小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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翌日、俺はデジャヴに陥っていた。


「だから、嫌だっつーの。」

「駄目だ、自分と決闘しろ。」


昨日も全く同じことがあったような気がする。

あれ?一日経ったよな。
今日は昨日の明日で間違いないよな。
意味が分からなくなってきた。

そうだ、結局あの後…






「流川海斗、お前に決闘を申し込む。」

「は!?なんで、そうなる。」

「自分がお前と戦えば、実力が分かるだろう。自分との戦いで、その速さを
出せば、手を抜いていたことの証明になるし、たとえ出さなかったとしても
キャップの仇をとれる。自分は中途半端で勝てるほど、弱くはないからな。」

「断る。」

「なに!?」

「そんなもの俺にメリットがねぇじゃねぇか。」

「だが、そうするのが最善だろう。」

「だから、それはお前にとってだろうが!」

「むー、とにかく、自分と決闘をしろ!」

「絶対に嫌だっての。」


埒が明かないと思った俺は、もう日が沈みかけ、すっかり暗くなりかけてき
た校庭を足早に走り去った。
正直、足の痛みなんて気にならなかった。






まあ、そんな一時的な逃避なんて、こうして翌日に登校してしまえば、全く
意味をなさないわけだが…

そして、朝からこの昼休みまで、ずっとこんな感じが続いている。


「自分と勝負するんだ。」

「断るって、言ってんだろ。」

「1回だけでいいから。」


なんだそりゃ。
悪いお薬の販売でもお前はしてんのか。
その1回で人生は駄目になるんだぞ。

そうかと思うと、突然なにかを閃いたように、ニヤニヤと俺に話しかけてきた。
何か、いい作戦でも浮かんだのか?


「ふ、お前は勝負から逃げるというのだな。この自分に恐れをなして、戦う
前から、敵前逃亡というわけだ。」

「別にそれで結構だが…」

「なに!?」


本当にどんな作戦かと思えば…

確かに逃げるなんて言われ方は癪だが、ここで勝負に乗ってしまったら、こ
の目の前の知能指数が低そうな少女に、まんまと乗せられたということにな
ってしまう。
なんか、そっちの方が不名誉じゃないか。
俺の一瞬の間の脳内会議ではそういうような結論に至った。


「ちょっと、クリ!なんでまた、海斗に絡んでるのよ。」


そんな硬直状態にあった俺たちの間に一子が入ってきた。


「なんだ、犬。自分は決闘を申し込んでるだけだ、あのふざけた試合は犬も
見ただろう。何故、犬こそ、昨日からそちらの肩を持つ?」

「え!別に肩なんて持ってないわよ。た、ただ一生懸命走ったかもしれない
相手に少し言いすぎじゃないかしらってだけで、別にクリと海斗が2人で話
してるのを邪魔しようとか、そういうんじゃなくて…」


なんか最後の方はもごもご言っていたが、どうやら一子は俺の味方でいてく
れるらしい。
俺なんかのために、あんなに顔を真っ赤にして、勢いよく怒ってくれるなん
てな。
本当に良い奴だよなぁ。


「自分はこの学校のルールに則って、決闘を申し込んでいるだけだ。どうあ
っても、受けてもらう」

「でも、海斗は迷惑してるし…」


だが、相手の意志も相当固いようだ。
一子が仲介に入ってくれたまでは良かったが、またすぐに元の硬直状態に戻
ってしまった。
ふむ…どうしたもんか。

永遠にこのときが続くのではないかと思ったそのとき、教室の前方のドアが
ひとりでに開いた。
いや、外側から誰かが開けただけだな。


「流川先輩、お弁当作ってきたので、私たちと一緒に食べてくれませんか!」


そこには緊張した面持ちの少女が三人くらい居た。
どうも一年生らしいが、俺と面識はない。
そう。知らない子なのだが…


「悪い、俺この子たちと昼飯食べる約束してたんだわ。」

「え!?」

「じゃ、行くか。屋上でいいよな。」

「あ…。は、はい!」

「え、ちょっと海斗!」

「おい待て、逃げるのか!」


使わせてもらわない手はないよな。
一子には悪いと思ったが、こんな居た堪れない空気の中にいるのは、疲れる
んだ。
あとで、ビーフジャーキーでもやるから、許せ。


そして、海斗が居なくなった教室。
そこには取り残された2人がただ佇んでいた。

いや、正確には…


「うう、海斗さんにお弁当を作ってきたのに、中の険悪な様子が変わるのを
待っていたら、先を越されてしまいました〜。」

「おー、大丈夫だ、まゆっち。次があるぜ〜。」


廊下にももう1人いたのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



今日は色々と大変だったな。

結局、あの後はポテトサラダやら、アスパラのベーコン巻きやらをご馳走に
なって、去り際に礼を言ったら、なんか騒がれた。
いや、終始なんか変なテンションではあったんだが。

一子にも、理由を話して、今度菓子でも買ってやると言ったら、安心したよ
うに“なら、しょうがないから許してあげるわ”なんてことを言われた。

何はともあれ火種は解決だ。


「流川海斗、自分と決闘をしろ!」


いや、しっかり燃え盛ってんじゃねえか。
校門前にもう小火くらいまでいってしまったのではないかと思われる、ご存
知、元火種の蘇我ちゃんがいた。


「お前も大概、しつこいな…」

「当然だ、たとえお前がつれない態度をとったところで諦めることはない。
自分の意志は曲げないからな。」

「はあ、随分と殊勝な心がけだな。何がお前をそうさせる?」

「自分が信じるものは義の心だ。だから、その義は何があっても、貫き通す
と決めている。お前の曲がった行為はキャップへの侮辱であり、自分の義の
道に反する。だから、決闘をすることで道を正してやるのだ。それこそが自
分の信じる義であり、今の自分の動く理由だ。」


まったく…
この学校はこんな奴等ばっかなのかよ。

お節介と正義感、直情的性格にこの頑固さ、全部が欠けることなく集まって
こいつを構成しているらしい。
あ、あと、少しアホなところもか。

―愚直
なんか人を小馬鹿にするときなどに使われる、融通のきかないばか正直。
だが、これはとんでもない美点じゃないだろうか。
たとえ、その姿が愚かでも、真っ直ぐに。
自分が信じるもの“芯”を一本通して、ぶれることなく、前を向いて、立っ
てやがる。

おまけにこの瞳だ。
なんか、こんな真っ直ぐな瞳、つい最近も見た気がする。
そう、タッグマッチで俺を見事に変えてくれたあの瞳。
ほんと、迷惑なもんだ。


「分かった分かった。」

「ふん、お前などに義の心が理解できたとは思えんがな。」

「ちげぇよ。」

「む?」


さながら、人の意志を変える魔眼ってとこか?
えらく危険なものだな。

ていうか、こいつの意志が本物なのは、今確認した。
断り続けたところで、ループするだけだろうな。

ほんと、俺も変わっちまったよな。

かばんを地面に放り投げる。
そして、俺はクリスに向き直る。


「決闘したいんだろ?やってやるよ。」


じゃ、お望み通り、その意志に付き合ってやりますか。

-30-
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