小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「なんか、よく分からんが、勝負はまだ分からない!モロロ、次のステージは
なんだ?」

「あ、次のステージはいわゆるシューティングだね。」

「これは典型的な縦スクロールシューティングだ。」

「今度は変なところないだろうな…」

「それが、敵キャラが全て作者の嫌いな食べ物というシュールな感じになって
て…。しかも、特に牡蠣には相当恨みがあるらしくて、他と比べて、異常に出
てくる量が多いんだ。」

「画面いっぱいに牡蠣が広がってるのを想像してしまった…」

「本当にカオスだな…」

「ていうか、なんか会場が騒がしくないか?」

「僕はもう嫌な予感しかしないんだけど…」


勿論、ざわつく会場の理由など1つしかなく、モロの予想は当たっていた。

海斗はその圧倒的な量の敵、というか食べ物の数々を、弾をかわしつつ、確実
に仕留めていった。
この程度なら、ざわつくこともないなんて言える難しさでもないのだが、海斗
は最小限の攻撃しか撃たず、また敵を倒すことで得られるパワーアップアイテ
ムを何ひとつ取る事がなかった。


「やっぱり…」

「おいおい、パワーアップアイテムを取らないっていうのも、確かにすごいが、
あいつ無駄撃ちを一切やらないぞ。長押ししてれば、連射する仕様になってい
るというのに。」

「そもそも、初期の弾の威力なんて相当低いんだよ。」

「というか、そんなわざわざ自分に不利なプレイをするってことは、相手を挑
発でもしてんのか?」

「パフォーマンスとしては、非常に面白いがな。」


そんな高評価をされていたが、当の本人は…


何だ、これは。
ちょっと多すぎないか。
とにかく、相手から出たものに当たらなければいいんだよな。
ていうか、倒しても弾が出てこないか、これ。


アイテムも本気でよけていたのだった。


Side 一子


海斗がいきなり、ハードを選択をしちゃったときはどうしようかと思ったけど、
なんか凄い動きでどんどんクリアしてっちゃう。
やっぱり、海斗はすごいんだなー。

ていうか、夢中になって、海斗の応援をしてたわけだけど、よく考えてみると、
キャップが勝たないと海斗がファミリーに入ってくれないんだよね。

でも、気づいたら海斗を応援しちゃってる自分がいる。
結果のことなんか忘れて、今目の前で勝負してる海斗に“頑張れ”って、言い
たくなっちゃう。
そう、いつの間にか、目なんて離せなくなってる。

この前、大和に“大丈夫か”とか、“重症じゃないか”とか言われて、思いき
り否定してたけど、アタシ全然だいじょぶじゃないかも。

それにしても、隣のまゆっちもずっと海斗を見てる気がする。
まあ、友達だって言ってたし、まゆっちも賛成だったもんね。
仲良しだったら、つい応援してしまうのも分かる気がする。

だから、この変な胸騒ぎは気のせいだよね、うん。


Side out


その後も海斗はイージーとハードの差を感じさせることもなく、逆に少しリー
ドしているくらいで、次々とステージをクリアしていった。


「次が最終ステージだよ。」

「もう、なんかこのゲーム見てるだけで疲れるんだが…」

「で、最後のステージはなんなんだ?」

「最後はガンアクションだよ。」

「また、ろくなものじゃないんだろうな…」

「ああ、この面は作者が極度の猫アレルギーだったことから、猫が敵だ。しか
も、最終面で作るのも疲れたのか、絵ではなく写真だ。」

「よりによって、ガンアクションにそれを持ってくるか。」

「もうツッコミも疲れたのだが、一応言っておく。何故、操作キャラが犬なん
だ。」

「作者が犬派らしい。」

「ホント、どうでもいいな。」

「まあ、すぐに決着がつくだろう。」

「例によって、会場が騒がしいよ…」

「え、おい!大変なことになってるぞ!」


そこには相手の攻撃をひたすら避ける海斗のキャラの姿があった。
やはり、その回避センスは見事だったのだが…


「その面は倒さないと、先に進めないよ!」


そう、このステージは避けるだけでは先に進まない。
それを聞いた海斗は…


「そんなの分かってんだよ。」


くそ、そうだ。そんなことは分かっている。

だが、なんで、猫を撃たなきゃいけねえんだ。
しかも、何ゆえ写真なんか使ってんだ。
こいつらが一体何をしたっていうんだよ。


「攻撃はできねぇ。」


そう言い、相手の攻撃を避け続けることしか出来なかった。


「もしかして、海斗、猫だから、手を出せないんじゃ…」

「え、そうなんですか!?」


そして、硬直状態が続いたまま…


「よし!クリアー!」


隣の画面に“ゲームクリアー”の文字が。


「第一回戦は風間翔一の勝利!!」


同級生連中が揃って、歓声をあげた。


「まさかの大逆転、というか最後はなんで、手を出さなかったんだ?」

「謎だけど、ハンデってことかな?」

「まあ、時間もないし、第二回戦にいくぞ。」


今度は風間翔一がくじを引いた。


「第二回戦は画力対決だ!」

「まあ、これはそのままで絵の対決だな。判定は美術の先生に任せている。
そして、モデルは2人にあまり差が出ないような人ということで、まゆまゆに
決定だ!」


「わわ、私ですか!?」


「というか、この勝負、キャップの絵を見たことがある奴なら、もう勝負は見
えているようなものなんだよな〜。」

「というと?」

「キャップの描く絵はまるで写真のようだからな。」


由紀江が出てきて、椅子に腰掛ける。
すると、風間翔一はすぐに描き始めた。

俺も描こうか。
どうせなら、正面から描いてやりたいよな。
それにちょっと緊張しすぎじゃないか。


「由紀江、こっち向いてくれ。」


そう笑って話しかける。


「あ、はい!」


そうそう、やっぱり笑顔の方が女の子は絵になる。
由紀江の無理している感じの顔もそれはそれで面白いがな。

深く考えても、絵なんて習った記憶はないので、さらさらと適当に見たまま筆
を走らせていく。


「よし、出来たと。」

「俺も出来たぜ。」


このときは、ファミリーの皆は誰もがキャップの勝利を確信していた。
だが…


「じゃあ、一斉にオープン!」


2人の絵が観衆の前に並べられる。
それらは、両者ともハイレベルな出来だった。


「な!?流川も上手いじゃないか」

「本当にどっちも写真みたいですね…ははは」


本当にその通りでほとんど同レベルだった。
違いといえば、風間の描いた物は少しひきつったような顔。
海斗が描いた物は満面の笑みであった。


「では、判定をしてもらおう。」

「ふむ、どちらも非常に良く出来ていて、甲乙つけがたいが、この娘はこんな
に笑顔ではない。よって、より忠実に再現されている風間の勝ちとする。」


おい、そんなことないだろ。
由紀江は俺に向けて、こんくらいの顔してくれたぞ。
よく見ろや、おい。


勿論、そんな柔らかな表情は海斗の前でしか、見られなかった。
自身が意識していなかろうが、その違いは顕著にあらわれていたのだ。

そんな乙女の恋心が美術教師の判定に反映されるわけもなく…


「第二回戦も風間翔一の勝利!!」


またもや、同級生軍が声を上げる。
一年生たちはジャッジにケチつけているようだ。

おい、待て。
3本先取で俺が2回負けたってことは……


「早くも風間翔一、勝利にリーチだ。」


やばい。
出たくない競技はギブアップとか、そんな悠長なことをどの口が言っていた。
まさに後に退けないじゃねえか。

しょうがねぇ。
くじで出た競技に全力で取り組むとするか。

残された道はその進路のみ。

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