小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「ふぁーあ」


昨日は飯食って、よく寝たら、傷が完治してしまった。
我が体ながら、なんと逞しいことよ。

エイリアンに改造とかされてないよな。
それを俺に確かめるすべはない。
結局、人間なんて自分の体でさえ、本当に自分のものか分からない。
もしかしたら、これは他者の体で記憶を改ざんされているのかも。
おー怖い。

そんな感じで俺の頭の中には、朝からカオスが広がっていた。
うーん、今日も平和だ。


Side 由紀江


あわわ、どうしましょう!
日直で早く来たら、前にあの流川さんがいらっしゃいます。

しかも、人気者であろう流川さんが1人で登校中。
これは神様が私にチャンスをくださっているのではないでしょうか。

『そうだぜ〜、まゆっち一発アタックしとけって』

そうですね、松風。
流川さんみたいな優しい人と友達になれれば大きな一歩です。
ききき、緊張しますが、めざせ友達100人!

「黛由紀江、参ります。」


Side out


あー、なんか昨日の熱も冷めてみると、今日学校行きたくねえな。
後悔はしてないけどさ。

なんで、眼鏡踏み潰したりしたかなー。
結局、新しいの買ったしさー。
うむ、あれだな。その場のノリって恐ろしい。

ん!?後ろからの気配。
俺は咄嗟に振り向き、襲ってくるであろう武器を止めようとした。
だが、そこには


「あわーーーーっ」


倒れこんでくる少女が。

俺は状況がよく飲み込めないまま、真剣白刃どりをしようとしていた手をその
少女の肩に添うような形に急遽変更した。
そして、なるべく衝撃を与えないようにふわりと受け止める。

俺は無事を確認するために腕に抱いた少女を覗き込むと、相手も状況を確認し
ようとしたようで、目があった。
その刹那、ボンッと音が聞こえそうなくらい顔が赤くなった。


「ああああ、あのですね、これはあの、こ、転んでしまって、決して悪気とか
迷惑かけようとか思っていなくてですね、その!」


な、なんだ、すごい早口でまくし立てられた。

一応、昨日である程度、吹っ切れたとはいえ、初対面の人物には警戒をしなく
ちゃいけないと考えていたのだが。
この子から滲み出る守ってあげたいオーラはなんだ。
思わずペットのジロを……
だから、飼ってないっつーに。


「まあ、落ち着け。」


ぽん、と軽く頭に手を置く。
少女はそれによって、自分の存在する位置を再認識すると…

凄まじい速度で距離をとった。
あ、めちゃくちゃ強いぞ、この子。


「ど、どうしましょう、松風。いきなり先輩に無礼を。」

「おー、落ち着くんだ、まゆっち。ここでチャンスを逃したら、次はいつ来る
かわからねぇ。」

「そ、そうですね、ここが踏ん張り時です。」


なんか馬のストラップと喋ってるぞ。
お人形さん遊びみたいなもんか?


「その子なに?」

「え、はい、松風といいます。」

「へえ、松風。」

「おー、なんだか、オラの存在がナチュラルに認められてるぜ。」

「あの、驚かないんですか?」

「ま、君が松風って言ったら、そいつは松風なんだろ。」

「おー、コイツすげぇいい奴じゃん、オラ気に入ったぜ。」

「あの、ありがとうございます。」

「おう?」

「つーか、まゆっち。オラの紹介より自分の紹介しなくちゃ。」

「そ、そうでした、コホン」


咳払いをすると、いきなり怖い顔になった。
怖いっていうよりかは、引きつったような。


「私、黛由紀江と申します。友達の多い先輩に不躾なお願いかとは思いますが
私とお友達になってくださいませんか!」

「は?」

「うぅ、すみません、ごめんなさい、やっぱり……」

「いや、そうじゃなくて!」


俺が断ると思ったのか、両目のダムが今にも決壊しそうだ。
ホントに小動物みたいだな。

この子を見てると、ペットの……
いい加減しつこいな。
違う、天丼やってる場合じゃねーよ。


「俺、友達なんて1人もいないけど…」

「え!てっきり、先輩は優しいから、多いものだと、すみません!」

「いや、気にしてないし、全然いいんだけど。」

「じゃ、じゃあ友達とかはいらないんですか?」


わざわざ面識のない俺にこんなことを言い出すなんて、この子は友達があまり
出来ないのだろう。
容姿は悪いわけじゃないし、さっき感じた強さが原因ってとこか。

そして、俺のことを優しいと勘違いする始末。
先が思いやられる子だな。

今もすごい不安そうな顔で俺の答えを待ってるし……

本当にどうしようか。
友達ってことは深入りされることも多くなる。
それだけは、今でも越えちゃいけないラインだ。

俺の過去を知られないためにも…

この子を傷つけたくはない。
せめて、相手から引いてもらおう。


「俺を優しいと思ってるみたいだけど、それは違うぜ。」

「え?」

「それは君が俺の一つの側面をたまたまよく捉えているだけだ。」

「………………」

「俺はクラスの中で忌み嫌われているし、誰とも話さない人間だ。俺の席は避
けられて、クラスの中での位置づけは陰気で根暗、消極てk…」

「それでも!」


いきなり大きな声で遮られる。


「それでも私が見た流川さんは優しかったです!人を思いやる“礼”の心、流
川さんのそれは嘘には見えませんでした!私は私が見た流川さんを信じていま
す。流川さんの自己評価がどうであろうと、周りの人がどう思っていようと、
私は流川さんとお友達になりたいんです!!」

「は……」

「あ、ご、ごめんなさい、私つい取り乱してしまって」


真剣で驚いてしまった。

話した印象からも挙動からも強く来る子ではないと思っていた。
相手の言うことにも付和雷同する子だとも感じた。
だから、すぐに引き下がってくれると。

でも、自己紹介のときの声量からは考えられない大声で、俺が言った全てを否
定された、自分の信念を持っていた。

駄目だ、こりゃ。
ますます傷つけたくないんだが。
これじゃ、相手に引き下がらせるのは無理か。

…仕方ない。



「悪いな。」

「あ…、べ、別にいいんです。最初から無茶なお願いをしているのはこちらの
方ですから、流川さんが謝ることなんて。」

「そんな他人行儀な奴とは友達になれないだろ、由紀江。」

「え…」


だから、もう覚悟を決めた。

傷つけないことは逃げることではない。
ばれないように隠し通せばいいだけのこと。

そんくらいのリスク背負い込んでやる。
多少のハンデがあったほうが面白いしな。
それに……


「分かったか?由紀江」

「はい!よろしくお願いします、海斗さん!」


さっきのぎこちない顔はどこへやら。
こんな笑顔を見れるなら、悪い気はしないな。

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