「アタシはせいぜいサポートよ。最後の二戦はレベルが違ったし、負けたって
言っても倒したのも流川君でしょ。」


なんで、いつも元気なのに、こんな時だけ悲しそうな顔をするんだ。
あの自信はどこへやらだな……仕方ない。


「海斗だ。」

「え?」

「海斗でいいぞ、俺は名前の方が好きなんだ、最後の二戦は俺がいなくても、
お前がいなくても勝てなかった、そうだろ?パートナー。」

「あ…」


驚いたようにこちらを見つめる顔。
その表情はみるみる笑顔に変わっていく。


「そうね、海斗。」

「ああ。」


さっきの憂い顔はどこへやら、今は満面の笑みだった。
尻尾でも振るような勢いだ。

一子をもじって、ワン子とは言い得て妙だ。
本当に周りを安らげる奴だ。
マイナスイオンでも出てるのではないだろうか。

こういう姿を見ていると、ペットのジロを思い出す。
……いや、飼ったことないが。


「よし、それじゃあな。」

「ちょっと待ちなさい。」


流れで帰らせてもらえなかった。
ここは俺の巧みな言い訳で切り抜けてやる。


「いや、一子、俺は……」

「表彰式に出るんでしょう、パートナー。」


完全に墓穴を掘ったと悟った瞬間だった。


Side 百代


フフフ、面白い奴だ。
やり方は弟のようにズル賢いがそれでも勝利を収めてしまった。

それにメイドにやられていたときのあの体捌き。
まだまだ何か隠していそうだ。

本人はそれを知られたくないようだがな。
気がないことと、何か関係があるのか?

完全に未知の強さではないか。
面白い、面白いぞ、“流川海斗”!
一度、死合ってみたいものだ。


Side out


「では、流川・川神ペアにトロフィーの授与じゃ。」


“じゅよじゃ”って、言いにくくないか?

……そうでもないか。

一子がガチガチになって、トロフィーを受け取る。
そして、トロフィーを持って、やり場に困るようにこちらを見つめた。


「ああ、やるやる。」

「でも…」

「真剣でそんなの家にあっても、かさばるだけだから。」


表彰式が終了する頃には日も暮れていた。

絡まれる前にさっさと帰るか。
そう思って、校門に向かおうとすると、


「海斗ーー!」

「あ?」


一子に声をかけられた。
てっきり、お仲間のもとに戻っていったものだと思ったが……


「あ、あのね、その〜」

「?」

「け、携帯のアドレスとか、教えてくれたら嬉しいな〜、なんて。」


めっちゃ夕日に照らされた真っ赤な顔でそんなことを言った。
そのくらい、別に構わなかったのだが……


「悪いな。」

「あ、いや…」

「あいにく携帯とか持ってねえんだ。」

「え!あ、そ、そうなんだ。それなら仕方ないわね、うん。」


なんか、顔をうつむかせてしまった。


「まあ、もし買ったら、そのときは必ず最初に教えてやる。」

「あ…、うん!」


そう言うと、一子は笑った。



そんなこんなで色々あったタッグマッチは幕を閉じる。

やっと普通の日常が……というわけにはいかないだろう。
だが、ある意味それこそ俺が望んでいたもの。

“非日常”

さて、これからは少なからず注目されるようになった俺がどれくらい、手札を
隠していけるかだ。

だが、今までは少しシビアすぎたか。
元々、自由に生きるのが、俺の性分だしな。

これから面白くなりそうだ。

-13-
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