小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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【由紀江アフター】



カコン

ししおどしの音が庭から響く。
どこから見ても和の雰囲気が漂う一般的な旅館。
部屋に寝転がっていれば、外からの空気に乗った緑の匂いと畳から香るい草
の匂いとが鼻を刺激する。
これだけ落ち着いた気分になるのもそうないだろう。

そんなちょっと日常からは逸脱した空間。
何故こんなところにいるのかといえば…


「海斗さん、お待たせしました。」

「おっ、着れたか。やっぱ似合うな、そういうの。」


奥から浴衣に着替えた由紀江が現れる。
ここまで日本の雰囲気が似合う大和撫子もいないな。
サイズ別に何着も用意されているような浴衣も流れるような黒髪、真っ直ぐ
に伸びた背筋、年下とは思えないプロポーションとセットだと、一級品のよ
うに思えてくるから不思議だ。
そんな完璧な佇まいにも関わらず、顔は自信なさげにうつむき恥ずかしがっ
ている。


「あの…海斗さん、そんなに見られると恥ずかしいです…」

「すげぇ綺麗だからさ、自信持てって。」

「はうぅぅぅっ」


いつものようにへたり込む由紀江。
全く耐性が出来ないのは問題だが、これが由紀江の可愛いところでもある。
そんな由紀江に合わせて隣に腰を下ろす。
そのまま耳元に口を寄せて、


「あとで温泉一緒に入ろうな。」

「………はいぃ…。」


そう囁くと由紀江は赤かった顔をさらに紅潮させて、仕切りに頷いていた。
入ること自体はオッケーらしい。
その後はしばらく初々しい由紀江をいじって遊んでいた。

本当に平和だ。
のんびりと温泉宿に二人で泊まる。
そもそもこうなったのは数日前のこと、カーニバルの次の日。
一子に言われ、気まずいながらも学校に来たときだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―数日前


「海斗さん!」

「あ、由紀江…。あの、昨日は…」

「良かったです!」


いきなりギュッと抱きついてきた。
顔を押し付けられ、突然のことに頭がついていかない。


「あのあと大和さんから全部聞きました。海斗さんが敵じゃなかったってこ
とも。私、海斗さんが肯定したのがてっきり…、海斗さんがそんなことする
はずないって分かってたはずなのに、本当にごめんなさい。」

「いや、いいって。由紀江こそ怪我とかなかったか?ごめんな。」

「いえ、海斗さんは正面から私と戦ってくれました。我が儘に付き合ってく
れて…やっぱり敵いませんでしたけど。」

「ったく、あんなことに約束使いやがって。優しすぎなんだよ、由紀江は。
もっと自分のためのお願いに活用しろよ。」

「……そ、それでしたら、今日の放課後屋上に来てくれませんか。自分のた
めに使う…最後の我が儘です。」

「別にいいけど…屋上に行くだけでいいのか?」


それならお願いを使う必要もないと思うが。
まあ、やり直しのお願いだから遠慮してるってことか?


「はい……そこからは私の頑張りですから…」


ボソッと最後に何かを呟いて由紀江は去っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「海斗さん?」

「ん?」


風呂場に反響する声。
湯気がたちこめる温泉につかっていた。
混浴なので勿論一緒にだ。

今はやっと慣れてきたようだが、最初は相当恥ずかしがってた。
まあ分かってたけどな。
それよりもヤバイのはこっちのほうだ。
由紀江は防御の薄いバスタオル一枚に長い髪を風呂だからまとめ上げている
という状態。
タオルで隠れていない肌の部分は透き通るような白に、少し赤みがかってい
るような、というか完全に胸なんて収まっていない。
タオルで隠しているとはいえ、ヒップも相当な膨らみであり、逆にその張り
つめたタオル一枚があることで、より妖艶な雰囲気を醸し出していた、
出るところが出ている由紀江の体はそれだけの破壊力。
一言で言えばたまらない光景だった。


「どうしたんですか?ニコニコして。」

「いや、由紀江の告白思い出してた。」

「なっ、な、なーーーーー」


顔を半分ほど沈めて、ブクブクと文字通り泡を吹いている由紀江。
本当は別のこともあったけど、嘘は言ってないよな。


「あと、由紀江の体エロいなーって。」

「うわぁぁぁぁぁ」


反応が面白かったので、もう1つの気持ちの方も言ってみる。
案の定、さらに慌てふためいてくれた。
もう顔の紅潮がお湯のせいかどうかも分からない。


「悪い悪い、反応が可愛かったからさ。」

「うぅ…海斗さん意地悪です。」

「でも、本当にあの日屋上で告白してくれて嬉しかったよ。じゃなきゃ、今
日ここにも来れてないし、こんな魅力的な由紀江の格好も見れてないしな。」

「私も良かったです、海斗さんと二人でこんなところに来れて…。」

「でも、どうせお願い使うならそれこそ直接付き合ってくれとかにすれば、
良かったんじゃないか?」

「海斗さんの答えをお願いで強制するわけにはいきません。それに私がどう
しても気持ちを伝えたかったんです。海斗さんが帰ってきてくれましたから。」

「健気だなー。まぁ俺もそんな由紀江が好きだよ。」

「うっ…わ、私も!お慕い申し上げております!!これからもおそばにいさ
せてください!」

「当たり前だろ。これから俺の飯とか毎日作ってもらうつもりでいるけど、
それは嫌か?」

「そっ、それはつまり…!」

「俺は由紀江みたいなお嫁さんなら欲しいけどなぁ。」

「おおおお、お嫁さん!?」

「結婚は俺とはしたくないか?」

「いやします!したいです!海斗さんのお嫁さんにしてください!」

「ははっ、フラれなくて良かった。」

「私は最初から海斗さんしか考えられません!」

「まぁ、まだ先の話だけどな。」

「あ…そうですね…。」


ちょっと気落ちしたように感じる由紀江の声。
ったく…いちいち可愛いな。


「ほら、由紀江。」

「ひゃっ…」


露出されている由紀江のか弱い肩を抱き、引き寄せる。
そして、不意打ちで唇を奪った。
少し長い接触のあと、顔を離す。


「由紀江恥ずかしがりながらも、絶対逃げたりしないよな。なんだかんだで
気持ち良さそうだし、結構キス好きだろ。」

「それは…海斗さんが…」

「別に俺が育てたわけじゃないぞ、告白されたときにした最初のでも由紀江
積極的だったし……やっぱエロいなー。」

「ううぅ…。」


女の子の友達からガールフレンドへ。
一見変わってなさそうな響きだが、大きな変化。
全力で俺を止めようとしてくれた、見た目に反して強いこの年下の女の子は
何があっても守っていこう。
もうカーニバルのときのあんな顔はさせたくないから。
ずっと側で…


………

……




「海斗さん、これ他のお客さん来たらどうするんですか?」

「男だったら由紀江の裸を見られる前に気絶させる。もし、それが間に合わ
なければ……ははは。」

「……誰も来ませんように。」

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