小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

【True End 『真剣で私たちに恋しなさい!』】



Side 大和


チャイルドパレス内。
入り口から焦って出て行く一子の姿をしっかりと見ていた。
そして、当然意味も理解している。

流川海斗。
常夜で過ごしてきた普通とは違う男。
だが、あいつは不思議な魅力を持っていて、そんな環境で過ごしてきたとは
思えないほど人に対して優しさを持っている。
性格くらい捻じ曲がっていてもおかしくないのに。
そんな奴だから周りの沢山の者が惹かれ、想いを寄せる女子もいる。
俺も身近で実際に何度見たことか。
だからこそ、あいつがいなくなれば沢山の奴が悲しむ。
無論、俺のファミリーのメンバーの何人かもそこに含まれている。

それなら俺がやることは1つ。
俺は電話をかける。
多少の時間はかかるが、一子が持ちこたえてくれるだろう。


「さて、俺たちも準備だ。クリス。」

「は?」


あいつが帰る理由…
おそらく自分自身の価値が分かってないんだろう。
今まであんなとこで過ごしてきたから、好かれることに慣れてない。
それなら、この方法がベストだ。


「今度は俺たちが救ってやる番だ。」


Side out


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


カーニバルが終わり、去ろうとする海斗になんとか一子は追いついていた。
これが事実上、海斗を引き止めることが出来る最後のチャンスだということ
は、いくら一子でも分かっている。


「海斗…!」


第一声で足を止めてくれた海斗に話をしようとしたときだった。
一子が声をかけているのは海斗の後方、その逆、つまりは海斗の進もうとし
ていた道から誰かがやってくる。
だが、一子の目がその姿で人物を特定する前に正体が明らかになる。
それは相手が声をあげたから。


「…やっ…と、見つけた。海斗っ!」


息を切らしながら叫んだのは天使だった。
ずっと走り回っていたのか、今も肩で息をしている。


「天使?」

「海斗、ゼッテー常夜には行かせねー。」


そこで天使は海斗の後ろにいる一子に気づく。


「ちっ、先にいたのかよ……、まあいいや。とにかく、海斗はこっから先に
は行かせねーからな。」


そう言って、海斗の進む道をふさぐ。
結果、天使と一子が前後を挟む形になった。
海斗は二人の言葉に足を止めている。


「なんで海斗が常夜に帰る必要があんだよ!」

「そーよ、海斗。こっちにいればいいじゃない!」


彼女達は海斗と別れたくない、その思いだけで動いていた。
だから必死に海斗を止めようとするのだが…


「俺はいちゃいけないんだよ。」


そう、こちらにいても迷惑をかけるだけ。
海斗が意識せずとも、育った環境が根付かせていたのだ。
自分は不必要な存在だという認識を。


「そんなこと誰が決めたんだよ、流川。」

「え?」


一子が思わず振り向く。
後ろには声の主である大和、風間ファミリーの面々と他数名がいた。
勿論、由紀江やガクトの姿もそこにあった。


「まゆまゆは私たちが来る途中で拾ってきた。」

「ガクトも行くというのでな、私が運んできた。」


百代とクッキーがそう説明する。
クッキーはどうやら一緒に伊予も運んできたようだ。
そして、百代もマルギッテとともに来ている。


「みんな…」

「ワン子のおかげで全員を集める時間が出来た。流川、何を誤解してるか知
らないけど、ここに集まってくれた皆は少なくともお前のことをいなくても
いいなんて思ってないからな。」

「は?」


海斗は状況が飲み込めない。
こいつらは俺が常夜出身っていうのを聞いたはずなのに、と。


「俺はせっかく食券で儲けられる仕事仲間を失うのは嫌だしな。」


大和が言う。


「お前のことは気にいらねぇが、男らしく戦ったって聞いたしな。俺様は認
めてやるぜ。」

「なんで、ガクトが偉そうなのさ!でも、僕も悪い人じゃないっていうのは
分かってるよ。カーニバルも無事に終わったしね。」


まだふらふらのガクトとそれを支えるモロが言う。


「海斗先輩、私まだまだ感謝しなきゃいけないことがいっぱいあります。こ
れからも少しでも返していきたいんです。」


伊予が言う。


「正直、他人なんてどうでもいいけど…。ま、結果的に大和を守ってくれた
わけだし、私のライバルも減るからいいんじゃない。」


京が言う。


「海斗には借りがある。私もリベンジしないと気が済まないしな。…それに
他にも借りはあるんだ。逃げることは許さん。」


マルギッテが言う。


「それなら私とも勝負してもらわないとな。まさか、まゆまゆを倒してしま
うとは…本気で面白そうだ。」


百代が言う。


「海斗がどう生きてきてたといしても自分は海斗の義を感じる。それが全て
だ。海斗がいていけないなんてことはない。」


クリスが言う。


「海斗さん、私誤解してしまって…。でも、たとえ海斗さんが敵だったとし
ても海斗さんにいてほしいと思ったんです。」


由紀江が言う。


「アタシは海斗がいなくてもいいなんて思ったことないわ。何度も助けてく
れたし、迷惑なんて絶対違う!」


一子が言う。


「ウチの名前、別に好きなわけじゃねーけど、海斗のおかげでマシになったっ
つーか…これからもゲーセンで遊びてーんだよ!」


天使が言う。


「前にも言ったけどよ、もう一回言うぜ。流川海斗!風間ファミリーに入れ!」


最後に翔一が叫んだ。


「……っ」


海斗は気づいた。
こんなにも多くの人が自分のことを思ってくれていること。
親に捨てられ、“死に神”と嫌われた過去。
そんな経験しかなかった海斗は今確実に愛に包まれていた。


「…はぁ、何度も言わせんなよ。ファミリーには入らないって言ってんだろ。
俺は自由に生きるんだよ。そう思うままに自由な世界でな。」

「海斗!」


そう言った海斗は笑顔だった。


「また断るのかよ!…けど、いいんじゃね。こっちの世界にいるんなら、ま
だいくらでもチャンスはあるしな。」

「うわ、まだ諦めてないんだ。流石キャップだね。」

「まあ、いいじゃんか。好きにさせてやればさ。」


大和はそう言いながら、結果に満足していた。
急遽、電話での緊急招集。
海斗に思いを寄せている者を中心に集めた。
止めるための一番の方法は必要とされていることを理解させることだと考え
たからだ。
だから、なるべく沢山召集したのだが、実はそれだけが目的ではない。

もう1つの目的は抑制。
今回はあくまで止めることが最優先事項。
しかし、これだけ海斗のことを好きな奴を集めている。
ここで感情が高まり、告白なんかが行われないようにだ。
これだけ人の目があれば、流石に自重する。
事態をややこしくしないためだ。


「カイトーー!」


しかし、その思惑は最後にやってきたこの少女によって…


「カイト、ありがとー。大好き♪」


ぶち壊された。


「なっ、なっ、何してんのよ!」


状況としては、大和たちの後方からいきなりやってきた小雪が走って海斗に
そのまま抱きついたのだ。
しかし、放った爆弾はそれだけじゃない。
決定的な言葉。
何人ものライバルの前で“大好き”を口にしてしまった。
すると、巻き起こる事態は…


「待ちやがれ、またテメェかよ!海斗から離れろ、ウチのほうが海斗のこと
メチャクチャ好きなんだよ!」

「ちょっと、何言って…」

「私も海斗さんのことお慕い申し上げております!友達としてだけでなく、
その男性として…」

「海斗先輩!私もあの助けられたときから恋してました。」


若干戸惑っている一子を置いて、由紀江と伊予の二人も天使に続いて告白する。


「待て、それなら自分もだ。自分も海斗のことが好きだ。」

「あ、アタシだってずっと前から海斗のこと好きなのよ!」


クリスと一子も競うように思いを打ち明ける。
しかし、まだ1人黙ってるものがいた。


「いいのかー、お前は言わなくて。」

「なっ、何をだ!」

「自分のお嬢様に遠慮でもしてるのか?そんなんで隠してたら、確実に後悔
するぞ。」

「くっ…」


百代の言葉でマルギッテも海斗を見る。


「私も…っ…興味がある、海斗に。その…初めてなんだ、こんなに気を許せ
る相手は。だから…私も海斗のことが好きだ。」


怒涛の告白ラッシュだった。
第三者の位置にいる面々は呆れ半分、面白半分だ。
若干、一名は本気で羨ましがっていたが…。

当の本人はというと…


「あの、どっからどこまでが本当だ?」


見事に混乱していた。
というか、あまりの急展開についていけていない。


「流川、悪いけどこれはノンフィクションなんだよな…」


大和も笑うしかなかった。
こんな混乱が起こらないようにと集めたはずだったのに、1人が乱入しただ
けで最強の連鎖を巻き起こす手助けとなってしまった。


「カイト〜♪わぁーい。」


その空気の読まない特攻隊長が海斗の背中に抱きつき、おぶさるような形に
なる。


「ちょっと、また海斗を独占しようとして!」


一子が真っ先に抗議するが、さっきとは状況が違った。
もう気持ちを明かしてしまった今、女の戦争と化していたのだ。


「海斗さん…。」


ちゃっかり由紀江なんかは混乱に乗じて、海斗の左腕を取っている。
いわゆる腕組みの状態だ。
もう吹っ切れたのか、みんなの前で堂々と密着している。


「ちょ、まゆっち!?」

「くっそ、ウチも…!」


天使が空いている右腕をすぐさま埋める。
ちょっとした椅子とりゲームみたいになっていた。
にしては雰囲気がピリピリしすぎなのだが。

その結果、皆が海斗のまわりを取り囲むような形になった。
当然、それを周りで見てる者は…


「モテモテだな、あいつ…」

「しょーもない。」

「でも止めることは出来たし、いいんじゃない?」

「はぁ、こうならないように集めたっていうのにな…。でも、あいつはたぶ
ん今まで俺たちのように平和に生きてこれたわけじゃない。だから、逆に今
は愛されすぎていて辛いくらいでちょうどいいんじゃないか。」


女性にもみくちゃにされている海斗。
大変ではあるが、それは今まで絶対にありえなかった幸せで。
自然と笑みが漏れてしまうのだった。


「絶対に海斗は渡さないんだから!」

「ウチだって渡す気なんかねーよ!」

「ここにいる全員がライバルということだな。」

「私、海斗さんに好きになってもらえるように頑張ります!」


それは誰もが同じ気持ちだっただろう。
街全体を巻き込むこととなったカーニバル。
だが、たぶんこれからの日常の方が激しい戦争になりそうだ。
しかし、そこには確かに大切な人がいて…。
何よりそれが幸せなことだから。

-137-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい! 初回版
新品 \14580
中古 \6300
(参考価格:\10290)