小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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翔一、クリスとの連戦を終えた俺には、やっと安息が戻っていた。


「海斗、今日一緒に二人でお昼食べましょ。」

「ん?一子か。別にいいが、食堂か?」

「え、えっとね、今日はなんていうか、作ってきたっていうか…」


と、そこへ…


「海斗、おはよう!」


クリスがやってきた。


「ああ、おはようさん。」

「ちょっと、クリ!なんで、クリが海斗って呼んでるのよ。」

「別に犬が呼んで良くて、自分が駄目だなんてことはないだろう。なあ、そ
うだろう?海斗。」

「俺は全然構わないが。むしろ名字より名前で呼ばれるほうが俺は好きなん
だ、前にも言っただろ。」

「むー、確かにそうだけど…」


なんか、一子は何かに納得がいかないらしい。
なんだっていうんだ。


Side クリス


昨日の勝負。
海斗は宣言どおり、手を抜くようなことはせず、本来の戦い方をしてくれた
ように感じた。
自分の攻撃をかわしつつも、余裕があるように見えた。

しかし、最後の最後で自分にとどめをささなかった。
決闘は誇りをかけた勝負。
女、男と言う前にそれは戦士同士の戦いであり、当然自分も覚悟をしたうえ
で、戦いに臨んでいた。

だが、海斗はそれは海斗自身の“義”であると。
絶対に曲げたくない自分の確固たる信念であると言っていた。
まあ、その後に弱い者扱いをされたが…
完璧に負けた自分としては、言い返せる立場ではなかったのは事実だ。

そして、海斗は言ってくれた。
自分の生き方が気持ち良いと。
芯が通った生き方だと。

自分が信じる道だった。
だから、誰になんと言われようが変えるつもりはなかったし、人の言うこと
なんて気にもとめなかった。

でも、海斗はそんな自分の生き方を認めてくれた。
人の評価なんてどうでもよかったはずなのに、とても嬉しかった。
それは海斗が自分よりも強い者だったからなのだろうか。
それとも…

だが、まだまだ海斗は人をなめていて、自分の望む“義”には程遠い。
これからも、傍で道を正してやらねばな。


Side out




Side 大和


「大和ーーーっ!」

「分かったから、岳人何も言うな。」

「ていうか、その顔を見れば、誰でも分かりそうな気もするけど。」


そう、岳人はもはや涙目もいいとこだった。
その原因は言わずもがな、前で笑っている金髪お嬢様なんだが…


「なんで、あいつばっかり、モテやがるんだ。」

「世の中なんて不条理だらけだ。」

「来世に期待しようよ。」

「お前らはフォローというものを知らんのか!」


まあ、岳人のダメージが大きいのも無理はない。
今までは確かに、ワン子やまゆっちやその他の一年生、モテているのは男と
して、腹が立っていただろうが、岳人にしてみれば、彼女らは恋愛対象では
なかったのだ。
だから、まだ抑えられていた部分があった。

しかし、クリスは違う。
同級生で外人さんで、おまけに美人ときた。
岳人も勿論、恋愛対象というか、あわよくばなんて、狙ってもいただろう。

だが、今のクリスの目は完全に流川しか捉えていない。
昨日までは敵意しか込められていなかったのに、1日で恐ろしい変わりようだ。
今の流川を見る目はまるで…


「はあ、なんていうかさ、大和。」

「ああ、さらに基地に居づらくなりそうだな。」


ワン子やまゆっちと同じ、恋する乙女のようだった。


Side out


よく分からないが、前の2人は何故か火花を散らし始めた。


「いいわ、なら決闘よ、クリ。」

「受けて立とう、犬。」

「なんでもかんでも、すぐに決闘にもってくんじゃねえ。」

「で、でも…」

「ならば、また海斗が相手になるか?」

「“また”?」

「おい、クリス。」


変なことを言う前にクリスを引き寄せる。
そして、小声で言った。


「昨日の決闘のことはあまり口にするな。」

「別にいいだろう。」

「わざわざお前は自分の負けを言いふらしたいのか。」

「な、なんだと!」

「いいから無闇に話すな。あれは俺とお前だけの秘密だ。」


学園長も見ていたとか、そんなツッコミはスルーだ。


「二人だけの秘密…」

「いいな?」

「あ、ああ、承知した。」


何故か顔は赤いが、なんとか了解してくれたようだ。
これで無事争いはなくなったわけだ。


「かーいーとー」


うん、全然なくなってないな。
一子はお怒りの様子だった。


「なに、二人だけで楽しそうに話してるのかしら?」

「いや、別になんでもないよな、クリス。」

「………………」


おい、黙るなや。
完全になんかあったと思われるだろうが。


「おい、クリス。おーい」

「………………」


返事がない、ただの屍のよ…じゃなくて。
駄目だ、なんか明後日の方向を見て、心ここにあらずのようだ。


「秘密…」


え、なに?俺の話きこえてないの。
ちょっとお嬢さん、そのスタンス貫いちゃう感じ?


「かーいとっ♪」


いや、♪とかじゃないからね。
めちゃめちゃ不機嫌オーラが出てるから、なんか黒いから。

その後、一子をなだめるのに苦労したのは言うまでもない。



Side 一子


アタシの初恋、その相手が海斗なのは分かりきったことだ。
そう、恋を知ったのはついこないだの話。

それまでは恋なんて考えたこともなかった。
興味がないとか、そういうのじゃなくて、本当に考える機会がなかったって
だけで、それでアタシの生活は普通に過ぎていた。

でも、海斗に会ってから、守られてから、名前で呼んでくれてから、…アタ
シのことを“パートナー”って言ってくれてから。
アタシの世界はそれまでとはガラリと変わった。
恋がなかったアタシの世界は、海斗への恋する気持ちで溢れてしまった。

今じゃ、まぶたを閉じれば、海斗の顔が浮かんでくるし、目を開けても、海
斗の姿を探しちゃう。
本当に今じゃアタシの一日は始まりから終わりまで、海斗で埋め尽くされて
ちゃってる。
修行のときでさえ、海斗のことを考えている自分がいる。
まあ、それでおろそかになるようなことはなくて、逆に海斗のことを考えて
元気をもらってるくらいなんだけど……

い、いや、そんなことはどうでもよくて!
恋をすると、今まで見えてなかったことが見えてくる。
自分の行動や思考が変わるっていうのは当たり前だけど…
そう、周りの変化にも気づくようになってしまう。
つまり、分かっちゃう。

“クリスも海斗を好きになったんだ”って。

まゆっちのときも、そうだった。
最初は自分のことでいっぱいいっぱいで周りを見る余裕なんてなかったんだ。
けど、今見れば、はっきりと断言できる。
まゆっちも海斗を見る目が恋をしている目なんだ。
たぶん、アタシもおんなじ目をしてるんだろうな。

そして、海斗は一年生にも人気があって、次はクリスだ。
なんで、アタシはこんな大変な人を好きになっちゃったんだろう。
でも、その道からアタシは外れない、どんなに険しくても…


―心から、好きだから


海斗が一筋縄でいかないのなんて、分かりきっていたことだ。
なんかクリスと二人で話していて、何かを隠してるみたいで、ついつい言葉
にいらいらが表れちゃうけど。
今日のお昼で挽回してやるもんね、だから今は許してあげる。


Side out

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