小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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【天使アフター】



様々な音に包まれたゲームセンター。
そんなのが俺達のお決まりのデートコースだった。
ムードも何もあったもんじゃないが、一番俺達には合っている。


「ぬぁーーっ!また負けたー!」

「ははっ。」


いつものように対戦格闘ゲームから始める。
残念ながら、結果は毎回同じなのだが…。


「もー、なんで勝てねぇんだ!海斗が強すぎなんだよ、ウチがいっくら強力
な必殺技使っても、全部海斗ギリギリでかわしちまうんだもんなー。」

「天使が分かりやすいんだよ。」


基本プレイ中も天使は喋りっぱなしなのだが、必殺技や決め技の前など必ず
テンションが上がって“くらいやがれ!”などと叫ぶので、目で見るより先
に分かってしまう。
まあでも、手を抜くと怒るので俺は容赦なく倒すしかない。


「へへっ。」


だけど、負けた天使も笑顔だ。
結局こうやって二人で遊んでいることが楽しい。


「どうする?もう一回対戦するか?」

「いや、あのさ……海斗!」

「ん?もうやめとくか。」

「それもそうなんだけどさ、次はあれにしないか?」


天使が指差したのは見たことのある機械だった。
なんて言ったっけな…確か…


「プリクラか?」

「そ、そうだよ。恋人なんだから一緒にやんのは当然だろ?」

「そんな一気にまくし立てなくても、可愛い彼女のお願いなら聞いてやるって。」

「なっ、バカにすんじゃねーよ!」

「馬鹿になんかしてないって。天使がそういうこと言うのが新鮮で可愛いな
と思っただけだよ。」

「…いいじゃんかよ。海斗とツーショットの写真が欲しかったんだよ…。そ
う思うのがわりぃかよ。」

「・・・・・」


天使と付き合って、初めて分かったこと。
こいつは乱暴な口調や沸点が低くすぐにキレたりすることから、荒っぽいよ
うに見られるかもしれないが、そこら辺の普通の女子よりも何倍も女の子ら
しい印象を受ける。
ていうか、なんだろ元々小柄で可愛い顔してるからこういう仕草とられると
凄まじい威力になるんだよな。


「じゃあ、撮るか。」

「お、おーよ。」


たぶん自分の顔はにやけてるんだろうなと思いながら、中に入った。
思ったとおり中はペンやら画面やらでごちゃごちゃしていて、俺はお手上げ
だったので天使に任せることにした。
天使は慣れた手つきで進めていく。


「そこがカメラだから、見といてくれ…」


そう言う天使は狭い空間に二人っきりなのが恥ずかしいのか、なんか少し大
人しい。
というか、全くこっちを見ようともしないし。


「もっとこっち寄りな。一緒に撮るんだろ。」

「うわ、うっわ!」


肩を抱き、顔を至近距離に寄せただけでこの反応だ。
いつもは無駄に明るいのにこんなときだけずるいよな。

パシャ パシャ

どうやら一回の利用で何枚かの写真を撮ってくれるらしく、最初のシャッタ
ー音から数秒間隔を空けて、次が撮られていく。
そして、もう終わりの1枚が撮られようとしたとき、


「…よしっ!」


隣から意気込んだ声が聞こえてきた。
その直後、頬に何かが触れたと思うと最後のフラッシュが光った。
今の一瞬をしっかりとカメラはとらえただろう。
だが、写真で確認するまでもなく何が起こったのかは分かった。

隣で恥ずかしそうに縮こまる天使を見て。
今も確かに残っている頬の優しい温もりで。


「…今、こっち見んなよな。」


耳まで真っ赤にして反対側を向く天使。
いや、これはほっとけるわけないだろ。
その顔を覗き込むようにする俺。


「おい、見るなっつってんだろうが!」

「何したんだよ、天使?」

「なっ、なんもしてねーよ!!」


嘘をついても後の写真で明らかとなるのだが…
そんなことなどつゆほど考えず、今はこの状況を楽しんだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


楽しむだけ楽しんでゲームセンターを後にした俺達。
今は適当に目的地も決めずに歩いている。
天使がずっとプリクラを貼った携帯を眺めていたため、すっかり時間は遅く
なっていた。
まあ俺もそんな天使を見ていて、全然頭になかったから人のことは言えない
んだがな。


「そろそろ帰るか、家まで送ってくぞ。」

「あ、え、ああそうだな。」


答えてはいるが、天使の集中力はほぼ無いに等しい。
恋人になってからは送り迎えも許してくれるようになった。
まあ許されずとも好きな奴の見送りは勝手にするけどな。

ドン

そんなときにぶつかる音。
隣を見ると、天使の前に柄の悪い男がいた。


「おい、お前どこ見て歩いてんだよぉ!」

「城之内さんに怪我あったらどうなんのか分かってんのかぁ?」


後ろにいる輩が騒ぎ立てる。
見れば、後から後から結構な人数が来て、1つの族のようだった。
天使の家の方面は治安が悪いとはいえ、こんな派手な馬鹿がいるのか。


「この女聞いてんのか、オラなんとか言えや!」

「るせーんだよ!」


ガンッ

天使が前にいた男の顎をゴルフクラブで打ちぬく。
容赦のない一撃に手下の1人が宙に浮いた。


「なっ…こいつをとっ捕まえろ!」

「人の彼女に手出すなよ。」


逆上して飛び込んできた4、5人をまとめて吹っ飛ばす。


「なんだ、こいつら…!?」

「デートの邪魔してんじゃねーよ。」

「全員潰してやる。」


俺たちはこんな風によく絡まれることが多かった。
ほとんどは天使が相手を馬鹿にするのが原因なのだが。
ただ俺と天使、二人で相手にすれば何も問題はなかった。
こんな大勢が相手でも…


「ぐはっ、あ…りえねぇ。」


5分もかからない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ハプニングがありつつも今日も天使の家に着いた。
さて、こっからが大変だ。


「おかえりー、天ちゃん。海斗くん、今日も来たんだねー」

「あっおい、タツ姉!」


むぎゅーと抱きしめられる俺。
抱きしめている張本人、天使の姉辰子はどういうわけか嬉しそう。
こんな状態が家に来るたびに起こっていた。


「海斗を離してくれよ、タツ姉!」

「いいじゃーん、天ちゃんの好きな人ってことは海斗くんは私の弟になるわ
けだよー、そりゃぎゅってしたくなるよねー。」


いや、辰子のぎゅっは危険すぎる。
なんたってボリュームが凄まじいからな。
そもそも、何故こんなに懐かれるようになってしまったのかというと…


「いやー、海斗くんに抱きしめられたあのときが忘れられないんだよねー。
海斗くんに触れてると胸がぽかぽかーってなってね、すっごく幸せになるん
だよー。それに海斗くん優しいし、もう大好きだよー。」


さらに抱く力が強くなる。
そうなのだ、あのカーニバルでの気を吸い取った技がどうやら原因らしい。

不意に背中からも柔らかい感触が当たった。


「タツ姉、海斗はウチのもんだからな。ゼッタイに渡さねーぞ!」

「えー、海斗くんは皆のものだよー。」

「ゼッタイダメだーー!」


前と後ろで言い合う二人。
ある意味、姉妹喧嘩なのだがこんなに微笑ましいものはない。
本当に仲が良いことが分かる。
思わず笑みがこぼれてしまう。


「あ、どうしたんだ?海斗。」

「いや、なんでもねーよ。」


俺は家族ってのを知らない。
だけど、こいつらといるだけでなんか幸せが伝わってくるようだ。
まるで家族みたいに接してくれる。


「海斗くん、今日はご飯食べていきなよー。」

「海斗はウチの隣だからな!」


こんな風に受け入れてくれる存在がいる。
当たり前のことなのかもしれない。
けれど、俺にとってはこの世で一番の幸せだった。

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