小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side 翔一

タッグマッチの決勝戦。
あいつはワン子を馬鹿にした相手に対して、声を荒げた。

いつも喋らないで大人しい奴だと思っていたのに、こんなに熱い男だとは、思
いもよらなかったぜ。

あれ以来、ワン子とも仲がいいみたいだし、まゆっちもお友達になったと秘密
基地で嬉々として語っていた。

それならば、新メンバーとしていいんじゃないだろうか。
ファミリーの2人とも仲がいいわけだ。
何より、ああいう真っ直ぐな奴は好きだぜ。

だが、俺1人の意見では決められない。
俺たちはなんたって“ファミリー”だからな。






「今日ね、海斗と携帯電話、買いに行ったの。」

「あぁ、また始まった。」


「今日のお昼にですね、海斗さんとお弁当を食べたんです。」

「へぇ、そうなのか…」


ファミリーが集まる秘密基地。
そこでは大和と岳人が恋する乙女たちの犠牲になっていた。

本人たちは仲間として、現状報告しているつもりなのだろうが、彼女のいない
男たちにとっては、ただの惚気以外の何者でもない。
そして、悪気がない分、無視もできないということだ。

2人の少女はライバルが偉大な戦果を成し遂げているのも知らずに、別々のと
ころで、各々自分の嬉しさを語っていた。

そんなこんなで時間が過ぎていくと、基地には続々とメンバーが集まり始める。
そして、最後にキャップこと風間翔一が来た。


「あー、今日は皆に話がある。」

「なになに、また旅行でも行くの?」

「ハハハ、それはいいなぁ。」


モロと百代が反応してくるが、翔一は続ける。


「実はまた新メンバーを入れたいと思う。」

「え!?」


さっきまで読書をしていて、我関せずだった京が一番に反応する。


「またか、まあいい。それで誰なんだ?」

「ああ、“流川海斗”だ。」


ワン子とまゆっちの肩がビクリと震える。
京や大和からしてみれば、なんと分かりやすいという感じでしかない。
もはや、誰が見ても明らかなバレバレの状態だった。
クリスなどの例外もいたが…


「流川海斗とは、あの犬と共に優勝した奴か。」

「フフ、あいつか。面白いじゃないか。」

「俺はあいつをファミリーに入れたい。だから、多数決をとる。」

「私は反対。」


京が間髪入れずに即答した。


「もう新しいメンバーはいらないよ。」

「今回は俺も反対だ。」


大和がそう言うと、岳人とモロが続いた。


「わ、私は…」
「ア、アタシは…」


ワン子とまゆっちが慌てて、自分の意見を述べようとするが、二人の答えが火
を見るより明らかなのは言うまでもない。


「で、まゆっちとワン子は仲いいから、賛成でいいよな。」


恋愛感情に気づけないリーダーもいるが……


「私も賛成だな、アイツは何かと面白い臭いがする。」


そう言って、目を輝かせる百代。
それはまるで戦いに飢えた獣を彷彿させるようだった。


「俺はもちろん提案者だから賛成だ。」

「てことは、今んとこきっちり4:4で分かれてるわけか。」

「クリはどうなんだ?」


そう、残るはクリスの意見だけだ。
すなわち、この決定がファミリーの決定となる。


「自分は正直、少し前までなら迷わず反対だった。教室では無関心で、教師へ
の態度も悪い。だが、犬と共に戦っている奴の姿からは義を感じた。自分はど
ちらが本当のあいつなのか、判断できない。だから…」

「どちらともいえないってことだな。」

「結局、決まらなかったってこと?」

「まあ、また入れてみて様子見っていうのが妥当だろうな。」


反対派の皆も仕方ないと頷く。


「よし、じゃあそれで決定だ!」






てな感じのことが昨日あって、晴れて今日からお試し期間だ。
楽しくなりそうだぜ。

Side out


「嫌だ。」


男の計画は破綻した。


「なんでだよ!」

「いや、いきなりファミリーに入れなんて、断るに決まってんだろ。」

「楽しいじゃん、即OKじゃん。」


なんだ、こいつは駄々っ子か。
なんで、登校直後にこんなこと言われてんだ、俺は。


「大体、一子と由紀江がいるからって、俺が入る理由にはなんねえよ。あいつ
らとは、別にファミリーじゃなくても関われるだろ。」

「いいじゃねぇか、一緒の方が楽しいって。」


こいつ、本当に人の話きいてんのか。

ちょっと顔がいいからって、何でも許されると思ってるんじゃないか。
そんなのが通じるのは単純な女だけだぞ。
悪いが俺にはそんな趣味は皆無だ。


「とにかく、その話は断る。」

「どうしてもか?」

「ああ、そうだ。分かったら、席に戻れ。」

「よし、分かった。なら、俺と勝負しろ!」
「嫌だ。」

「即答かよ!!」


いや、そんなものするわけないだろ。
目立たないようにしようという考えは一子や由紀江によって、結構変えられて
しまったが、そんな意味のない勝負をする必要性は全くない。


「勝負くらいしたっていいだろー。」

「じゃあ、今日の昼飯をおごれ。」

「なに、そしたら…」
「俺の飯代が浮く。」

「勝負してくれるんじゃないのかよ!」


はあ、ほんと子どもみたいでいじりやすい。
つい悪戯心がわいてしまう。


「んじゃ、俺の指定した時間までに菓子買ってこれたら、いいぞ。」

「そんなことならお安い御用だぜ。」

「じゃ、柿ピーでいいか、タイムリミットは…昨日だ。」

「思いっきり、過ぎてんじゃん!!」

「キャップ、もとから入る気なんてないんだって。」


あらら、遊んでたのに、もう終了か。
まあ、そういうことだ。
頭脳担当君の言うとおり、諦めてくれや。


「だから、俺に任せてくれ。」

「大和、なんか作戦があるのか。」

「ああ、あいつのことはワン子からリサーチ済みだ。……半ば強引に聞かされ
たとも言うが。」


ほう、随分と自信があるようで。
確かに一子や由紀江とは他の奴らよりも多く接している。
だが、俺が人の前で弱みを見せるなんて有り得ない。
そんなへまは俺に限って…


「これを勝負に勝てば、やるっていったらどうだ?モロにネットで買ってもら
ったんだ。」


そう言って、俺の机の上に置かれたのは、あの一子の携帯に付いてたものと非
常に似た柴犬のストラップだった。

いや、確かに弱みではないな、これは。
というか、物ごときで俺の揺るぎない心を動かせるとでも思ったか。


「直接戦闘以外なら受けよう。」


簡単に揺らいだ。


「おお、大和でかした!」

「いや、俺もまさか、これで成功するとは…」

「なんだ、これは。目のつくりが職人入ってんじゃねーか。」

「完全に聞いてないし。」


一子のとは、若干毛の色や耳の形などが違っていて、まあ、1つ言えることは
愛嬌が半端ないということだ。

色々な角度から見ていると、取り上げられた。


「これは勝者への景品だ。お前の物になるのは、キャップとの勝負に勝ってか
らだ。負けたら、当然ファミリー入りだな。」

「分かってるっつーの、で、何の勝負をするんだ?」

「それは…川神戦役だ!!」


またもや、大変なことが始まりそうな予感である。

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