小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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くそ、まさか追い込まれるとは思っていなかった。
せめて、取って取られてのシーソーゲームを繰り広げたかったぜ。


「くじをどうぞ…」

「ああ。」


なんで、そんなに心配した顔をしている一年生スタッフ。
このボロボロの状況に同情されてるのか。

だとしたら、最悪だ。
同情されるくらいなら、軽蔑された方が百倍ましだ。

いや、言える立場じゃねえって話だよな…


「あ、じゃあこれで。」

「はい……あの、頑張ってください。」


“あの”の先は聞こえるか聞こえないかくらいの声だった。
だが、どうやらあの子は純粋に応援していてくれたらしい。
いやー、良い人もいたもんだ。


「では、第三回戦目は自立力だ。」


自立力?
そんなもの、俺には溢れてるぞ。
なにせ、今までほとんど人と関わることなく、生きてきたんだからな。
負ける気がせんわ。


「ということで、料理対決だー。」


は?料理?
無理無理、生まれてこの方、料理なんてやったことないわ。
負ける気がせんとか、言ったの誰だ。

おい、俺これで負けたら、本当にやばいんだが。


「作る料理は自由だ、用意された食材から一品を作ってくれ。」

「これはどちらが有利なんでしょうね。」

「うーん、キャップは何でもそつなくこなすが、特別料理が得意というわけで
もないしな。かといって、流川もどうみても料理したことないって感じだし、
案外わからんな。」

「といっても、風間はこれでリーチ!次で決まってしまうのか!」


よし、包丁なんかは短刀と同じだと思えば良い。
道具は初めて見るものもあったが、大体使えることが分かった。

だが、問題はそこではないのだ。
料理をやったことがない奴がいきなりやれと言われても、そもそも作るものが
ないのだ、そうレパートリーが。
これは出来がどうこう以前の問題だ。

せめて、レシピでも読みながら、することが出来れば、それなりのものを作る
ことが出来ると思うのだが…
何故、俺はそういう物を読んでこなかったのだろう。
一度でも読んだことがあれば、記憶の中から引き出したのに。

そう、レシピさえあれば…


「俺は本場で漁師さんに教わってきた海鮮丼を作るぜ。」


…ん?
そうか!別にレシピがなくたって、作れるじゃねぇか。

早速、俺は調理にとりかかる。

まずは材料だ、そう材料はシンプルにだ。
にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、肉。
こんなものでいいだろう。

それらを適当な大きさにカットして、さっと軽く炒める。

砂糖、醤油、みりんの量は正確に。
この量でOKだったはずだ。


「ん、流川も何か迷いなく作っているな。」

「あれは…」


そして、よく煮込む。

最後に一度冷まして、また熱するのがポイントだったな。
味が染み込むんだとさ。

これで、完成だ。
俺の人生、初めての料理。
“肉じゃが”だ。


「さて、両者完成!」

「審査員は料理部の生徒20人だ。」


風間翔一の料理は既に完成していたらしく、さすが本職に習っただけのことは
あって、要となる盛り付けはほぼ完璧だった。


「見た目的には完全にキャップの方が華があるな。」

「では、いただきます。」


料理部が両方の料理を食べ終える。
公平な判定を行うため、私語は禁止されているらしい。


「美味しかった方の札をあげてくれ。」


結果は…
海斗 20 VS 翔一 0


「おーっと、これは圧勝だ!!理由を聞かせてくれ。」

「はい、こちらの方の料理は確かに盛り付けも素晴らしく、味も美味しかった
です。しかし、そちらの方の肉じゃがからは、何か優しい味を感じることが出
来ました。純粋に美味しいと思いました。」

「すごい高評価だ、これで勝負は2対1!まだまだ終わらない。」


良かった、なんとか勝てた。

まあ、これは自分の力でもなんでもないな。
今回勝てたのはあいつのおかげだ。
だから、俺はそちらに向かって、笑って、親指を突き出した。

ありがとな、由紀江。


Side 由紀江


海斗さんが作り始めたのは、肉じゃがでした。
しかも、その作り方は私と全く同じでした。

あのとき、屋上で恥ずかしさをごまかそうとして、何を話していいのか分から
なくて、空っぽの頭でずっと口走っていた肉じゃがの作り方。
無駄に細かに話してしまった調味料の分量。
海斗さんは全部、聞いてくれていました。

本当に長いだけの面白くもない話。
海斗さんは覚えてくれていました。

そして、勝負に勝った海斗さんはこちらに向かって、笑顔でグーサインをして
くれました。

それだけで嬉しくなってしまう。
海斗さんの言葉一つ、行動一つですぐに笑みがこぼれてしまいます。
それは隠すことなんて、不可能で。

私は自覚してしまいます。
海斗さんのことが真剣に好きなのだと…


Side out


「よーし、では四回戦の発表だ。四回戦目は集中力!」

「えー、これは大音量の騒音の中で集中力を乱さずに、的の真ん中に矢を射て
もらうという戦いです。」

「勿論、先に達成したほうが勝ちだ。」


ふむ、なんか今までで一番まともじゃないか。

だが、弓矢は扱ったことないな。
こういうのは初見でやるのは、きついぞ。
俺には後がないってのに…


「そんな状況で本当にできんのか?」

「ん?どうした、流川。」

「いや、ただでさえ、中央に当てるって難しいのを、そんな状況下で本当にで
きんのかと思ってさ。不可能なことを延々とやらせられたくはないんでね。出
来るっていうことの証明が欲しいんだが。」

「やる前から、何を言っているんだ。はぁ、まあいい。京、頼めるか?」

「しょーもない。」


司会が誰かを呼んだかと思うと、紫髪の女が出てきた。

その女は大音量の中で弓を構えた。
目を閉じ、的に全神経を集中しているようだ。
そして、ぶれのない動きで矢を放った。
その矢は一直線に的の中央に突き刺さった。


「これでいいか、不可能じゃないってことが分かったろ。」

「ああ、十分だ。」


先に達成したほうが勝ちならば、先攻をとらない道理はない。
だが、どうやら、くじを選んだ相手が先攻らしい。


「いくぜ!」


これで決められたら、お終いだが、そんな心配は杞憂に終わった。
矢は的にすら当たらなかった。
まあ、初心者ならこれが当たり前だろう。

ともあれ、俺の番だ。
俺は大音量が流れるその場に立つと、目を閉じて、頭をクリアにした。
先ほど、見たばかりの映像を脳内で再生する。

そして、同じ呼吸で動作をなぞっていく。
波長を合わせて、一挙一動を流れに預ける。

ヒュンという風切り音が耳に入った。

目を開けると、矢はしっかりと中央をとらえていた。

俺がふぅと息を吐き出すと、会場がわいた。


「おぉっと、なんということだ!一発クリアーー!」

「なんなんだ、アイツ。ゴタゴタ言ってたくせに決めやがった。」


客席の一年生や有志のスタッフからは黄色い声があがっていた。
逆に翔一のファンは驚いて声も出ないという感じだった。


「やっぱり、流川先輩ってスポーツも出来るんだね。」

「でも、部活入ってないんでしょ、何でなんだろ。」

「ていうか、ホント、かっこいいなぁ〜。」


相変わらず一年生には大人気であった。


「海斗、すごい…」

「やはり、海斗さん、見事です。」


この2人もファミリー入りのことなど忘れて、海斗に目が釘付けになっていた。
恐るべき恋のパワーである。

そして、違う意味で声を出せない少女もいた。


Side 京


今の動き、完全に私の模倣だった…
さっきの見本の一回で盗まれたってこと?
弓使いは目がいいなんて、思ってたけど、あいつは一体?

ていうか、私の動きを見るためにあんなことを言った…
つまり、私はまんまと誘導されたんだ。

本当に謎ばかりで実態がつかめない。

そんな男にワン子とまゆっちは恋しちゃってるんだよね…
しょーもない。


Side out


「いやー、小さい頃にやってたからかな。」


まあ、嘘だけど。
流石に初心者が一発っていうのはまずいからな。
切羽つまっていたとはいえ、少々やりすぎた感が否めない。

だが、これで勝負は五分五分。
どうあっても、次で決着だ。

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